咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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更新遅くなりすぎてごめんなさい。次からはこうならないようにします。今回は文字数少なめです。


海と太陽

 天江衣は家族の応援を背に受けて、対局室へと出向いた。

 

 咲、淡同様に彼女自身も特殊な打ち手であり、その強さは言葉を失うほどのものだ。何と語ればよいのやら。その彼女を世間は牌に愛された子と呼ぶ。

 

 尋常ならざる打ち方をし、理解しても真似するのはほぼ不可能。故に彼女は強い。

 

「月は満ちてきた」

 

 その彼女、強さにむらがある。その日の月によって己の力が変化するという、不安定かつ変わった面がある。だからなのか、最高潮となる満月の日は別格だ。

 

 強すぎるせいで、遊べる相手はいないと嘆いた日々もあった。誰が相手になっても、衣を楽しませることはできなかった。みんな最後には衣を恐れ、逃げていった。

 

 このインターハイでもそれは同じかと思われたが、流石にここまで来ると、衣の支配から逃げる、または破る方法を考える者が出てきた。が、やはりそこは天江衣と言うべきか。そう容易くやらせるはずもなく、対策らしい対策を見つけさせぬままトバしてきた。

 

「さて、チャンピオンはどれほどか」

 

 その天江衣が楽しみにするのは宮永照だ。

 

 三人の中では一番弱いが、このインターハイ全体で見たら上位に入るであろう大星淡を軽々と倒し、準決勝まで来た。当然衣の期待は高まる。

 

 県予選の時はとても咲の姉とは思えなかったが、何やら変貌したようで、今なら咲の姉と言っても過言ではないほどだ。合格ラインに到達した照なら十分に楽しめるだろう。

 

 冷たい透華と互角に渡り合っていた時点で実力は十分であったが、エースの少ないポジションにいるというのは、楽な方に逃げているように見えて気に食わなかった。あの実力なら先鋒や大将でも務められただろう。そうしないで副将にいたのだ。反感を買うのも当然というもの。

 

 それらをここまでの活躍で水に流した。今は、期待しているのだから無様な姿は見せるなよ、という考えであり、つまらない戦いをしたなら、その時点で潰しにいく。

 

(さて、満月の衣とどこまでやれるのか。……衣に勝てないようであれば、咲には勝てぬぞ。インターハイチャンピオン)

 

 衣の瞳の奥が鋭く煌めいた。

 

 

 

 

 

 東家・辻垣内智葉。

 南家・宮永照。

 西家・天江衣。

 北家・荒川憩。

 

 それぞれ最初の一枚を切った。

 

 二巡目に移る時に智葉、憩、衣の三人は照をじっと見た。

 

 照は、最初の一局目は和了をしない。必ず様子見をし、次から連続和了をするようになる。また様子見した時に相手の本質を見抜いてくる。照魔鏡と呼ばれる能力だ。これは非常に、卑怯なまでに強力なものだ。一局を犠牲にするだけで相手の能力を見抜けるのなら万々歳だ。

 

 三人が照を見ていた時間は数秒と短い。智葉が牌をツモると、他の二人も照から意識を外した。

 

 五巡目。

 

(進まないな。これが天江の海……)

 

 衣の支配の中では一向聴地獄となる。

 

 打つものに、まるで深い海の中に引きずり込まれるような感覚を覚えさせる。

 

 満月が出ている時の衣は全力であり、去年のデータは通用しない上に、満月の衣のデータは県予選決勝のみと少ない。更に月の満ち欠けで強さが変化するというのを現時点で知る人はいない。

 

(物凄い支配やな。ほんまに暗い海の底にいる気分やわ。体を押し潰すような圧力……。これ、ひょっとしたら、チャンピオンと互角かそれ以上やない?)

 

 淡の支配とは違う。五向聴以下にした後はツモを悪くするというものはなく、それこそ最初だけのものだ。しかし、衣は逆。最初は何ともないが、途中から進まなくなり、それは最後まで継続する。本当に恐ろしい能力だ。

 

 衣の真骨頂。宮永咲で言うところの嶺上開花が、

 

「ツモ。海底撈月」

 

 最後の牌で和了を決めると役となる。

 

 衣の代名詞とも言える海底が決まった。決めた本人は当然といった様子で、薄ら笑いを浮かべていた。

 

 止めようにも、強大な支配が憩と智葉を襲い、思うように進められなかったので、どうしようもなかった。初見というのも大きいが、これを半荘だけで攻略するのは困難ではないだろうか。

 

(協力すれば、そら和了できるチャンスは来るはずや。でも)

 

(一度破ってそれで終わりではない。そんな相手ならとっくにやられているはずだ。天江衣……本当に厄介だな)

 

「さて、見たいなら見るがいい。衣の力を理解したぐらいで勝てると思うなよ」

 

 ゴッ! と鏡の縁が床に当たる音がした。

 

 そして、三人の背後に現れた照魔鏡は大事なものを見透かす。自分の大事なものを見られるのは気持ちのいいものではなく、背筋がひんやりと冷たくなるものがある。

 

「なるほど。中々に奇妙で、鬱陶しい」

 

 衣にはうざったく思う程度のもので、特別怖がるほどのものではない。能力がバレたぐらいで動揺するのは小物程度だ。真に自信があるのなら、鼻で笑えばいい。

 

 東二局。親、照。

 

 照にも衣の支配は襲いかかる。

 

 照は、冷たい透華を相手にして、普通に和了を決めた。それは咲にもできなかったことであり、和了そのものに関する能力は照の方が上であることを示している。咲に連続和了などという能力はないので、当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

(効いていないわけではない。が、これが奴の力と言うべきか。衣の支配を押し退けるでもなく、迂回するわけでもなく、一点集中によって突き破る)

 

 衣は自分の力がどのように及んでいるのかを調べることで、照の能力を細かく知ろうとしている。それによって照を潰すつもりでいた。

 

(まさか、真正面から破ってくるとは……。これだから麻雀はやめられない)

 

 一方的に潰すのは困難か。

 

 冷たい透華と互角に渡り合っただけのことはある。お得意の和了を全くさせないのは厳しそうだ。とはいえ、勝利することは大して難しくないだろう。見下しているわけでなく、客観的な考えだ。

 

「ツモ。500オール」

 

(この中で和了を決めるか)

 

(流石はチャンピオンやな。もう……化け物やな)

 

 ここから連続和了がはじまる。

 

(和了そのものを引き寄せる強い支配。そして、和了をする度に打点が上がっていく。おそらく打点を上げずに和了はできぬはず。それに和了を止められたら点数は振り出しに戻る)

 

「ツモ。1100オール」

 

(しかし、衣の支配の中でどれほど連続であがれるのだ? もしも……連続和了だけなら勝てぬぞ)

 

「ツモ。2200オール」

 

 衣に動揺はなく、ただ冷静に場を眺めていた。

 

「中々。それでこそ宮永。が、足りない。咲には及ばぬか、やはり」

 

 衣は一度顔を下げる。

 

 次に顔を上げた時、とてつもないプレッシャーが放たれた。

 

 それこそ視界がぐにゃりと歪んでしまいそうなほどに強く、恐ろしく、冷たい。何もかもを巻き込み、流してしまいそうだ。

 

「はじめるとしようか」

 

 天江衣。

 

 不敵に笑う。




衣かわいい。これ真理。











 今回は別の世界の咲さん。イン長野。

学校では文学少女としてみんなに見られている。しかし、お父さんだけは知っていた。

家に入ってきた咲は、

「咲! きかーん!」

スライディングする。

「はやい、はやすぎる! 流石三巡目で優希ちゃんに国士をぶちかました文学少女なだけのことはある!」

「はやすぎてもう部屋に到着してしまった! 出ました、咲さんお得意のゴロゴロ移動!」

さきさーん。

「そして、謎の効果音! 何故、何故名前なんだ!」

購入した漫画本を読み始める咲。

「忘れてはいけない! コーラ! チョコスナック!」

部屋の隅の小型冷蔵庫から取り出しました。

「あはは」

のんびりと漫画を読んでいる。

幸せな時間。故に過ぎるのも早い。

ここで咲、思い出す。

「あっ。ヤージャンのう〇ちゃん読み忘れてた……。お父さんに買ってきて」

父<ただいまー。

「もらうとしよう。おとーさん、ヤージャン買ってきてー」

父「仕事で疲れてるんだよ。やだよ」

「買ってこないとご飯作んないぞ」

父「買ってきます……」

「ありがとー。お父さん大好き」

これで問題は解決した。

「ご飯、つくるのだるいなあ……」

ころころ転がって台所に行く咲。彼女は社会に出て大丈夫なのだろうか。

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