「さて、今日も今日とてジュエルシード狩り!」
パンと頬を張って気合を入れる。
「なのは――決意は変わらないんだな?」
「もちろん、あの子を放ってはおけないもの」
決意を込めてうなづく。
「あの子は敵対勢力かもしれないが、平穏を守るだけなら危ないことは全てあいつに任せてしまってもいい」
「そうね。それからどうなるのかは管理局とかいう組織の責任」
「あいつらはこの世界で言う警察を気取ってるが――要は支配者で、そういう風に行動している。我が物顔で世界を股にかけるというのなら、世界の危機の10個や100個くらいは救ってもらわないとな」
「それは、そっちに任せてもいい。けれど、決めたんだ。あの悲しそうな眼をした、そして悪い神様に目を付けられたあの子を救うって」
わたしは悪い神様に魅入られた。けどね、あなたを視界に入れた神様は最悪よ。あえていうなら、前者は気軽に罵れる。でもね、後者は口に出すのすらおぞましい。そういうもの。
「神様――?」
「きっと、そうしないと変われない。どれだけ生きて来ても、誰かを救うことはなかった。だから――」
わたしの業。わたしの呪い。誰にも追い付けないという呪いは確かに存在していて、逃れ出でることはできていないのだと思う。
「……なのは?」
「そう、わたしはなのはとして生きていく。決して、マレウス・マレフィカムじゃない。ルサルカ・シュヴェーゲリンでもアンナでもない。高町なのはとして生きていくためには、こうしないといけない気がするの」
それだけは確信を持てる。理由があるわけじゃないけれど、確実にそうだと信じてる。
「やれやれ」
ユーノ君はため息を一つ。そんなにわたしが意固地に見えるかしら? きっとそれは正しい。
「もともと俺が巻き込んだようなものだ。どこまでだってついて行ってやるよ」
「ありがとう。なら、まずは……!」
「ジュエルシードを見つけないとお話にならな――先を越された!」
早! 展開が速すぎるわよ、この前から。でも、上等じゃない。こちとら腰を上げるのに時間がかかるお年寄りじゃあないのよ。
「間に合うわ。間に合わせて見せる」
「「行こう」」
飛行魔法でユーノ君を肩にのせて飛んでいるわたし。――誰にも見られないわよね?
「言ってなかったが、フェンリルモードはもう使うな」
「なんでよ?」
「わかってないで使ったのか?」
「きちんと把握できてなくて悪かったわね」
「あれは知っておかないとまずい。フェンリルモードは言うなら、制限をとっぱらう力だ。よく人は30%しか力を使えていないというだろう。それに近い」
ああ、昔ナチスの実験兵に居たやつ。薬で100%の潜在能力を引き出したはいんだけど、脳が沸騰しちゃったあれね。確かに脳が沸騰するのは怖い。……それに。
「まあ身体能力と魔力じゃ違うわよね。例えるなら、ひもとホースかしら。ひもならちぎれる前に力を抜けば元に戻る。けれどホースなら、壊れるまでどこまでも水量を増やせる」
「わかってんじゃねえか。なら、限界を超えたホースがどうなるかわかるな?」
「弾け飛ぶ。しかも、ひもならちぎれる前にそれと分かるけど――ホースは裂けるまでわからない」
身体が弾け飛ぶ。大鉄球落としてバラバラにした死体思い出しちゃったじゃないの。
「そして、あくまで魔法と言うのは科学による技術だ。それを無理やり増幅すれば、不具合が起きる。あの状態で、それがたとえ非殺傷でも――攻撃を喰らえば死ぬ。バリアジャケットや防護魔法はそんな状態を想定していない」
魔力回した分、そりゃ他は薄くなるでしょうねぇ。
「ま、ようするに飛び切りリスキーってことでしょ? 触れれば死ぬ――そのくらいのリスクもありよ」
「……なのは」
「――そろそろ着くわ」
「また、あなたですか」
あらあら、ため息? 若いモンがそんな調子でどうすんのよ。ハゲるわよ? 女の子がハゲたら悲惨の一言じゃ済まないのよ。そこんとこわかってる?
「そうよ。頭が悪い子はね、学ばないから頭が悪いのよ」
だから、小粋なジョークを飛ばしてあげる。……惚れた?
「……自分で言いますか」
「――フェイト。あまりしゃべってるのはまずいよ」
となりにいるお姉さんが話している。名前を言っちゃうあたり……頭の出来は残念そう。きっと、精神年齢は誰よりも低いわ。
「ねえ、あなたの目的を話してくれないかしら? フェイトちゃん」
「――アルフ」
少し咎めるような声だけど、あなたも名前言っちゃってるわよ。
「協力できるならそっちの方がいいって、そう思うでしょ。アルフちゃん」
ウィンクをしてあげた。
「――どうせ、あんたなんか甘ったれたガキのくせに……!」
きゃあ、怖い。睨み返されちゃった。
「あら? わたしは意外と経験豊富よ」
「アルフ。ジュエルシードを」
「……フェイト。先にこいつらをやっちまった方がよくないかい?」
「それはだめ。本当なら、誰とも戦いたくないんだ。それに――特に彼女とだけは戦うのをやめておいたほうがいい」
ふるふると首を振って言う。
「怖いの? フェイトちゃんくらいの年齢ならしかたないわね――わたしの胸に飛び込んできてもいいのよ?」
「……っお前」
「――アルフ!」
使い魔を叱責したフェイトちゃんはすでに飛び出している。
「ちょっと、まずいか」
ユーノ君に賛成。
「そうよね。対抗できるのはあくまで向き合って戦った場合。こういった早い者勝ち勝負ってのは――」
「勝てねえな、そりゃ」
だからあれほど挑発したのに。フェイトちゃんは優秀ね。
「とはいっても、負けてあげるつもりはないわ。一発逆転、狙ってみましょうか」
遅れて飛び出す。
まあ、速さで負けてる上にスタートダッシュまで取られちゃ、勝てるわけがない。でもね――
「悪いけど、真似させてもらいましょうか」
ジュエルシードを狙いに収めたときにはもう――フェイトちゃんの雷撃が暴走体を貫いていた。
「レイジングハート!」
「
だからわたしは封印魔法を使う。
封印を行うためには暴走体を大人しくさせなければいけない。ダメージを与えなければ捕まえられないわ……ポ○モンみたいなものね。
けれど、攻撃を食らわせるのは他人でもいい。
「……横槍を」
「させないよ!」
アルフが向かってくる。
「それはこっちのセリフだ」
ユーノ君が結界を張り、弾く。
「けれど、魔法の発動速度は私が上!」
「それでも――追い付ける?」
「「封印!」」
二つの封印が重なり合って――
「マズイ!」
ユーノ君の叫びが聞こえた。
そしてすぐに、世界の悲鳴が聞こえ始める。崩れ落ちる。破壊され、すべてが奈落の底に堕ちる。
「……これは」
「次元振動。二つの封印が交互に作用して、魔法自体を互いに封印しているんだ。封印とはいっても、実際は魔力をニュートラルに戻すだけの魔法だ。その魔力は純粋魔力として散布され、ジュエルシードに吸収される。吸収された魔力は等比級数的に倍加され、臨界を超えた魔力が世界に穴をあける。虚数空間への穴だ。そして――世界は破れる」
「ぶっちゃけると、このままだと世界がやばいってわけね。おっけ、了解」
「ここに近い平行世界にも死ぬほど影響があるがな」
「――っ!」
「フェイト、あんた!」
使い魔の叫び。あの焦りようから察するに飛び込んだっての? あの魔力の激流の中に。
いくら魔法の扱いがあたしより上でも、それほどの魔力を扱うのは人間技じゃない。そして、こんなことに神様が協力するはずがない。
「無謀よ! やめなさい」
「あいつ、死ぬぞ」
「……フェイト――――!」
アルフが叫ぶ。でも……フェイトちゃんはやめない。……聞こえてない?
「そんな。いくらあなたが優秀な魔導士と言っても、あの膨大な魔力を制御するなんてできるわけがない」
「なら、協力してやる。今回のはあいつらに譲ってやるさ」
「ユーノ君?」
フェイトちゃんを見る。ジュエルシードを拝むように両手で握り、傷だらけになっている。――痛々しい。
「いまさら封印を重ねがけしても逆効果だ。放出されている魔力は元々はお前のとあの子の魔力が混ざり合わずに撹拌されてる。……相殺できるか?」
「なるほど。封印を妨げているのは膨大な魔力だから、強引に消し飛ばしてしまえってわけね」
「強引だがな――おい、アルフとか言ったな」
「……なんだい?」
忌々しげにわたしたちを見る。……別にぼうっと突っ立ってただけなんだから、ちょっとくらいいじゃない。
「今からなのはがデイバインバスターを撃つ。邪魔すんなよ」
「――仕方ないね。でも、フェイトにかすりでもしたらぶん殴るよ」
苦々しい顔でうなづく。どうやら、敵意はないってわかってもらえたようね。ま、確かにこの状況じゃ敵意うんぬんなんて言ってられない。
「安心しなさいな。テクニックの不足は人生経験で補うから」
「あんただって子どもだろ」
「さ。気張っていきましょう――レイジングハート」
「
「狙いは――上!」
「
膨大な魔力が行き場をなくして天井へと昇る。その柱を――砕いてやる!
「おおおおおおお!」
桜色の奔流が勢いを増す――けれど。
「……まだ?」
「
砕けない。柱はがりがりと削れて、曲がっている。それでも、柱はまだそこにある。
――だめ? “また”力が足りないの? わたしは閃光に追いつけない。そんなもの……認めない。
「レイジングハート! ……やるわ」
なら、どうすればいいのか。もう一段回上げる。階位を上げるのだ……人を喰らうんじゃない。守るために、今こそあの人と同じように憤怒を力に変え――至高の力を手にいれよう。
「――今度こそ」
速く、何より速く永劫を駆け抜けよう。光でもって破壊しろ。その一撃で燃やし尽くせ。そは誰も知らず、届かず、未知の世界。我が渇望こそ――原初の荘厳。……お願い、力を貸して。
「
――これがわたしの全力全開……だぁ!
「いっけぇぇ!」
砕いた。
「――っ!?」
ジュエルシードからあふれ出る魔力の勢いが減った。そして、フェイトちゃんはわたしを視界に収める。
「ぼけっとすんな。集中しなさい!」
「――あ……はい!」
溢れ出す魔力が減っていく――封印完了。
「――あの」
フェイトちゃんがおずおずと話しかけてくる。でお、かまってあげるだけの余裕がないのよねぇ。
「なぁに? わたし、疲れちゃったから――試合は勘弁してね」
「え? ああ、はい――でも、あの……」
「ジュエルシード? いまさら寄越せとか言わないわよ。くたくただもの」
ぐでー、と体を伸ばす。いや、本気で戦いとかできる状態じゃないのよ。バカみたいな魔力を放出したばかりだし。まあ――
「あの……ありがとうございます」
なんかお礼とか言っちゃってるこの子にしたって、それは同じ。どころか、ゆっくり寝て回復とはちょっと行かないっぽいわね。
「アルフって言ったかしら? その子、ベッドに縛り付けて絶対安静にした方がいいわよ。体が傷だらけだもの」
「……あんたに言われるまでもない。これで恩を売ったなんて思うんじゃないよ!」
「はいはい。また今度ね、フェイトちゃん」
「……」
あら、ここは二度と会いたくありませんとか帰ってくると思ったんだけど。
「……あなたとは、違う形で会いたかったかもしれない」
「――え?」
声が小さすぎて聞き取れなかった。
「二度と私たちに関わらないでください。それじゃ――」
「ちょっと、今なんつったの? それだけでも話していきなさいよ」
とは言うけど、立ち止まるわけないわよね。
「少し、心を開いてきたんじゃないか? あの子」
「そうだといいけれど」
「諦めなければ、思いは通じるさ」
「そうね――」
「通じたところで、どうにもならんことはあるだろうが」
「――え?」
「なんでもない」
最近、耳が遠くなった気がする。いやね、年じゃないわよ。少し疲れてるだけなんだから。
「で、どうする?」
「どうするって?」
「いや……お前、動けるか? 俺は運べないぞ。この通りの体なもんでな」
「……あ。どうしよう?」
「俺に聞かれてもな」
「ちょっと、ここまでくたくただと家にもたどり着けないわよ」
「いや、俺にはどうにも」
「なんとかしてよ」
「すまんな。無理だ」
「あぅぅ。お兄ちゃんに迎えに来てもらうと、諸々がバレそうだし。壊れたのは位相空間だけど、戦いの匂いとか嗅ぎ付けそうなのよ、お兄ちゃん」
「ああ、そうだ。友達に迎えに来てもらえばいいんじゃないのか? そしたら疲れてるのも誤魔化せるだろ。さすがに魔力の状態まではわからんだろうから」
「そうするしかないか。あの二人には何かやってることはバレてるだろうし」