「宮永先輩、起きてください」
「ん、うう」
目を開ければ、長いピンク色の髪の毛を持つ原村和が最初に映った。今日は清澄高校麻雀部の合宿最終日。そんな日に昔の夢を見るとは思わなかった。てっきり決勝戦前日辺りだとばかり思っていただけに驚きは大きい。表情に出ることはないが。
「早速打ちますよ」
「ご飯は?」
「おにぎりでお願いします」
最終日なので、あれだ。打ちながら食べて、時間を無駄遣いしないようにするつもりだ。
(しょうがない。全国優勝には今のままじゃだめだし。久は本気だし)
この合宿で部員の実力は一気に上がったのも事実だ。原村和はエトペンを抱いて打てば、自分にかかるあらゆる能力、本人がオカルトとするものは完全に無効とする。本人が一番オカルトということに気づいていないのは見ていて笑いがあるものだ。
片岡優希は鳴かれると調子が狂ってしまう弱点を克服した。これだけでも随分と安定するようになり、南場対策に防御を鍛えたらより強くなった。
全国大会に出場する高校一年生の中で見れば、いいところに入れるだけの強さを手に入れたこの二人でも、強豪校の二年生、三年生相手となると厳しい面がある。経験。それが大きい。
経験がどれほど大事なのかを理解しているのは照本人だ。妹の咲と違い、急成長タイプでなかった照はとにかく経験を積んで、強くなるしかなかった。今でこそインターハイチャンピオンとなったが、咲が同じだけの経験を積んでいるのは知っており、勝てると豪語できない。
(今は咲よりみんなか)
悩んでも仕方ないと、照は部屋にある雀卓へ向かう。
そこでは優希、和、部長の竹井久、二年の染谷まこが座っていた。基本的に、というか照が交じると高確率で誰かが飛ぶので観察する。
優希の鳴きに弱いというのは照魔鏡を使って見抜き、いじめになりかねない、トラウマになりかねないレベルで徹底的にしごいた。やられた本人はパワーアップしたことでそれまでのことはけろっと忘れ、今では意気揚々と打っている。
和の説得は簡単だった。そんなオカルトありえません少女には「優希は鳴きが入るとリズムが崩れ、悪手をしやすくなり、東場での強さが失われる」と説明したら納得してくれた。彼女も思い当たる節があったのだろう。
「トップをとるじぇー!」
「待って。打つ前にこれ見て」
照は持ってきていたDVDを部屋にあるDVDプレイヤーに入れて、テレビをつける。
「これって……」
「照の妹さんね。春の大会のかしら」
「うん」
「しかし、春の大会に出るとは早すぎやせんか? 結果も一年じゃだせんじゃろ」
「多分妹さんは高校入学前から打ってたのよ。かなり期待されてたから特別待遇だったでしょうね」
「多分そう。白糸台は元々咲に興味があったみたいだし」
『ツモ。1000・2000』
「しょぼいじぇ!」
「ばか。よく見なさい。ハネと倍満テンパイした二人の手を流してるでしょ。あの巡目でテンパイ気配、打点を正確に把握した上での安手よ。価値としては倍満ね」
『ツモ。8000』
「責任払いとは珍しいですね」
「必然。咲にはロンと変わらない。咲は嶺上開花が得意。だから変則的和了ができる。しかもアガリ牌じゃないから読めない」
「反則だじぇ」
『ロン。1000』
「また跳満流したわね。まだ三巡目ってのに」
「普通読めませんよ」
「こりゃやばいかの」
『リーチ』
「高め二枚しかない四面待ちリーチ!? しかも高めはどちらも三枚ずつ持ってるんだじぇ!」
「もしかして妹さんは」
「うん。咲は高めがツモできるのを確信してる」
『ツモ。6000オールです』
「高めはどちらもカン材だからわかるみたい」
『ツモ。2100オール』
「ヤバイわね。三年生三人相手にして余裕じゃない。チラッ」
「殴りたくなりました」
これ見よがしの視線に和と優希は苛立ちを隠し切れなかった。そんな光景を知ることもないテレビの向こう側では宮永咲の独壇場が繰り広げられていた。
疲れました。書いてて楽しいですが、原作ではまだ明かされてない能力などがあったりとなので臨海とかは出さないと思います。こんな下手の文ですみませんが、少しでも楽しめるように書きます