ゼロの使い魔 その刃は何が為に。   作:刀龍

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久しぶりの更新です。よろしければ見てください。


繋がる過去

「何だったの…あれは…」

 

ルイズはポカンと口を開け呆然ともう既に土の山と化したゴーレムの残骸を見ていた。

サムがゴーレムに向けた破壊の杖(レールガン)の先端からゴーレムまでの地面は黒く焼け焦げており、奥に続く森まで続いており森は、先ほどの衝撃で木々がへし折れていた。

正しく破壊の杖の名に相応しい威力であったが、ルイズはあんな魔法を見た事も聞いたことも無かった。

一応この世界には電気を使う魔法はある。先ほど破壊の杖から解き放たれた一撃は電気…と言うか雷に匹敵する一撃であったとルイズは記憶している。

それにしてもあんなゴーレムを粉々にし地面は焼け焦げ木々をなぎ倒すあんな魔法をルイズは知らない。

 

「サ…サム…さっきのは何だったの…?」

 

恐る恐るルイズは魔法を撃った本人尋ねてみる。

 

だがサムは森の奥を凝視していて反応は無かった。

 

「サム?ねぇ…聞いてる?」

 

サムは森から視線を外さずに答えた。

 

「悪いルイズ。少しばかりこいつを預かっていてくれ。」

 

と破壊の杖をその場にガシャンと置くと森の中に走って行ってしまった。

 

「え?あっ!ちょっと!!サム!!」

 

「ミスロングビルが森の中にいるかもしれん!!フーケに捕まっていたら困る!!俺が入ってくるからあとは頼んだ!!」

 

そう言ってサムは森の中に消えていった。

 

「全く…何なのよーー!!」

 

ルイズの不満の声は虚しく広場に響いていた。

 

 

「はぁはぁ…全くさっきのは一体何だったんだい!」

 

土くれのフーケは森の中を走っていた。

先ほどゴーレムを召喚してルイズ達に攻撃を仕掛けたのはフーケだ。

一度サムに塵になるまで斬りきざまれたゴーレムだったが、フーケはなけなしの魔力を振り絞りゴーレム上半身だけ再生することに成功し、せめて一矢報いようと岩を投げて当たるかと思ったのもつかの間、サムの持っていた破壊の杖により木っ端微塵に吹き飛ばされ、しかもその魔法が森に向かって飛んできた為持っていた杖は吹き飛ばされ、今は形見のナイフ一本しかない。

 

どうやって逃げようか考えていたところに、サムがいきなり森に向かって走ってきたので、なんの策も考える事も出来ずに今はただ森の中を走っている。反撃しようにも杖もない、まぁ魔力がすでに枯渇しているのでどうする事も出来ないが。

体術には多少覚えがあるが…あの使い魔相手にかなうかどうかと言ったら無理だろう。

ゴーレムに剣一本で勝つほどの猛者に素手で敵うはずもない。

 

「くそっ。どーしてこうなった。」

 

フーケの当初の目的は彼女達に破壊の杖を使わせて、自分自身が使い方を覚えて高く売るつもりだったのに、こんな所で捕まるわけにはいかない。

 

「そう…捕まってなんていられない。」

 

私には守らないといけない家族がいる。たった一人の妹だ。それに最近は孤児達と一緒に暮らしているそうだもっと稼ぎが必要なこの時にそう簡単に捕まるわけにいくものか。ただただフーケは森の中をひた走る。

だがその足は唐突に止まることになる。追っ手の声によって。

 

 

「止まりな。土くれのフーケとやら。」

 

 

ゾクリと背中に冷たいものを感じた。すでにサムはフーケに追いついていたのだ、後ろにいるのでよく見えないがおおよそ、彼と私の距離は3メートルといったところだろう。走るのを止めて腰のナイフに手をかける。

 

 

「おっ。思いの外簡単に止まってくれて助かるぜ。さてと…このままぬけぬけと逃すわけにはいかないんでな。」

 

と後ろに立つサムは世間話のように気楽に話しかけてきた。

だがほとばしる殺気がフーケを逃げさせるのを止めていた。

 

 

「別に逃げたりしないのなら何もしないさ。だが…それ以上前に進むのなら斬って捨てる。」

 

カチャリとサムが腰の剣に指をかける音が聞こえる。魔法も使えないフーケがサム相手に何かするなど無理だ。そんな事はフーケが一番分かっていた。

 

「おとなしくこっちに来るなら何もしないさ。」

 

 

フーケは前を向いたままゆっくりとサムの方に下がり始めた。

 

「捕まる気になったのか?まぁ…さっさと来てくれ。」

 

だがこんな所で捕まるわけにはいかない。一か八か奴にナイフで一突きし逃げるしかない。

だんだんと距離が狭まってくる。だがサムとの距離が後一メートルとなった瞬間。

 

フーケは腰のナイフを引き抜く。

 

 

そしてしっかりとナイフの底を腰につけサムの脇腹に吸い込まれるようにして向かっていく。

その流れるような動きは一流の暗殺者も顔負けの動きだった。彼女が魔法だけに怠らず体術もしっかりと鍛錬を積み重ねてた結果だ。

 

 

だが。

 

 

その刃はサムに届くことはなかった。

 

 

「くっ!!」

 

そのナイフは彼の手によって捌かれ、ナイフは脇に挟まれ完全に逃げられなくなっていた。

 

 

 

「おっと!!あぶねぇな!!」

 

ガッチリと脇に挟まれ動くことが出来ない、まるでサムの腕は万力の様にフーケを離さなかった。

フーケは内心で諦めていた。こんな所で捕まってしまうのか、家族も守れず、恋も出来ず、捕まるのか…恐らく自分はタダの投獄では済まないだろう、散々貴族達の宝を盗み恨みを買ってきたのだ、恐らく処刑されさらし首がいいところだろう。

 

とサムの指がフーケのフードにかかり、フーケの顔が露わになる。

そのロングビルの特徴的な緑色の髪がサムの前に現れた。

 

 

「やっぱり女…と言うかアンタだったのか。ロングビル。」

 

くっ。と下唇噛みロングビルは顔を不付いた。最後の最後まで諦めてなるものか、頭突きでも食らわしてもう一度逃げるチャンスを作ろうかと思い顔を上げた。

 

その時初めてサムの顔を見た…いやそれは初めてで、初めてじゃなかった。

あの時全く同じ言葉。同じ口の動き。同じ笑い顔。私はこの瞬間を一生忘れないと思った。

 

サムはロングビルと目があった。はぁとサムはため息をつく。

 

「おいおい…そんな物騒な物持ってんなよ…。」

 

 

そして懐かしくて、大好きだったニヒルな笑い顔でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レディにナイフは似合わないぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

体に電気が走ったのように私は全てを思い出す。顔の傷、彼と過ごした日々、私の初恋の人。

もしあったら沢山言いたい事があったのに私は一言しか言うことが出来なかった。

だってもう二度と彼と会うことなんて出来ないと思ったから。

私は震える声で彼の名を呼んだ。

 

 

「ミ…ミヌアーノ…。」

 

 

「ん?何故…何故お前がその名前を知ってるんだ?」

 

彼は本当に驚いていた、目を見開きビックリしている。

 

 

「あれ?俺言ったっけか?いや…言った覚えないんだが…」

 

 

困惑して首をかしげる彼を他所に、私は。

私は彼の胸に飛びついた。

 

「えっ!おっおい!…って。おい…泣いてんのか?」

 

 

私は嬉しくて嬉しくて、何でここにいるの?とか、どうして歳を取ってないの?とかそんな疑問は全てすっ飛ばして、ただただ彼の胸で泣いた。

 

ミヌアーノは困ったような顔を浮かべたけど…優しく、優しく泣き止むまで私の頭を撫でてくれた。

 

その日、きっと私の人生で一番泣いたと思う。

 

私は沢山泣いた…硝煙と血の匂いが混ざる彼の独特な甘い匂いに包まれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー…皆ご苦労であった。無事、破壊の杖と心届けし円盤を奪い返してくれて感謝しておる。」

 

オールドオスマンは無事に帰ってきたルイズ達を屈託のない優しい笑顔で学院長室にて賛辞の言葉を送っていた。

 

ルイズ達は無事に学院に帰ってきて、オスマンに破壊の杖とこころ伝えし円盤を渡したところであった。

 

賛辞の言葉を送られ、皆嬉しそうに笑いあう、しかしルイズの表情には不満の色が伺えた。

オスマンはルイズの表情が気になり声をかけた。

 

「そんな顔をしてどうしたのかね?ミスヴァリエール。」

 

「いえ…あの土くれのフーケを逃してしまったのが少し悔しいだけですわ。ミスタ。」

 

 

とルイズは答えた。その返答にオスマンは、苦笑いを浮かべた。

 

先程この子達の報告を聞いた際に、その事は聞いてはいた、ミスヴァリエールの使い魔…否。ガンダールヴがその破壊の杖を使い土くれのフーケが召喚したと思われるゴーレムを粉砕しそのまま森にフーケを探しに行ったそうだ。

使い魔が広場で待っていろと言われたのでルイズ達は小一時間森の広場で待っていると、森の中からロングビルを抱えたサムが出てきた。

ロングビルは眠っていてサムはため息をつきながら森から出てきた。

その後のサムの話によると、土くれのフーケを追ったのだが結局逃げられてしまいフーケに応戦したものの負けて気絶させられていたロングビルを抱えて帰ってきたとのことであった。

 

「なになに。フーケは逃したとてこの通り宝物は帰ってきたのじゃから誰も文句は言いまいて。」

 

それでもまだ不満気な顔をしているルイズに、オスマンは楽しそうな口調でこう告げた。

 

「それにな。君達の功績を讃えて王国に『シュヴァリエ』の称号を与えて貰えるように申請を出すことにしたのじゃ。」

 

その言葉を聞いた瞬間にルイズ達の顔が輝いた、主にキュルケとルイズだが。

 

「ミスタオスマン?しかしながらゲルマニアの出の私にも頂けるのですか?」

 

「うむ。それについては心配あるまいて。ワシもタダ長生きしているわけではないのでの。それなりに国には顔が聞くのじゃ特に何もなく称号をくれるだろうて。」

 

するとキュルケの顔がパァァと輝いた。

はじめは顔を輝かせていたルイズだがまたしてもふと表情が曇る。

 

「どうしたのかな?ミスヴァリエール?」

 

「いえ…そのオールドオスマン?私の使い魔には何も無いのでしょうか?」

 

ルイズが恐る恐るいった様子で尋ねた。

 

「ヴァリエール。申し訳ないのじゃが彼は君の一介の使い魔に過ぎないのじゃ…たとえこの破壊の杖を使いゴーレムを倒しミスロングビルを救った本人だとしても使い魔に称号等はあげれないのじゃよ…。申し訳ない。」

 

はぁ。とルイズはため息をついた。

確かに彼女の気持ちは分かる、紛れもなくルイズの使い魔は戦果を挙げた。その事について何か褒美を与えたいものだと思って思案していると、後ろで黙って話を聞いていたサムが声を発した。

 

「なぁ…オスマン先生よ。別に俺は称号も何も欲しくないから心配しなくていいさ」

 

「うむ。そうなのかね?ミスヴァリエールの使い魔よ。」

 

「あぁ。ただもしも何か願いを聞いてくれるなら、一つ頼みがある。」

 

「何かね?」

 

サムは机の上に置いてある破壊の杖に目をやるとオスマンにこう答えた。

 

 

「そのあんたらが呼ぶ破壊の杖と心伝えし円盤とやらは俺の世界にあったもんだ。どーやってそんなもんを手に入れたのか教えてくれないか?」

 

とサムが聞くとオスマンはスッと目を細めた。

 

「うむ。そうか…。分かった話をするとしよう。すまないがミスヴァリエール達は席を外してもらっても構わないかね?もう解散してくれて構わない。皆今日はご苦労であった。」

 

と退室を促しそそくさとルイズ達は部屋を出て行く。

全員が出て行くのを確認したらオスマンは口を開いた。

 

「その破壊の杖と心届けし円盤はな、わしの命の恩人が使っていたものなのじゃ。」

 

「恩人?」

 

うむ。と昔を思い出すように目を細めるとゆっくりと語り始めた。

 

「わしは昔…そうまだワシが最年少でスクウェアメイジとなり若さ故につけあがり調子に乗っていたころの遠い大昔の話なのじゃ」

 

 

 

その日、オスマンは国からワイバーン討伐の依頼を受け、一人で森に入っていた。

実力も付き、様々な賞賛と名声を欲しいがままにしていた若きスクウェアメイジ、オスマンはその日もまるでピクニック気分の様な心持ちで森を歩いていた。

 

「にしても、いい天気だな〜。こんな日は酒場のお姉さんとお茶でも行きたい気分だ。ふぁぁ。にしてもワイバーンどこにいるのだろうか。」

 

空には雲一つなく、柔らかい風が吹く森の中を背伸びしながらのんびりと歩く、周りには鳥のさえずりが聴こえ、まるでこの近くにワイバーンがいるとは思えない。

 

のほほんと、杖を手でクルクルと回しながらずいぶん森を進んだ、この分だと今日はワイバーンに出会う事はないなと、広場を見つけキャンプの準備でもしようかと考えていた時に。

 

急に鼻に焼け付く臭いと、血の濃い鉄の臭いが立ち込めてきた。

 

「む…これは近くにいるか…」

 

オスマンは杖をしっかりと握りしめ、近くの茂みに身を隠しながら、臭いのする方に進む、臭いが近くなると森が終わり始め草原が見えた。

 

 

だがそこは、まさしく地獄絵図だった。

 

「これは…酷い…」

 

 

ゴブリンやオークなどの生物や馬や鹿果てはグリフィンなどの高等な生物達が首や腹を食いちぎられ焼かれ、無残にもその体を晒していた。

 

そしてその中央にこの地獄絵図を作り出した奴がいた。

 

そいつはムシャムシャとワイバーンを食らっていた、大きな黒く鋭い強靭な翼と、頭には天に高く伸びる一本角、口にはギラギラとした牙があり、何よりオスマンが驚いたのは。

 

「これは…ワイバーンじゃない。ドラゴンだ…」

 

そう、この生物は足が4本ある、ワイバーンは足が二本であり4本ではない。このドラゴンは前足の鋭い爪を持ってワイバーンを押さえつけ、その腸を食いちぎっていた。

 

そしてその特徴的な天に伸びる一本にオスマンは見覚えがあった。

 

「あれは文献で見た…黒角炎龍…アルケミオス。」

 

アルケミオス。一般にドラゴンといわれる中でもかなり高位の龍。何故ならば角がある龍は魔法が使える。そしてその魔法は。

 

「先住魔法」

 

そう。このドラゴンは自然を操り黒炎をはなつ。一体で国の半分を焼け野原にすると言われる。天災。そんな龍が今目の前にいた。

普通の人間ならば逃げ帰り国に伝え、戦争並みの準備を整え勝てる相手。しかしこの時のオスマンは普通の思考の人間ではなかった。若くしてスクウェアメイジになり、多くの誉れと名誉を手にした彼にはこの龍ですら名をあげる一つの階段にしか見えなかった。

龍を倒した物は英雄となり、後世に渡り世に伝えられる。そんな栄光に彼は普通の思考ではなくなっていた。

 

「私ならやれる。倒せる。」

 

オスマンは杖を握りしめ、草原に立つ、そして杖を龍に向けて構えた。

 

すると龍はワイバーンを食らうのを止め、こちらに首を向けた。

 

アルケミオスの紅い瞳が、愚かな若い人間を捉えていた。

 

 

 


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