咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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麻雀、麻雀、麻雀。そろそろぽろりがあってもいいと思うんです?


花と太陽

 団体戦決勝終了の夜。

 

 白糸台のレギュラーメンバーが近くの飲食店の個室に集まっていた。本格的な打ち上げはインターハイ終了後にあるとはいえ、やはり団体戦優勝を誰よりも先に祝いたい。

 

「正直複雑なところはあるだろうが、白糸台を優勝させてくれた咲に乾杯」

 

 かんぱーい、と普段は大きな声を出さない尭深もこの時ばかりは精一杯大きな声を出していた。

 

 乾杯の音頭が済んだところで淡が口を開いた。

 

「いやー、でもまさか先鋒で終わるとはねえ」

 

「私もいくら咲でもとは思ってたんだけどね」

 

「咲ちゃん、本当に強い」

 

「あはは。流石に申し訳ないですけどね。皆さんの出番をなくしてしまいましたし」

 

「だが、変に手を抜くのは失礼だからな。しょうがない。だが、千里山の園城寺は途中からおかしかったな」

 

「あー、確かに確かに。何か振り込みまくってたもんね。そりゃサキは狙い撃ちしてたけど、連続って」

 

「咲は何か知ってるよね?」

 

 亦野の問いかけに咲は口に入れていた唐揚げを飲み込み、お茶を一口分だけ飲んでから答えた。

 

「はい。園城寺さんは途中から未来を見えてなかったと思います。あの振り込みの連続からでも分かりますが、未来を見ていないあの人の実力はそれほどでもありません。能力抜きですと、おそらく二軍か三軍ぐらいじゃないかと」

 

「能力抜きの実力はさほど高くないのか。咲の平凡な手に普通に振り込んでいたしな。山越も効果覿面だった」

 

「でも、それだと前半戦の振り込みが分からない。あの時はまだ見えてただろうし、何かやったの?」

 

「あれはカンできる牌が出たらするつもりでしたので、園城寺さんは牌を捨ててそれでカンをした私を見て、捨て牌を変えたんだと思います」

 

「そーいえば、あの時の手ってリンシャンできなかったね」 

 

「もしできてたら、あがり牌は見えるから振り込みは回避できるしね」

 

「正直園城寺さんが最後まで見えてたなら、先鋒決着はなかったと思ってます」

 

 未来を見て鳴ける牌を集め、妨害してきたらあんな結末にはならなかった。予想の範囲を出ないが、怜の未来視が生きていて、三人が咲を押さえるために最後まで連携をとっていたら稼ぐのは困難だったろう。そういった点を見るとついていたと言えよう。

 

 話題には上がらないが、三倍満は前回の国士無双とは違い、振り込むべくして振り込んだものだ。三人の連携によって咲は和了することができなくなり、最終的に振り込んだ。

 

 思うところはあるが、結果を見れば文句なしなので何も言わないことに決め、料理に手をつける。一分か二分ほどしてから菫に話しかけられた。

 

「残るは個人戦なわけだが、お前はどう考えてる?」

 

「個人戦は団体より厳しいでしょうね。団体では出てこなかった、打てなかった人と打つことになります。そうなると今度は自然とレベルが上がります」

 

「そうだ。去年の最強クラスの打ち手が個人戦では出てくる。そして、インターハイチャンピオン宮永照も、な」

 

「その人ってそんな強いの?」

 

「強いなんてもんじゃない。個人戦二位の荒川に人でないと言わせたほどだ。いくら咲でも圧勝は無理だな」

 

 淡の質問に菫はきっぱりと言い切った。

 

 団体戦では出てこず、しかも龍門渕透華に苦戦を強いられていたので去年よりも弱くなった印象を受けてしまう。が、実際のところはどうなのか。

 

「そうですね。その点については同感です」

 

 咲が目をつけたのは覚醒透華に匹敵或いは互角だったとこだ。言ってはなんだが、咲でも弱点をついて勝利をおさめた。つくことがそもそも異常ではあるのだが、裏を返せばそうしないと咲は覚醒透華に勝てないということである。いや、それは間違いか。今の咲なら点差次第では逆転することもできる。

 

 唯一その咲を狂わすことができるのが淡だ。淡も淡でカン材を持っているので、咲のアレをなんとかできる可能性を秘めている。アレを逆手にとられたら厳しいものがあるので淡と打つ時には使わない。第一に四槓子もそうだが、一度使うとしばらく使えなくなるのでここ一番の切り札として使うのが最適だ。

 

 話は戻すが、何故咲は覚醒透華に匹敵するぐらいで目をつけたのか。覚醒透華にそうならかなり強いだろ、と結論は出てくるのだが、そんなのは誰もが分かっていることである。問題となるのは覚醒透華の支配を受けながらも己の能力を発動して打てたことにある。

 

(あの超絶した支配の中で打てる。なら、なくなれば当然……)

 

 照が覚醒透華を相手にして点数を伸ばせなかったのは確かであるが、しかしほとんど変わらない点数であったのも事実。

 

 表情は変えず、過去の出来事に囚われず、きちんと分析をしているのは流石と言えよう。一度目を閉じ、口で息を吸い、小さく開けた口からふぅと息を吐いた。

 

 連続和了、打点上昇。それを思い出すとつい笑いそうになった。映像を見た限りではとてつもなく強い能力だ。その人が個人戦には出てくるのだ。一人の打ち手として興味がある。

 

 意識を個人戦に置き、色々と考えようとしていた時だった。

 

「サキ、あーん」

 

 咲の返事も聞かず、淡は満面の笑みで彼女の口の中に厚焼き卵を突っ込んだ。注文してからある程度の時間が経過しているので口内が火傷するようなことはなかった。この厚焼き卵、多少冷めていても柔らかさは変わらず、味も落ちていない。

 

 美味しい厚焼き卵だ。

 

「これ美味しいね」

 

「でしょでしょ。他にもこれとか美味しいよ」

 

 淡が自信たっぷりにすすめてきた料理を受け取り、ぱくりと食べる。これが淡ちゃんの好みか、と味をしっかりと覚える。今度作ってみようと思いつつ、料理を口にする。

 

 考えるのは後にしよう。こうして白糸台優勝を祝っているのだ。一人だけ個人戦について考え、今をおざなりにしては失礼というものだ。

 

 この祝いの席は咲にとって最初は気まずいものであったが、いつもの五人が集まるとそんなものは嘘、幻だった。何て言おうかな、どうしよう、と悩んでしまったのが悔やまれる。

 

(とりあえず今は)

 

「サキ、これ食べよー」

 

「うん」

 

(淡ちゃんに合わせとこ)

 

 頬がへこむぐらいに顔を押しつけてくる淡の頭をやりにくそうにしながら撫でる。

 

 

 

 

 

 さてさて。龍門渕メンバーはファミレスに来ていた。衣と仲がよければ、ファミレスという単語で察しがつくほどだ。タルタルソースとエビフライを食べたくて来たわけである。率直に言うと、龍門渕家には相応しくない所だが、本人たちは全く気にしていない。

 

 彼女らにとって、家族が一緒になって食事をするというのが大事であり、場所は最低限の環境が整ってたらそれでよいのだ。

 

 頬杖をついてぼけーとしているのは先鋒で散々な目にあった純である。食欲はそれほどない。臭いだけなら食欲をそそるものがあり、普段ならあーはやく食いてえと思っているところだ。

 

「はあ……」

 

 咲が強いことはよく知っている。咲が他の高校との対局で、先鋒で終わらせたのであったら、やっぱり、まあやるわな、などと他人事のように思っていた。

 

 残念ながら純は当事者としてあの卓に座っていた。責任。あそこで終わらせてしまった。点数を大量に奪われ、仮に繋いでも逆転の望みは薄かった。

 

 心ここにあらず。気が抜けた顔で、遠くを見る純を衣は隣で観察していた。たまにまばたきをするだけで、他には何も行動を起こさない。逆に凄いことをしている純の脇腹を立てた人差し指と中指でドスッと突いた。

 

「うひょう!? ……す、すいません」

 

「ぶふっ」

 

「いえ、お気になさらずにっ」

 

 耳の裏まで真っ赤になった純は視線を真下に落として顔を見られないようにするが、近くにいる衣たちからは丸見えだ。恥ずかしさのあまり本当に真っ赤になっている。よく見ると首まで赤くなりつつある。

 

 期待通りの反応に、衣は満足した様子で何度も頷き、腕を組んだ。余裕をたっぷりと持ち、微かな笑みを浮かべて隣に座る純を見上げた。

 

(せめて、せめて視線が同じぐらいだったら完璧だったのに)

 

 さりげなく失礼な一の突っ込みに気づく人がいるはずもなく、ただ衣は一瞬だけ不機嫌そうにし、表情を戻すと、純の脇腹を狙う。

 

 抉るようにして突く。つもりだったが、二度目は防がれた。純は衣の手首を掴み、悩み顔で見下ろしている。やがて言うことを決めたのか、衣から手を離して言った。

 

「もしかして俺を慰めようとしてんのか?」

 

「いや。そんなつもりはなかった。無防備だったからついついやっただけのこと」

 

 衣はあっけらかんとした様子で、反省していない。慰めているのか、それともじゃれているのか。衣なりに気をつかっているのは分かる。分かっているが、脇腹はやめてほしかった。

 

「純君もはやく元気になりなよ。いつまで落ち込んでてもしょうがないし、てかあの咲ちゃんだよ?」

 

「そうそう。相手が悪かった」

 

「あのように目立ったのは許しがたいですわ。予定では今頃私が取材を独占していましたのに!」

 

 透華はいつも通りだ。純のことを信頼している、だからいつも通りに接しているのか。それとも咲の偉業がそんなにも腹立たしいか。確かにあのようなことをした咲には注目が集まり、ネットではインハイ史上最強の打ち手と言われている。残る個人戦も彼女が優勝し、そして個人戦団体戦ともに三連覇を成し遂げる。中学の時のようにこのインターハイで偉業を達成する。

 

 あまりにも強すぎ、それ故に対等に戦える相手が見つからない。だとしても咲はつまらなそうにしない。いつだって真剣に打ち、楽しんでいる。衣にとってそれは疑問だ。

 

(今回お前は偉業を成した。それなのにどうしてお前はつまらないと言わない? 少なくとも衣はそうなった)

 

 考えてみると衣は咲のことをあまり知らない。事実ハギヨシから宮永照を聞かされ、はじめて姉の存在を知ったぐらいだ。咲が家族の話をあまりしないので、仲が悪いのは察しがつく。だが、衣の知る咲は優しくて、包容力がある。その咲にとことん無視される。いったい何をしたらあそこまでされるのか。

 

(咲、昔何があったんだ?)

 

 いつか知る時が来るのだろうか。そんな疑問を胸に衣は純の脇腹を突いた。

 

 

 

 

 

 

 宮永咲。

 

 九才。

 

「お姉ちゃん、麻雀しよ」

 

 この物語は彼女が家族麻雀を好きから嫌いになるまでの話である。

 

 自由に麻雀を打て、心から楽しむことができた。咲は自分のやり方に疑問がないし、当然であるように打ってきた。それは姉も同じで、特殊な打ち手として特殊な打ち方をしている。なら、咲だけが変える必要はなく、自分の好きな打ち方を貫いた。

 

 しかし、その楽しい時間は終わりを迎えようとしていた。

 

「咲ちゃん、何でカンをするんだ?」

 

 咲はその人の名前を知らなかった。両親が昔世話になったことがあるというのは知っているものの、話をしたことはそんなにないし、話しかけにいったこともない。

 

「何でって……あがれるから」

 

 他人には見えずとも咲には見える。嶺上牌に何があるのか。故に咲は自分にとって一番合理的で、都合のよい打ち方をしていた。それは宿した能力を大切にする方法であった。牌はそんな少女を好きでいた。

 

「ふむ……。そんなオカルトやめて、ちゃんと打ったらどうだ?」

 

「え、でも」

 

「咲、言われた通りにね?」

 

 世話になった人――親戚のおじさん――の後ろで母親が言葉とは違って、申し訳なさそうに手を合わせてお願いをしていた。

 

「うん」

 

 大人って大変。と無邪気な意見を内心で持ち、その場逃れの打ち方をする。カンを無意識ですると、おじさんはわざとらしく溜め息を吐いた。そのいかにもな溜め息は聞こえるようにやっていて、咲は思わずビクリと怯えた。

 

 何だろうか。本当に嫌な感じだ。悪いことはしていないはずなのに、自分が悪いと思ってしまう。空気が重い。楽しいはずの麻雀がちっとも楽しくない。気持ちが盛り上がらない。これは本当に麻雀なのだろうか。

 

(つまんない。これなら勉強してた方が楽しいよ)

 

 不満はあれど、とりあえず今日だけしておけばいいよねと能天気に考える。そうと決まれば、適当に打って終わらせる。

 

 しかし、体の奥まで染みついた打ち方はそう簡単に変えられるものではない。カンをすれば嶺上開花ができる、その一連の流れを知ると咲の手と口は勝手に動き、尋常ではない打ち方をした。その時は自信に溢れ、輝いているとさえ思えるほどだ。

 

(うん。やっぱり咲は強い。邪魔しないでほしい)

 

 照も文句はある。姉としてはおかしいかもしれないが、照は咲に勝つことを目標としている。負けないようにではなく、勝つことをだ。咲には驚くほどの才が眠っている。姉としてずっと見てきた照は断言できる。咲は誰よりも才能があると。

 

(私も負けてられない)

 

 咲には才能がある。それが無駄になってしまわぬよう、照はできるだけ多く咲に勝ち、そして一緒に麻雀を楽しむつもりでいた。妹の才能を認め、妹の麻雀が大好きな姉としてそうする。いつの日か姉妹揃って大会に出て、優勝をかけて戦いたい。または力を合わせて優勝を掴みとりたい。

 

 ――もしもそれができていたなら最悪な結末は避けられたのだろうか。

 

 ――それとも何も変わらなかったのか。

 

 ――はたまた立場が逆になっていたのか。

 

 ――或いはどちらも麻雀に関わらない生活を送ったかもしれない。

 

 ――何にせよ子供の照ではきっとどうしようもなかった。

 

 ――何故なら未来を知らないから。

 

 ――だから回避できない。




一度ここで切ります。

本当は全部書いた方がいいのでしょうが……更新が遅くなりすぎるのもあれかなと思い、ここで更新することにしました。

中途半端でごめんなさい。文才がもっとあれば……。

そして、おまけへと。実はこのおまけ、ずっと前に出来上がってて、いつ出すか迷ってたという。







衣「ころたんだ」

透華「とうたんだ」

純「じゅたんだ」

智紀「ともたんだ」

一「はじたんだ」

五人「五人揃って五反田!」

咲「いやいや、待って待って。おかしい。みんなおかしいから」

五人「五反田!」

咲「いや、だから大人しくしてってば」

衣「何故大人しくするのだ? 衣たちはいつだって真剣だぞ」

咲「あのね、ふざけてるようにしか見えないの。何五反田って」

一「それは私たちがみんな〇〇たんだから、ちょっと引っかけて」

五人「五人揃って五反田!!」

咲「だから待ちなさいってば」

透華「もうかなり待ちましたわよ。結構はじめに出たのに、かなり放置されてましたもの」

純「多分龍門渕? あっ、いたねー、みたいな空気のはずだ」

五人「インパクトを求めて五反田!!」

咲「斜め上すぎるよ」

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