魔法少女リリカルあんな   作:Red_stone

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第4話 黒いの封印! なの

「さて、授業も終わったし探索のお時間ね。黒いのはさっさと封印しなきゃ」

ユーノ君の顔をはたいて気合を入れる。

まっさきに封印しなきゃいけないのは昨日出会ったあれよね。魔力の集合体であることくらいしかわからないかったけど、今思い返せばアレこそジュエルシードの暴走体に相違ない。

少し前までは、あんなのが現れても怖いわねーとかいうだけで傍観する側だったけど、ジャンルの違いごときで恋する乙女を止めることなんてできないのよ。

「おい待てよ。俺はそんなの聞いてないぞ」

「あれ? 話してなかった?」

愛しのロートスとの数奇な出会いでそのへんのことは頭から吹き飛んでちゃってたわ。

「話してもらってない」

「そう、あれは昨日のことだったわ」

「モノローグ風味はいいから、手短に頼む」

……むぅ。連れない人。

「あんたを襲おうとしている魔力の塊みたいなのを蹴り飛ばしたのよ」

「――おい。どうやった? 魔法なしじゃどうしようもないはずだぞ」

いやぁ、どうやったっていわれても、ねえ。大した事やったわけじゃないし。

「うーん。足に魔力集めて身体強化したのよ」

「ちょ。待て――お前どれだけ大きなリンカーコア持ってんだよ。自前の魔力だけで術式もなしに身体強化とか、ニアSランクだぞ」

「それってなによ?」

なんか凄そうだけど。でもハイドリヒ卿ならEXの測定不能レベルになりそう。

「Sクラスなら一人で国を亡ぼせるレベルだ」

へー。それってすごいの? ハイドリヒ卿は一睨みで町ごと滅ぼせるレベルなのだけど。しかも、一人で国を亡ぼせるレベルって言っても神様verのわたしでも楽勝できそう。

「もういい。お前とんでもないな。管理局に目をつけられるぞ」

よくわからないそうな顔してたらため息をつかれた。フェレットのくせに生意気ね。

しかもそんな聞くからに面倒な組織に関わりたくなんてないわね。

「ヤよ。わたしの夢はいい男捕まえて喫茶店を経営することだもの」

「そいつはいい。がんばってくれ」

「ええ」

フェレットでもできるように頑張るわ。

「だが、気を付けてくれ。おそらくお前が会った頃より強化されてるはずだろう」

「へぇ。あんなふうに?」

目の前を指す。昨日見たのより一回り大きくなっている。見ればわかるだろうが、アレは大きさが直接強さに直結するタイプに違いない。

「――は? って目の前にいるじゃねえか。展開はええなオイ」

あらあら。慌てちゃって……お姉さんが頼れるところを見せてあげましょう。って、転生後だとどっちが年上なのかしら?

「さて、一丁がんばってみるとしますか!」

「なのは。こいつを」

ユーノ君は下げていた紅い宝石を差し出す。

「これは?」

紅い宝石? 婚約の証かしら。嬉しいわね。

「デバイスだ。俺の言うことを復唱してくれ」

「え? ああ、うん。わかったわ」

そう。ちょっと残念。

 

 

「我 使命を受けし者なり」

「我 使命を受けし者なり」

使命――水銀に定められた運命。宿業を未だに突破できていないのかもしれない。

 

「契約のもと その力を解き放て」

「契約のもと その力を解き放て」

契約か。悪い思い出しかないけど。

 

「星は天に そして」

「星は天に そして」

けれど、天に至れるのなら何度繰り返してもあの水銀とでも契約してしまうのだろう。

 

「「不屈の心は この胸に この手に魔法を」」

わたしは諦めない。地星が輝けないと誰が決めたの?

 

「レイジングハート」

今度こそ足を引っ張るわたしじゃない。

 

「セットアップ」

輝いて見せよう、自分自身で。

 

――変身完了。

さて、ノってきたわ。魔法少女らしくぶっ飛ばしてやろうじゃない。

「よろしくね。レイジングハート」

You too(こちらこそ)

ふむ。日本語じゃないのか。どうせなら独語がよかったかしら……? まあ、相棒なんだから大切にするとしましょうか。

ちょうど魔法の杖とマスコットがいる。わたし、今――この上なく魔法少女らしいわ。

わたしが魔法少女にふさわしくないなんて思うやつは水の底に沈めてやる。

「ユーノ君。魔法を使うにはどうすればいいの」

「念じれば後はデバイスがやってくれるから、思い切りやってくれ。あと、変な追加効果はできないぞ」

なるほど。まあ、そこらへんは思うだけで伝えるには無理があるわね。

攻撃のタイミングと規模、それをなんというか――フィーリング? で伝えれば後はこの子が勝手に魔法を編んでくれる、と。

……了解!

「あちらさんはわたしに気付いたみたいね」

ずりずりと引きずるように移動する。顔なんてどこかわからないけど、とにかくこっちに向かってるから顔をこっちに向けているということでいいでしょう。

「あいつは魔力に惹かれる性質があるようだ」

止まってぶるぶると震えだす。きっと跳躍のために力をためているのね。

「なら、狙うはカウンター。レイジングハート!」

撃てば響く。初めてなのに凄い同調率ね――前使ってた魔本って実は相性悪かったのかしら。そんな風に思えてくるくらい。

Yes, My master(了解しました) ……Protection(プロテクション)

深い藍色の楯で攻撃を受け止める。

これがわたしの魔力の色ね。どうせなら黒か、もっと女の子らしい色が良かったわ。

「……ぬぅ! あまり重くないわね。あなたの性能のおかげ?」

うん。軽い軽い。蛍の素手の一撃よりずっと軽い。あ、シュピーネの攻撃よりは重いかも?

Thanks, My master(お褒めに預かり光栄です)

「受け止めたところで――反撃よ!」

魔力を杖に流す。そして、流した魔力は前方に収束。玉の形に収束する。

Divine shooter(ディバインシューター)

藍色の玉が魔力体を吹き飛ばした。

……今度は逃がさない!

「封印よ」

Please sing a spell(詠唱をお願いします)

この子から言葉が流れ込んでくる。

「リリカルマジカル! 封印すべきは忌まわしき器ジュエルシード! ジュエルシード封印!」

藍色の拘束が暴走体に何重にも巻かれる。ぎりぎりと締め付け、耐えきれなくなった黒は四散する。

青い宝石が魔力体の居た場所に浮かんでいる。

とりあえずはこれで一件落着かしら?

 

 

 

「あれ?」

電話だ――誰かしら。

「アリサちゃんか。――あ」

昨日の約束を思い出して顔が蒼くな――ってないわよ。うん。

「おい、どうしたなのは? 顔色が最悪だぞ。もしかして今の暴走体に何か」

「べ、べべべ別に調子なんて、わわ悪くないわよ」

大丈夫。誰が何と言おうと大丈夫。だって。

「このわたしが犬ごときにビビるなんありえないわ!」

断言する。そう、このわたしが犬なんかに負けることはない。前世で負けたかもしれないけど、それはノーカンで。

トラウマになんかなってないし。

「………………は?」

ぽかーん、としてる。信じてない、ってことかしら。これは力説する必要があるわね。わたしにそんなわかりやすい欠点はないの。

「ええ。犬に吠えられたからって泣きやしないわよ。ただちょっと嫌いなだけで。ええ、恩知らずの駄犬を思い出すだけで」

今思い出してもむかつくわ。ムカつくだけ。怖くない。

「その犬はどうなったんだ?」

「この世界にはいないと思うわ。いたとしても、そこらへんの下種野郎の飼い犬やってるでしょ」

最初の飼い主は愛が大きすぎてどうにかなっちゃった人だけど、二人目はありえないわ。眼が穢れる。鼻が腐る。あんなのをご主人様と仰ぐとか、ホントに頭あったのかしら。

「なぜ飼い主を貶めるようなことを……」

当然、二人目がそういう人間(細胞)だったから。

「いや。別にそれがトラウマになんかなってないわよ」

「お前、さっきから凄い勢いで墓穴を掘ってるのに気づいてないのか?」

なんとなく納得した、と言う顔でうなづいているユーノ君。絶対に誤解してるわよね?

「そんなの掘った覚えはないわ」

ユーノ君はあきれた顔をして言う。

「いや。それはいいから。電話はいいのか?」

――マズ! ユーノ君と話してて忘れてた。

「えーと。アリサちゃん?」

あらら。怒ってるかしら。けっこう待たせちゃったみたいだし。

「ああ、なのは? ずいぶんと電話に出るのが遅かったわね。覚悟を決めるのにそんなに時間が必要だったかしら」

「なな、何のことかな? わたしは別に犬屋敷なんか怖くないわよ」

電話の相手に見えるわけもないのにそっぽを向く。……別に意味なんかないわよ?

(……おーい)

(うっさい、あなたは黙ってて)

念話で話しかけてきたユーノ君を黙らせる。

「そうね。あなたにも覚悟する時間が要るでしょうし、週末にはサッカーを見に行く約束があるしね。じゃ、来週の週末でいいかしら?」

「その日で大丈夫よ」

覚悟する必要なんてないからいつでも大丈夫だけど、アリサちゃんには少し時間が必要かもしれないからね。アリサちゃんの家に行くのは初めてなわけだし。

「じゃ、準備しておくわ。……白い犬だけでもケージに移動させておこうか?」

「いらないお節介ね」

「そ。じゃ、覚悟しときなさい」

「覚悟するまでもないわ」

「声が震えてるわよ。で、今は愛しのユーノ君といっしょにいるの?」

「そうだけど、何か用があった?」

「私たちにも会わせなさいよ。あんた、授業が終わったら真っ先に飛び出して行っちゃって。翠屋に行ってもあんたは出て行った後だし……フェレットはあまり散歩させるようなものでもないと思うけど」

……むむ。ユーノ君はわたしのものだけど、合わせてあげるくらいならやぶさかじゃないわ。二人ともわたしの大事な親友なわけだし。

「うるさいわねぇ。わたしの自由でしょ? それに抱きかかえてるから踏まれやしないわよ」

「ま、それはいいんだけどね。どこかで合流しない? 隣にはすずかもいるのよ」

「うーん……」

……ジュエルシードの問題があるからなぁ。

(ユーノ君。いい?)

(いいぞ。別にジュエルシードはそうそう発動するもんでもないしな。今日は一個集めたから終わりだ)

あら、意外。もっと容赦のない性格だと思ってた。

「なら。わたしの方から向かうわ。すずかちゃんと翠屋で待ってて」

「うーん。それはちょっと」

「ええっと……どうしたの? ママ、何か悪いことした?」

あのお人好しなママが他人を困らせることはしないと思うけど。

「いや、悪いことっていうか……良いことなんだけど、注文したお菓子の代金支払おうとしても受け取ってくれないのよ。なのはのお友達からお金は受け取れませんって」

……この詐欺小学生め。いいって言ってるんだからそこは素直に喜びなさいよ。

「わたしの友達が来てくれてママもうれしいのよ。受け取ってあげてくれない?」

「うーん。ちょっと心苦しいんだけど」

それが小学生の言葉か。

「じゃ、機会があったらママとお話ししてあげて。若い子とじっくり話をする機会はそんなにないだろうから。今の時間はちょっと忙しいと思うけど」

人気だものね。我が家は。

「わかったわ。じゃ、シュークリーム食べてるから早く来なさいね」

「ええ。じゃ、翠屋で」

電話を切った。

「じゃ、ユーノ君。翠屋に帰りましょうか」

「おお。歩きながらでいいから、少しこの先のことを話すか」

 

 

 

「……先」

結婚の話?

「魔導師としての方向性だよ。お前はどうやら砲戦タイプのようだ。空戦適性のほうはおいおい見ていこう」

砲戦……ねえ。ザミエル卿のことを思い出すわね。でも、彼女のははっきり言ってレベルが違いすぎるから参考にはならなさそう。

空戦も、やってたのは駄犬ね。とんでもない脚力――つか、重要なのは早さかしらね。空中を蹴って縦横無尽に空を駆け回る……魔法少女のやることじゃないわ。

とはいっても、地上から大砲撃つだけじゃ物足りないし。

「もっとこう――魔法少女らしくできないの?」

「いや……魔法少女らしくってなんだよ。なんか希望があるなら聞くだけ聞くぞ」

「え? ほら――こう――肉弾戦?」

プ○キュアみたく。

「おい。ものすっごく離れたと思うのは俺の気のせいか?」

そこは反論できないわね。というか、言っててわたしもないと思ったわ。

「うう……大人しくアウトレンジからねちねち攻めるしかないのかしら」

なんか前世でも似たような戦い方してた気が……

「お前にはそれが似合ってるんじゃないか」

「それもちょっとイヤかなぁ」

「ワガママ言うな。フィーリングで言われてもわかるか」

……くぅ。文句言うなら代案出せってことね。わかったわよ。

「じゃ、考えとく事にするわ」

「俺としては空戦適性のことを考えてもらいたいんだが」

……ないと思うけど。地星的に。


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