黒ウサギと雷神   作:亜独流斧

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更新遅くなりました。楽しみにして下さっていた方、申し訳ありません。
そして、遅くなって、しかも少し長い割にほぼ進みません。少しオリジナル展開入っています。
ちなみに以前、感想で質問を頂いたので、アドルフのビジュアル設定を記しておきます。勿論お好きなようにイメージしていただいても構いませんが、少なくともこういったイメージで執筆している、という参考程度に。
<外見>
髪が短い高校生のアドルフ。(アドルフの回想に登場した姿)
<服装>
制服・IS学園は規則上、基本的に制服改造自由であるため、ちゃんと下に制服を着用することを条件に、アネックス編と同様に口元まで隠れる上着を着ている。
戦闘時・ISスーツは一夏と同じようなものなので、口元は隠れていない。




織斑一夏は驚いていた。

否、彼だけではない。IS学園一年一組に在籍する者たち全員が、目の前の光景を信じられないといった表情をしていた。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

「お、男…?」

 

誰かがそう呟く。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を―――」

 

一夏は、シャルルの自己紹介を最後まで聞き取ることが出来なかった。何故なら

 

「きゃああああああ――――――っ!」

 

女子生徒たちの歓声にかき消されてしまったからだ。一夏は知る由もないが、この場にシャチの音波を聞き分けるほど耳のいいミッシェル・K・デイヴスがいたら、あまりのうるささに気が変になるのではないかというレベルのものだった。…もっとも、ミッシェルの場合は「うるせぇ」と全員を黙らせそうではあるが。

そんな状況にありながら、何故声を発している女子たちは平気な顔をしているのだろうか。それどころか

 

「男子!二人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれてよかった~!」

 

と、平然と会話が成り立っているのか。スズメバチやヒョウモンダコが自分の毒で死なないのと同じようなものなのだろうか。と、一夏は一人そんな事を考えていた。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

心底面倒くさそうな表情で千冬がぼやく。仕事がどうとかというより、本気でこの反応が鬱陶しくてかなわないといった様子だった。

 

「み、みなさんお静かに。まだ自己紹介は終わってませんから~!」

 

このクラスの副担任である山田麻耶がクラスの女子たちに呼びかける。その言葉通り、もう一人(・・)の女子生徒の紹介はIS学園の教員たちから聞いていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

『…………』

 

一夏がそんなことを考えている間に、ラウラの自己紹介は終わってしまった。クラスメイトたちは続く言葉を待っているのだが、名前を口にしたきりラウラはまた黙ってしまった。

 

「あ、あの、以上…ですか?」

 

いたたまれない空気をなんとかしようと、真耶は出来る限りの笑顔で訊くが、

 

「以上だ」

 

ラウラは無慈悲な即答で斬り捨てる。真耶は涙目になっていた。

 

「…!貴様が―――」

 

不意に一夏とラウラの目が合った。瞬間、ラウラの目に敵意が宿る。彼女は一夏を睨み付けたまま、彼の方へ向かって歩き始めた。

それと同じタイミングで入口のドアが開く。だが、ラウラの突然の行動に驚いている一夏を含めた生徒の大半はそれに気付かない。もっとも、()自身が遅れてきたことを自覚して、後方の扉から入って来たのも理由の一つではあったが。

気付いた者は気付いた者で、教室に入って来たのが男性であったことに戸惑い、言葉を発せずにいた。

そのわずかな時間に、ラウラは一夏の目の前にまで到達していた。そして…

 

「……ッと。…取り敢えず止めましたけど、あのままやらせた方がよかったですか?」

 

「「!?」」

 

一夏は突然ラウラにはたかれそうになったことに、そしてアドルフが入って来たことに気付いていなかったラウラは、突然後ろから邪魔が入ったことに驚いていた。

 

「なんか殺気感じましたので。あと、遅れてすみません」

 

掴んでいたラウラの手を放しながら、アドルフは千冬に声をかける。

 

「いや、いい。別にペナルティなどではないからな。それよりも遅かったなアドルフ」

 

「…申し訳ありません。ですが、せめて男子トイレはあと一つ二つでいいので増やしてもらえると助かるのですが…。……ていうか、いまサラッと『ペナルティなら体罰もいい』みたいなこと言いませんでした?」

 

「気のせいだ。気のせいで無かったとしても、ここでは私がルールだ」

 

「……」

 

アドルフはそれ以上何も言わず、空いている席へと向かう。しかしそれを千冬が止めた。

 

「…なんでしょうか」

 

「なんでしょうかじゃない。お前も自己紹介しろ。どいつもこいつも事情が分からず呆けているだろうが」

 

千冬の言葉通り、先に挨拶を交わしていたシャルル・ラウラを除く全員が呆然としていた。

アドルフは少し面倒くさそうに教卓のそばまで戻ると、

 

「…アドルフ・ラインハルトです。よろしく」

 

とだけ言った。

そして直後、アドルフの後頭部に出席簿が炸裂した。

 

「ッ………!」

 

「全く…お前たちは揃いも揃って自己紹介もまともにできんのか。少しはデュノアを見習え」

 

痛みに悶えるアドルフにかけられる無慈悲な言葉。一夏は心の中で彼に手を合わせる。

と、そのとき一夏は誰かの「お、男…?」という呟きを耳にした。この流れは…と慌てて耳をふさごうとする一夏だったが、少し遅かった。

 

『きゃああああああ――――――っ!』

 

そこから先はシャルルのときの二の舞だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生。あの、彼は…アドルフくんは一体何者なんですか?」

 

「山田先生、何者とは?」

 

嵐のようなホームルームのあと、授業のためにグラウンドへ向かう道中、真耶は先程から気になっていた疑問を千冬にぶつけた。

 

「シャルルくんのことも驚きましたが、IS関係者の間にはすでに情報が流れ始めてました。ですが、アドルフくんに関しては情報が全く無いどころか、存在そのものが隠ぺいされていたと言ってもいいレベルです。事実、自分の担当するクラスに転入してくるというのに、私は何も知りませんでした」

 

「それに関してはすまないと思っている。だが、上からの指示でな。転入してくる瞬間まで、私と一部の教員しか知っていてはならないと言われていた」

 

千冬の言葉に真耶は驚きを隠せない。

 

「…さっきもホームルームで、彼のことを学園の外に一切漏らさないという誓約書を生徒たちに書かせたりしていましたけど、一体なんでそこまで…?」

 

「さあな。だが、ヤツにはどうも重大な秘密があるらしい。…山田先生、学則の特記事項第21。その内容、覚えていますか」

 

突然の意図の掴めない質問に真耶は戸惑うものの、そこは教師。的確に答えた。

 

「え…えと、本学園における生徒はその在学中において、ありとあらゆる国家・組織・団体に所属しない。本人の同意が無い場合、それらの外敵介入は原則として許可されないものとする。ですよね」

 

「そうだ。いち高校でありながら、そのような無茶苦茶な権限を発動できるIS学園。…そんなところに、それ程の情報統制を強制できるとは、一体何者だと思う?」

 

「え?それは…」

 

「答えは世界だ。いくら独立国家のような権限を有していても、さすがに全世界を敵にまわすわけにはいかない」

 

千冬の言葉に、真耶は今度こそ本当にわけが分からないといった表情になる。

 

「順を追って話そう。あいつは、ドイツ軍及びU-NASA、つまり国連航空宇宙局の所属だ。だからヤツの情報を隠すために、この学園にドイツ軍の高官や、U-NASA職員がやって来るのは当然の流れと言える」

 

「はあ…」

 

「だが、そこに現ドイツ首相が同伴していたらどう思う?」

 

「え…!?国家の代表が直々に出てくるなんて…」

 

「ああ、よっぽど重要な秘密だろう。…しかしそれだけではない。先程言っただろう、相手は『世界』だと」

 

そこまで聞いて、ようやく真耶は理解できたという顔をする。

 

「もしかして…他の国の代表まで…?」

 

「その通りだ。我らが日本国、他にもアメリカ、ロシア、中国、そしてイタリア…おっと、今はもう『ローマ連邦』だったな。なかなか慣れないな。とにかく、U-NASA加盟国、つまりほぼ全ての先進国の政府高官がやって来た。これらと同じレベルの先進国など、あとはフランスやイギリスくらいなものだろう」

 

あまりの話の大きさに真耶は唖然とする。一方、ここまで冷静に語っていたようにも見える千冬だったが、内心はやはり動揺していた。

 

(言葉にして改めてことの重大さを感じさせられるな…。アドルフ、お前は一体何者なんだ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…大丈夫か?シャルル、アドルフ」

 

「う、うん…なんとか。ありがとう一夏」

 

「…一体何なんだあれは。エネルギー有り余り過ぎだろう…」

 

千冬と真耶が真剣な話をしていたのと同時刻。その重要人物は、二人の新しい友人と共にヘトヘトになっていた。何故かというと、新たな男子生徒の噂を聞きつけた他のクラスの生徒たちが、大挙して押し寄せてきたからである。なんとか突破して更衣室にたどり着いたが、アドルフはもはや疲れ切っていた。

 

「ハハ…ほら、この学園って男子は俺たちしかいないだろ?物珍しいんだよ」

 

「ふうん…そういうものなんだ…」

 

「えっと…デュノアだったな。お前はやけに冷静だな。…オレはこの先のことを考えたら頭が痛くなってきた」

 

本当に気の重そうな表情でアドルフがシャルルに話しかける。その様子にシャルルは思わず苦笑した。

 

「シャルルでいいよ。僕も二人のこと名前で呼んでいいかな?」

 

「ああ!もちろんだ!オレは一夏。織斑一夏だ!よろしくなシャルル」

 

「…オレも構わない。シャルルには三度目になるが、アドルフだ。よろしく」

 

「うん。よろしく一夏、アドルフ。…ところでアドルフ、その口元まで隠れてるコートは?」

 

「あ、それオレも気になってた。カッコいいなー、それ」

 

シャルルと一夏は何気なくアドルフに問いかける。…しかし、その瞬間アドルフの表情が曇った。

 

「ああ…これか…。あまり見ていて気持ちのいいものじゃないだろうと思って着ているだけだ。…まあ、気に入ってないわけでもないけどな」

 

「「え?」」

 

「…見た方が早い。どうせISの訓練ではこれも脱ぐしな」

 

そう言ってアドルフは上着を脱ぎ、一夏たちと同じ制服姿になる。その姿を見た二人は、思わず言葉を詰まらせた。

 

「……これが、オレだ」

 

その口周りには感電による火傷の痕が残り、頬から顎にかけては感電によるダメージを抑えるための安全装置が取り付けられていた。

 

「それって…もしかしてさっき書かされた誓約書や、アドルフの情報が全然出回ってなかったことと…」

 

シャルルが遠慮がちに尋ねる。アドルフはそれに無言で頷いた。

 

「…さすがにお前たちに話すことは出来ないが、オレはとある秘匿技術と関係がある。……これはその実験で付けられたものだ」

 

「そんな…」

 

「ひどい…なんてことを」

 

シャルルはショックを受けたような顔を、一夏は怒りの表情を見せる。だが、当のアドルフ本人は冷静そのものだった。

 

「ひどい…か。…それが普通の反応なんだろうな。だが…オレはもうそう思うことさえ忘れてしまった。『悔しい』って感情も無い。…まあ、まさに実験動物ってとこだな」

 

アドルフは自嘲気味に話す。しかし、その言葉を聞いた二人は怒りを爆発させた。

 

「ふざけんな!そんなのが当たり前でいいわけがねえだろ!しっかりしろよアドルフ!」

 

「一夏の言う通りだよ!…僕たちはアドルフと同じ人生を送って来たわけじゃないから『気持ちは分かる』なんて言えないけど…そんなさみしいこと言わないでよ!」

 

「一夏…シャルル…。お前ら…?」

 

今までの誰とも違う二人の言葉、アドルフを研究材料として見ているわけでも、気味悪がるわけでも無く、真実を知りながらも自分のことを思ってかけられた言葉にアドルフは戸惑う。

 

「オレたちはもう仲間だろ?アドルフ。お前が痛みや悔しさを忘れちまったって言うのなら、オレたちで取り戻させてやる!…幸せな感情じゃないかもしれないけど、やっぱ人間、そういう気持ちもきっと大切だと思うからさ」

 

「一夏…」

 

そのときの感情をどう表現すればいいのかアドルフは知らなかった。単なる喜びや感謝、感動ではない。驚きや戸惑いもある。……だが、悪くない感情であった。それこそ、この数年間で一番と思えるほどに。

 

「…そう簡単にいくとも思えないがな。だが…ありがとう」

 

アドルフの返事は素直なものではなかったが、言いたいことは伝わったらしい。二人はアドルフに微笑んだ。

 

「…おい、ニヤニヤするな。急ぐぞ。授業に遅れる。」

 

「あっ、アドルフもしかして照れてる?」

 

「照れてない。それよりあの出席簿の一撃を食らいたくなかったら、喋るより動作を急げ」

 

「やっぱり照れてる~。ちなみに僕はもう着替え、済んでるよ」

 

「うおっ!シャルル早ッ!オレも急がないと千冬姉に殴られる!」

 

アドルフは二人と会話を交わしながら、この学園も悪くない、そう思った。




シャル…まだ男の子状態なのにヒロインしてる…。メインヒロインにするはずのラウラがまだあの状態なので仕方ないかもしれないけど…。しかもアドルフさんまでちょっとヒロイン感出てる気がするのは自分だけでしょうか…。
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