咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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もう少しで今年も終わりですね


向こうの世界の存在

 まさに宮永照の独壇場、快進撃とも言うべき展開だった。ここに咲がいなければ、それで片づいたろうし、この試合も照の勝利で決まっていた。

 

「これで宮永先輩の妹は6200だから……」

 

「6800以上に振りこんだらおしまいです」

 

 京太郎の言葉に和が素早く答えた。その言葉に続くように優希が言った。

 

「宮永先輩は5800和了したから、次はそれ以上だじぇ」

 

「そうはいかんじゃろ。実況も言うてたが、ここまでわざとじゃ。次からは振らん」

 

 後輩の言葉と思いを、まこはばっさりと切り捨てた。まこの話は何よりも真実で、そう言うしかないほどに他の言葉は嘘だった。だから、まこは乗っかることはしなかった。

 

「とはいえ」

 

 まこをフォローするつもりなのか、はたまた自分の感想なのか。久は画面を見つめながら言った。

 

「照が有利なのは変わらないのよね。何かの間違いでドラ乗りまくって、親倍になればそれで決着つくし」

 

 確かに。贔屓目なしでも、その話はもっともだ。端から見たら、咲は危機的状況にいるように思える。点数も少なく、一歩踏み外したら奈落の底へと落ちていく。

 

 しかし、その危機的状況を本人が意図してつくり、更に脱する術を持っているなら話はがらりと変わる。実況の言うようにここからが本番なのだ。

 

 

 

 

 

 

 天井に向かって伸びる黒い雷を、山頂の風景が丸々飲み込んだ。本来なら一瞬だけ全体に広がり、背後に展開して終わりなのだが、今回はそうではなかった。黒い雷もろとろ対局者の三人も飲み込んだ。

 

 彼女は目を閉じて、集中する。

 

 黒い雷は空まで伸び、到達する。すると奇妙なことに、黒い雷は根本から白く変色していった。同時に空は黒く変色していく。どんどん白くなっていく雷を三人は見ているしかない。時間にすればあっという間た。

 

 全ての雷は真っ白になった。次に起きた変化は、半分の雷が細かな粒となって空にのぼっていく。空一面に散らばった。残りの半分はギギギ……、と軋むような音を発して、大きな玉へと変わっていった。

 

 その大きな玉は星空へとのぼっていく。そうして、漆黒の空に満月と星が飾られた。それだけではない。背後から波の音がする。振り返れば、そこには海が存在していた。潮が満ちたのか、それともこの空のようにつくられたものなのか。

 

 そのことについて考える必要はないと結論を出して、無駄な思考をやめる。

 

 ボゴッ、と地面から蔓のようなものが生え、咲を含む四人全員にぐるぐると巻きついた。

 

(宮永も? 何や、いやーな感じやな)

 

 ここからが本番なのは間違いなしだ。

 

 洋榎はちらりと照を見た。

 

 照なら見抜けているはずだ。表情はあまり変わっていないものの、普段よりも考えているように見える。

 

 おそらく鏡を使ってから今まで考えていた。この能力を打破する方法を。

 

『全員五向聴以下のスタート!!』

 

 まず配牌は最悪。もっと最悪なのは、この五向聴以下のスタートが大星淡のものにそっくりなことだ。淡と同じならダブリーが咲から出てくるものだが、そんなことはなかった。

 

(これはまだスタート。問題はこっからや。何が起こるかわからへんけど、さっき見た海からして……)

 

 ちらりと衣を見る。

 

 一向聴地獄となるか。

 

 こんな配牌で、一向聴地獄。想像しただけでゾッとするものがある。せめてツモぐらいは普通であってほしい。と、ささやかな願望を持っていながら、洋榎本人はそれならそれで対処して、潰しにいく予定だ。

 

(やっぱりか)

 

 洋榎の予想は見事に当たった。一向聴した途端に有効牌が来なくなった。ここまで露骨だと笑いがこみ上げてくるが、そこは表に出ないようにした。何も面白いことが起きてないのに笑ったら、色々な人におかしく見られるし、恥ずかしい。

 

(そろそろか)

 

 衣は最後の角に移ろうとしている山を見て、次に咲をちらりと見た。

 

 照は自分の手を見て、小さく息を吐いた。

 

(天江さんの時でも聴牌できたのに、咲だとできない。誰かが妨害してるわけでもなく、鳴き一つないまま進んでいるのに……一向聴)

 

 咲の力は恐ろしい。絶頂の天江衣、冷たい透華が相手でも和了してきたというのに、咲が相手ではそうはいかなかった。咲の能力は東一局で見抜いた。わかっていたことだが、これほどまでとは。

 

(条件を満たさなければ、聴牌はできず、和了さえできない。これが咲の……)

 

(チャンピオンが和了する気配ないな)

 

 咲よりも、照の異変に洋榎は意識を向けるが、それもすぐに咲へと戻された。

 

「カン」

 

(最後の角に移る直前で、カンって……)

 

 大星淡のと同じだ。ただしダブリーはしていない。たんなる偶然なのか。咲から目をはなせない、と思った時にそれは飛びこんできた。

 

 嶺上牌を引き入れた咲は、他の三人を置いて聴牌し、リーチをかけた。しかもそれだけではなかった。

 

(ドラもろ乗りしとるし)

 

 通常咲はドラが乗らない。だが、今回は違った。これは偶然なのか。それとも決められていたのか。ドラはもろ乗り。見えているだけでも満貫はある。

 

 これは止められない。洋榎をはじめとした三人はそう思った。咲が和了するのを待つだけだ。とてつもない力がこの場全体を支配し、抗う術を奪っていた。

 

 咲が今引いた牌は、自分の最後のツモ牌だ。

 

「ツモ! 3100・6100」

 

(まずい、これはあかんやつや)

 

(止められなかったし、聴牌すらできなかった)

 

 宮永照、一向聴のままこの局を終えた。

 

 鳴けるタイミングが一切なく、咲の邪魔をすることは叶わなかった。一局でもはやく、この能力を破らなくては――誰かが飛ぶ。

 

 最悪な配牌スタート。

 

 最後の角に移る前にカン。

 

 ドラもろ乗り。

 

 リーチ。

 

 自分が引ける最後の牌でツモ。

 

 全てがさっきの繰り返しだった。 

 

「ツモ! 3000・6000」

 

「ツモ! 3000・6000」

 

 そして、迎えた。

 

『な、何ていうことだ! まさに怒濤の三連続和了! しかも全て跳満!! これにより咲選手は二位と大きく差をつけて、トップに立ちました!』

 

 宮永咲 42500

 宮永照 25900

 愛宕洋榎 18700

 天江衣 12900

 

『これはまさにチャンピオンの三局天下!』

 

『やはり来ましたね。咲選手が和了をしてから、他の選手は聴牌すらできていません。もしもこのままの状況が続くのであれば、誰かがまた飛んでしまいます』

 

『しかも次は咲選手の親番。次に跳満和了をしたら、点数は六万点の大台に乗ります』

 

『既に南三局。そこまで点数を稼いだら、後は防御に徹するだけで勝てます』

 

 

 

 

 

 ええええええ!? と穏乃は叫んでしまった。宮永照の圧倒的な連続和了はどこへやら。瞬く間に咲が逆転してしまった。

 

「うわぁー。本当に世界が違うわぁ」

 

「異常」

 

「強いのは知ってたけど、でも宮永さんをここまで圧倒するなんて……」

 

「最初から予想してたさ。照が苦戦するのは。だけどまさか、聴牌さえさせてもらえないとは。これは魔物とか魑魅魍魎とか、そんなものじゃない。完全に向こうの世界の存在だ。こんなのと比べたら天江も照も可愛く見える」

 

「本当に凄いね。決勝でもわかったけど、これを見てたらますますわかったよ。あの子の底なしの力が」

 

 思ったよりも落ち着いている玄に、みんなは失礼ながら何であわあわしないんだろうと思った。ひょっとしたら誰よりも咲の凄さがわかっていて、それでもまだ凄いと知って、理解が追いつかなくなったんだろうか。それなら納得さえいく。

 

 みんなの知る玄ならここで「ど、どど、どうしよう。照さんが負けちゃうよぉ」と言うものだが、今の玄はその真逆にいた。らしくないので、違和感しかない。

 

「でも、宮永さん同じ和了しかしないね」

 

「あっ」

 

「しないじゃなく」

 

「それしかできないんじゃ……」

 

「なら、そこが活路になるかも」

 

 灼の言葉にみんなが頷いた。一見最強で、無敵に見える能力にも何か弱点がある。

 

 そして、それを照が見つけられるかどうかが、勝負の分かれ目となる。




原作凄かったです。まさにネリー無双。

ネリーは自分の波を調整し、最高潮まで持っていってあれですか。そうなると不自然な振りこみは、①ネリーが自分の波の調整するため②相手の流れを阻害し絶つため③両方を同時に行った。

また運が向いていないときに耐えることも能力に必要なのでしょう。だとするとネリーはいきなり走るタイプではなく、後から一気に暴れるタイプという。衣といい、ネリーといい、どうして合法ロリは強いのかな。








塞「共鳴せよ! 邪王真眼!」

塞「くっ。右目が疼く」

塞「目が! 目があああああああ!」

豊音「んーとね、次はねー」

塞(何故、台詞が全て目に絡んでいるんだろうか。疑問を胸に止めず、口にすれば答えが得られる。なのに私は何も質問しなかった。はっきりと目絡みの台詞やめてと言いたかったが、何も言わないことにした。今はそれでよかったんだと思う)

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