ゼロの使い魔 その刃は何が為に。   作:刀龍

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相棒を探しに。前編

よぉ。久々だな、サムエルだ。って俺は誰に挨拶してんだ?

 

まぁ…なんでもいいか。いきなりだがここ数日間を振り返ろうと思う。

 

とりあえずギーシュとの戦いの後、俺の周りでは色々な変化があった。

 

まず、食事だな。食事の面がかなり良くなった。良くなったと言うかただ俺がマルトーの親父の所によく顔を出すようになったからだ、ルイズが出してくれる食事もいつものスープにパン、そしてチキンが付くようになっただけマシになったと言うものかもしれないが、マルトーの親父が出す料理はその比では無かった。

まず、普通に貴族と同じ料理を出してくれる、いくら俺が賄い料理で良いと言っても必ず「これが賄い料理だ食え!サム!」と豪快に笑いにながら料理を持ってくる。嬉しい事なんだが、下手をするとルイズ達が食べてる物よりか良い物が出てくる時があるので、バレたら唯じゃ済まないなと内心思っている。もちろん全部美味いから食べるけども。俺が行くたびドンチャン騒ぎをし酒を飲み、マルトーの親父が決闘の話を大袈裟にする、するとまたシェフ達が騒ぐ。俺はシエスタに酒をついでもらいながらそれを見る。いやぁ、美人につがれる酒ほどうまい物はないね。俺はつい天国を手に入れたわけだ。

 

次に周りが俺を見る目が変わった。生徒達からは畏怖と奇異と好奇の目で見られることが多くなった、始めは平民と見限られていたようだが今では話しかけてくる物までいる。とはいってもみな遠巻きで見てくるから居心地悪さこの上ないが。

あと赤髪ボインのキュルケに、夜のお誘いを受けたこともある。まぁ…適当にからかって流してやったがな、俺にしてみればまだまだ子供、ベビードールなんか着て相当自信がお有りのようだったが、ちとからかっただけで顔を真っ赤にしてしまった。何をしたかはご想像にお任せするがね。

 

 

ギーシュとも話す中になった。始めはボンボンのいけすかないガキかと思っていたが話してみるとこれが意外と違かった。実はギーシュのグラモン家は代々軍の家計らしく戦いにはかなり自信があったそうだ、俺にボコボコにされて目が覚めたそうで、今ではたまに戦闘訓練をしてやる仲になっている。それと代々お色気家族らしく、「僕が悪いんじゃない。この僕の可憐なレディを求める本能がわるいのだ!」とかなんとか。面白い奴は嫌いじゃないから別にいいんだがな。

 

そして嬉しかったことが二つある。

まずは一つ目。風呂が手に入ったこと。風呂と言うかもう使わない大きい鍋をシエスタがマルトーに話してくれてそれを貰って、風呂替わりにしている。ようするに五右衛門風呂だ。日本人の血が流れているからな風呂は欠かせない。初めて風呂に入った時はもう「最高」の一言に尽きた。入ってる時にシエスタが洗濯をしに来たようで、たまたま俺の上半身を見てしまい真っ赤になりがら「す、すみませんんん!!」と立ち去って行った。傷だらけの体だったので悪い物を見せてしまったかなと反省している。

余談だが、次の日から風呂に入る時に何処かから視線を感じるようになったのだが気のせいだろうか。

 

そして、こいつが一番嬉しい事だ。

実は。

ついに。

俺の。

剣が手に入る。

ってな、はいはい。そんな事ですかって思った奴ら挙手しな。確かにそんな事かもしれんがな、俺にしてみればかなり嬉しい事なんだ。

実はキュルケからお誘いを受けた夜、部屋にかえるとルイズは顔を真っ赤にして怒っていた。

それはもうカンカンにな。前にも話したが、やれツェルプストーの家系は私の祖先の婚約者を奪っただの、ヴァリエールにしてみれば草一本でもやりたく無いらしく、何もしていなくても俺が部屋に行ったことだけでも許せないそうだ。適当にあしらったと言っても怒りが収まらないので、もう面倒なので放っておいたんだ。流石に本当に何もしていないんだと分かったらしく、俺の機嫌を取ろうとしたのか…まぁそれは無いとは思うが、いきなりこんな事言い出してきた。

 

「あっあんた!あんたは剣が得意なのよね?」

 

「あー。そーだが?」

 

「そ、それじゃあ、私があんたに剣を買ってあげるわ!べっ別に勘違しないで!キュルケに取られそうになって悔しいとか、ご褒美上げないといけないのかなとかそんなんじゃないわ!そのー。そう!あれよ!私を守らせる為、仕方なく買ってあげるんだから!」

 

「は?本当か?」

 

「もちろんよ!う、嬉しい?サム?」

 

「そりゃもちろん嬉しいが…」

 

とこちらを気にしたように言ってきたが、素直に嬉しいと伝えると得意げな顔をして。

 

「そうよね!嬉しいわよね!いい?分かったら、しっかりとご主人様の言うこと聞くのよ?そーね。今度の虚無の曜日に買いに行くわ!楽しみにまってなさい!」

 

そして今日がその虚無の曜日ってわけだ。

いやぁ、年甲斐もなく昨日は中々寝付けなかったことはここだけの秘密だ。俺もまだまだガキンチョってことなんだろうか。ルイズは今だに爆睡中だが。

 

「ルイズー。朝だ起きてくれ。」

 

「ん。なによぉ。今日は虚無の曜日でしょ?もう少しだけ…スゥ」

 

「ルイズ?街までは三時間もかかるんだろ?間に合うのか?」

 

「余裕よ。私はすごいんだから…。」

 

「あぁ。そうかい。」

 

とそのまま寝かせたのが間違いだったことは言うまでもない。

 

一時間後。

 

「なんでさっきしっかり起こさないのよ!!」

 

「お前が寝てても大丈夫って言ったからだが。」

 

「はぁ!?何が大丈夫よ!大丈夫なわけないじゃない!ここから三時間もかかるのよ?もう昼前なのに!帰ってくるの夜になっちゃうじゃない!もー!仕度して!行くわ!!」

 

その言葉、そのまま一時間前の自分に言ってやってくれ。

ともあれ。かくして俺達は出発したわけだ、馬なんざ初めて乗ったがまぁまぁの乗り心地だったな。

しかし三時間はやたらと腰が痛くなるが。

 

 

 

虚無の休みだと言うのに、キュルケはベッドの上でぼーっとしていた。

いつもなら誰か色男を捕まえてデート三昧なはずな、キュルケに何があったかと言うと。

 

「はぁ…。」

 

このため息の訳には数日前に遡る。

 

キュルケはこの夜、ルイズの使い魔を自分の部屋に誘おうと考えていた。

ルイズの使い魔を自分にメロメロにしてルイズにヤキモチを焼かせてやりたいのとギーシュと戦った時に余りにも強いし顔も遠目でしか見てないが悪くない。

良い男は全てツェルプストーの物。と言うキュルケのモットーの下、使い魔のサラマンダーを使いルイズの使い魔を捜索させていた。

 

「んふふ。彼私の格好を見たらどんな反応するかしら?」

 

キュルケの格好はベビードール最早ほとんど見えている色っぽい下着の様な物だ、かなり気合いの入った言わばキュルケの戦闘服と言った所か。

キュルケは今まで求愛をして拒まれたことが無い、そして本気で恋したことも無い。全てお遊び、飽きたら終わり。言うなれば子猫同士のじゃれあいだ。この日の子猫は大人な猫に手を出そうとしていた。よもや獅子に手を出しているとは微塵も知らずに。

 

ガチャ。

 

「来たわね…んふふ。」

 

キュルケの頭の中ではどうやって篭絡してやろうかと何通りと考えていた。

胸を押し付けて耳元で囁く?それとも強引にキスをする?今まで同世代にしか手を出していないキュルケは楽しみでゾクゾクしていた。

 

「なんか用かい?」

 

「まぁまぁ。そこで話すのもなんだから。こちらへいらして。」

 

指をパチンとならしてろうそくを灯す。仄かに映る自分の体が相手に最大限妖艶に映る様に計算してある配置だ。きっと、彼からは私の姿が見えているはずなのに彼は「おぉ。魔法ってのはすごいね。」と気にした様子もない。あれ?おかしいな。私の姿を見れば戸惑うなり食い入る様に見るなり何かしらの反応があるはずなのに。

 

そしてルイズの使い魔が私の隣にドスンと座った。

 

「なにかようかね?お嬢さん。」

 

「あら?お嬢さんじゃ、ありませんわ。キュルケと呼んでくださいまし。」

 

したから見上げるように甘える様に見てるのに彼は一切こちらをみない。足を組み顎をさすっているだけだ。

 

「使い魔殿?こちらを見てください。もしかして私の格好を見てはしたないとお思いですか?そうかもしれませんわ。私ははしたない女。でも、こんな格好を見せるのは貴方だけなのよ。あのギーシュと戦い勝利を手にした勇ましさ。私しびれちゃったわ。」

 

と腕を絡ませ胸を押し当てる。これで落ちない男はいない。とキュルケはそう思っていた。

しかし彼から帰ってきた返答は一言だけだった。

 

「俺は使い魔殿じゃない。サム。サムエル・ロドリゲス。」

 

「分かったわ。サム。その凛々しいお顔をこちらに見せて。」

 

 

一行にこちらを向かないサムに痺れを切らしたキュルケはサムの頬に手を当てこちらに半ば強引に向かせた。

その時。子猫は獅子の瞳を見てしまった。その獅子は唯の獅子ではない、数々の修羅場をくぐり抜け傷だらけに成りながらも生き抜き、雄として最高最強の獅子の瞳を見てしまった。

子猫は動けなくなってしまった。獅子の瞳が余りにも澄んでいて、そして彼の服からちらりと見える胸や腕があまりにも同世代の猫達にはないもので。

本能が叫んでいる。この雄を選べと。それほどまでに獅子の瞳には力があった。

 

「どうした?キュルケ?」

 

サムが顔を近づけてくる。私は動けない。キスをしたくて動かないのではなくて、彼の瞳を見たら動けないのだ。

 

彼が私の頬につつつと触れるかどうか分からない様になぞる。それだけで体に電撃が走る。

今まで男に先を越されたことは無かった。いつも私が主導権を握り私が思うがままにしてきた、けれど彼には、サムにはそれができない。

 

「キュルケ?もしかして期待してたのか?ん?」

 

彼が今度は唇に指で触れてくる。頭がクラクラする。何も考えられなくなってきた。

最早キュルケはサムの手の中だった。キュルケはこんな快楽を今まで味わったことがなかった。

ずっとこうしてて欲しい。だがそんな時間は唐突に終わりを告げる。

 

「おっと。こんな事してたらルイズに怒られちまうな。」

 

と彼は顔を離し、ニヤリと笑う。

 

「じゃあなキュルケ。おやすみ。」

 

とサムはキュルケの頭を撫でて部屋から出て行った。

キュルケは急に悔しさとそれ以上に彼が行ってしまった悲しさが押し寄せてきた。

その日以来。キュルケはサムの顔がまともに見れなくなってしまった。まるで初恋の乙女だ。

 

「はぁ…サム。今頃なにしてるのかしら…」

 

と言うわけでキュルケはベッドの上でずっとため息ばかりついているわけだ。

人生初の恋煩いをキュルケはしている。

 

今日は虚無の休み。ぼーっと外を眺めていると、サムとルイズが出かけるのを目にした。

その光景が微熱のキュルケに火を付ける。

 

「あっ!ヴァリエール!サムと何処かでかけるのね!んんん!サムの顔を見るのは恥ずかしいけど、ヴァリエールに負けるわけに行くものですか!ツェルプストーの名にかけてルイズのサムだって奪って見せる!」

 

とキュルケは速攻で準備をして、ある人物の部屋の前に来た。

彼女は虚無の曜日になれば部屋で読書をしている、他の人が頼んでも聞いてくれないけれど私なら聞いてくれるはず。

 

「タバサー!お願い開けて!頼みがあるの!」

 

と十分ぐらい叩いていると、無機質な表情をした青髪の少女が出てきた。

 

「なに?キュルケ?今読書中。」

 

「あなたにこの虚無の曜日がどれだけ大切な物かは分かっているつもりだわ!だけどねこのキュルケにも今日と言う日は大切なの!お願いタバサ!あなたの力をかして!シルフィールドに追って行って欲しい人がいるの」

 

タバサはそのほとんど変えない表情を一瞬曇らせたが、「だれ?」と聞いてくれた。

 

「ルイズの使い魔のサム!サムエル・ロドリゲスよ!」

 

と言った瞬間目を開き。魔法を唱え一瞬で準備をし。

 

「キュルケ。どこ?私も行くわ。」

 

「もう!大好き!タバサ!」

 

二人して窓から飛び降りた、他人から見て見ると自殺かと思われるがそうではない、タバサの使い魔、ウィンドドラゴンのシルフィードが下に待ち構えていた。天高く舞い上がりサムの姿を探す。

二人の思惑は全く違うがこの二人も、またサムを探しに街に飛び出す。

 

 

この日の一日をサムに言わせると。

 

「いやぁ。全く大変な一日だったね」と後で苦笑いしていた。

 

まだまだ今日は始まったばかり…ルイズとサムの初めての買い物どうなることやら。


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