咲と照のセリフと高校が逆だったら   作:緋色の

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小ネタ。白糸台編。

淡「セイコー」

誠子「何だ?」

淡「ネット用語で釣りあるじゃん?」

誠子「あるね」

淡「セイコは釣り好きだから、ネットで釣りしてないの?」

誠子「ああ。500いったら女子高生のパンツをアップしますとスレ立てて釣ったりしてるぞ。父さんのパンツアップしてやったが」

淡「鬼だ」

誠子「釣られる奴が悪い」


第11話

 控え室に戻ってきた照はみんなに謝る。

 

「ごめん。思ったよりも伸ばせなかった」

 

「お疲れさまだじぇ。宮永先輩が活躍できないのははじめて見たじゃ」

 

「じゃのう。まさか龍門渕にあんなのがおるとは」

 

「照と互角に渡り合うなんてね。誰も予想できないわよ」

 

「麻雀は運が強いゲームですから仕方ありませんよ。では、行ってきます」

 

「うん。頑張って」

 

 片腕を上げて、和は対局室へと向かう。

 

 現在清澄高校はトップだ。大きな手に振り込んだりせず、完璧に打てば問題なく優勝できる。二位の龍門渕との点差は40000点ほどだ。十分すぎるほどの点差だ。この結果で文句などあるはずもない。

 

 大きく凹み、最下位にいた清澄を照は見事にトップにし、更には二位と引き離した。照以外ではそうすることはできなかった。仲間でいる照は誰よりも頼りになる。そう考えると副将に照というのは見事な配役だ。

 

(緊張しますね。大将というのは中々重いです。チームの最後の砦……)

 

 チームの勝利を決める最後の一人というポジションだけあって重いものがある。それは先鋒と変わらないぐらいに重要な役割だ。大将に弱い人を置くと、他校に狙われ、たちまち逆転されてしまう。

 

 大将にはある程度の強さが求められる。チームで稼いだ点数を防御タイプで守るか、攻撃タイプで更に稼ぐか、宮永咲のように相手の高い手を安手で流すという芸を使うか。

 

 龍門渕高校は天江衣という高火力選手を置いている。更に満月の夜には全力となり、強力な支配で相手を一向聴地獄に落とし、海底で和了する。更に一度海を引くことで性質を変化し、まるで津波のように他を圧倒する。ただし性質が変化すると、一向聴地獄の縛りは解けてしまう。そのためテンパイして和了することも可能だが、肝心の衣は完全な高火力に切り替わるので攻めにいくと返り討ちに遭いかねない。

 

 登場はまだ先だが、永水女子高校では先鋒と副将に高火力選手を置き、大将が点数を守る防御タイプを採用している。

 

 清澄の大将原村和はオカルトキャンセルという特殊能力を持っており、ネット麻雀では最強と言われるほどの腕の持ち主だ。

 

(いつも通りに打つだけです)

 

 対局室には風越の大将池田と鶴賀の大将加治木ゆみが待っていた。和は席に座り、残された牌をとる。西だった。残された牌は南だった。

 

「くくく。早い到着だな」

 

「来たな。天江衣。今年はお前をぶちのめしてやるし」

 

「? お前は誰だ?」

 

「んなっ!? 私のこと忘れたってのか!? 去年お前と互角に戦った華菜ちゃんを!」

 

 盛りまくった話だ。互角どころか一方的にやられていた。もう可哀想だからやめようよ、と言いたくなるぐらいのものだった。そんなことなので、ついでに昨年は咲との出会いもあって、衣は池田をまるっきり覚えちゃいない。

 

「互角の相手を忘れるわけがない。お前嘘つきだ」

 

「嘘は認めるが、戦ったのは本当だ!」

 

「なら、強くなきゃ記憶に残らん。それに去年衣は自分より強い奴に出会ったから、県予選なんか記憶にもない」

 

「はっ!? お前より強い奴!? 誰だし!」

 

「宮永咲だ。衣の漠逆の友だ!」

 

「宮永咲だと? あのインターミドルチャンピオンか?」

 

「そうだ。衣は去年最も力のある時に敗れた。実に愉快な打ち手だ。衣が知る限り一番強い」

 

 咲の話題になると、途端に顔が綻び、外見にぴったりの可愛らしい笑顔を見せた。

 

「衣は咲と約束したんだ。全国の大舞台で遊ぶと。だからこんな県予選で負けるわけにはいかない。さあ、はじめるとしよう」

 

「っ!?」

 

 この場では加治木だけが衣から放たれるプレッシャーを感じとることができた。格下の相手はそれだけで心を激しく揺さぶられ、吐き気を催し、体は恐怖で震える。

 

 思わず立ち上がってしまう。

 

(鶴賀の大将以外は衣の力を感じることのできない、完全なる凡人。鶴賀も大したことはない)

 

 カラカラとサイコロが回る音がした。

 

 東一局。

 

(悪くない手だ)

 

(いけるし)

 

(中々ですね)

 

(夢は叶わないからこそ夢と知れ)

 

 はじめは何事もない。配牌は悪いものではなかった。何も知らないまま三人は手を進める。

 

 中盤。衣の海が二人を襲う。強力な支配で相手を一向聴地獄にはめる。これにより衣は海底での和了を実現できる。通常ならこれだけで相手は勝ち目を失い、敗北するしかない。

 

(清澄の大将……何故衣の力が及ばない)

 

 和に力が通じていない。更には手牌を見れば打点を把握できるはずが、和のものだけ見れない。この感覚を衣は知っていた。

 

(まるでゲームの麻雀みたいだ)

 

 生身の人間を相手するようにはいかなかった。咲に勧められてやったが、こんなのは麻雀ではないと捨て、それっきり触らなかった。

 

(なるほど。清澄の大将は機械と見て打つべきか。どの程度のものか調べておこう)

 

 ここは和の好きにさせる。

 

(鶴賀と風越から点をとればいいだけだ)

 

 本当に和に能力が効かないんだとしても、残りの二人には効果がある。ならばそちらを狙えば、自ずと勝利は近づいてくる。焦ることはない。己を信じ、道を進めばいいのだ。

 

「テンパイ」

 

「ノーテン」

 

「ノーテン」

 

「ノーテン」

 

『天江選手は何故最後ロンしなかったんでしょうか? しかもノーテン宣言しましたし』

 

『あー。気になる奴の手を見たかったんじゃないか?』 

『なるほど。そうなると清澄の手を見たかったことになりますが……』

 

『何故あいつが気になってるかは知らんが、去年とは変わっているように見えるな』

 

『そうですか。次の親はその天江選手ですね』

 

(やはりテンパイしていたか。本当に奇妙きてれつな奴よ。衣の一向聴地獄を鳴かず、かといって己の支配で対抗するでもない。ただ自分にかかる力を無効とする。どうやらそれは場全体には及ばさないようだ。なら仔細なし。さあ、ここからが本番だ)

 

(ぐっ。配牌一向聴から進まない)

 

(何なんだし、これ!)

 

(有象無象はそのままでいるがいい。清澄……衣はお前にさえ気をつけていれば負けはしない)

 

(テンパイはしましたが、リーチするほどでもありませんね)

 

 和の前局のようにテンパイした。しかし、役なしの手で、待ちも多いわけでもないのでリーチはとらず、育てる方向だ。

 

「リーチ!」

 

(なっ!? あと一巡しかないのにリーチだと?)

 

(ずらせないし)

 

(おかしな人ですね。本当に去年大活躍したのでしょうか?)

 

 三人の様子を見て、衣は笑う。一人は目的に気づいているが何もできず、他の二人は何も分かっていない。これから海底和了を決めるというのに、実に滑稽であった。

 

「海の底は見えたか? ツモ! リーチ一発ツモドラ1海底撈月……4000オール」

 

(海底だと? それではまるでツモあがりを確信していたみたいではないか)

 

(止めらんなかったし)

 

「はい」

 

「さて、まずは二位からとるとしようか」

 

 ビシッ! と積み棒を置く。

 

(また一向聴か。よくあることとはいえ、配牌から変わらず一向聴、しかも鳴けない。風越も似たようなものだ。これは明らかにおかしい)

 

(うちが三位なんて……。副将まではトップだったのに。一位にならなきゃいけないのに、手が進まないなんて。天江衣……!)

 

(本当に清澄には効かないようだな)

 

「ツモ。2100・4100」

 

 東三局。親は和。

 

 ここで風越と鶴賀は目の色を変えた。

 

 テンパイできるようになったのだ。先程までどんなに頑張ってもテンパイすることは叶わず、清澄と龍門渕の二人が和了するのを嫌でも見届けるしかなかった。

 

 地獄のような一向聴が終わりを迎えた。あのまま最後までいったら、と恐れを抱いていたところにこれは大きい。気持ちは軽くなり、安心して普通の麻雀を打つことができる。

 

(やるぞー。こっから逆転だし)

 

(清澄の親を流すのが先決だな。その次の親で稼げばいい)

 

 加治木は早あがりを目指す。後半戦に備えて、前半戦の親で原点に戻したいところだ。できることならより多く稼ぎたいものだ。この前半で120000までいけたら優勝も不可能ではない。

 

「ロン。1000」

 

「はい」

 

 目標通り清澄の親を流すことに成功した。

 

(さて、最初の親だ。ここでやらなくては)

 

 幸いにも配牌はいいものだ。タンヤオと三色が見えている。それに無理して高い手にせず、連荘するのもありだ。天江衣の支配がなく、現在親というチャンスを逃さなければ何も問題ない。次があるかどうかのこのチャンスを殺さずに生かす。

 

(タンピン三色は綺麗な手だが、三色は意外と難易度が高い。メンタンピンなら打点と難易度は下がるが、それでもツモなら2600オール、ロンなら5800とそこそこだ)

 

 ドラ次第で跳満にもなる。そう考えると今回の配牌は本当にいいものだ。はやさと打点の両方を兼ね備えた絶好手。ここは素直に手を進めて、和了を決めたい。

 

「休憩は堪能できたか?」

 

「っ!」

 

 海が暴れる。巨大な津波となって、全てを飲み込もうとしていた。

 

「ポン!」

 

(役牌、しかもドラ3!)

 

「ポン!」

 

 あっという間に二副露だ。トイトイ中ドラ3が濃厚だ。先程までの海底和了とは違い、高速だ。あまりの速度の違いに心を乱される。

 

 二副露した衣は既に張っていると見ていい。跳満だ。手の中に役牌が二つあれば倍満。いや、あの天江衣なら最悪の可能性として大三元すらある。大三元ははやさもあって、ほぼないだろうが、小三元程度ならあり得た。

 

 跳満が見えている天江衣に対して、ノーテンの三人が攻めるわけもなく、素直に下りた。三人とも少ない安牌を使って直撃を回避するが。

 

「ツモ! 3000・6000!」

 

 衣の和了が決まった。小三元もなく、最初に予想した跳満であった。そうだろうなと納得はしても、手痛いものだ。ますます二位とは離れてしまった。

 

「まだ終わりではない」

 

 天江衣は自信に満ちた笑みを見せた。それに池田と加治木は背筋に冷たいものが走る。この二人はようやく理解した。衣は自分たちと同じ土俵にいる人間ではないことに。言ってみれば一人だけ銃火器を装備して、何も持たない人間と戦う。圧倒的な力で相手を蹂躙する。

 

 

 

 

 

 

 前半戦が終わりを迎える。

 

 清澄120700

 龍門渕145900

 鶴賀70100

 風越63300

 

『これは凄い! 天江選手が圧倒的! 前半戦だけで見事にトップに立ちました。これが去年最多獲得点数記録保持者の実力!』

 

『流石としか言えないな。清澄はともかく、風越と鶴賀は厳しいな。優勝争いはこの二校と見て間違いないだろうな』

 

『そうですね。二位と三位でも差は50000点。24000の直撃でも引っくり返りませんからね』

 

『後半は清澄が衣とどう戦うのかが見所だな』

 

 前半戦終了の段階で衣は清澄に大きな差をつけた。後半戦も気を抜かずにやる。

 

(それにしても……清澄のやけに手応えがない。衣の支配を受け付けないだけで、特別な力もない。はっきり言って拍子抜けだ)

 

「清澄の、そちらのチャンピオンに伝えておけ。貴様が苦労した相手を咲は見事に倒したとな」

 

 返事を聞かず、衣は対局室から立ち去る。和は他の二人を置いて、後を追うように対局室から出た。

 

 何もできなかった。全国に出た選手の中でも天江衣は頭一つ出る強い人であるのは知っていた。だが、実際に対局してみると、おかしな打ち方はするものの、そこにはレベルの違いを感じさせるほどの強さがあった。

 

 はじめて宮永照と打った日を思い出すほどだ。ああなりたいと憧れる確かで、揺るぎのない強さ。雀士として目指すべきものをあの天江衣は持っていた。

 

(勝ちたい、あの人に……)

 

 こんな風に思ったのはいつぶりか。ネット麻雀を打つことで、麻雀は何千局もやって結果を出すものと考えるようになり、最高の打ち方をし、ネット麻雀最強の称号を得た。

 

 だから、今回負けてもしょうがない。二局しかないのだから運次第になる。されど、気持ちは違う。天江衣に勝ちたい。二局しかないという言い訳で逃げたくなかった。

 

(みんなのためにも勝たなくては)

 

 一人の雀士として、団体戦の大将として、彼女はそう思った。

 

 他の二人が出た対局室には加治木と池田が残っていた。加治木は持ってきていた飲み物を口にして、深い溜め息を吐いた。

 

(あそこまで差があるとはな)

 

 今頃実況は清澄と龍門渕の一騎討ちという体で盛り上がっていることだろう。点差もここからは開くばかりで、縮まることは少ないはずだ。仮に縮めてもすぐに開く。もう勝ち目はない。

 

(私が麻雀をはじめてから一番厳しい状況だな。諦めて放り出してもよいのだろうが、それはしたくないな。最後まで打ち切りたい)

 

 決勝まで来れたことに満足していい。無名という他に強豪校と比較すると見劣りする。妹尾はまだまだ初心者であるし、モモ以外の自分を含めたメンバーは全国レベルで見たら大したものではない。その証拠に加治木は全国屈指の天江衣に何もできずにいた。

 

 凡人ではもうどうにもできないだろうが、己にできること全てを次の一局に注ぎたい。

 

 池田は卓に突っ伏していた。もうどうにもならない。一位との点差は80000点以上。親の役満を直撃させないと引っくり返らない大きな点差だ。

 

 池田はこの日のために一年間打ち込んできた。全ては去年風越を落とした龍門渕、ひいては天江衣に勝利するために。

 

 自他から見て、池田の実力は去年よりも上昇した。去年は苦労した天江衣を相手にしても、以前よりも戦えると思っていた。そして、みんなの目標であるインターハイに出場できると信じていた。

 

 期待は見事に裏切られる形となった。打ってみて分かった。衣は去年全力ではないと。強くなっても、開いていた差は変わらないままだ。美穂子とは違い、特別なものを持っていない自分では衣にかすり傷すら与えられない。

 

(どうして私は弱いんだし。天江みたいな特別な力がないんだ)

 

 もう自分が嫌いで嫌いでしょうがない。名門風越のレギュラーのくせに無力だ。今年レギュラー入りした一年生の文堂とは大違いだ。先輩でありながらテンパイもできなかった。このまま逃げたい。

 

「華菜!」

 

「キャプ、テン?」

 

 顔を上げるよりもはやく、美穂子に後ろから抱き締められた。暖かい。対局中は震えるほどに寒かった。終わった後もそれは継続していて、胸の内は冷たいもので満たされていた。

 

 深堀の時もそうだったが、尊敬できて大好きな人に抱擁されるというのは効果が大きいようだ。

 

(そうだ。私はこの人の笑顔が見たくて頑張ったんだ。負けるんだとしても、納得できる負け方をしたい)

 

 もう一度だけ頑張ろうという気持ちになれた。どんなに酷い負け方をしようと、最後まで立ち向かいたい。

 

「キャプテン、もう大丈夫です。華菜ちゃん、こんなことで挫けないし!」

 

「ええ、頑張って華菜」

 

 二人はとびっきりの笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 控え室に戻ってきた和は伝言を思い出し、照に伝える。

 

「宮永先輩、天江さんから咲さんはあの透華に勝ったと言われました」

 

「! そう。他には何て?」

 

「いえ、それだけです」

 

(咲はあの人に勝てたんだ。鳴けないはずなのに。鏡であの人が鳴きに弱いのは分かったけど、鳴き封じの力で弱点をなくしてた。それなのにどうして)

 

 絶大な支配に抗えなかった。負けたのだ。自分の連続和了を信じ、突っ走った結果があれだ。

 

(鏡に頼りすぎてたかな。情報を素直に受け取るだけじゃ今回みたいに負ける。咲が勝てたということは抜け道があるはず)

 

 できることなら再戦したいものだ。そして、今度こそ勝つ。別に透華に勝てなかったから咲にも負けるということにはならないが、今のままじゃ勝てない気がした。

 

 考える照から視線を外し、和はみんなに謝る。

 

「すみません。失点した上に逆転されてしまいました」

 

「まだまだこれからだじょ」

 

「そうよ。予想以上に戦えてるわ。弱気になるのはまだはやいわよ」

 

「はい」

 

 まだ後半戦がある。そこで天江衣に勝利すれば全国へ行ける。負けたら……そう考えると体は自然と震えるが、この恐怖に負けるわけにはいかないと、彼女は深く呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

「和、頑張って」

 

 その言葉に和は頷いて控え室を出た。

 

 

 

 

 




意外と書いてしまいました。次かその次辺りで大将終わります。

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