『おいおい。こんな腹ってへるもんなのか?』
サムはこのハルゲニア、トリステイン魔法学校の青い空の下広い中庭で己の空腹を嘆いていた。
ルイズの朝飯を終え、サムはもはや温かい水並みに味の薄いスープとスポンジのようにパサパサで石のように硬いパンを食べ終え、ルイズを教室まで送ったところで。
『授業だから教室には入れないわ。何処か行っていて頂戴。お昼頃また迎えに来て』
とほっぽり出されてしまったのが先ほどの話。
『天気は本当にいいね…。もうレーションでいい。なんでもいい。この世界の神様とやら食わしてくれ。』
って事で俺はこの木漏れ日溢れる木の下で空腹を紛らわす方法を永遠と考えてるってわけだ。
周りを見渡しても、目だけの魔物やらヘビやらフクロウやさっきの赤髪ボインのキュルケのサラマンダーやら、他の生徒の使い魔達がゴロゴロしてるだけで、俺の悩みに答えてくれる存在はいない。
それにさっきからやたらと視線を感じるなと思ったら、目の前の塔の一番上からあれは…ドラゴンか?青いドラゴンがこちらをじーっと見ていることに気がついた。
おいおい…こっちが腹減ってんのにドラゴンの飯にされたらたまったもんじゃねぇな。
いや…逆に襲いかかってきたら正当防衛だから、なんとかボコボコにして食うか?
ダメだ。そんな事出来るかわからんし、仮に倒せたとしても怪我は免れねぇな。それにルイズになんて言われるかわかったものじゃない。
『仕方ない。ここにいても始まらないし何処か行くか…』
つってもどこ行く当てもあるわけじゃないので。結局その辺をぶらぶらするしかねぇんだけどさ。
俺はぶらぶら歩きながらも、今自分が置かれてる状況を確認することにした。
とりあえず…腹が減ってる。じゃなくてだな、まずは外の景色でも見て見るか。
とサムは『よっと』と気の入っていない掛け声と共にトリステインの城壁を直線に駆け上がって行く。
よっこらせと。おぉ見渡す限り草原なんだな。んでも遠くに町が見える、あそこには何があんだ?もしかして武器とか売ってるかもしれないな。この際刀じゃなくてもいいから剣ぐらいは欲しいところだが…まぁルイズに頼むしかないか。そんで逆方向には森か…もし食事がこのままの状態なら自給自足もありだな。多分俺の世界と生物ぐらいは似てるだろうし食えない事もねぇだろう。
後はまぁ山が周りを取り囲んでるだけか…。
それにしても何故俺はこの世界に来たんだろうか。お世辞にも俺は前の世界で良い行いをしてたかと聞かれるとNOだ。神様とやらは俺を天国には連れてってくれないだろう。俺は俺の信じる信念の元に気に入らない奴らを斬り捨ててきた。そんで俺の最高の相手雷電に殺された。あの一戦は歴史に残して欲しいぐらいだね。
でだ。ここからが問題だ、何故俺はこの世界に来たかだ。俺は雷電に体を貫かれる感覚と共に意識を無くして行った。そんで…そこから。そーだ、誰かに呼ばれた気がしたんだ、俺はもう死んでもいいかとも思ったが、その呼ぶ声がする光の方に手を伸ばすことにしたんだ。そしたらここにいたと。
整理しても全く訳わからんな。俺のいた世界じゃあ考えられないような魔法があるなんでもありのこの世界に俺は来た。たんなる神様とやらの悪戯か?それともそんな運命だったのか?なんてな。
そんな哲学的な事を考える俺じゃないし。この世界で暮らして行けば自ずと答えは出るだろう。
まぁ、当面の目的なら定まったな。食料の確保と武器の確保だな。うしそうと決まったら明日から何とかしてみるか、一度無くした命が帰って来たんだ無駄にするこたねぇな。とサムはうーんと背筋を伸ばす。
にしても暇だな。なんかねぇもんかな。と城壁の中を見回してみると水汲み場に何やら桶をもって困ってる、恐らくメイドを発見した。
まぁ、たまには人助けも悪かねぇか。うし、行ってみるか。
とサムは軽々と城壁から飛び降りて、そのメイドに向かって声をかけて見た。
『おーい!お嬢さん、なにかお困りで?』
と私に声をかけてくる人物がいました。まさか、貴族様!!かと思いましたが、その服装を見てとても珍しい服装を着ていたので、噂の使い魔さんかなと私は思いながら一礼をしました。
『お嬢さん、どうしたんだい?』
『あっ。いえこの水汲みバケツが重くて困っていたところなのですが、でも大丈夫です!多分ですけど、ミスヴァリエールの使い魔さんですよね?』
『おぉ、そうだよ、俺も意外と有名人なんだな』
とケラケラと笑っています。あの誇り高いミスヴァリエールの使い魔さんとのことなのでどんな使い魔さんなのかと思ったら。どうやら人当たりは良い人なようです。しかしメイドに声を掛けるなんて大丈夫なのかしら。ミスヴァリエールに怒られないのかな。
『その水汲みバケツもってやるよ。貸しな。』
『いえいえ!!ミスヴァリエールの使い魔さんにそんな事をさせられません!!』
『良いから、大丈夫さ。』
と、私が一つだって重くて持てなかった水汲みバケツを二つとも軽々ともってしまいました。
『ほら、持っちまったんだ。どこに持って行けばいいんだい?お嬢さん』
『あっ、すみません本当に宜しいんですか?』
『もちろんだ。どこだい?』
『こちらです。』
と私はミスヴァリエールの使い魔さんと共に歩きだした。見た目は目に傷とか入ってるし怖そうだけど優しい人で本当に良かった。それに何だかおじいちゃんに何処か似ていて安心します。
『あの、すみませんがお名前はなんて言うのですか?』
『ん?俺の名前かい?俺はサム。サムエル•ホドリゲス。ルイズの使い魔で、侍だ。』
『そうなのですか。それでは今度からサムさんとお呼びしますね。』
『お嬢さんの名前はなんて言うんだい?』
『お嬢さんだなんて。やめてください。私の名前シエスタです。何か困りましたらお呼び下さいね。』
と、ふふふとシエスタは微笑む。俺は中々良い女の子じゃねぇかと心の中で思ったね。それに黒髪なんてこっちに来て始めて見たし、大和撫子のようで悪くない。
サムさんと言うのですか。名前はおじいちゃんに似ていませんでしたが、サムライ。これは聞いたことがある。変人と言われていたおじいちゃんが言っていた単語だ。もしかしたら、おじいちゃんの事をもっと分かるかもしれないと、少し心が踊りました。
そうこうしている内に到着したようだ。
『サムさん、ありがとうございました。本当に助かりました!』
『気にしなくていいさ、また困ったら読んでくれ。じゃあなシエスタ』
とサムさんが立ち去ろうとした時に。グゥゥと可愛らしい音がサムさんから聞こえて来ました。
『あっ、いやーこれはそのだな…』
『もしかして、サムさんお腹減ってるんですか?』
と聞くと、困った顔をしながら、コクンと頷きました。
『実はすごく腹が減ってる』
『それなら、こちらに来てください!あまりものでよければご飯がありますよ!』
『マジか。行かせてくれ。』
と切実な表情をするサムさんを見て思わず笑みがこぼれてしまいます。あんなに飄々としたイメージがあったのに、こんな顔もする少し可愛い人なんだなと思いました。
と俺はシエスタについて行くことにした。しばらくするとどうやら食堂の裏についたらしい。
『すわってていてくださいね』とシエスタに言われたので、待っていると、奥からシエスタがパンとシチュー持って来てくれた。
コトン、と前に置かれるシチューとパン。たった二つの料理だが今の俺には宝石の様に輝いて見えた。
ごくりと生唾を飲んで食べるのを我慢してるのでしょうか?サムさんはこちらを見て来て、食べてもいいか?と聞いて来たので、もちろんですよお食べください、と返すと、私はびっくりする光景を目にしました。
両手を合わせていただきますって言ったんです。おじいちゃんが食べる前いつもしていたことでした。私は確信したんです。絶対におじいちゃんの世界について何か知っているはずだと。でもそんな事を今質問するのは失礼かなとも思いました、だってサムさんとっても美味しそうにばくばく食べてるんですもの。なんだか微笑ましい気持ちになります。
『うまい。』
と俺は本気で思った、こんな上手いシチューとパンなんざ初めて食った。無言でばくばくと食っていると奥から男が出て来たのに気がついた。
『シエスタ、これが噂の使い魔殿か?』
『あっ、マルトー料理長。はいこちらミスヴァリエールの使い魔さんのサムエルさんです』
俺は誰?シエスタに目配せするとシエスタは『こちらの料理を、全て作っている料理長さんです』と教えてくれた。こんな上手いもん食わしてくれたんだ。一言お礼をいわないとな。
『俺はサム。サムエル•ホドリゲスだ。マルトー料理長上手い飯を食わして頂き感謝している。ありがとう。本当にうまかった。』
と目の前のサムエルと名乗った男は俺に礼を言ってきた。あの誇り高いミスヴァリエールの使い魔と聞いてどんな傲慢な野郎かと思ったら、見た目は飄々とした浪人見たいな奴だったが、目はしっかりとこちらを見据え、頭を下げてお礼を言う。しかも一介の料理人に、なかなか出来る奴だなと。マルトーは思った。
『そうか、美味いと言ってくれて料理人冥利に尽きるわ。どーだまだお代わりはあるが食べるか?サム?』
とマルトーが聴くとサムは一瞬目を開いて、『良いのか?』と聞いて来た。
『もちろんだ、貴族様の余りで作った賄いの品だが美味いと食べてくれる人がいるなら食べてもらった方が料理も幸せってもんだ。』
『ありがたい。マルトー料理長このお礼は必ずする。』
『堅苦しいぞサム。マルトーでいいさ。おいシエスタ、サムにアルビオンの古いのとお代わりを持って来てくれ』
『はい。料理長!!待っていて下さいねサムさん。』
とこの後お酒も入り軽い宴会になってしまった。
『おい!サム!もっと飲め!どうだ俺の料理は美味いだろう!貴族様は魔法を使えてすげぇかもしれないが、料理だって人を幸せにする立派な魔法だ!!』
『そーだな!マルトーのおやっさんの料理は天下一品だよ。それだけは違いない。』
『おぉ!!サム!そこまで言ってくれるか!俺は嬉しいぞ!腹が減ったらいつでもこい!なんでも食わしてやるからな!』
『んじゃおやっさんも、困ったらいってくれや、力仕事なら任せてくれ』
とお互いに笑いあった。本当に楽しいひと時だったと思う。俺とマルトーが盛り上がりシエスタはそれをみて笑う。異世界にきて始めてこんな笑ったぜ。また来ないとな。
『あっ、悪いおやっさん。そろそろルイズを迎えに行かないと行けないんだわ』
『そうか、もう昼飯の時間だな、また来いよサム。』
『あぁ、また来るさ。じゃあなおやっさん、シエスタもまたな。』
と俺はお腹一杯になったので足取り軽くルイズの所へ向かった。
にしても本当にシチュー。美味かったな。