インフィニット・ストラトス ~緑翠の人魚姫~   作:夏梅ゆゆゆ

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書いた後に思った。
あれ、題名の割に二人についてあんまり掘り下げてない……

ま、まだ焦るような時間じゃない(目を逸らしつつ)


金と銀 波乱を運ぶ転入生 後編

 

「さて、これで諸君らもIS学園教員の実力が分かって貰えただろう。以後は敬意を持って接するように……では、授業を始めるとしよう」

 

そう言って千冬はクラスを専用機持ちを基点として分け始める……どうやら、今回の授業は量産機に乗るクラスメイト達を専用機持ち達が補佐する、と言った形の授業らしい。何かその分け方で不平やら歓喜やらの声があちらこちらで起きているが、千冬が一睨みするとそれもすぐに収まる……もし自由に担当する専用機持ちを選んで良しとしていたら女子たちは男子二人の元へと殺到するに違いないので、この采配は正解だろう。

 

「やっほ~えめりーん!」

「私達はここみたいだねっ!」

「よろしくお願いするわ」

 

「……ん、よろしく」

 

エメラダの元には何かと縁が有る本音、癒子、静寐の三人が居た。それ以外にも何人かの一組と二組の生徒がこちらを見ていて、その目はISに乗れることで気分が高揚しているのか、いずれも輝いているように見える。

 

「じゃあ、始める。一組の人から順に番号順で並んで───」

 

そう言った瞬間、周囲からざわめきの声が聞こえる。

 

「……? 何事?」

「うっわ~ イッチーだいた~ん!」

「なんて羨ましい……」

「……これほどまでに自分の名字を恨んだことが有っただろうか」

 

班員の視線の先へエメラダも目を向ける……そこには、班の女子をお姫様抱っこする一夏の姿。

 

「…………」

「織斑くんが誤ってISを立てた状態で降りさせちゃったみたいね……ってエメラダ、どうかした?」

「……ん、何でもない。こっちも始める」

「そう……? だったら良いんだけど……」

 

そう心配そうな瞳を向ける静寐の言葉にもどこか上の空に返し、授業を進める。

……再び感じた、ちくりとする胸の痛みに疑問を覚えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎて昼休み。

専用機持ちの面々は屋上に集まっていた……というのも、一夏が転入したてのシャルルとラウラを慮って親睦を深めるためにも共に昼食をとることを提案したのがきっかけである。

無論、それ以外の知り合いも誘い……と言った感じで増えていったのだ。一般の生徒にも声を掛けたが、どうやら専用機持ちや代表候補といった肩書の人物が一堂に会する場所に堂々入場する胆力を持った女子は居なかったようだ。

 

「ふむ……ほぼ初対面も居ることだ。改めて紹介する……ドイツの代表候補、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「あ、僕はフランスの代表候補生のシャルル・デュノアだよ」

 

そう言って片方は不敵に、もう片方はふんわりと笑みを浮かべる二人に、ほぼ初対面たる鈴がジロジロと視線をめぐらす。

 

「へぇ……あんた達が噂の……」

「そうだ、一夏。先ほどから気になっていたが、ボーデヴィッヒとは……その、知り合いなのか? 随分と親しそうに見えたが……」

 

鈴の言葉に被せるように箒が質問を投げかける……後半尻すぼみに声の音量を落としながら。

 

「え? うーん、そうだな……箒は知らないだろうけど、俺とエメラダって千冬姉とドイツで暮らしてたことがあってさ。その時に……そう、色々有って仲良くなった」

「い、色々とはなんだ!」

「……えーと」

 

ほほを描きながら困ったように首を傾げる一夏。どうやって当たり障りの無いように返すか……そう悩む一夏の元へ、救いの手が舞い降りる。

 

「ほらほら、皆さん! お話も結構ですがお昼休みは有限です。幸い、わたくしと箒さん、それに鈴さんがお弁当を。一夏さんとエメラダさんが購買でお惣菜をいくつか買ってきて下さっていることですし、分け合って食べましょう!」

 

キラキラした笑顔で胸に手を当て、そう言ったセシリアは「こういうの憧れていましたの~」とウキウキした様子で言いながら自身のランチボックスを開け始める。

 

「そうね、セシリアに賛成……というわけで一夏!」

「ん? ……むぐっ!?」

 

声を掛けた鈴の方向へと一夏が顔を向ける……そこに、無理やり何かが口の中に突っ込まれた。

 

「うぐっ、なにすん……ってこれ、酢豚か?」

「ふふん、どーよ?」

 

ゆっくりと咀嚼する一夏。その味は、いつだったか中学生時代食わされた酢豚よりも数段上の味……それも、店で食べた鈴の父親が作る味に近いものだった。

 

「───美味い。お前いつの間に……」

「三日会わざれば、刮目して見よ! ってやつよね」

「それは男子の話だろ?」

「女子だって同じよ。そういう男女差別ってあたし嫌いなのよね」

「お前なぁ……」

 

和気あいあいとじゃれ合う二人……ただ、周りの目は物凄かった。

 

「あ、あれは伝説の……『あーん』!?」

「ふふふふふ不埒だっ……不埒だぞ一夏っ……!?」

「あはは、日本文化については学んだつもりだったけど……日本も中々にオープンだね?」

「うむ、あれはジャパンの伝統的な親愛を表現する方法だと副か……知人から教わっている。親愛を深める意味で……どうだ? デュノアも一つ」

「う、うーん……僕にはちょっと早いかなぁ……」

 

「…………」

 

何故だか、イライラする。

そう感じたエメラダは、無意識に体が動く。

 

「……ん」

「ど、どうしたんだエメラダ?」

「…………んっ!」

 

無言でそこらに有った惣菜パンを一夏に突き出す。それに、一夏は戸惑いつつも口を付ける。

 

「……うん、美味い」

「…………ん」

 

その言葉により、少し頭が冷えたのを感じる。ふぅ、と息を一つ付き、自身も食事を始める……そのまま、手に持ったパンを口に運ぶことで。

 

「……え、エメラダっ!?」

「…………? 何、イチカ?」

「いや、それって……その……」

「……?」

 

「わーお……やっぱり日本文化について勉強し直さないと駄目みたいだね、僕……」

「ほう、やるな。これがクラリッサ曰く『あーん』の亜種か……流石は我が妹、ジャパンに長く住んでいるだけのことは有る」

「いやいやいや……これ日本のスタンダードじゃないから……あいつらが異常なだけだから……」

「……もう慣れたぞ、私もな」

「………………あら?」

 

ここで、セシリアはふと、違和感を感じる。この学園に来てから何度か見た光景、その中のどれとも違う今回のもの……そしてその違和感の正体がセシリアの頭に浮かんだ瞬間、その口元が弧を描いた。

 

「(なるほどなるほど……わたくしは箒さん押しだったのですが、少し戦況が傾いてしまったようですわねぇ……)」

 

色々と頭の中で不穏なことを考え始めるセシリア……その空気を感じ取ったのかはわからないが、それを遮るように箒がセシリアへと声を掛ける

 

「……セシリア、おいセシリア!」

「は、はい? 何でしょうか?」

「……お前が分け合って食べようと提案したんだろう。お前の分はどうしたんだ?」

「なるほど、今すぐに出しますわね……っと!」

 

そう言って、全員の目に飛び込んできたのは……サンドイッチだった。

 

「へぇ、中々きれいに出来てるじゃない」

「セシリアも料理できるんだな、良く出来てるじゃないか」

「洋食には心得が無いが……食欲をそそる」

「なるほど、オルコットさんのイメージにぴったりって感じのお弁当だね」

「ほうほう、では早速……」

 

そう言って、そのサンドイッチに手を伸ばすラウラ。

そして、伸ばされた手はサンドイッチをつかむ……ここで、エメラダの背に寒い感覚が一瞬走る。

 

「…………え?」

 

それは、今までの死線の中でも感じたことが無いような猛烈な危険を孕んだもの。これは拙いと思い、咄嗟に制止を……

 

「ちょっと、まっ────」

「───あむっ」

 

……掛けられなかった。

一回、二回と咀嚼するラウラ。杞憂だったかと安堵の息を吐こうとして───三回目の咀嚼、ラウラの雪のように白い肌が一瞬にして蒼褪めた。

 

「あ、えっ……」

 

そう言い残し、横倒れになって悶絶するかのようにその小さな体をぴくぴくと動かす。その姿はエメラダ以外……訂正、エメラダとセシリア以外の面々にも危機感を抱かせるのに十分な光景だった。

 

「あら? ラウラさんどうしたのですか? もしや、口の中に怪我でも……」

「だれ……せぃ、だとっ……!?」

 

つまり、こう言いたいのだろう……『誰のせいだと思っている』と。

此処に居る皆の総意だった(一名を除く)

 

「あら、皆さんも遠慮せずどんどん食べて下さい? 腕によりをかけて作りましたのでっ!」

 

やばい、こいつマジだ。

一つの思いを全員の顔を見回すことで共有し……そこで、悪魔のような一言が挟み込まれる。

 

「ああっ……こういった友人との気兼ねない昼食って初めてで、何だかとっても楽しくって……ふふ、柄にもなくはしゃいでしまって恥ずかしいですわ」

 

顔を僅かに赤らめながら、とろける様な笑みを浮かべるセシリア。

平時であれば男女問わずに魅了したであろうその笑みは、この場に限って悪魔の微笑みに見えた。

 

「……いや、はしゃいじまうことなんて誰にでもあるさ。それと俺、男だから量が食いたいんだ……皆には悪いけど、それ全部貰えるか?」

「い、一夏!?」

 

咄嗟に、と言った様子で声を漏らすシャルル。だが、他の『織斑一夏』という人物を良く知る者たちは納得した様子でその奇行を見守る。

 

「まあ……あんたならそう言うとは思ってたけどさ」

「日本男児の譽だ一夏……誇れっ……!!」

「イチカ……」

 

心配そうに見守るエメラダの頭に、ぽんっと一夏の男らしくごつごつしていて……尚且つ、暖かさを感じさせる手が載せられ、撫でられる。

 

「……大丈夫だ、俺を信じろ」

「んっ……信じてる、信じてるからっ……」

 

「…………? 良くわかりませんが、そこまで言うならば仕方が有りません───はい、どうぞ一夏さんっ!」

 

そう、一夏は覚悟を決めた男の表情をしていた。

何者にも負けぬと……そして、必ず己を待つ人の元へ生きて帰ることを誓った表情である。

 

「では────頂きます」

 

今の一夏はかのブリュンヒルデすら怯むかもしれないほどの威圧感を放っている。

まさしく、ここは戦場。

そこに立つ彼の姿は……歴戦の勇士。

 

「はい、しっかり噛んで食べて下さいましっ」

 

彼は今、一人だ。一人で数百……いや、数万の強兵たちと戦端を開くのだ。

ゴクリッ……生唾を飲み込む。

 

そして……彼は─────

 

「…………ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」

 

────死地へと、飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら一組の午後の授業では、早退で一人欠員が出たとか。

 

 

 





すまない、お馴染みのポイズンクッキングネタでお茶を濁してしまい、本当にすまない…………(英霊召喚をしつつ)

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