仮面ライダー913   作:K/K

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仮面ライダー913+

 一人の青年が人気の無い道を走っていた。これといって特徴の無い顔立ちや背丈ではあるが、その青年の今の顔を見れば誰もが強い印象を受けるであろう。それ程まで青年の顔は蒼褪め、唇は白く変色し、死人という言葉を連想させる顔色をしている為に。

 中身が詰まったボストンバッグを肩に掛け、数十メートル進む度にキョロキョロと周囲を確認しながら先へ先へと進む青年。

 まるで何かに追われているかのようであった。

 何回目か分からない、既に青年自身も数えるのを止めた周囲の確認をした後、額から出る汗を拭いながら再び走り始めようとしたとき――

 

「何処へ行くんですか?」

 

 突如、背後から掛けられた男性の声に青年の動きが止まる。そして、それと同時に額から頬に架けて一筋の汗が流れる。それは体の火照りを冷ます汗では無く、恐怖から流れる冷や汗であった。

 油の切れた機械の様なぎこちない動きで青年は振り返る。振り返った先にいたのは二人の男性。どちらも皺一つ無い高そうなスーツを着ており、片方は髪型をオールバックにし、もう片方は軽く後ろに撫で付けた髪型をしているがオールバックの男と違って口回りに髭を蓄えていた。

 

「いきなり酷いじゃないですか。こっちへの連絡も無くアパートは解約をして、仕事も辞めるだなんて。おかげで探すのに手間取ったじゃないですかぁ」

 

 オールバックの男が笑顔を浮かべながら気さくな態度で話し掛けてくる。背後から青年に声を掛けたのも彼であった。

 

「あ、あの……」

「きちんとこっちに連絡してくれればそういった面倒な手続きは全部こっちでして上げましたのに……もしかして、気を遣ってくれました?」

「そ、そそ、その……」

 

 震えて舌が回らない青年とは対照的に饒舌に話すオールバックの男。

 

「まあ、こちらの手間が省けたのは有り難い話なんですけどね。……それで気持ちは決まったということですよね?」

 

 不意にオールバックの男から笑みが消える。

 

「私たち『スマートブレイン』の仲間になるということで」

 

 オールバックの男の問いに答えず、青年は沈黙する。

 

「黙っていても分からないですよ。なるのかならないか、だいぶ前から聞いていましたよねぇ? そろそろ返事を聞かせてはくれないでしょうか?」

 

 それでも青年は黙ったままであった。

 

「いい加減割り切ったらどうだ?」

 

 オールバックの男ではなく口髭の男が口を挟んでくる。

 

「もうお前は『普通の人間』では無い。選ばれた存在になったんだ。いつまでも人間の詰まらない価値観に縛られ続けてどうする」

 

 諭すような口調であったが、その言葉を聞き、青年に変化があった。先程までと同じく俯いて黙っている姿は変わらないが、その体が小刻みに震え始める。

 

「……だと思っているんだ?」

「何だ?」

「誰のせいで俺がこうなったと思っているんだぁぁぁぁぁ!」

 

 俯くのを止め、激昂しながら怒鳴る青年。その顔には不可思議な紋様が浮かび上がる。

 

「人を遥かに上回る存在へ、『オルフェノク』へ進化したことがそんなに不満か?」

「俺はそんなこと望んじゃいない! 返せよ! 普通だった頃の俺を!」

 

 怒りに身を任せながらボストンバックを投げ捨て吼える青年の身体に変化が起こる。全身が白い光に包まれたかと思えばその下から灰色の身体を持つ異形が姿を現した。

 円錐状の頭部に吻端が尖った口、眼球は大きいが瞳は無く体色と同じ灰色一色に染まっていた。手足の指は五指揃って細長い。

 そして、最も特徴的なのは異形の腰部から伸びる太い尻尾。その長さは異形の身長と変わらないぐらいであった。

 生物で言うトカゲの要素を色濃く出した異形の姿。口髭の男が出した『オルフェノク』という言葉を参考にして呼称するであれば青年はリザードオルフェノクと呼べるであろう。

 

「それがそちらの返答ですか?」

「俺はお前らみたいな化物の仲間にならない! 俺は故郷に帰るんだ!」

 

 リザードオルフェノクからではくその影の中に浮かぶ青年が拒絶の意志を示す。

 それを聞いたオールバックの男は溜息を一つ吐いた。

 

「ならしょうがないですね。私たちに従わないのであれば処理するだけです。――いくぞ」

 

 オールバックの男は横目で口髭の男に視線を送る。その顔には紋様が浮かぶ。

 

「お前は選ばれた素質があったが、中身は伴っていなかったみたいだな。馬鹿な奴め」

 

 吐き捨てる様に言うと口髭の男の顔にも紋様が浮かび上がった。

 二人の全身が変化し、瞬く間に二体の異形が現れる。

 オールバックの男の変身した姿には全身に灰色の体毛が生えており、突き出た額部、落ち窪んだ目、平たく上向きになった鼻、両腕の太さが人間時の倍まで膨張しており、そのせいかやや前のめりの体勢になっている。その姿は動物でいうゴリラに酷似していた。

 口髭の男の変わった姿は額から長く節のある触覚を垂れ下げ、目は複眼、口部には湾曲上の鋭い大顎を備えていた。全身は鎧の様な甲殻で覆われており、その見た目は昆虫のカミキリムシに似ている。

 

「数少ない同胞に手を掛けるのは忍びないんですがねえ」

「ただの出来損ないだ」

 

 そう言って二人が同時に駆け出す。

 青年――リザードオルフェノクは迫る二人に向け、身を翻して太く長い尻尾を振るう。しかし、それをオールバックの男――ゴリラオルフェノクは回避などせず分厚い体で受け止めると同時に両腕でその尻尾を掴む。

 あっさりと攻撃を防がれたリザードオルフェノクの背中を飛び込んだ口髭の男――ロングホーンオルフェノクが鉤爪状と化した指を突き立て、一気に掻き下ろす。

 灰色の体皮が削れ、頑強さゆえか火花も飛び散る。

 

「うあああああ!」

 

 

 背中の痛みに絶叫を上げるリザードオルフェノクであったが、ゴリラオルフェノクは掴んでいた尻尾を腕力にものを言わせて思いっきり振るう。

 尻尾に引っ張られリザードオルフェノクの身体は持ち上がり、そのまま大道芸の様に振り回されると勢いが最高潮に達すると同時に手を放され、勢いよく近くの壁へと衝突。壁には亀裂が生じ、壊れた壁の破片がリザードオルフェノクの体に降り注ぐ。

 

「う、うぐあ……」

 

 戦いの経験が全く無いのかリザードオルフェノクの動きは二人に比べれば鈍い。戦いの最中であるが痛みに悶えており、壁を支えにして緩慢な動きを見せている。

 そんな隙だらけのリザードオルフェノクを二人が放っておく筈も無かった。

 

「さっさと立て」

 

ロングホーンオルフェノクはリザードオルフェノクの首を掴むと壁に押し付けて無理矢理立たせる。するとロングホーンオルフェノクの片手に青い炎の様なものが発せられ、その炎が消えると一振りの曲刀が現れる。

 

「ふん!」

「うわああああ!」

 

 現れた曲刀でリザードオルフェノクを斬り付ける。肩から腰部まで袈裟切りにしたかと思えば今度は腰から肩にかけて斬り上げる。胴体、手、脚など容赦無く斬り付けていき、その度にリザードオルフェノクは血の代わりに火花を散らし、痛みの叫びを上げた。

 

「後悔しろ! 『スマートブレイン』に逆らったことを!」

 

 何度か斬り付けるとリザードオルフェノクは立ち上がる体力も無いのか地面に膝を突く。

 ロングホーンオルフェノクは再びリザードオルフェノクの首を掴み持ち上げると、手に持つ曲刀の先端をリザードオルフェノクの額に向けた。

 

「これで終わりだ」

 

 冷たい声で終わりを告げられるがリザードオルフェノクはそれに反応する気力も無い。ただ生まれてきてから今まで味わったことの無い痛みと恐怖に体を震わせることしか出来なかった。

 死。その言葉が頭の中で過ぎったとき、リザードオルフェノクは理不尽な自分の人生を嘆き、影に映る青年は涙を流す。

 そのときけたたましい排気音が響く。

 

「ん?」

 

 人気の無い道でその様な音が響くことを不思議に思い、ゴリラオルフェノクは音の方へと顔を向けた瞬間、視界に勢いよく走ってくるサイドカーが映る。

 

「うおっ!」

 

 減速など一切せずに躊躇いなく疾走してくる黒と黄のカラーリングを施されたサイドカーに驚き咄嗟に道の端へと避け、何とか回避するが、丁度ゴリラオルフェノクが壁になって見えなかったロングホーンオルフェノクは反応が遅れてしまう。

 

「があっ!」

「うわああ!」

 

 数百キロの金属の塊が時速数十キロの速さで二人に衝突。堪らずロングホーンオルフェノクは飛ばされ地面を十数メートル転がることとなり、巻き添えとなったリザードオルフェノクは道の端に生い茂る草むらの中に飛ばされていった。

 

「な、何だ!」

 

 体の節々が痛むのを我慢しながらロングホーンオルフェノクは立ち上がる。激突するまで一切ブレーキを踏まなかったことから明らかに狙って轢いたのは間違いなかった。

 サイドカーに跨っている人物が被っている黒のジャケットを着た人物はヘルメットを脱ぎ、素顔を晒す。

 精悍で整った顔立ちをした青年。しかし、その双眸はオルフェノクたちが一瞬怯む程の怒りと憎悪に濁った暗い炎を宿している。

 

「貴様は何者だ!」

 

 ロングホーンオルフェノクは怒りに任せて詰問するが青年は答えず、側車に乗せてある小型のアタッシュケースを手に取る。そのアタッシュケースには『SMART BRAIN』という文字が描かれていた。

 

「そ、それは!」

「させるかぁぁぁぁ!」

 

 アタッシュケースに見覚えがあるらしく二人のオルフェノクはそれが開かれる前に黒ジャケットの青年へと襲い掛かろうとするが、青年は焦る事無くいつの間にか手に持っていた携帯電話を開き、スライド式のそれを片手で開け素早く番号を入力する。

 

『Burst Mode』

 

 携帯電話から鳴る音声と共に携帯電話の上部が九十度折れ曲がる。黒ジャケットの青年はその状態の携帯電話を迫ってくるゴリラオルフェノクに向けると下部の側面にあるボタンを押した。

 アンテナ部分から飛び出す黄色の光弾。それが立て続けに三発飛び出しゴリラオルフェノクに着弾。ゴリラオルフェノクはその衝撃に仰け反って倒れてしまう。

 青年は続けざまに今度はロングホーンオルフェノクにアンテナを向けると同じく引き金の様にボタンを押し、光弾を発射。避け切れなかったロングホーンオルフェノクは苦鳴を上げて地面に膝を突く。

 その隙に青年はアタッシュケースを開く。中には金属製のベルトに付属品と思わしき十字の形をした物体とカメラ、そして双眼鏡。青年は素早くベルトを腰に巻き、付属品のそれらを素早く装着。十字の形をした物はベルトの右側、カメラは左側、そして双眼鏡は腰部分に装着される。

 ベルトを装着した青年は曲がっていた携帯電話を元の位置に戻し、再び番号を入力。押された番号は9、1、3。

 最後にEnterというボタンを押すと携帯電話から『Standing by』という電子音声が鳴る。スライドされたそれを閉じ青年はそれを肩の位置に掲げる様に持ってくる。

 

「変身!」

 

 手首を返しながら携帯電話をベルトに差しこんだ瞬間、青年の体全体に黄色に光るラインが走る。その光は眩い閃光と化し青年の身体を包んだかと思った次の時には光が消え去り、光の中から金属の鎧を纏う者が現れる。

 χの字を模した仮面に紫の複眼。銀色の装甲を全身に纏い、それを彩る様に黄色のラインが奔っており、腕や脚にも黄色のラインが二本のラインが奔っていた。

 

「カイザか!」

「まさかこんなところで会うとは……」

 

 変身した青年の姿を見てロングホーンオルフェノクは呻くようにその名を呼び、ゴリラオルフェノクは強い警戒を示す。青年ことカイザはそんなオルフェノクの態度を鼻で笑い、襟元を直す様な仕草を見せた後さっさと掛かってくる様に手招きをして挑発する。

 

「裏切り者を始末するよりもカイザのベルトを奪うことの方が価値がある」

「予定は変更だ」

 

 それに応じる様に臨戦態勢を取るゴリラオルフェノクとロングホーンオルフェノク。二対一という不利な状況ではあるがカイザは焦る様子も無く淡々とサイドカーから降りた。

 

「かああああっ!」

 

 ゴリラオルフェノクはカイザがサイドカーから降り視線が自分から外れた瞬間を狙ってその場で跳躍し、一気に距離を縮めるとカイザの顔面目掛けその剛腕を振るう。しかし、ゴリラオルフェノクの動きはカイザにとって想定内であったらしくカイザは自分に迫るゴリラオルフェノクの腕に手の甲を押し当てると僅かに力を込めて、その軌道をずらす。拳はカイザの顔横を通り過ぎ狙いを外されてしまう。

 そこにすかさずロングホーンオルフェノクが曲刀を振り上げ、カイザの背後を狙って振り下ろす。

 

「ぐはっ!」

 

 が、それも読み通りであったらしくカイザはゴリラオルフェノクの攻撃を外させると同時に身を翻し、その勢いのままロングホーンオルフェノクの脇腹に足刀蹴を叩き込んだ。

 蹴り飛ばされるロングホーンオルフェノク。それを見たゴリラオルフェノクはすかさずもう片方の手を伸ばしカイザの肩を掴む。

 このまま力に物を言わせて地面に叩き付けようかと思ったとき、腹部に何かを当てられる感触を覚えた。

 視線を下げるといつの間にか押し当てられている携帯電話のアンテナ。

 

『Single Mode』

 

 先程とは異なる電子音声が鳴るとアンテナもとい銃口から黄色の光が飛び出す。その光に押されゴリラオルフェノクは手を放してしまう。しかも今度は単発で飛ぶ光弾では無く一直線に伸びる光線であり、同じ箇所を焼きながらゴリラオルフェノクを後ろへと追いやる。

 そしてすかさずベルト右側部に備えてあった十字の形をした物を外した。よく見れば先端部分に銃口が備わっている。

 カイザは銃口の反対側を手前に引く。と同時に携帯電話の番号を素早く入れ直す。

 

『Burst Mode』

『Burst Mode』

 

 重なる二つの音声。カイザはそれらを水平に構えると白煙を上げ悶えているゴリラオルフェノクに向け、容赦無く発砲。

 二つの銃口から放たれる光弾がゴリラオルフェノクへ降り注がれる。

 

「ぐああああああ!」

 

 分厚く鎧の様な体も放たれる光弾の前に意味を成さず、穿ち、焼かれ、火花を散らす。一発一発の威力はオルフェノクである彼を殺傷するに至らないがそれが数十発も撃たれれば傷は深まり致命傷へと変わっていく。

 

「くっ、くそぉ!」

 

 同胞が無残にやられていく姿に堪え切れず、ロングホーンオルフェノクが曲刀を頭上に掲げ、銃撃しているカイザに飛び掛かり強襲を仕掛ける。

 カイザもそれに気付き、十字型の銃をロングホーンオルフェノクへ向けようとしたが、それよりも先に紅い三発の光弾がロングホーンオルフェノクへと着弾。ロングホーンオルフェノクは火花を巻きながら空中でバランスを崩し、地面に落下した。

 

「今度は何だ!」

 

 撃たれた箇所を押さえながら身を起こすロングホーンオルフェノクが見たものは銀色のバイクに跨りカイザに酷似した存在。

 携帯電話を銃の様な形にして構えるそれはΦの文字を模した仮面には黄色の複眼が備えており、銀色の装甲にはカイザとは違い紅いラインが奔っている。

 

「ファ、ファイズまでも……」

 

 慄く様に名を呼ぶロングホーンオルフェノクに応じる様にファイズと呼ばれたその存在は手首を振り、カシャリという音を鳴らした。

 同じ姿をした存在であり、異形達と敵対する。第三者が見ればファイズはカイザの仲間であると考えるが当のカイザ本人はファイズの姿を見るなり礼を言うどころか――

 

「チッ」

 

 ――と心底疎ましいといった感じで舌打ちをした。

 ファイズは跨っていたバイクから降り、手に持っている携帯電話をベルトへ納める。

 そのままカイザの側に寄るファイズ。そんなファイズを仮面越しからでも睨んでいることが分かる程圧のある視線を向けるカイザであったが、すぐに鼻を鳴らして視線を外し、ゴリラオルフェノクに光弾を撃ち込むことに戻る。

 ロングホーンオルフェノクはそれを見て、ベルトの所有者同士が険悪な仲であることを一目で察し、それが付け入る隙になるのではないかと考え、すぐに立ち上がると狙いをカイザからファイズへと変更する。

 

「はああああ!」

 

 その場から走り出し、ファイズ目掛け右手に持つ曲刀を振り下ろすがその切っ先がファイズに届くよりも先にファイズの方から距離を詰められ、懐に入られる。結果として曲刀は空振ってしまう

 

「はっ!」

 

 懐に入ったファイズはロングホーンオルフェノクの胴体に左右の拳を素早く叩き込む。その威力に体がくの字に曲がる。そこへすかさず肩を掴み、逃れられないようにすると大振りの右拳がロングホーンオルフェノクの頬へと突き刺さった。

 

「がはっ!」

 

 きちんとした型など無い我流あるいは喧嘩の様な殴り方ではなるが、その威力は芯まで届く程重く、殴られたロングホーンオルフェノクは思わず声を上げてしまう。

 このまま殴り飛ばされてしまえば楽であっただろうがロングホーンオルフェノクはファイズに肩を掴まえられている為、それも出来ずそのまま数発の拳が顔面に刺さる。

 

「ぐぬあ!」

 

 脳が揺さぶられる衝撃。頑強なオルフェノクの肉体でも響く。

 

「なめるなぁぁぁぁぁぁ!」

 

 しかし、ロングホーンオルフェノクも黙って殴られ続けている訳も無く、渾身の力で腕を振りほどくとファイズの首元に向け曲刀を振るう。だがファイズはそれに対し身を低くして避ける

 避けられた。と思ったロングホーンオルフェノク。そのとき彼はファイズの姿で重なって見えなかったカイザの姿が目に入る。

 それは十字銃の銃口をゴリラオルフェノクから自分へと向けた姿。

 避ける暇も無く数発の光弾がロングホーンオルフェノクの身体に直撃。火花を散らして後退する。

 

「あぶねぇだろうが」

 

 頭上を通り過ぎていった光弾のことに文句を言いつつもファイズは体勢を戻しながら距離を詰め、ロングホーンオルフェノクの腹部に追い打ちの蹴りを叩き込む。

 

「があああああ!」

 

 蹴り飛ばされたロングホーンオルフェノクは地面を転がって行き、持っていた曲刀を手放してしまう。

 

「ふん」

 

 文句を言うファイズをカイザは鼻で笑うが、そのとき一瞬だけ目を離した隙を狙いゴリラオルフェノクが咆哮を上げて飛び掛かってきた。

 

「ごあああああああああ!」

 

 槌の様に組み合わせた両手をカイザへ振り下ろす。咄嗟に腕を交差しそれを受け止めるが満身創痍の状態でも腕力は未だに衰えていないらしく、受け止めたカイザは衝撃で膝を折りかけた。

 ゴリラオルフェノクは組んでいた手を解き、片方の手でカイザを押さえつつ空いた方の手で拳を作り、カイザへ拳を振りかぶる。

だが――

 

「らああっ!」

 

 そこにファイズが走り寄り、加速で付けられた勢いのまま体を投げ出す様な右ストレートをゴリラオルフェノクの胸部に炸裂させる。心臓部分に打撃を受け、ゴリラオルフェノクの身体が僅かの間硬直する。その硬直を見逃さずカイザは交差していた手をゴリラオルフェノクの腕に絡め、地面に引き倒そうとする。

 しかし、それに反応し引き倒される方とは逆の方向へ力を込め抵抗するゴリラオルフェノクであったが、その動きこそがカイザの狙いであり、相手の動きの向きに合わせ足元を蹴り払った。

 自分の力を利用され宙で側転したのち地面に肩から着地するとすかさずそこへファイズが爪先をゴリラオルフェノクの鳩尾にめり込ませ、そのままボールでも蹴るかのようにゴリラオルフェノクは蹴り飛ばす。

 

「げほぁ!」

 

 肺が押し潰され、空気を無理矢理吐き出しながら地面を滑っていく。

 カイザはファイズの方を見る。今度はファイズの方がふん、と鼻を鳴らした。

 

 (何だこいつらは……!)

 

 撃たれた箇所を手で押さえながらロングホーンオルフェノクは立ち上がる。指の隙間から白煙が昇っていた。

 一見すれば険悪な雰囲気が両者の仲で漂っているにも関わらずお互いに特に合図を出さずに隙を埋めるような動きを見せる。一朝一夕では身に付かないであろうその連携にただ困惑するしかない。

 現に今もカイザとファイズは目線を合わせることなく険悪な空気を纏ったまま互いに背を向けている。

 だがそんなロングホーンオルフェノクたちの前でカイザは腰部分に装着された双眼鏡を取り外し、ファイズもベルト右側部に装着されたトーチライトを外した。

 そして、ベルトに差しこまれた携帯電話に触れそこにセットされているχとΦの紋章が描かれたスティックを抜き取り、それぞれ双眼鏡とトーチライトへ差し込む。

 『Ready』の音声の後、差し込まれた双眼鏡はレンズ部分が百八十度回転し凹状の形となり、トーチライトの方はレンズ部分が伸長する。

 変形したそれを右足首へと装着させ、その後二人は携帯電話を開き『Enter』と描かれたボタンを押す。するとベルトが発光、その光はベルトから足まで伸びたラインに光が走る。

 

『Exceed Charge』

 

 それと同時に二人は対照的な行動に移る。

 ファイズはロングホーンオルフェノクに向かって跳び上がり、カイザはゴリラオルフェノクに向かって駆け出す。

 空中で前転し、ラインを走る紅い光がトーチライトに届くと同時に両足を伸ばすファイズ。

 相手に接近し光が双眼鏡に届くと同時に足底を相手に叩き込み、逃れられない様にゴリラオルフェノクの頭を掴むカイザ。

 トーチライトから紅い光が放たれる。赤い光はロングホーンオルフェノクの目の前で展開し円錐状の形となった。

 双眼鏡からもまた黄色の閃光が放たれ、ゴリラオルフェノクを地を滑らす勢いで後退させた後、四角錐状に展開する。

 

「やあああああああああ!」

「でぃやぁああああああ!」

 

 展開された紅い円錐の中に右足を伸ばして飛び込むファイズ。カイザもまた黄色の四角錐の中へ両足を揃えて飛び込む。

 二人が飛び込むと同時に展開されていた光はオルフェノクたちの身体へ突き刺さり、穿つ様に回転する。

 

「うぐあ!」

「がああ!」

 

 体に入り込んでくる光にオルフェノクたちは苦鳴を上げる。二人に成す術は無く、ただこの身を焼く苦痛を受け入れるしかない。

 やがて二つの閃光はオルフェノクたちの身体を貫き、カイザとファイズはオルフェノクたちの背後に立つ。直後、ロングホーンオルフェノクの身体にΦの紋章、ゴリラオルフェノクにはχの紋章が浮かび上がると二人の身体は青い炎へと包まれ、体は灰の様に崩れ落ちていき、数秒後には元が何であったか分からない灰の一山と化した。

 戦いを終えたファイズはベルトから携帯電話を抜き取る。すると身を包んでいた物が消え、中から長髪、茶髪の不機嫌そうな表情をした青年が現れた。

 

「こいつらもスマートブレインか?」

「まあね」

 

 茶髪の青年に対し、カイザは素っ気ない態度で応じる。

 

「やっぱりベルトが狙いか」

 

 このときカイザの視線が道端の草むら方に向けられるが仮面越しの視線で在る為、青年は気付かない。

 

「――普通に考えたらそれしかないんじゃないかなぁ?」

 

 言葉の節々に感じられる嫌味。しかし、青年は慣れているのか軽く顔を顰めるものの特に文句を言わず、乗って来たバイクへ跨る。

 

「せいぜい取られない様に気を付けるんだな、草加」

「そんな忠告が出来る程、君は偉いのかなぁ? 乾」

 

 露骨なまでの嫌悪を隠さないカイザこと草加。青年――乾はそれに対し不機嫌そうに鼻を鳴らすとヘルメットを被り、この場から去って行った。

 乾が居なくなるのを見届け、草加は草むらの方に顔を向ける

 

「さてと……」

 

 

 

 

「う、うう……」

 

 草むらの中でリザードオルフェノクは呻きながら意識を取り戻した。

 

「お、俺は……」

 

 自分がまだ生きていることに驚き、思わず喜びの声を上げそうになるが全身に走る痛みにその声も喉の奥へと引っ込む。

 

(俺は襲われて、それで……)

 

 絶体絶命の危機に陥ったが突如横から凄まじい衝撃が走り、そのまま飛ばされたことまで思い出すが、そこで気絶してしまったせいでそこから先の記憶が無い。

 何故自分が生きているのか、そんなことを考えながら立ち上がろうとしたとき――

 

「大丈夫かい?」

「ひっ!」

 

 そこに紫の仮面を付けた見知らぬ人物が立っており、思わず裏返った声を出してしまう。

 

「あ、貴方は……」

「怖がらなくてもいい。俺は君を襲っていたスマートブレインと敵対している者だ」

「な、何だって!……それは本当ですか!」

「その証拠に今もキミは無事だ。奴らは俺が倒したからね」

 

 リザードオルフェノクは草むらから顔を出し、周囲を確認する。紫の仮面の人物が言った様に確かにあの二人の姿は無い。

 

「た、助かった……」

 

 安堵から全身の力が抜けるリザードオルフェノク。

 

「さあ、立てるかい?」

 

 紫の仮面の人がリザードオルフェノクに手を伸ばす。リザードオルフェノクはそれを掴もうとするが伸ばした手を途中で止める。

 

「あ、いつまでもこの姿じゃいけないですよね」

 

 自分がまだオルフェノクの姿であることを思い出し、人の姿に戻ろうとするが――

 

「――いや、そっち姿の方が都合が良い」

「え?」

 

 ――紫の仮面の人の手がリザードオルフェノクは手首を掴む。

 

「え? え?」

 

 事態が呑み込めず困惑するリザードオルフェノクに紫の仮面の人は先程までの優しい声を消し、恐ろしい程冷たい声で――

 

「人の姿に戻られたら誤解されるかもしれないだろう? こっちが悪者だってさぁ」

「それはどういう――」

 

 その問いを掻き消す様にある声が響き渡る。それが何を意味しているかリザードオルフェノクの彼には分からない。ただ彼にはそれが何故か死刑宣告の様に聞こえた。

 

『Exceed Charge』

 

 

 




カイザが主役の話なのにファイズが出てくるのは乾巧って奴の仕業なんだ……
今回の話では前作で出来なかったゴルドスマッシュ、二丁銃、ライダーの連携を出してみました。
ちなみに草加で一番好きなシーンは真里の命とベルトのどちらか選択する場面でベルトを選び、その後感情に任せてベルトを地面に叩き付けるシーンが好きです

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