咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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キンクリはよく知りませんが、何となく分かっている作者です。


第7話

「あー、くっそ! タコスおさえたのに風越にやられた!」

 

「しょうがないよ。あの人去年も強かったし、バカツキ透華も他家を使って上手くおさえてたし」

 

「あー……」

 

 負けたことに悔しさはある。次に対局したら負かすと豪語する。それでも勝つことに必死になったあの時間は確かに楽しいものであった。他者を上回るために有らん限りの手段を使い、競った。

 

「またあいつらと打ちてえな」

 

 その一言に尽きた。

 

 

 

 

 

「キャプテンお疲れさまです!」

 

「圧勝でしたね!」

 

「ありがとう」

 

 タオルを渡された美穂子は受け取り、手を拭く。先鋒戦は美穂子が他校に大きな差をつけ、トップになった。これなら問題ない出だしではあったが、コーチの久保は浮き足立つ部員にやや手厳しく言った。

 

「福路はよくやった。だが、問題は次鋒のお前らからだ。清澄以外の風越を含めた三校は副将に向けて点数を稼ごうと躍起になる。点差に胡座かいてっと、簡単にやられるぞ」

 

「はい」

 

「は、はい」

 

「はい」

 

「はいだし」

 

「副将の宮永照はお前たちも知っての通り、去年のインハイチャンピオン。私も奴の牌譜、動画を見たが……ありゃバケモンだ。副将までに200000点以上ないと、負ける」

 

 風越優勝を阻む最大の障害を乗り越えるための点数に部員は絶句した。200000点。仮に他家から均等に点数をとると、点差は130000点オーバーとなる。もちろんそれだけの点数をとると、今度は狙い打ちされる危険性が増してしまう。

 

「おそらく他家もチャンピオンを止めるために協力してくるはずだ。それでも乗り越えれるかどうかだ」

 

「やはり宮永さんが最大の壁ですか」

 

「そうだな。そこを越えなきゃ、風越は今年もだめだ」

 

「が、頑張ります!」

 

「おう。それと池田」

 

「はい!?」

 

「去年のリベンジ果たせよ」

 

「やってやるし。天江衣を泣かせるし!」

 

「それでいい。おら、さっさと行け吉留」

 

「はい!」

 

 荒っぽく送り出された。吉留未春の方も出るのが遅くなると久保に怒鳴り散らされるのを理解しているのでささっと出ていく。

 

 いつもの久保とは違い、優しく見えたので華菜は美穂子にそのことについて尋ねた。

 

「何かいつもより優しくないですか、コーチ」

 

「流石にチャンピオンがいるもの。コーチもいつもみたいに怒れないのよ」

 

 部員のやる気を失うのを恐れているのだ。ともなればいつもと違って優しく振る舞うのは自然な話だ。これで負けたらどうなることやら。

 

 

 

 

 

 清澄の方は怖いコーチ、というかコーチそのものがいないので基本的に気楽に部活をし、楽しんでいる。

 

「さて、取り返してくるかの」

 

「染谷先輩頼んだじぇ」

 

「頑張ってください」

 

「任せんさい」

 

 この後、まこは語る。

 

 初心者の強運は怖いと。あんなん考慮しとらんよと。

 

 対局開始。本来ならこの試合はまこにとってそれほど厳しくないものだった。初心者である鶴賀の妹尾佳織の手が読めないのはともかくとして、残りの二人は異能を持たない一般人であり、オカルト第一に打つこともない。

 

「あれ、あがりです」

 

「……」

 

「はあ!?」

 

「地和……はじめて見た……」

 

 ただまこに運がなかったか。役満の親被りを食らってしまった。その後も二度親被りを食らい、点数を落とした。

 

(役満の親被りでケチがついたかの……)

 

 そうとしか思えない悪い展開だ。それに妹尾は違うが、他の二人は明らかに狙ってきている。

 

(回避しながらやるのはきついな)

 

 彼女にできたのは振り込まず、安くても早いあがりを目指すことだけだった。これが個人戦だったなら、勝負に出てもよかったかもしれないが、団体戦である以上後ろに控えるメンバーに迷惑をかけられない。

 

 

 

 

 

 

 次鋒戦が終了した。清澄は大きく失点し、逆に役満をあがった妹尾のおかげもあって鶴賀は原点近くまで浮上。風越と龍門渕は残念ながら得点は伸ばせず。

 

 控え室に戻った妹尾を待っていたのは当然のように暖かい言葉だ。

 

「すげえよ、かおりん!」

 

「まさか地和をあがるとはな」

 

「うむ。見事だ」

 

「あ、ありがとうございます。あれでよかったんですよね?」

 

「ああ。妹尾のおかげでいいところについた。蒲原」

 

「わかってる。撃ち落とせばいいんだろ、風越を」

 

 笑顔が絶えない少女蒲原が言うと怖くはない。しかし、不安もない。それに麻雀の腕も悪くないので、清澄のような悪展開にならなければ大幅なマイナスもないはずだ。

 

 

 

 

 

「ともきー!」

 

「ごめん」

 

 龍門渕透華にしてみれば、現在とてもいい状況とは言えなかった。こちらが三位というのも不機嫌な理由の一つだが、彼女としてはチャンピオンに向けて多くの得点を稼いでほしかった。

 

「まあまあ。落ち着いて。僕が稼いでくるからさ」

 

「あら、やけに自信がありますのね」

 

「自信ってほどでもないよ。でも稼ぐんだ。そして、みんなで全国に行く」

 

「当たり前ですわ。衣が楽しみにしてますもの」

 

 全国。そこに行けば、衣は白糸台にいる咲と淡に会える。それもインターハイという大舞台でだ。衣は昔はインターハイに興味を示していなかった。あくまでその頃は透華に言われたからやっただけで、本人が希望したわけではない。

 

 だが、宮永咲との出会いが衣を変えた。自らインターハイに行きたいと言うようになり、更には以前はあった透華たちとの壁を乗り越えて本当の家族、友人となった。

 

 そのことを透華たちは感謝しているし、喜んでもいる。だからこそこんな県予選で負けるわけにはいかなかった。

 

「それじゃ行ってくるよ」

 

「ええ、期待してますわ」

 

 国広一は握り拳を見せて控え室から出る。

 

 

 

 

 

 風越の控え室は穏やかである。未春の方も上手く凌いだので美穂子に褒められた。

 

「ふう、次は私ですね」

 

「なーにビビってんだよ。二ヶ月でレギュラー入りしたルーキーなのに」

 

「このいい流れを私が止めてしまうかもと思うと怖いんです」

 

 文堂星夏は震える右手を左手で押さえる。生まれてはじめての大舞台であり、ここまで風越は順調だ。それを一年でありながらレギュラー入りした彼女が自分で途切れさせてしまうかもと恐れるのは不自然なことではない。

 

 何より清澄の中堅の牌譜が不気味だ。

 

「とりあえずはじめは様子見します。次にチャンピオンがいますし、私でやらかすのはまずいですから」

 

「うん。そうしとくべきだな」

 

 華菜もやめろとは言えなかった。文堂のポジションは二番目に辛い。大きな失点をすればとことん責められる。それだけにプレッシャーも大きい。

 

 それに耐えて文堂は控え室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 戻ってきたまこは見るからに落ち込んでいた。まあ、親被りを三回も受け、その内の一つは役満だったのだからしょうがないと言えるが。

 

「すまんのう。かなり削られてしもうた」

 

「大丈夫よ。私が取り戻すから」

 

「久が駄目でも私が頑張るから大丈夫」

 

「おお、チャンピオンがそう言うてくれたら安心じゃ」

 

「私は?」

 

「お前さんの心配はせんでもいいじゃろ。するなら和をするわ」

 

「まこが冷たいわね。これでもか弱い乙女なんだけれど」

 

(久が?)

 

(図太いの間違いじゃろ)

 

(部長相変わらずだじぇ)

 

(ノーコメントですね)

 

「はいはい。あんたらの考えはよくわかりました。まあ、原点ぐらいにはしてくるわよ。照のワンマンチームと思わせたくないし」

 

「うん、頑張って」

 

「っしゃあ! トバしてくるわ!」

 

「元気じゃのう」

 

 早足で去った久にまこの言葉は届かなかった。頭にあったのは県予選、更には全国を優勝した自分たちの姿だけだ。

 

 

 

 

 




次で県予選折り返しですね。ページが進む度に増える文字数。大将は一ページで何文字になるのやら。まあ次からは2000前後にしてやるつもりです。

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