空は青く澄みわたる空の下、恐らく数刻前までは心地よい草原だったであろう場所は、今は肉の焦げる匂いと滴る血の濃い鉄の匂いや撒き散らされた臓物の匂いが立ち込める、地獄絵図となっている。
その真ん中に地獄絵図を作り出した生物。
黒角炎龍アルケミオスが暴力的なまでの殺意を振りまきながら一人の人間を睨んでいる。
オスマンはそのアルケミオスの紅い瞳に睨まれた。
それだけで体から脂汗がにじみ出てきた。唇が震え体の本能がアレが計り知れない存在だと警鐘をならす。
今更になり後悔を初めた。だが彼のスクウェアメイジとしてのプライドが彼を逃げさせる事を許さなかった。
震える体でもオスマンはその杖を離さない、流石スクウェアメイジと言えるであろう。
そしてその体に残る少しの勇気を持って、オスマンはアルケミオスに杖を向けた。
そして魔法を唱える。
彼の強烈な風魔法の上位魔法。雷のサンダーボルトがアルケミオスに向かって鋭い槍となり向かっていく。
バチバチバチッとアルケミオスに炸裂した。肉を焼く匂いと雷に焼かれた時に怒る独特の黒煙が上がる。その感触にオスマンは手応えを感じた。
スクウェアメイジの魔法を受ければ並の生物などタダでは済まない。ましてや100年に1度の鬼才オスマンの魔法ならばひとたまりも無く、臓物から雷に焼かれ敵を死に至らしめるだろう。
だが・・・それは並の生物だったらの話だ。
彼が対峙しているのは。龍としても最強の部類に入り先住魔法を操るアルケミオス。
雷が起こした黒煙の中からアルケミオスが顔を出す。そして何事も無かったかのようにその真っ赤な翼を1度だけ羽ばたかせた。
それだけでまるでオスマンが起こす風魔法のような強烈な風が起きる。黒煙が晴れるとアルケミオスは何事も無かったかのようにグルルルと喉を鳴らした。
「何だと・・・全く聞いていない」
オスマンは渾身の一撃か効いてない事に絶望と戦慄を覚えた。
そしてその言葉を理解したのかしていないのかアルケミオスがニタッーと笑った気がした
グルルル。
そう喉を鳴らすとアルケミオスの黒角が紅く煌めいた。
するとどうだろうか、彼の周りにまるでスクウェアメイジが何人も集まらないと出来ないような巨大な炎の龍が、4体現れた。
どれも大きくその魔力は莫大でこの森を一瞬で焼き尽くすだろう。それでもアルケミオスは余裕の顔を浮かべている。
オスマンはこの世に勝てない生物がいるのだとこの時初めて悟った。
そしてアルケミオスは、耐えてみろと言わんばかりに喉を一度鳴らすと首を1度だけ振った。
1匹の炎龍がオスマンに向かう。オスマンは必死になって水魔法を繰り出した彼の全力の水魔法でなんとかじゅうううううと音を立て1匹は消すことが出来た。
アルケミオスは楽しそうにグルルルと喉鳴らす。そうしてまた首を振る。
次は2匹の炎龍がオスマンを襲った。オスマンはそれを持てる限りの全力で何とか打ち消す。しかしその魔法で彼の魔力は尽きてしまった。
息も切れ切れもはや立つこともままならないぐらいに魔力を消費した。オスマンは逃げたくて
動かない足を必死に動かそうと踏ん張る。その姿に国一番のスクウェアメイジの姿はなかった。ただひたすらに生きようとする1人のちっぽけな人間だった。
そんなオスマンを見てアルケミオスは飽きてしまったのだろう。まるでつまらんと言わんばかりにアクビをして、オスマンを見る。
そしてアルケミオスの角が先ほどよりも強く輝く。するとどうだろうか。アルケミオスよりも巨大で大きく凄まじい魔力を秘めた1匹の炎龍が姿を現した。あんなものを喰らえば姿など残らないどころかこの当たり1面焦土となってしまう。下手をしたら街にも被害が及ぶかもしれない。
「クソ!1体どうすれば。どうすればいいのだ」
どれだけ叫ぼとも体は動かず、どれだけ杖に力を込めても魔法は出なかった。
「俺が慢心を起こさなければこんな事にはならなかったクソ・・・」
頼む誰か、誰かアレを止めてくれ。俺の慢心でこの国の未来が無くなってしまう。
「頼む!!誰か!!アイツを止めてくれーー!!!」
アルケミオスはうるさいと言わんばかりにオスマンを睨みそして首を振る
巨大な炎龍が大口を開けオスマンに向かって行く。
その灼熱の熱に意識を奪われながら、オスマンはその大きな口が地獄の門に見え死を覚悟した。
その時。
ドゥオオオオンと大きな音がしたかと思うと
一閃の煌めきが炎龍の口を穿ちアルケミオスの頭蓋を貫いた。
炎龍は消え失せ。アルケミオスは地に伏せ頭から脳髄をさらけ出し痙攣をしていた。
意識朧に音の方を見ると、ぼんやりとだが一人の男が立っているのが分かった。
「あんたはだれだ?」
もう消えそうな意識をなんとか繋ぎ、やっとの一言を絞り出し聞いた。彼の声を聞きオスマンは気を失なった。
「そのあと気を失い病院で目が覚めた時、ワシが覚えていたのは恩人のたった一言だけじゃった。」
そう。確かに彼はこういったのじゃよ。自身に溢れ。まるでどこかの英雄のように力強い言葉じゃった。
その言葉を校長室で聞いたルイズ達は、みんなハテナマークを頭に浮かべていたが。唯一サムエルだけは、驚愕に目を見開いていた。
「本当にそう言ったのか?オスマン?」
「ああ、確かに彼はそう言った」
そう、その時彼は。いや…蛇は力強く言葉にした。
「待たせたな!!」