あと何時も感想くれるみなさん本当にありがとうございます。
これからも刀龍withサムエルをよろしくお願いします。
暖かな日差しが、差し込むこのヴェストリの広場は今は確かな戦いの匂いが立ち込めていた。
この日ルイズは自分が召喚した使い魔の強さの一片を見ることになる。
彼の狂気が入り混じる笑みとともに。
そしてもう二度と出会うはずの無かった、運命をも引き寄せる。一つは青髮の少女の大きな成長を。もう一つは緑髮の少女と半妖の少女とサムの、神のイタズラが遣わした過去の出会い。
このヴェストリの戦いが、時の歯車を回し始める。
俺はこの決闘がそんな意味を持つなんざ、少し思ってなかったがね。
この甘ったれた貴族の坊ちゃんに少し現実見せてやろうと思っただけさ。
本当出会いってのは面白いね。ルイズもそうだかこのギーシュって男も変わってくのさ。
良い意味でな。そしてこの俺もだ。まぁ…それについてはおいおい聞いてくれ。今は話の続きをしようか。
「君?素手で僕のワルキューレとやるのかい?」
「素手で十分さ。と言ってもこれしか今はないんでね。」
とサムは肩の力を抜き構える。
サムはホドリゲス新陰流の使い手だ。
ホドリゲス新陰流とは柳生新陰流にブラジリアン柔術を組み込んだ言わばブラジリアン剣術。
人を殺すの一点に特化し格闘術、剣術、抜刀術を多彩に使い、個との戦いも多との戦いにも長けている。その流れるような柔の動きから一転、一瞬で相手を切り伏せる剛の動きをも併せ持つ。
つまり、ホドリゲス新陰流とは、裏太刀。表舞台の美麗な剣術ではなく、裏舞台の強さの一点のみの殺人剣。
と、言っても今の俺は刀を持っていないんで格闘術でやるしかないがな。
「僕も舐められたものだね。まぁいいさ青銅のギーシュの恐ろしさ味わってくれたまえ、いけワルキューレ!」
と青銅で作られたワルキューレがこちらに真っ直ぐ突っ込んでくる。周りから見てみれば金属の塊が意思を持って突っ込んできたら恐怖があるだろうが、逆に考えればただの人形が馬鹿正直に真っ直ぐ来るだけだ。
「おぉ、怖い怖い。」
と、そんな事思ってもない顔をして、気だるそうに構える。
そうこうしてる内にワルキューレとサムが激突する瞬間。
ニヤッとサムの口角が上がる。
「パァん。てな」
なんて気の抜けた掛け声と共に突っ込んで来たワルキューレが吹っ飛んだ。ギーシュは意味が分から無かった。
はたから見てるとサムに触れた時に吹っ飛んだ様にしか見えないからだ。
「青銅なんて言うから硬いと思ったがそうでもないな。」
とサムは右手の甲を手で払う。周りの生徒達は何があったのかわかっていないみたいだな。
まぁ、要するにだな。俺は抜拳をしたわけだ。零から十へ一瞬の鋭い突き込み。右腕を極限まで脱力し相手と当たる瞬間に全力で突き出し引き手をとる。まぁ今回はクロスカンウンター気味に決まったが、するとさっきの俺が動かず相手だけが吹っ飛ぶって言う現象が起こるわけだ。
思いのほかクリーンヒットしたみたいで顔面がひしゃげてるな。人なら死んでるな。
「僕のワルキューレが…」
「おいおい、お前のワルキューレは木偶の坊か?貴族なんてたいしたことないな。」
「くっ、言ってくれる。どうせまぐれだ!もう一度行け!ワルキューレ!」
と顔面がひしゃげたワルキューレが迫って来た。同じ手は喰らわないつもりなのか、小刻みに詰めて来た。まぁ所詮度素人の詰め方だから怖くも何ともない。
ワルキューレが左から大振りなパンチを出して来た、顔面狙いがバレバレなんだがな。
俺はそのパンチに右のブローで合わせる。ボディが揺らいだ瞬間にそのままの流れで右の膝を奴の胴体に突き刺す。胴体がひしゃげて頭が下がって来たので思いっきり蹴り上げてやったら、そのまま維持できなくなったのか、ワルキューレはバラバラになってしまった。
周りの生徒達はその流れる様な一連の動きに目を奪われてしまった。
生徒達から次々に「なんだあの平民は?」「まさか対メイジの傭兵って奴じゃあ…」など呟きが聞こえ始めた。ギーシュは段々顔色が悪くなって来ている。大方不安になって来たんだろう。
「なぁ、色男。お前のお人形さんはこんなものか?遊びにならないぜ?」
「くっ!ふざけるな。もう容赦しないぞ。行け僕のワルキューレ達!!」
と六体のワルキューレが出てきた。おまけに武装してやがる。流石に分が悪いな。
「おいおい。こっちは素手でやるのにそっちは銅の人形に武器まで持たせてんのかい?貴族ってのは達が悪いのか?それとも誇りがないのか?」
と挑発をしてみる。まぁ別に素手でもやれないことはないんだが。武装してると色々面倒だからな。
借りに俺が危なくなったら危うく本能がギーシュを殺しかねない。
「ならば君には一本の剣を用意しよう。その代わり殺されても文句は言わない。それでいいかな?」
「ああ。いいぜ。殺されても何も言わんさ。」
「言ったね。ならば剣を取りたまえ。」
するとルイズが口を挟んできた。
「ちょっとギーシュ!!どちらが死ぬかもしれない決闘なんて許されないはずよ!」
「何を言うヴァリエール。これは貴族同士の決闘じゃないんだ。君の使い魔が死んでも誰も困りはしまい。」
「ふざけないでよ!!サムも何か言ってよ!」
するとサムは不敵に笑った。
「ルイズ。まぁ見とけって。」
「そう言う事だ。ヴァリエール。下がってくれたまえ。」
ルイズは俺の方を見て不安そうな顔をしていたが、信じることにしたのか力強く頷いたあと、また後ろへと戻って行った。
「さぁ、使い魔くん。剣を取りたまえ。」
としたから一振りのロングソードが出てくる。無駄な装飾がされていてかなり悪趣味だが。
「ありがとよ。よっと。」
サムは剣を抜き取り、その場で数回振る。
「重さと重心がちと違うが…まぁ、剣なだけ良しとするか。」
「それでは、覚悟はできたかね?使い魔君。」
「もちろんだ。そっちこそ負ける用意はできたか?」
サムは剣を自分の中心に構える。息を吐き神経を尖らせる。
敵は六体。銃じゃないだけあの時のマフィアを壊滅させた時より楽だ。
心が踊る。純粋なこの闘志に体を任せ、敵を斬る。先ほどから手の甲のルーンがギラギラ光っている。まるで早く始めろとでも言うかの様に。
だが心を鎮める。風の音。相手の息遣い。周りの喧騒。全てがはっきりと聞こえ始める。
これだ、この感じだ。準備は整った。
「来な。色男」
「構えろ。ワルキューレ!」
六体のワルキューレがサムに構える。だがサムはその場を動かない。
それどころか目を瞑ってしまう。
「舐められたものだ。行け!やってしまえワルキューレ!!」
左から斧を持ったワルキューレが、斧を上段に構えて突っ込んでくる。俺は冷静にそのまま剣を寝かせて、上段から振り下ろして来た斧をかち上げて胴を横薙ぎに一閃。まず一体。
次は右から槍を持ったワルキューレが突き出して来たのを体を逸らして避ける。
「おいおい。そんなんじゃ当たんねぇぞ。」
痺れを切らしたのか、足を薙いで来た所を槍を踏んで止める。
そのまま下から舐め上げる様に斬りまくり、細切れにしてやる。これで二体。
「色男。たいしたことないな。全員でかかって来たらどうだ?」
剣を遊ぶ様に振りながら、挑発してやる。こちらとしても早く終わらせたいしな。
顔を真っ赤にしちゃって。本当挑発に乗る奴ってのは単純で楽だ。
「クソ!!行け全員でかかれ!」
おぉ、怖い怖い。四つ二手に分かれて向かってくる。
まずは納刀、と言っても鞘がないからその構えだけだが。
意識を集中。目を瞑る。敵が俺を叩く瞬間、真横に並ぶ。その一瞬を待つ。
「サム!何で目を瞑ってるの!来てるわよ!」
まだだ。まだ遠い。
「なんだね?諦めたのかな?やってしまえワルキューレ!」
後少し。後少し。気を最大まで練る。
「サム!当たっちゃう!!」
ルイズは必死の形相で叫ぶ。おいおい。そんなに信じられないか?ご主人様?
後三歩
二歩
一歩
「サム!!」
この一瞬を待ってたぜ。
腰に構えた剣に手を添え、手を鞘代わりと思い込む。
そのまま、脱力した体の筋肉を全て爆発させ抜刀。
全ての威力を剣に乗せ、残りの四体の胴を一閃。
ズズッと四体同時に胴から上が滑り落ちた。そのあまりの剣筋に誰も何が起きたか分からなかった。
が、その胴から上が綺麗にないワルキューレの先にニヤリと笑うサムをギーシュは見た。
正しく狂気の笑み。悪魔の様な笑みだった。その時ギーシュは悟った、この男には勝てないと。
「色男。これで終わりか?」
ん?とサムは剣を振りながら笑う。ギーシュは恐怖と信じられない現実に声も出ない。
「声も出ないか。それじゃ終わりにしようか。」
その瞬間。剣を上段に構えて、サムが大きくギーシュに向け跳んだ。
恐怖のあまり、ギーシュは尻餅をついてしまう。
上を見上げるとサムが立っていた。
「こ、降参だ!ぼ、僕の負けだ!」
「ん?降参?決闘ってのは死ぬまでやるんだろ?」
「な、何を言っているんだい。ぼ、僕を殺したらただでは済まないぞ!」
「そんなの知ったことか。お前は俺に負け名誉の戦死。貴族にピッタリじゃないか。」
ニヤリとサムは笑う。その目は本気だった。
ギーシュは本気でこのままでは殺されると覚悟した。
「や、やめてくれ。僕の負け!それでいいじゃないか!」
「往生際が悪いな色男。そんなんじゃモテないぜ。」
スチャとサムは剣の先をギーシュに向ける。
「な、何でもする。なんでもするから…命だけは、命だけは」
ギーシュの淡麗な顔は今や恐怖で歪み、涙か鼻水か分からないものでグチャグチャになりながらも命乞いをしている。周りの生徒達はサムのあまりの恐怖で止めることも動く事も出来無かった。
「やめてくれ、やめてくれ。」
「サム!ダメよ!」
ルイズが声を絞り出し叫ぶが、サムは辞める気配はない。そして…。
「はぁ…色男。あの世でな。」
ザン!!と大きな音とともに剣が振り下ろされた。周りの生徒達は悲鳴を上げ目を瞑る。
ルイズも目を背けてしまう。
だが。明らかに場違いな声で振り向く事になる。
「な〜んてな。驚いたか?色男。」
「え、ぼ、ぼぐ、いぎでる。生きてる!」
ハハ、とサムはおかしそうに笑う。剣はギーシュのと顔の隣に突き刺さってただけだった。
「殺すわけないだろ。主人が見てる前で人殺しなんてしないね。なんて言われるかわかったもんじゃない。」
と、ギーシュに向け手を伸ばす。ギーシュは一瞬ためらったがその手を握り返した。
サムは少々雑に引っ張り上げ立たせた。
「だがな。」
「え?」
サムの目が本気の目になりギーシュを射抜く。それだけで動けなくなる。
それだけサムの目力と殺気は本物だった。
「俺の恩人や主人をバカにするな。死の恐怖ってのはここまで怖いんだ。シエスタはそれを味わった。分かるか?」
「う、うん。」
「ルイズも、バカにするな。今度お前がまた同じことを繰り返したら…」
「く、繰り返したら?」
「その首。斬って捨てる。容赦などしないぜ。」
「わ、分かった。絶対にしないとブリミルに誓おう。」
するとサムが今までの顔が嘘のような笑顔になり。
「そーか。なら行け。お前が泣かせたお嬢さんが心配そうに待ってるぜ。」
振り向くとモンモラシーが目に涙を貯めて心配そうにギーシュを見つめている。
全く。この色男には勿体無いぐらい良い女の子じゃねぇか。
「あ、ありがとう。では僕は行くよ。」
「ちゃんと謝っとけよ。ほら。行け。」
ギーシュはモンモラシーに向け歩き出し、そしてモンモラシーに思いっきり抱きしめられていた。
ま、無事終わって良しとしますかね。ご主人様も心配そうにこちらを見てますし。
あー。怒られたら面倒だな。怪我してないから平気だと思うんだがな。
「終わったぜご主人様。」
「ん〜!!バカ〜!!!」
やっぱり案の定怒られた。
「なんであんなに危ないことするの!目瞑らないでよ!心配したじゃない!途中から雰囲気変わるし、本当にギーシュ殺しちゃうかと思ったじゃない!怖かったんだから!」
「悪い、悪い。いや、あの色男を少しばかり脅してやろうと思ってな。ああ言うタイプは恐怖を与えないと学習しないからな。」
「もう!本当に怖かった!」
「でもルイズ。約束通り怪我せず帰って来たぜ?褒美の一つや二ついいんじゃねぇか?」
な?と何時もの笑みを浮かべる。全くこの男は何かあったらこの笑顏だ。困ったものよね。
でも。確かに怖かったがそれ以上に凄かった。サムの剣技が早すぎて誰にも見えていないみたいだった。
私が召喚したんだって思うと嬉しくなる、それに私の為に決闘してくれた、いくらドットとは言えメイジに勝った、圧倒的な強さで。少しぐらいならご褒美上げてもいいわよね。
「そうね。今回は特別ご褒美を上げるわ。何がいいの?」
「んー。そうだな…」
形の良い顎に手を当て考えている。そして悪巧みを考えついたような少年の顔になり、ニヤリと笑った。
「ご主人様。私めに褒美のキスを頂けないでしょうか?」
「キッ、キ、キスですって?」
この使い魔は私にキスをしてくれと求めて来た。た、確かに戦う姿はカッコ良かったし、顔も…まぁ悪くないし。私の始めての相手だからもう一度ぐらい、い、いいのかな?
「ど、どーしても、して欲しいの?」
「それはもちろん。」
「な、なら仕方ないわね。ご、ご、ご褒美だものね。し、し、していいわよ!」
と軽く覚悟を決めて目を瞑る。相手からなんて始めてだ。す、凄く緊張する。
と目を瞑るルイズを見て俺は笑を堪えていた。顔真っ赤にして頑張って恥ずかしさに耐えている。
可笑しいったらありゃしない。ルイズの綺麗なおでこにデコピンしてやった。
「痛っ!」
「冗談だ。驚いたか?」
「なっ、なっ、な」
薄くピンク色した形の良い唇をワナワナと震わせ羞恥でなく怒りで顔が真っ赤になる。
これは流石に怒るか?まぁ案の定。
「このバカ〜!!!」
空に怒りで吠えるルイズの声とニヤニヤしながら逃げるサムの笑い声が響き渡っていた。
そのルイズから逃げるサムを見つめる少女が一人。
「あの人なら、私をもっと強くしてくれるかもしれない。ね。シェルフィード。」
彼女の使い魔であるウィンドドラゴンがキュイと頷く。
絶対に彼に教えてもらうと強く決心した。その心に確かな復讐の炎を燃やして。
所変わり、ここはトリステイン魔法学院の校長室。長いヒゲを生やした威厳そうな老人とミスタコルベール、そして緑髪の女性が鏡の向こう側に映るサムとルイズを見ていた。
「これが、ガンダールヴと言うのかねコルベール君。」
「そうです。オールドオスマン。この男こそガンダールヴ。先程の戦いを見たでしょう!」
「確かに凄まじい戦闘力じゃ。いくらドットとは言えメイジを倒してしまうのだから。」
「やはり、国に報告をした方がよろしいのでは?」
「そんな事してしまったら、戦争が起こってしまうわ。暇な宮廷ぐらしは戦争好きが多いからの。この事は内密になコルベール君。」
「分かりましたそうします。」
コルベールは少しばかり肩を落とす。なにしろ世紀の大発見だ。
科学者たるコルベールには辛いものがあるのだろう。しかし、それも緑髪の女性を見れは少しは心が癒されると言うものだ。まぁ今はその女性は食い入るように鏡をみているが。
「ミス、ロングビル?そんなにガンダールヴが気になりますか?」
「あっ、いえいえ、あまりに凄い戦いだったもので。つい見入ってしまいましたわ。」
「そうでしたか。彼は凄いですな。まるで人ではないようだ。おっとそろそろ時間ですな。ミスタコルベール。ミスロングビル。失礼します。」
そう言って彼は出て行った。コルベールの変態ジジイはまた使い魔のネズミを使ってなにかしているようだ。それにしても…凄く似ていてびっくりした。
記憶の中の私達の命の恩人の彼に余りに似ていて私はついつい見入ってしまった。
彼がいるなんて絶対にそんな事無いのに。ふとあの幸せなころを思い出したくなり、ロングビルは目をつむり記憶の中に少しばかり入り浸る。
「また、会えたら彼に会いたいな。元気にしてる?ミヌアーノ。」
そんな彼女の小さい呟きは、誰にも聞こえず溶けいる様に消えて行ってしまった。
「ハックション!!誰かに噂されたかな。」
サムは盛大にクシャミをして、さっきルイズをからかった罰として洗濯を水洗いでしていた。
「全く。手は寒いが月は綺麗と。」
そんな彼を二つの月が、お前自業自得だろ。と優しく?照らしていた。