咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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更新遅くなってすみません。この準決勝の結末は皆さんの予想通りかもしれません。


白糸台、姫松、永水、阿知賀、準決勝決着

(さあて、見せてもらおっか。阿知賀の大将さん。よければ決勝に出れるよ。だから頑張りなよ)

 

 大将戦後半。

 

 東家・淡、南家・穏乃、西家・末原、北家・霞。

 

「リーチ」

 

 初っぱなからダブリー。

 

 前半でダブリーは霞に通用しないと判断し、以後使用しなかった淡がかけた。これに末原はどんな意図があるのか読めず、それ故に淡への警戒心を何段階も上げた。

 

(宮永ほどやないにしても、こいつも白糸台のレギュラーになれるぐらいに強い。その証拠に前半でこいつはうちらを相手にしても苦労してへん。ほんま宮永といい、こいつといい、化け物やわ)

 

 自信をなくすほどに白糸台の一年生コンビは輝いていて、遥か遠くを歩いている。彼女たちには一生を費やしても勝てないだろうと思いつつも、末原は最後まで戦う。もうここまで来たら下手な小細工も駆け引きも通用しない。幸いにも霞は北家で、淡の上家だ。

 

(鳴ける状況にはなっとる。せやけどそれで喜べる状況やあらへん)

 

 手が進まない。重い手からスタートするためにツモがよすぎるぐらいでないと聴牌まで辿り着けない。最下位の末原は何としても聴牌、そして和了を決めたい。

 

(大星さん、ダブリーか。でも私も調子出てきたし、ここからは好きにはさせない)

 

(山の深い場所の支配……。ま、対策は後にするとしまして、今はあがろっと)

 

「カン」

 

(間に合わないわね。でも、振り込むことはないから)

 

 霞は字牌を切らなければ振り込みはない。それ故に淡のダブリーは自分が親でない時は放置しても構わないものであった。絶一門は防御にも秀でたものであり、攻撃も十分なものがある圧倒的な力だ。欠点としては前半で淡が指摘した自由のなさぐらいで、それも補うほどのものが絶一門にはあった。

 

(索子……じゃない!?)

 

 その絶一門の第二の弱点は山の深い所だと効果が途切れることにある。考えてみたら当然で、牌には限りがあるのだ。何処かで途切れても不思議なことはない。あくまで自然の流れだ。とはいえ、それが当てはまるのは絶一門を受けた他者であり、基本一色の霞は終盤になっても他の色の牌は引かない。であるのに霞は違う色の牌を引いてしまった。

 

(これは……白糸台、姫松……違うわね。見誤っていたわ。阿知賀……私の絶一門を)

 

 霞は引いた牌を捨てる。

 

(違う色!?)

 

 これに末原は驚くが、声に出すことはしないで今の出来事を覚える。

 

 深い山の主。己の領域とし、霞の絶一門を崩す。成立を許さない。

 

(何これ、あがれない。てことは)

 

 同じく己の領域の中で異能によるもので和了をしようとした淡の力を崩す。

 

「ツモ。300・500」

 

(やっぱり。ふふふふふふふふ。見つけたよ、金銀財宝を。阿知賀、あなたを残すよ)

 

 咲の望みとは真逆をいく。阿知賀の支配は想像以上に優れたものだ。言うなれば剣だ。国一つを丸々買えるほどの価値がある、最高の剣を淡は見つけた。それは使い方を間違えれば、自らを深く傷つけ、最悪死に至らしめる恐ろしい剣。しかし、間違えなければ敵を滅ぼす最強の剣となる。

 

 阿知賀の高鴨穏乃。天江衣との戦いでとんでもない威力を発揮してくれる。

 

(本当なら私一人でやっつけたいところだけど、正直コロモにはまだ勝てる気しないしねー。それにこの団体戦はサキにとって大事なもの。優勝逃したくないし。それと他人を上手く利用するのも実力の内)

 

 これからはダブリーはしない。露骨に阿知賀の支援に回るのもありだが、穏乃の実力が気になる。あまりに弱ければ衣に噛み砕かれるだけの的になっておしまいだ。やはりある程度の強さがないとどうにもならない。

 

(ここからは阿知賀が死なないようにして、見極めよう。駄目なら永水、よければ阿知賀)

 

 能力は合格だ。しかし能力だけの人物なら連れていくだけ損というものだ。阿知賀の能力に一時はテンションが最高潮に達したものの、それに飲み込まれる前に肝心なことに気づけた。

 

(決勝。白糸台はもう確定。残る枠は一つで、点差は小さい。けど、そう簡単に入れるほど安くない)

 

 穏乃は冷静に打つ。連荘がなければこの局を含めて七回。一局一局が大事な状況だ。だからこそ捨てる牌も引く牌も強く、重いものがある。一見何でもないように見える牌には何か特別なものが宿っていることもあり得る。

 

 そうなるだけのものがこの準決勝大将戦後半にはあった。百点を出すのさえ惜しくなるほどに重要な局面。リーチのかけどころを間違える、それすらも命取りだ。

 

(んっ。ドラ……)

 

 赤五筒が来た。穏乃の手にはいらないものだ。一通、タンヤオ狙いをするにしても強引過ぎるほどで、それらからは遠い。リーチなしでは役無しのゴミ手。また聴牌にすら至っていない。

 

(こっち)

 

 末原に鳴かれることを考慮して、オタ風の暗刻を落とす。防御にも使えるオタ風を落とした理由は簡単。確実に末原を鳴かせないためと、赤ドラとはいえ敵に鳴かれたら点数を上げるものになるからだ。タンヤオ赤一でも2000。一つ一つが大事な場面故に迂闊に捨てられない。

 

(また違う色が……前よりも早いわね)

 

 穏乃の支配が強まることで、霞の絶一門は本来の力が発揮できなくなっていた。次かその次には完全に崩されるかもしれない。驚異的な穏乃の支配に霞は苦しめられる。一度攻撃に転ずれば、祓うまで戻せない。

 

 その大きなリスクがあるから、霞の絶一門はかなりの力を発揮していた。絶一門が崩されたら、残るのは大きなリスクのみで、何の旨みもない。不利な条件で取引をするのと同じだ。

 

(絶一門が駄目になったら普通に打つしかないわね。……それに絶一門だけが崩れるとは限らないものね)

 

 霞は気づかれぬよう、一瞬だけ淡を見た。彼女の相手を五向聴以下スタートさせるという能力も消える可能性も大いにある。

 

(もしそうなった場合、二位になるにはとにかくあがること。それだけなのよね)

 

 能力の介入がない、極々普通の麻雀が開始されたら霞の考えが最も正しいものとなる。

 

 となれば、白糸台以外の連荘は是が非でも止めねばならない。これからどう打つべきか。それに一人先に気づいた霞は手牌を一度確認する。

 

 現在の霞の手は絶一門が切れたと言ってもホンイツを目指すのが最善かつ最速。つまり引いた牌はいらない。捨てるのが定石。ところが彼女は違うものを見ていた。

 

 一人だけ先に方向性を定めた霞にはこの不要牌が恐ろしいことを起こす爆弾に見えていた。絶一門が行き届いているのなら引かない牌である上に何らかの理由で引いても捨てていた、完全な不要牌。

 

 誰にも予想できない未来を訪れさせる切り札であることを霞だけは見抜いていた。いや、ひょっとすると霞によってこの不要牌は切り札になり得たのかもしれない。

 

 霞は六七八九と繋がっていた内の六を場に捨てた。

 

(永水のおっぱいお化け……前の局で違う色の牌捨てとったな。何かが起こっとるんか? 白糸台がやったとは思えんし、あるとしたら阿知賀か。能力は分からへんけど、もしも阿知賀が絶一門を崩したなら白糸台のも崩しとる可能性はある)

 

 末原は先ほどの出来事を思い出し、霞の捨て牌と結びつける。絶一門を発動している霞は他の色を引かず、同じ色しか捨てない。霞の聴牌速度は安定したものがあるので、末原と穏乃よりも速い。

 

 さりとて淡の力によって五向聴以下スタートで、五巡目にならないと聴牌はまずない。よって霞の捨て牌に不自然な点はない。だが、前の局で霞は違う色の牌を捨てた。絶一門による効果で違う色の牌は引かないというのに。

 

(何が起こっとるん? これは……どうなんや)

 

 確かな異常。

 

 分かってしまったことで、霞の捨て牌は今までとは違うものに見える。もしも本当に絶一門が崩れていた場合、白糸台の全体効果系能力も崩れている可能性も現実味を帯びる。

 

 末原は牌から手をはなし、右手で目の辺りを覆って熟慮した。

 

(凡人やからこそ考えなあかん。仮説が合っていた場合、うちの五向聴スタートは何や? 偶然ちゅうんか? ないことはないか。それとも支配が不完全で、効き目が中途半端やった……それやと一応辻褄は合う。うちにかかる支配を消せてないだけやとしたら、おっぱいお化けは聴牌もある。そもそも支配が不完全ってあるんか? 普通はあの二人みたいにすぐいきそうやけど……。不完全……でも効き目は出てきとる。ひょっとして後から伸びるタイプの能力か? なら不完全というよりも、むしろ今はまだ本領発揮してないだけやな。あっ。阿知賀の子、何や後々恵まれること多かったな。やっぱりそんなんか?)

 

 末原の強みは常に負けを想定することで、油断や慢心をなくし、常に全力で打てることにある。そして自分の底を知ることで愚かしい行動はしない。故に洋榎も一目置く人物となれた。

 

 その末原は今全力で考えている。

 

(前半含めたら大分打っとる。スロースタートや言うてももうええ頃やろ。今はまだ点差は小さい。なら、阿知賀の支配が完全になるまで防御に徹してやるのがええはずや。うちの予想が正しいなら大星淡の支配は消える!)

 

 確証が得られない以上全力疾走するわけにはいかない。ここはオリる。そうして場の状況をしっかりと把握し、次局から生かしたい。

 

 流局。

 

 霞以外はノーテン宣言。

 

(狙い通りね)

 

 考えてみようか。

 

 一人聴牌宣言だと、1000点ずつもらえる。少ないと思うだろうが、4000点の差ができる。言い換えると親で1000オールを和了したのと同じだ。そう親の1000オール和了と同じ。

 

 この局、霞は和了せずに目標を達成した。一人聴牌というありふれた出来事を起こすことで己の目的にここまで気づかせず、更には他者の前進を遅らせることにも成功した。

 

 こうして少しずつでも稼いでいく。何処かで大きな和了を決められるならそれでよい。

 

(やられた……。後半入ってこれは痛いなあ……)

 

(間に合わなかった……)

 

 末原はともかく、穏乃は霞の狙いには気づいていなかった。霞を警戒しつつ、和了を目指していたのだが、聴牌にも辿り着けなかった。

 

(でも、いける)

 

 自分の力が確実に支配しているのを実感した。何より穏乃自身のやる気は大将戦開始時に比べたら何倍にも膨らんだ。次の局で決める。

 

(やっぱり……)

 

 完全な崩壊。

 

(へえー。中々じゃん)

 

 これに淡は満足げに笑みを浮かべた。咲でもこんなことはしてこなかった。

 

(来た。思った通りや)

 

 絶一門、五向聴スタート、二つが完全に消え去った。ここからは個人の腕が勝負を左右することになる。

 

(ふんふーん。さてさて、どうなることやら)

 

 淡は楽しそうに笑うのみだ。

 

 

 

 南三局。親、末原。

 

(あかん。思うようにいけへん)

 

 大きく削られたわけでもなく、和了できたわけでもなく。二位の永水とは一万点少しの差がある。開きすぎている点差ではなくとも、それを埋めるのは苦労するものがある。

 

(いいとこなしだなあ。でも、ここはやらないと)

 

 ここまで来たら防御を捨てて突撃あるのみだ。二位にならなければ敗退してインターハイは終わりだ。ここで振り込んで敗退も防御をしつつの敗退も変わりないのだ。なら、諦めずに最後まで打つ。

 

 十巡目。

 

 霞は聴牌する。千点の安い手だ。それでも決勝への道を作る大きな聴牌だ。これから捨てる牌は七巡目八巡目と、穏乃が二連続で捨てた牌だ。

 

(捨てる牌は阿知賀の子が裏目ったのか、不要だから捨てたのか分からない、二連続の捨て牌と同じもの。ま、大丈夫よね)

 

 端の北をとり、場へと捨てる。

 

 悪魔が笑う。

 

「ロン。ホンイツ、西……8000!」

 

(地獄単騎やと!? いや、それだけやあらへん!)

 

(二連続見逃し!! 白糸台の大将、私を狙い打ちしたっていうの!?)

 

 淡は七巡目からずっとツモ切りしていた。これは明らかに山越、そして狙い打ちだ。本来一位の白糸台がこのような真似をする理由はなく、面倒なら適当に和了をして流せばいいだけだ。こんなことをしたのは淡に阿知賀を残す意思があるからに他ならない。

 

 白糸台255300

 阿知賀49200

 永水49000

 姫松46500

 

 オーラス。

 

(でも、200点差。和了すれば勝ち!)

 

 満貫の直撃何のその。霞は姿勢を崩すことはなく、自分が見つけた最善の打ち方を行う。

 

(ふふふ。阿知賀の大将さん、わけわかんなそう。まっ、実際意味不だよね。分かんないならそのままでいいよ)

 

 この大将戦は淡が穏乃の力に気づいた時点で終わっていたのだ。ただそのことに誰も気づいてはいなかったし、そこまで思考を巡らせるほどの余裕もなかった。

 

 淡が本来の力を発揮していたのならカンを仕掛ける場所のその一歩手前で彼女はリーチをかけた。

 

 悪魔は二度笑う。

 

「ツモ!! リーチ一発ツモホンイツドラ2……4000・8000」

 

 白糸台271300

 阿知賀45200

 姫松42500

 永水41000

 

『大将戦終了!! 一位抜けは他校に圧倒的点差をつけた王者白糸台! 二位との点差は二十万点オーバー! これぞ王者! 心配するような場面はないまま試合を終えました!』

 

『ラスト二局の大星選手の和了で結果的に阿知賀は二位進出となりましたね』

 

 これでは決勝の舞台では戦えないでしょうねと言いそうになり、健夜は手で口を塞いだ。

 

 淡はご機嫌な様子で控え室へと向かう。関係者以外は誰もいない廊下。寂しいものがあるのだが、今の彼女にとってこの廊下は余韻を楽しむ最高の場所となっていた。

 

「あっ、サキ」

 

 待っていてくれてたらしい咲を見つけた淡はご主人を見つけた子犬みたいに嬉しそうに駆け寄った。

 

「お疲れさま。試合どうだった?」

 

「余裕余裕。狙い通り阿知賀を残せたし」

 

「やっぱり」

 

「これでコロモに勝てるかもね。あはっ」

 

「てことはあれあの子の力なんだ」

 

「そっ。面白いよー。多分山の深い所支配してんだろうけど、サキみたいに強くないから余裕だった」

 

「そっか。淡ちゃんがそう言うなら決勝も大丈夫だね」

 

「うん。サキは阿知賀を警戒してたけどさ、目覚めても余裕でしょ?」

 

「余裕かどうかは置いておいて」

 

 一度目を閉じ、開いた咲はいつもよりも低い声で言った。

 

「私だけで終わるぐらいに全力でやるよ」




白糸台。休日編。

淡「次はカラオケじゃー」

菫「少しは落ち着け」

何やかんやでカラオケ店。

咲「じゃあ最初は私から歌いますね」

淡「」

亦野「最初やってもらうと助かるよ。ちょっと遠慮したいし」

 このあと亦野は後悔した。

菫(ちょっと待て。反則過ぎるほどに上手なんだが)

尭深(歌えない)

亦野(最初じゃなくても歌えなくなった!)

淡(さあ、どうしよう。私だって歌うのは得意。いやでもサキは運動壊滅の迷子癖あるからか、麻雀はもちろんのこと歌まで凄いんだよね。その他がちょっとあれだけど)

淡菫亦野尭深(どうしよう。歌うのが辛い)

どうする、白糸台メンバー。


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