咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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ある日の白糸台。

淡「はあー、クッキーいいね、膝枕いいね」

菫「お前はほんとにだらけてるな」

淡「サキには何も言わないの?」

菫「咲は読書中で、お前みたいにだらけてないだろ」

淡「サキの膝枕がいいのが悪い」

菫「……お前は」

咲「淡ちゃん、この前の数学の小テストどうだったの?」

淡「部長! 練習しましょう!」

菫「……」



第13話

 後半戦開始。

 

 龍門渕145900

 清澄120700

 鶴賀70100

 風越63300

 

 東家衣、南家池田、西家和、北家加治木。

 

 最初の親は衣だ。

 

「わあーい、衣の親番だ」

 

(よりによって天江からか)

 

 前半戦だけで大量に稼いだ衣からはじまるというのは心理的に嫌なものがある。別に前半戦の流れがそのまま来るというわけでないのは分かっている。麻雀というゲームは運の要素が強いゲームであるのはご存知のことだろう。最初の半荘は絶好調で高い手をばんばん和了できたのに次の半荘は和了すらできなかったという展開があるのが麻雀である。

 

 そうそれが通常の麻雀だ。しかし、天江衣の麻雀は異質そのものだ。だからこそ心理的に嫌だった。天江衣なら前半と同じ流れをそのまま持ってこれる、そんな考えが加治木の頭にはあった。

 

 そして、それは現実のものとなる。

 

「ツモ! 6000オール!」

 

「ぐうっ」

 

 池田が悔しそうに呻いた。

 

 これで衣との差は100000点を越えた。親の役満を直撃しても引っくり返せない。ますます逆転から遠退いた。

 

 加治木の方もぎりぎり100000点以内というだけで、こちらも親の役満直撃でも引っくり返せない。

 

 この時点で風越と鶴賀の優勝はほぼ消えたと言えよう。一回の半荘で役満が二回、それも一人で出せる確率はかなり低い。ダブル役満ありのルールだったら四暗刻単騎などをやれたかもしれないが、今大会では採用されていない。

 

 加治木と池田が優勝するための最低条件としては衣から何度も直撃をとらなくてはいけない。原点復帰を果たした上で清澄と龍門渕を落とす。これらをこの半荘でしないといけない。当然の話だが、そんなことができるのなら最初から苦労していない。

 

 それに衣は前半戦では一度も振り込まなかった。それは衣は防御でも優れていることの証明であり、今上げた話の現実味のなさの証明にも繋がった。

 

「ツモ。600・1100です」

 

(清澄、まだ抗うか。確かにお前は支配を拒絶してみせているが、その程度の話。無論こちらは海底を使わず、オーラスまで持っていく)

 

 和が支配を無効化するなら対処は簡単だ。一向聴地獄と海底を使わない。それだけかと思われるが、海底まで持っていかないということは衣の速度は遅いものではなくなる。それだけで十分対策となるし、和の親を早々に流すことも可能となる。

 

(問題ない。しかし、油断は禁物だ。点差にあぐらをかいては何をされるか分からん)

 

 最後まで注意力を散らさない。

 

 

 

 

 

 そして、オーラス。

 

 龍門渕192800

 清澄131200

 鶴賀49400

 風越26600

 

(思ったよりも食いつかれたか)

 

 既に衣だけで前半含めて100000点以上稼いでいる。

 

 本気の彼女はやはりそれだけのことができる力があり、去年最多獲得点数を記録したのはまぐれではないことを知らしめた。二位との点差は61600点。ここまで来れば安心していいものだ。

 

(清澄が勝つには役満の直撃しかない。だが、それを見過ごす間抜けは初心者ぐらいなもの。咲のように大明槓からの責任払いができるのならまだしも、こいつは凡人。普通の役満をロンするしかない)

 

 四巡目で衣は一度和の捨て牌を確認する。九萬を二枚と東を捨ててある。衣が一索を捨てると、

 

「ポン」

 

 和が鳴いた。ここで鳴いてくると思っていなかった衣は僅かばかり驚きを見せた。二巡後、池田が捨てた九索を和はポンした。二副露だ。そして、和は一萬を捨てた。

 

(清澄のまだ抗うか)

 

 一索はドラだ。そして、場にはまだ三元牌が出ていない。これほど分かりやすいと笑えてくるものだ。

 

 ホンロウトイトイ、ホンイツ、小三元、ドラ3で数え役満だ。あまりにも見え見えの手に衣は哀れみを禁じ得なかった。

 

 この土壇場で数え役満に到達したのは見事と褒めてもいい。とはいえ、それだけの話だ。そんな手に振るほど場を見ていないわけでない。点差にあぐらをかいていることもない。はっきり言ってやはり和は大したものではないと思った。

 

 待ちも三元牌と分かりやすすぎる。結局原村和という人間は土壇場で何とか完成させるのが精一杯の、そこ止まりの人間なのだ。その先に行くだけの力はなく、なのに優勝するためにと頑張って、無駄な手を作った。おそらくそれすら気づいていない。

 

(中か。ふん、握り潰してくれる)

 

 七対子をテンパイしていた、というかいつの間にかそうなっていただけでしかない。中を取り込み、一筒を衣は捨てようとした。牌を掴み、持ち上げ、そこで思い至る。

 

(いくら何でも安易すぎないか?)

 

 逆転に役満が必要なのは分かる。しかし、だからといって見え見えの役満なんか作るだろうか。これがツモでも逆転可能であったのなら話は別だが、今回は直撃が絶対条件なのだ。決勝まで来た高校の大将、それもチャンピオンのいる高校の大将が、直撃できない見え見えの数え役満を作るとは思えない。

 

(なら数え役満は外見だけ。狙いは別の役満。清澄の捨て牌から察するに清老頭。だが、衣にそれらを警戒させての数えかもしれん。なら、一九牌以外を切れば問題ない) 

 

 一筒を戻して隣の二筒を捨てる。

 

(これで衣に負けはない。それに中か一筒を引けば聴牌し直す。まあ、次に持ち越すのもありか。それか清澄がフリテンになるかもしれん)

 

 とはいえ和には衣の力が及ばないので、フリテンになったかは判断できない。それでも同巡内フリテンもあり得るので加治木が今切れずにいる中か一筒を捨てたら合わせることも可能だ。

 

 一年前では考えられない自分に気づいた衣は気づかれぬよう、嬉しそうにした。

 

(そうだったな。一年前の衣は考えずに打っていた。あの時のままだったら振り込んでいた)

 

 おそらく目で見た情報を鵜呑みにした。こうして可能性を考慮したり、相手の能力と力量を調べるようになった。そう、これは成長の証だ。去年はなかった力を身に付けているという実感をひしひしと感じる。

 

(感謝する。こうして分かるのは清澄、お前のおかげだ。成長の実感、それがこれほど嬉しいものとはな。もっと感じたい)

 

 このように自分のことに夢中になっていても衣は場から意識を完全に離していない。

 

(鶴賀が一筒捨て。よし)

 

 これで同巡内フリテンの条件が成立した。和は表情を変えていない。少しぐらい動揺してほしいものだと、内心で文句を言う。そうしたら手の内容が予測できるというのに。

 

(むっ。ここで二筒を引き戻す、か)

 

 衣は躊躇わずに引き入れ、一筒を捨てる。完璧なタイミングで処理をした。場に中が出た時点で衣は七対子を和了でき、更に和の役満を潰しての優勝となる。

 

 そうなるとマスコミ辺りに騒がれそうだ。天江衣は去年よりも成長している、と。もし取材でもされたら友達にしてライバルは咲と淡と答えよう。取材などは嫌いな衣だが、今回優勝すれば気分は最高潮になると自身でも予想しており、普段は受け付けない取材もちょっとは受けてやろうという気持ちになっている。

 

(ここで中ですか。押すしかありませんよね)

 

 和が中を捨てた。

 

「ぽ」

 

「ロン。1600」

 

 終わりを迎えた。

 

 和は牌を捨てた姿勢のまま固まる。己の敗北を理解できずにいた。それとも認めたくなかっただけか。この団体戦はみんなの想いがかかった大切なものだ。それを自分の手で台無しにした。それが重い事実となってのしかかる。

 

 対する衣は押さえきれない喜びを無理矢理に押さえ込んだ、凛々しい顔つきで席を立ち、何も言わぬまま対局室から出た。

 

 龍門渕194400

 清澄129600

 鶴賀49400

 風越26600

 

『試合終了! 一位抜けは圧倒的火力を見せた天江衣を擁する龍門渕高校です! 天江選手はこの大将戦だけで100000点以上稼ぎました。まさにエース、それも圧倒的エース!!』

 

『流石としか言えないな。龍門渕に今のメンバーがいる限り長野代表はここで決まりだな』

 

『そうですね。来年は清澄はチャンピオン、風越は福路選手がいませんからね。藤田プロは今の試合を見てどう思いますか?』

 

『衣以外は悪くなかった。原村に関して言えば、型にはまりすぎている気がするな。何だろうな、ネット麻雀をやってる感じだな』

 

『それは悪い点ですか?』

 

『ああ。打ち方はプロ顔負けだ。だが、これはリアルだ。リアルにはネットにないものがある。福路やチャンピオンなんかはそれを生かすから強いと言える。原村にはこの二人のようにリアルだから得られる情報を生かせるようになってほしいな。他の二人はとにかく経験だな。プロとの対局やそれこそ原村とは逆にネットで様々な人と打てば、伸びたりするはずだ』

 

『残る天江選手はどうでしょうか?』

 

『衣はこの一年で大きく成長している。以前のあいつは才能に溺れていたが、しかし今年は違った。選手を観察し、力量などを把握し、その上で自分の実力を限界以上まで引き出した。もし去年のままだったら清澄の清老頭に振り込んでいただろうな』

 

『なら天江選手は去年以上の活躍を見せることになりそうですね。成長のきっかけは何でしょうね』

 

『あー、宮永咲との出逢いで変わったとか言っていたな。負けたんじゃないのか? でそっからいいライバルになったとか』

 

 衣が胸を張って自慢したいことを藤田が言ってしまうという大事故が発生していたことを衣は知らなかった。後に記者の質問で宮永咲がライバルというのは本当かと出た時、衣は半泣きになった。そりゃあ本人が最大級の台詞を考え、全国に向けてはじめて知らされるはずの事実が、どういうわけか洩れていたのだ。

 

 逆に質問をした衣に記者が答えると、藤田の大馬鹿と罵りながらも友達と答える衣の姿があった。

 

 

 

 

 

 対局室には和だけが残っていた。彼女は役満清老頭を聴牌し、序盤で一九牌を捨てて迷彩を施した。それを以て天江衣から直取りする腹積もりでいたのだが、天が彼女を味方してはくれず、衣に勝利を掴ませた。

 

 終わってからぐだぐだと考えてしまう。いったい何処で失敗したのだろうと。何をすれば衣に勝てたのか。どうして負けたのか。何も分からない。多くの疑問が胸に湧いては、水泡のように消える。

 

 いや、原村和は疑問を持つ必要がないぐらいに分かっていた。ただその答えを認めてしまうと、合宿で強くなったことやみんなと全国に行くと交わした約束が全部無駄になる気がした。

 

「和。いつまでそこにいるつもり?」

 

「宮永先輩、それにみんなも……」

 

「打ち上げに行くよ」

 

「でも、私は……」

 

「いいから。団体戦で負けたって、私には個人戦がある。いや、というかそっちが本命」

 

 渋る和の手を握って、照は連れ出す。久たちをはじめとしたみんなは怒ってなどいない。悔しがってはいても、力の限り戦ったことを誇っている様子だ。それを見ていると涙が出てしまう。

 

「のどちゃん、来年はやってやろうじぇ」

 

「はい……!」

 

 優希だって同じ気持ちのはずだ。それなのに和とは違って落ち込んでいないどころか既に未来に意識を向けていた。優希が友達でよかった。彼女の明るく前向きな思考がなければ、しばらくの間食事が喉を通らないぐらいに落ち込んでいたはずだ。

 

 前で待つ三人の先輩たちにできる限りの笑みを見せて歩み寄る。

 

 これにて県予選は終了だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日。十五時三十分。西東京。

 

『試合終了! これで西東京代表は三年連続白糸台高校です!』

 

 衣たちのことをまだ知らない咲たちは県予選突破を果たした。

 

『二軍でも県代表と言われる白糸台高校ですが、このチーム虎姫は別格! しかもチームの先鋒に立つのは白糸台では稀どころか初の一年生!』

 

 興奮冷めやらぬ内にと司会者は口にした。

 

『中学一年生でインターミドルチャンピオンとなり、以後その座を抜きん出た強さで守り抜き、史上初の三連覇を達成! 更に中学二年からは団体戦でチームを優勝に導いてきました。その強さは春の大会でも発揮し、今回の県予選でも見せつけました! そうそのチャンピオン宮永咲を擁する虎姫が史上初の全国三連覇に向けて動き出しました!』




大将戦はこれにて終わりです。衣勝利にしたら1000文字以上増えました。

ここからは全国編となります。神代小蒔の最強モードとは?

昔九蓮宝燈は純正かつ萬子でなければ役満にはならなかったルールがあったようです。そして九面はそのまま純正九蓮宝燈に繋がります。また作者としてはここに九巡までに聴牌するという要素を加えます。

なので作者が出す最強神代小蒔は九巡までに萬子の染め手(それもほぼ清一色)を聴牌し、多面待ちする力の持ち主になります。

玄「ふきゅ」

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