ゼロの使い魔 その刃は何が為に。   作:刀龍

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外伝。彼女の夢。前編

私は、夢を見ていた。

幼き日の夢。

何時も幼い頃の夢を見ると悲しい気持ちなる。

だけど。今日の夢は違っていた、私達の幼い頃の幸せだった数日間の夢だった。

私達のヒーローが出てくる夢。私達の生きる糧。そして私達の初恋の人。

今は何処で何をしているか分からないけれどきっと自分の夢を追い続けているのだと思う。

もうきっと会えないけど、夢の中でなら会える。私は夢を見る為に深い眠りにゆっくりと落ちて行った。

 

 

 

「 ハッハッハッ、テファ!がんばって!逃げるよ!」

 

私達は森の中をただひたすらに走っていた。

 

「おーい!!待て小娘ども!そっちにいったぞ!回り込め!」

 

後ろから追ってがくる。始めは守ってくれていた家臣達も皆我が身惜しさに裏切り、今では追ってを差し向ける様になっていた。私達の逃げる為に残してくれた父の財産も全て奪われ、挙句の果てに私達を捕まえようとしているのだ。

 

「くそ!!小さい癖にすばしっこい!」

 

「なぁに。慌てる事などないさ。向こうは子供だ、じき体力が切れるさ。」

 

私は妹のテファを連れひたすらに森の中を走る、生きる為に逃げる為に。

生きて父の無念を晴らすため。ハーフエルフの私の唯一の血の繋がった妹テファを守るため。

 

「テファ。大丈夫?、あと少し頑張って。隠れる場所を見つけよう。」

 

「う、うん。もう少し頑張るよ。マチルダお姉ちゃん。」

 

「テファは偉いね。よしそれじゃもう少し走ろう。」

 

毎日こんな生活だった。かくまってくれる人を見つけても、その人も懸賞金欲しさなのか、ハーフエルフのテファが恐ろしいのか、皆敵になってしまう。

私はただ平和にテファと暮らしていければそれで良かったのに。

この身に変えてもテファを守る。ハーフエルフだからなんだ。私の可愛い妹だ。

その為だったらなんだってしてやる。私はまだ齢十にも満たない小さな体で大きな決意をしていた。

泣きたくなることなんか沢山あった。でも涙なんか流してる場合じゃない。私はテファのお姉ちゃんなんだから。

そんな私の心を知ってか知らずか、森にはシトシトと雨が降り出していた。

 

「さぁテファ、雨が降り出して来ちゃったから。もう行こう。」

 

「うん、お姉ちゃん。」

 

ヨロヨロとテファは力なく立ち上がる。疲れているのに弱音を吐かない、全く出来た妹だ。

でもやはり疲れが見え始めている。私より小さいのだからそんな事当たり前だ、早く休める場所を見つけないと。

私達二人は雨の森の中また走りだす。

 

 

雨がだんだんひどくなり始めた。体温が奪われ正直私達は限界を感じ始めていた。

もう走り続けるのは限界だと思い始めた頃。足音が近づいてきた。

私はいつも思う。神様と言うものは残酷だ。

 

「おーい!!見つけたぞ!!ターゲットだ!」

 

 

「はっはァ!小娘どももう逃さんぞ。報酬は貰ったぁ!!」

 

五人の大人達が私達を見つけて走って来ていた。

 

「テファ!!走るよがんばって!!」

 

小さく体温が奪われ始め震えているテファの手を握り走る。

 

「う、うん。お姉ちゃん!」

 

必死に走る。行き先も分からずに。逃げる為に生きる為に。

だが…。

 

「キャア!!」

 

「テファ!!」

 

テファが雨でぬかるんでいた地面に足を取られて転んでしまう。

もうすぐそこに大人達が来ていた。無理もない。子供と大人じゃ足の速さなんて一目瞭然だ。

 

「もう逃がさんぜ。」

 

「良く逃げ回ってくれたじゃねぇか。小娘ども。」

 

へっへっへと、薄気味悪い笑顔を浮かべにじり寄って来る。

テファ、早く立ってと何度も思うがもう体力も底をつきたのだろう。テファは立てない。

いや。もう私達はわかっていたのかもしれない。逃げ続けるなんて無理なんだって。心の何処かでそう思っていたのかもしれない。そんな思いが彼女の立つ力を奪って行った。

 

「やっとつかまえたぜ!小娘!!」

 

「キャア!!やめてください!」

 

「こいつがハーフエルフだ!賞金もらったぁ!!」

 

「やめて!!テファにふれるな!!」

 

 

テファが男に捕まった。手を掴まれている乱暴につれていこうとされていた。

私は無我夢中でテファと助けようと、腰にあるお父様の唯一の形見の王家の紋章の入ったナイフを取り出し、男の太ももに突き刺し引き抜く。

 

「ぐぁ!!このガキ、俺の太とももにナイフ刺しやがった!!」

 

「おい!!必要なのはハーフエルフのガキだけだ!そのガキはこの場で殺しちまえ!」

 

「このクソガキ。俺の太ももに刺しやがって。」

 

男が剣を抜いて近づいてくる。その目は怒りと殺意に満ち溢れていた。

 

「はらわた全部だして犬の餌にしてやるからよ覚悟しろよ。」

 

「テファ!逃げるの!私は置いて!」

 

「嫌だよ!お姉ちゃん!置いて行けないよ!」

 

テファは私にしがみついてきた。私は妹一人救えないのか。

 

「へっへっ。なぁ!姉妹もろともやっちまってもいいか?」

 

「あぁ?まぁ…いいか!どうせ連れて行っても確認されて遊ばれて殺されんだ、今ここでやっちまった方がそいつらにとっても幸せってもんかもな。」

 

「じゃあ。やらせてもらうかな」

 

私達は殺されるんだとこの時覚悟した。でも逆に良かったのかもしれない、こんな死ぬより辛い生活をずっとするより、テファと一緒に殺された方があの男達が言うように幸せなのかもしれない。

私はテファをギュッと抱きしめて目を瞑った。

 

「お姉ちゃん…。」

 

不安そうに私を見つめるテファ。

 

「大丈夫よ。少し痛いかもしれないけど、お父様の所に行けるわ。テファ目を瞑って。」

 

うん。と健気に返事をし目を瞑るテファ。

私は私達を殺す男の顔を絶対に忘れまいと男の顔を睨みつけてやる。

 

「おいおい。そんな目で見るなって。悪いのは世の中だ、俺を恨んむんじゃなくて世の中を恨みなガキ。じゃあ。あの世で姉妹仲良くやりな。」

 

剣が振り上げられた。私はテファをもう一度ギュッと抱きしめて目を瞑る。

振り下ろされようと瞬間

 

 

「がはっ!!」

 

振り下ろされることは無く、剣を持った男が吹っ飛ばされた。

 

私は恐る恐る目を開け目の前を見る。

 

そこには、私達のヒーローが立っていた。

 

奇妙な白いピチッとした服を来ていて、左手には奇妙な剣を持っていた。

彼は正面を向いていたので顔は伺えなかった。

 

「誰だテメェ!!」

 

「 鼻が!!折れた!クソ!こいつにいきなり蹴られた!クソ!!」

 

と男達は彼のいきなりの登場に混乱していた、私達は何が何だかわからない。

 

「奇妙な森に迷い込んだと思ったら、お嬢ちゃん達が大の大人に襲われてるじゃぇか。お前らガキをいじめる趣味でもあるのかね?」

 

と彼が男達を挑発している。

 

「なんだこいつは?おおかた何処かの浪人だろうやっちまえ!」

 

一人の男が彼に突っ込んで行ったその瞬間。

 

「バーン。」

 

彼の気の抜けた声と共に、彼が持っている奇妙な剣が鞘から飛びたしてきて男の顎に直撃。

男の顎を二つにかち割った。彼は一回転して自分の剣をとる。彼の剣は反りがあって赤くバチバチと発光していた、まるで私達の怒りを表してるみたいだった。

顎を二つに割られた男はビクビクと激しく痙攣し口から泡を吹いていた。

 

「まず一人。さぁ来なコスプレ集団、俺は逃げたりしないぜ?」

 

彼は剣を真っ正面に構えてそう言った。

 

「何言ってやがんだ、こいつは?おい!仲間が一人やられた、気をつけろよ!」

 

男達は彼の周りを取り囲む。

仲間をやられても動揺しない所を見ると、裏切った家臣達が雇ったハンターと言った所なんだろう、相手は殺しのプロだ。彼は勝てるのだろうか。

 

ジリジリと彼との男達の間合いが詰められていく。

 

「いけ!!やっちまえ!!」

 

その声を皮切りに一斉に彼に襲いかかる。私はやられたと思って目を背けた。

 

彼の悲鳴と肉を斬る音が聞こえるかと思ったのだが、いつまで経っても聞こえるのは雨の音だけだった。

 

私は恐る恐る、彼のいた方を見る。

 

そこには赤く光る剣を肩に担いでこちらを笑いながら見ている彼と、もはや何か分からない肉塊が転がっているだけだった。

 

「お嬢ちゃん達、大丈夫か?」

 

彼がこちらに近づいて来る。だけど錯乱している私にはその笑顔が怖くて、彼も他の男達と同じに見えて、助けてくれたって分かってたのにテファを守らなくちゃって気持ちでいっぱいでナイフを片手に彼に突っ込んだ。

ドス。と鈍い音と刃物が肉刺さる感覚と血が私の手にベットリと付いた。

 

「ぐっ!!」

 

正直私は殺されると思った。ハンター達を瞬殺してしまうような人だ、なぜ子供の私がそんな事をしたのか今でも分からないけど、本当にテファの事で一杯だったんだと思う。

 

でも彼はナイフを持っている私の手を優しく握ってこう言った。

 

「レディにナイフは似合わないぜ。大丈夫か?怖かったんだろ?もう敵はいねぇさ。」

 

ってニヒルな笑顔で私に微笑んでくれた。その笑顔を見て私は泣き出してしまった。

きっと、ずっとずっと気を張っていて心が疲れていたのかもしれない。知らない彼の胸で思いっきり泣いた。彼はナイフが刺さっているのに、私の頭をずっと撫でてくれていた。

 

 

 

私の大きな泣き声は、雨が優しくかき消してくれた。

 

 


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