今更ですが、牌の種類は以下になります。手牌のやつです。
萬子→漢数字。
筒子→①②③など。
索子→123など。
赤ドラは(赤五)といったように書きます
「衣がきったぞ~」
元気一杯の子供のように登場した。にこにこと笑っており、その様子からは龍門渕の厳しい状況を考えていないように見えた。それはどんなマイナスでも自分が引っくり返せるという自信の表れなのか、それとも仲間を信じているから考えていないのか。
「おー、来たか。今うちは三位だ」
「おお? やけに苦戦しているではないか」
「あはは、情けない結果でごめんね」
「気にするでない。衣おねーさんが何とかしてやる」
胸に手を当てて言った衣にみんなは優しく、暖かい眼差しを送った。それには気づかなかった衣はソファーにちょこんと座り、モニターに目を向けた。
「次はとーかか」
「うん。相手がチャンピオンだから苦戦するだろうね」
「ふむ。いや、或いは……覚醒もあり得る。もしそうなったら見物だな。咲は見事に龍を倒したが、チャンピオンにそれができるのか……」
一番最初の親は照だった。最初の東一局は見に徹するので、起家は避けたいものだが、照本人は優希ほど起家にこだわりがあるわけでもないので、どちらでもよしとしていた。
「ツモ。1000・2000ですわ」
最初のあがりを射止めたのは龍門渕の透華だ。綺麗なあがりに本人が満足していた時、それは来た。
ゴッ、と固いものが背後に強く置かれた音がした。刹那、ゾクリと冷たい感覚が流れた。
(何すか、今の)
(な、何ですの、今のは)
大切なものを見られたような気がした。風越の方は全く気づいていないようなので、鶴賀の東横桃子と透華はこの現象を起こしたであろう照を見た。
本人は表情を変えていない。何もしていなさそうにしているが、先ほどのものは間違いなく照がやったものだと二人は確信した。
(龍門渕の厄介だけど、意識的にやれるわけじゃないからはやめに終わらせた方がいいかな)
東二局。ここから照の連続和了がはじまった。
「ロン。1000」
(来たっすね)
「ツモ。500・1000」
(チャンピオンの連続和了。しかも)
「ロン。3900」
(本当に打点が上昇しますのね。そしてはやい)
『は、はじまりました! チャンピオンの怒濤の連続和了!』
『しかもあがる度に点数もあがっているな』
『このまま去年のインターハイのように独壇場とするのか!?』
「ツモ。2600オール」
「は、はやすぎる」
「ツモ。4100オール」
「くうっ……」
照の連続和了、そして打点上昇を手助けする赤ドラが今回の大会には採用されている。赤ドラはドラ表示牌次第ではダブドラとなる。場合によっては赤五筒がダブドラとなり、それで一盃口をつくれば、一盃口ドラ四となり、満貫となる。もちろんそれだけに赤ドラの扱いには注意を払う必要も出てくる。
赤ドラを採用している今大会だが、おかしな点もいくつかある。大明槓による責任払い、役満の複合なし、ダブロントリプルロンなしなどだ。まあ後者の二つは偶然が重なり、試合が早々に終わらないようにするためという考えからだろう。複数ロンは不正……参加者が試合前に手を組まないようにする意味もあるとは思うが。
普段よりもドラが多いこともあって照の苦労とも言えない苦労はより軽減されていた。
「ツモ。6200オール」
『す、凄すぎる! チャンピオンの連続和了により、清澄は原点を突破しました! これがインターハイチャンピオン! 他校は手も足も出ていない!』
「ロン! 24900!」
「そんな……」
『ここでチャンピオン、風越の深堀に親倍を当てました! これにより清澄はトップに立ちました!』
『はやすぎるな。このままだと後半戦で何処か飛ぶな』
『圧倒的強さです。既にチャンピオンは70000点を稼いでいます。誰も彼女を止められない!』
(ほんとに怪物っすね。人間とは思えないっす)
(次は三倍満。ここで止める)
(あまりやりたくありませんけど、やらないとですわ)
「ポン」
深堀が照のツモを飛ばす。点数が上がっていけば、当然のように速度は落ちていく。ただ、照の場合は大きく減速するわけではないので、点数を考慮するとはやいことに変わりない。
これが宮永照の最大の武器だ。連続和了を成すための強力な力。それは天江衣のものとは違い、相手の手牌に影響力を与えたりはしない。しかし、高い和了率を実現し、それが連続和了及び打点上昇を起こすものとなっている。
「チー、ですわ」
「ポン」
(上手くいきましたわ。でも……)
透華はまだテンパイしていない。スピード重視をしても一向聴だ。深堀が二回鳴いているのでそちらに期待するしかない。
(この辺りすかね。だめでも龍門さんが鳴けるはずっす)
「チーですわ」
チャンピオンのツモを二回飛ばして、やっと透華はテンパイした。深堀もテンパイしている可能性を考えるとチャンピオンの連荘は止められそうだ。
「リーチ!」
(んな!?)
(マジっすか? 十巡で三倍満テンパイすか……)
(止めないと! 龍門渕は多分これのはず)
「ロン! 1000は2200」
「は、はい」
(ナイスっす。これでとりあえず危機は去ったっすね)
『ここで龍門渕選手がチャンピオンの連荘を止めました!』
宮永照は自分の手牌を一瞬だけ見た。
一一二二三三五五六六七九九
とんでもない手だ。一発ツモなら数え役満にも到達した大物手だ。これを十巡目でテンパイしたのだから恐ろしい限りだ。しかもポンで二回ツモを飛ばされたにも関わらずだ。
これで照の連続和了は止められたのでまたはじめからとなる。
「ロン。1000」
「ロン。1300」
「ツモ。1000・2000」
『前半戦終了! 終わってみればチャンピオンの圧倒的な一人浮き!』
『とんでもないな。言っちゃ悪いが、レベルが違いすぎる。前半戦でこれだと、後半戦は100000点以上稼ぐことになるぞ』
『そうですね。やはりそのぐらいはいきますかね』
『チャンピオンは東一局はあがらないんだ。去年の映像を見れば分かるが、必ずだ。その一局で相手を観察しているようだ。だから今回は起家でチャンピオンの親は観察で一度なしになったが、後半戦は様子見しない。今回の点の二倍以上、150000点は稼ぐ計算になるぞ』
『とてつもないですね……』
『三校は今回以上に連携をとらないと優勝が遠のく』
実況の話を知らない深堀は控え室に戻ってくると、泣きそうな顔で美穂子に謝る。
「すみません。私のせいで点数が……」
「あなたのせいじゃないわよ。大丈夫。あなたなら負けない。自信を持って」
美穂子は優しく深堀を抱き締める。尊敬し、いつも追いかけてきた人にされたことで深堀の心は落ち着いてきた。先ほどまでもう何もできないと、勝てないと、諦め、暗く落ち込んでいた心は暖かさを取り戻した。
「後半戦も頑張ります!」
「ええ。あなたらしいいい笑みになったわね。そっちのが好きよ」
母親のように慈愛に満ちた笑みを見せた美穂子に深堀は力強い顔つきを見せて対局室へ戻る。
鶴賀のモモは力のない笑みを浮かべて、控え室へと来た。
「いやあ、申し訳ないっす。強いとは思ってたっすけど、あんなに離れてるとは思わなかったっす」
「ワハハ。あれはしょうがないなー」
「後半戦も前半戦同様に打つしかあるまい」
「うっす。頑張るっす」
「頑張って」
「応援している」
「期待に応えてみせるっす」
正直な所今すぐに逃げ出したかった。また宮永照と打つとなるんだと思うと臆病風に吹かれる。対局室へと向かえるのは、単純に仲間のために頑張ろうという想いからだ。
存在感の薄い自分を見つけてくれた先輩、そしてこんな自分でも仲良くしてくれるみんなのためにも、宮永照の爆走を止めなければならない。
副将はここで一度区切ります。次で後半戦終わらせます。覚醒透華出せなくてすみません。