ゼロの使い魔 その刃は何が為に。   作:刀龍

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月下の戦い

「はっ!はっ!」

 

月明かりが照らすトリステイン魔法学校の中庭に、ブンブンと小切れよい風切り音が響いている。

 

 

「相棒、かれこれ2時間もやってるぜ?大丈夫かよ?」

上半身半裸で、一歩前へ出て打ちまた一歩下がり打つ。剣道などで見る基本の動きをかれこれ2時間。

汗はダラダラだが、その表情には余裕が見て取れる。

 

「平気さ。このくらいアップにもならん。せっかくルイズに夜に自由な時間をもらったんだ。鍛錬あるのみだろう?」

 

「まぁ、俺としても振ってくれるのは嬉しいけどよ。2時間も同じ形で振り続けるなんざすげぇな。全く剣筋もぶれないし、一体相棒はどんな修行をしてたんだよ…」

 

実は買い物にいった次の日の朝に夜の時間を鍛錬に使っていいかとルイズに聞いたところ、許可が下りたので久々に刀を使った鍛錬をしているというわけだ。いやー。やはり刀はいいね。それになんだか前より振るのが早くなっている気がする、さっきからルーンがギラギラ光っているが…何かあるのだろうか?

ま、気のせいだろう。

 

 

同じ時間帯ここは学園の宝物庫がある塔の壁の上に立つ人影が一つ。

土くれのフーケと呼ばれる、巷を騒がせるメイジの大泥棒である。

 

「んー。コルベールから聞いて来てみたけど、確かにこの城壁はすごいね。私のゴーレムで壊せるか…」

 

コンコンと足で叩く、土くれのフーケはトライアングルのスクウェア寄りの土属性のメイジ、泥棒としても魔法使いとしても一級品で、壁ぐらいなら触れただけでどのぐらいの強度かわかる。

土くれのフーケはお宝が大好きで、誰にもばれずに盗みに入ったと思えば大胆にゴーレムで強行突破し強奪することだってある。そしていつもフーケを追っても逃げられて、残るものは土くれのみ。

ゆえに土くれのフーケと呼ばれる。そしてフーケは今『破壊の杖』と『心届けし円盤』を盗みにきた。

盗むために、情報収取をした結果コルベールからもたらされた城壁を叩いて壊して盗むという事に決まったのだが、これには弱点がありもしも一発で壊せなければ逃げられる保証が無くなってしまうのだ。ここは魔法学院、性格はあれだが優秀なメイジ達が揃っている、それを相手に逃げられるかどうかと聞かれれば、何発も打ち込んで人を集めてしまったら無理だろう。フーケは城壁の硬さに頭を悩ませていた。

 

「全く、どうしたらいいのかわからないわ。一発かけるべき?うーん。」

 

こんな時いつも思い出すのはあの人の笑い顔。ニヒルな笑みを思い出すとなんだか勇気が湧いてくる。

 

「やるか…よし。それじゃ…」

 

とゴーレムを召喚しようと思った時に中庭の方から声が聞こえてフーケはばれたのかと思いとっさに城壁を飛び降り茂みに隠れた。

だが良く確認してみると中庭にサムが剣を振っているところにルイズが呼びに来た声だったらしくフーケは、ふぅ、と安堵の息を漏らした。「にしても。どうやって城壁を破ろうか…」

とフーケはその場でまた考え始めた。

 

 

 

「サムー。夜に出かけてもいいかってどこに出かけたのかと思ったら。中庭で何して…」

 

と夜なので近くまで行かないと姿が見えないせいでサムが上半身半裸で気がつかなかった。ルイズは生まれてこのかた父親以外の裸など見た事がない。おまけにサムは中途半端な鍛え方をしていない、死地を数えきれぬほどその身一つで切り抜けた侍の体。まるで彫刻用にハッキリと筋肉が浮かび上がりルイズはその肉体に目を奪われた。

 

「すごい…」

 

「ん?何が凄いんだ?」

 

「あっ!そのーあれよ、アンタ汗すごいんだから部屋入るときには体洗ってくるのよ!」

 

「なんだそんなことか、はいはい、わかってるさ。」

 

ルイズは心の中で何とか誤魔化せたと一安心した。全くどれだけ主人を驚かせれば気がすむのだこの使い魔は。

なんてやり取りをしていると後ろから人影が二つやってきた。

 

「サ、サムー!あの、い、今暇ですこと?」

 

と少し緊張した面持ちのキュルケといつも通りの無表情のタバサがやって来た。

 

「ん?キュルケか?俺になにかようか?」

 

「なにか私の使い魔に用?ツェルプストー。」

 

「ルイズには用事はないの。私が用事があるのはサムよ!」

 

とキュルケを仁王立ちして止めていたルイズを押しのけて後ろに何か隠した様子のキュルケが俺の前に来た。

 

「サ、サム?あのね、私あなたにプ、プレゼントがありましてよ。」

 

頬を赤らめ、上目遣いに聞いてくる、だがこの様子だと本当に緊張しているのだろう。何時ものキュルケの余裕がない。

 

「ん?プレゼント?俺にか?」

 

と聞いてはいるが、きっと店主が言っていた大剣だろう。後ろから剣の柄が見え隠れしている。

だが…それ以上に気になるのがキュルケの態度だ、なんと言うかもじもじしていてキュルケでは無いような気がする。なんだ?俺はこいつに何かおかしい事でもしたのか?

 

「これ!!一生懸命サムのために選んだの!受け取って!」

 

バッ!!と勢いよく両手で剣を突き出してきた、キュルケは顔を伏せてプルプルしている。うーん。流石に貰わないというのはキュルケに悪い気がするし、店主も良い剣と言っていたので受け取るには受け取るが…。

 

「ありがとう。キュルケ。」

 

剣を抜いてみる。うん。中々に良い剣だ重心がしっかりしていて大剣独特の良い重量。硬さも中々。悪くない。そしてこの剣を握った時にこの大剣の使い方が漠然とだが頭に浮かんだ。おかしい話だ。使った事もないタイプの武器なのに使い方が浮かぶとは。またルーンが

輝いた気がした。

 

「相棒!俺様には劣るが、その剣まあまあじゃねぇか?」

 

「確かにな…キュルケ。良い剣だありがとよ。」

 

するとキュルケがバッと顔を上げて目をキラキラさせて嬉しそうな顔をする。

 

「本当に!?良かったわ。その…良ければ使ってねサム。」

 

「あぁ。もちろんだ。」

 

そう言ってサムは笑ってくれた。私のプレゼントで笑ってくれて本当に嬉しい。今までの男でこんな思い抱かなかった。まさかこのキュルケ、本当に恋に落ちちゃったの?イヤーん!!なんて一人でやっているキュルケを押しのけてお次はタバサが出てきた。

 

「サムエル・ホドリゲス。私と戦ってほしい。」

 

この少女いきなり何を言うかと思えば戦う?何をいきなりと思い断ろうと思ったんだが。

この少女の目がサムをそうさせなかった。真っ直ぐな覚悟と強い信念の目をしていた。そしてこの目は命のやり取りをした事がない奴には出来ない瞳だ。

雷電もこんな瞳をしていたな。

すると横からキュルケとタバサのいきなりの登場にあっけにとられていたルイズが我に帰った。

 

「アンタ何言ってるのよ!いきなりツェルプストーと現れたと思ったらサムと戦う!?もう訳がわからないわ!キュルケ!!アンタもよ何とかしなさいよ!あとサム!キュルケから物を貰わないで!!」

 

「あら?ルイズ?私が彼に剣をプレゼントした事に嫉妬しているのかしら?うふふ。ヴァリエールは心が狭いのね。」

 

「と言うかそんな事はどうでもいいわ!!戦うとか言ってるこの子を止めてよ!」

 

「確かに。タバサ?いきなり戦うなんてどういう事?」

 

とまるで妹をたしなめるようにキュルケはタバサに聞く。

 

「別に理由はない。サムエルと戦ってみたいだけ。」

 

ジッとタバサとキュルケが見つめ合う。するとキュルケは諦めたように首をふり肩を落とした。

 

「はぁ。ルイズ。悪いけど諦めてほしいわ。タバサはこうなったら聞かないもの。」

 

「はぁ!?何よそれ!?サム!?アンタこの子とまさか戦うつもり!?」

 

サムはジッとタバサを見る。その真意を問うかのように。

 

「お嬢ちゃん。俺と戦う。それは本気か?」

 

「本気。それとお嬢ちゃんじゃない。私の名前はタバサ。」

 

「ほぅ。タバサ…ね。ふふ。いい瞳をしているな。」

 

今一度タバサの目をじっと見つめる。そしてサムはニッと笑った。

 

「それなら。戦ってやるよ。タバサ。」

 

「サム!?何言ってるのよ!本気!?」

 

「あぁ。この子強いのだろう?少なくともギーシュよりかは。その年でその隙のなさはありえないからな。」

 

するとキュルケが口を開く。

 

「タバサは『シュヴァリエ』の称号を持つ騎士だわ。そんじょそこらのメイジなんかよりよっぽど強いわよ。」

 

ルイズは「シュヴァリエ!?」と驚きの声を上げた。

 

「なぁルイズ。シュヴァリエってなんなんだ?」

 

「シュヴァリエって言うのはね。さっきもキュルケが言っていたけど騎士の称号なの。ランク的には一番下なのだけれど…。」

 

「下なのだけれど?」

 

「戦果を出した人にしかもらえない称号なのよ。つまり戦争に参加したことがあって結果を出したってことよ。」

 

「なるほど…人を殺したことがあるのか。ふふ。面白い。タバサ一戦相手をしてやるよ。」

 

ルイズはこちらを本気!?と見つめてくるが、ニヤリと笑いかえしたら諦めたのか俺から距離を取る

俺はパーカーを羽織り、タバサから距離を取った。

 

「何時でもいいぜ。俺は…キュルケから貰ったこの大剣で相手をしよう。」

 

「相棒!?俺は使ってくれねぇのかい!?」

 

「お前じゃ、相手にならん。」

 

「なにぃ!!俺はボンクラ刀だっていいてぇのかい!?」

 

「違う。お前を使ったらあの子と俺ならかなりの実力差があるからな。使い慣れてない大剣じゃないとすぐ決着がついてしまう。」

 

「なるほどね。んじゃまぁ。今回は大人しくしますよ。相棒。」

 

とデルフは静かになった。俺は大剣を抜いて脇に構える。

 

「ルールは?」

 

タバサに問う。

 

「何でもいい。」

 

「それならどちらかの背中が着くまでな。」

 

タバサも杖を構え、使い魔の竜を呼んできた。

 

「おいおい。いつも中庭で俺を見てくるドラゴンはお前のだったのかい。」

 

タバサは一言も発しない。ただ体に緊張感を漲らせてこちらを真っ直ぐ見てくるだけだ。

 

「はいはい。早くやりたいのね。それじゃあ、始めますか。」

 

サムは腰を低くし脇に剣を構えた。タバサも杖を真正面に構える。

 

「来な。タバサ。」

 

 

さてさて。どんどん物語は加速していく。

 


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