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それではどうぞ!
サム達は今、馬車で森に向かっていた。ミス・マチルダが発見したという森の中にある小屋に行くためだ。
手綱は行き先を知っているマチルダが握り、他のメンバーは各々馬車の中で思い思いに過ごしていた。
タバサは読書をしサムはフードを被ったまま壁に寄りかかりながら寝て、キュルケはそんなサムを恍惚の表情で見つめ、ルイズはそんなキュルケを見て顔を引きつらせていた。
「キュルケ…あんた気持ち悪いわ。あんまりジロジロ私の使い魔を見ないでくれる?」
するとキュルケは頬に手を当て恥ずかしそうに身をよじる。
「あらぁ。ルイズ。別に見るぐらい、いいじゃない?サムって何しててもカッコいいのね。何て言うの?うちの男子にはない色気があるわ」
ウフフ。と顔を赤らめた。ルイズはもうほっておこうと思った。きっと今のキュルケは頭の中が花畑状態だろうし、それにきっとキュルケはサムに何もしないだろう。いつものキュルケなら男子にグイグイ来るはずだが、サムには何もしない、何も出来ないのかもしれないが。とにかくこいつはほっておいても大丈夫だろう。とルイズはキュルケを相手にするのはやめた。
次に気になったのはタバサだ、この少女、いつものは読書をしているだけのインドアな女の子かとルイズは思っていたのだが、この前の戦いと言い使い魔のドラゴンと言いただ者ではないのだろう。この年でシュヴァリエと言うし何者なんだろうか。
そして一番気がかりなのが。
「あの子サムに師匠になってって言ったのよね…」
そう。タバサはサムに師匠になって欲しいと、この前の戦いの時に頼んだのだ。サム本人曰く、「夜の練習に付き合ってもらうだけだ。」と言ってはいたけど。なんだろう…この胸のモヤモヤは。なんと言うのだろう。少し悔しいとでも言うのだろうか、私の使い魔なのに何でって気持ちのなのかな。ただの使い魔なのに。なぜか彼女に取られた気がしてあの時から胸がモヤモヤしていた。
「別にあいつと私には何にもないわ…そうよ、ただの使い魔じゃない。」
私にはこの気持ちが良く分からなかった。きっと一時の気の迷いだとおもう。
壁に寄りかかりながら考えていると周りが薄暗くなってきた。
「いきなり暗くなったわね。」
「森の奥に入り始めました、目的地はもうじきですがいつフーケが来るかも分からないので注意はしていてください。」
と手綱を引いているミス・ロングビルが注意を促してくれた。
「はい。わかりましたわ。ミス・ロングビル。ほら、キュルケもサムもタバサも警戒して!」
キュルケはルイズの声を無視して未だにサムを見ていた。
サムは片手を少し上げて起きてることをアピールしてきた。
タバサは近くの杖を持って床をコンコンと叩きいつでも平気な事を表した。
「全く…こいつら緊張感って物をしらないのかしら。」
ルイズはこめかみをヒクつかせながら、ドスンとその場に座った。
でも、この連中はこんなのだが確かに強いには強いのでこんな余裕なんだろうと思う。タバサはシュヴァリエだし、キュルケは一応、まあまあ炎を使えるし、私の使い魔のサムは普通に強いしね。
そう思いながらサムを見ていると、サムが指をクイクイとこちらに呼ぶ仕草をして、右横に置いていたデルフを左の壁に立てかけた。
きっと隣に座れってことなんだろう。我が使い魔ながら気がきくじゃない。「いいなぁー!ずるい!!」とかなんとか言ってるキュルケを他所に私はサムの隣に座った。ふふ、あいつが悔しがってるのを見るのは気持ちいいわ。
それに…少し安心した。やっぱりいつ襲われるか分からないと不安になるもの。
安心してしまったせいか眠くなってきて、私はサムにもたれかかって眠ってしまった。
次に目を覚ましたのは、目的の小屋に到着した時だった。
「おい。ルイズ起きろ。」
「ん…何よ…サム…」
ゆさゆさと肩を掴んでくるサムを怪訝そうにルイズは見る。
「着いたんだよ。いつまで寝てんだ。」
「え?もう着いたの?て言うか私、寝ちゃったの!?」
はぁ?とサムが呆れ顔をする。
「俺の隣で爆睡してたよ。くくっ…口からヨダレ垂らしながら。」
とサムがニヤリと笑みを浮かべながら言った、ルイズは大慌てで口元を拭う。
「嘘だよ。ルイズ。」
と肩をに手を置きながらサムが言ってきた。ま、全く…この使い魔ってやつは…。
「ぐぬぬぬ…。」
ルイズが鬼の形相で睨んできた、本当に弄りがいがあるご主人な事で、コロコロと変わる表情を見るのはこちらとしても楽しいのでついつい弄ってしまう。だか遊びも終わりのようだ。
「サム。ルイズ。会議。」
とタバサが言ってきたのでバサの周りに集まる。
全員が集まったのを確認するとタバサがミス・ロングビルをみてこくりと頷いた。
ロングビルも頷き返し、「では、始めます。」と前置きを置いてから話し始めた。
「まず 。皆さんあそこに見えるのがフーケがいると言われている小屋です。」
と馬車のシートの隙間から指をさす。
おそらく昔は木こり達が使っていたのだと思われるログハウスだ、適度に古びていてその年月を感じさせる。
「まぁ…ただの小屋だな。」
とサムは思ったままの感想を口にする。
「でも、何が潜んでいるかわからない。」
とタバサが口を開く。
「そこで、私は作戦を考えた。」
とタバサは紙とペンを取り出して何やら書き出した。
どうやらここの見取り図の様だ。
小屋は森の開けた場所にあり、もしもフーケが小屋にいた場合かなり見通しがいい。
ルイズ達は今小屋から少し離れた木の陰に馬車を止めており、タバサがコンコンと馬車の位置をペンで叩いた。
「私達の場所はここ。小屋の位置はここ。相手からはかなり見通しがいいから真正面から向かったら逃げられるか、ゴーレムと戦う事になる。」
タバサは見取り図の開けた場所をペンで叩く。
「ばれてしまったら恐らく私達では対応ができないと思う。そこで奇襲を仕掛けたいと思う。」
とタバサはルイズ達を見回す。
「奇襲?」とキュルケ。
「誰が奇襲するのよ。」とルイズ。
「確かに誰を?」とロングビル。
「すばしっこくて突撃力がある人」とタバサ。
すると全員がサムを見た。
サムは片眉を吊り上げて自分に指をさす。
「俺…だよな…。」とため息を吐きサムは頭を掻いた。
仕方ない、とばかりに首をかしげサムは聞いた。
「そんで?どうすりゃいいんだ?」
「うん。説明する。」
とタバサが話し始めた。
内容は要するにこうだ。
サムが馬車から降りて茂みから小屋に近づく、小屋は茂み隣接しているのでバレないようにバルコニーがあるのでそこに飛び乗る。
サムが接近しているうちに、タバサ、キュルケ、ロングビル、の三人は小屋の玄関から向かって三方向の茂みに隠れる。
ちなみにルイズは馬車の見張りだ。
そしてサムが中を確認する、指を二本立てたら全員集合して中に突撃。一本立てたらサムが中に1人で突入し確認をする、もしその時に中からフーケが出た来た時には三方向にいる、キュルケ、タバサ、ロングビルの三人が集中放火してフーケを沈黙させると言う。
なかなかえげつない作戦だとサムは思った。
ちなみに作成を発案し考えたのは全てタバサだ。
全てタバサが、話し終えると。
「じゃ。作戦開始。」
タバサのその一言で全員が動き出した。
タバサは正面から向かって右側の茂みに身を隠した。
キュルケは真正面。ロングビルは左側に隠れた。
サムが茂みの中を音も無く走り、バルコニーに茂みからジャンプした。
くっるッと空中で一回転して体を伏せながらこれまた音も無く着地した。
全くなんて男だと茂みから見ていたロングビル、いやフーケは思った。
あの男は学院長の部屋からここまで一切フードを外さず不気味な雰囲気を放ってきていた、かと言って性格は陰湿なわけでもないらしく彼の言葉の節々には彼の陽気と言うのか斜に構えた性格がにじみ出ている。
それに…やはりあの人に似ているからこそ余計怪しんでしまう。そんな事は絶対にないはずなのに。
サムの雰囲気、言葉使い、その強さ。記憶の中の彼と酷似していた。
でもサムが彼なんてありえない。それに今はどうでも良いことだ、目的を達成する。それだけが大切だ、私の家族の為に生きるそれだけが今の私そのものだ。
その為にもこの目的も達成しなければとフーケは、いや。マチルダは杖を強く握りしめサムを見ていた。
「あらよっと。」
ふぃ。とサムはバルコニーに飛び乗り身を伏せながら壁へと近ずく。
「さながら俺は忍者だな」
子供の頃を思い出して少し笑みがこぼれた小さい頃に憧れた忍者も、今では忍者以上になってしまった。なんだかそれが可笑しくなって声を殺して少し笑ってしまった。
いや、逆に今なら最強の忍者になれるんじゃないか。なんて子供じみた事を思ったことは伏せておく。
「ふざけた事は置いといて。さてさて。中をご拝見…と。」
ささっと壁に近寄り、ゆっくりと壁に体をつけながら立つ。
窓に顔を寄せて中を確認する。
中を見るがフーケと思われる人影は無く、物音一つしない。
「やはり…か。」
とフードの下で誰にも聞こえない声でサムはボヤいた。
「ま…常套手段と言えばそうだしな…それに決まったわけではないしな。」
と独り言をボソリと呟くと三人が隠れる茂みに向けて、1人て中を確認する合図の指を一本立てた。
サムはゆっくりと扉に手をかけてドアを開けた、中を見回してみるがやはり誰もいない。
中の安全を確認したのでルイズ達を呼ぶ事にした。
「おーい!誰も居ないぞ!こっちに来てくれ。」
全員がぞろぞろと茂みから出てきてルイズも馬車から出てきた。
そしてキュルケとタバサが小屋に入り、ルイズは見張り、ロングビルは偵察をしてくると言って森に消えてしまった。
サムは特にやる事も無いので小屋の中から椅子を引っ張り出してバルコニーで座っていた。
「いやー。森林浴って言うのかこれは?中々悪くないね。なぁデルフ。」
「相棒は本当マイペースと言うのか呑気と言うのか…」
ググッと体を伸ばし脱力するサム。
「一度にたくさん小屋に入ってもやる事がねぇさ。俺は仕事したしな。見張り兼休憩ってわけだ。」
「にしてもよー相棒。いつまでフード被ってるつもりだい?ファッションかなんかか?」
とデルフが聞いてきた。
「ファッション…というか。あれだ。」
ケタケタとデルフが鍔を鳴らして笑った。
「それともあれか?他の奴らに表情を見られないようにか?」
ニヤッとサムの口角が上がった。
「そんなとこだ。奴さんもこんな不気味な男が入れば無闇に仕掛けてはこないだろうし、何もなければそれでよし。仕掛けてきたら…」
「仕掛けてきたら?」
「まぁ…殺さない程度に痛めつけて捕まえるさ。学院の教師どもに見せてでもやるかね。」
クククとサムは喉の奥で笑った。
「相棒はあれだね。鬼畜だね。」
「そんな事ねぇさ。デルフ、わかって言ってるんだろう?」
その返事はデルフから来なかった。ケタケタと鍔を数回笑ったように鳴らした。
「んじゃ。俺様はのんびり出番を待つよ相棒。」
「出番を待つと言うか、その内向こうから…」
と言おうとした時に小屋からキュルケの甲高い声がした。
「あったわ!!!!」
どうやら見つかったようで小屋の中が騒がしくなった。
「んっと。デルフ。どうやらあったらしい。」
と言ってサムは立ち上がり小屋に入った。
小屋に行くとルイズが怪訝な様子でなにやらキュルケと話し合っている。
「これ…本当に破壊の杖なの?なんか…杖にしては太くない?それにその心伝えし円盤も本物?」
ルイズはキュルケに見せられた破壊の杖と心伝えし円盤を注意深くみた。
破壊の杖は普通の杖に比べると恐ろしく大きく重い。格好も不恰好で杖の真ん中付近に照準器が付いていてこれで魔法の照準を合わせるのだろうかとルイズは思った。心伝えし円盤に関してはサイズはコインぐらいで奇妙な紋様が入っていて最早何に使うか分からない。
「何よこれ?使えるの、キュルケ?」
「使えるかどうかは、私にも分からないけれど…でも!一度宝物庫の見学の時に見たもの!間違いないわ!」
とキュルケが言ったところでガチャンと扉が開きサムが入ってきた。
「なんだ?見つかったのか?破壊の杖とやらを」
「そうよ!!見つけたわサム!私が、このツェルプストーが見つけたの!見て見て!」
キュルケは子供のように目をキラキラさせてサムに机の上の破壊の杖を見せよう体をどかした。
サムはその破壊の杖を見て驚愕した。
「こ、こいつは…。」
とその時。
グゥアシャャャン!!!
と激しい音を立てて屋根が吹っ飛んだ。
「キャアアアアア!!!」
と言ってキュルケは本能なのか破壊の杖を担いで小屋から出ていき、ルイズは屋根を飛ばした相手を見て固まっていた。
屋根を飛ばした相手は昨日相手をしたフーケのゴーレムだった、ゴーレムの顔に当たる部分から放たれる二つの鋭い眼光がサムを見ていた。
サムはニヤリと不気味にフードの下で笑みを浮かべた。
「ご本命が登場してきたか。」
すっとルイズの前に体を移し、左手の親指をそっとデルフの鍔にかけた。