目を開けると奇妙な空間に俺は立っていた。
周りは真っ白でどこまでも続いてるような空間だ。
「どこだ?ここは。」
「ヨクキタ。ニンゲン。ココハ、ワレノセイシンノナカゾ。」
どうやら精神空間のような場所に来てしまったらしい。
ふと自分を見て気がついたが、ルイズに呼ばれる前の格好をしていた、左手には懐かしいムラマサを持っていた。
「おいおい。ずいぶん懐かしい格好をしてんな俺。」
「キサマノキオクノナカデ、ツヨキキオクヲヨビサマシタ。」
「そんで?マルガム。試練とやらは何をするんだ。」
「フフフ、キマッテイル。ワレトノタタカイゾ。ワレヲウチマカセ。サスレバワガチカラワケアタヨウ。」
ま、薄々は気がついたがね。こんな格好をしてるんだ、それ以外ないか。
「成る程。シンプルでいいね。それじゃ始めようぜ。」
「ウム。ソウダナ。ヒサビサノタタカイゾ。ココロガオドルワ。」
としたからマルガムが出てきた。
本当に竜人だった。簡単に言えば竜が立っていると思えばいい。何だっけあれだ…そう。ゴ○ラのアメリカ版を厳つくして赤い鎧を纏いハルバートを持っていると想像すれば簡単だろう。
「へぇ。武器を使うのか?てっきり炎と魔法を使ってくると思ったが。」
「ホノウモセイレイノチカラモツカエナクワナイガ。ソレデハワレノホンキガダセヌ。」
「それがあんたのガチってことか。」
「ソノトウリゾ。サムヨハナシハイイ。ハヤクハジメヨウデハナイカ。コノココロオドルタタカイヲ!!」
「良いぜ。始めるか。」
とマルガムは目を爛々と輝かせた顔をニヤリと歪めた。
「ヒサビサノキョウシャゾ。ウデガナルワ。」
サムは愛刀のムラマサをスラリと抜き正面に構える。
「サムエル•ホドリゲス。参る。」
「グォォォォォ!!フルエヨ!!ワガ、タマシイィィィィィ!!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
その場でマルガムがハルバートと大きく一振るいする。するとゴウゴウと音を立てカマイタチが発生し、こちらへ向かって来た。
「クラウガイイ!」
「目に見えない斬撃ってか?けどまぁ。避けれなくないね。」
サムは風の動きを読んで身体を右へ左へと逸らす。
「ナカナカヤルナ。ワガ、ワールウィンドヲヨケルトハ。」
「なぁ?本気だそうぜ?マルガムさんよぉ?」
「グフフフ。イクゾ!!」
「速い!!」
凄まじい勢いハルバートを持ち突っ込んで来た。
右からハルバートの遠心力が乗ったフルスイングが飛んでくる。
俺はそいつを受け止めようと刃を合わせる。だが。
「まじかよ!!」
重すぎる。斬撃が半端じゃないぐらい重い。ハルバートと言う長物故遠心力の乗ったフルスイングが威力があるのは分かってはいたが、それでもデタラメ過ぎる威力だ、刀が折れちまう。まともに受けちゃダメだ、流さないと。
マルガムは一発目で俺を仰け反らせハルバートを短く持ち連撃を放ってくる。刃の部分だけではなく柄の部分も使って攻撃をしてくるのでどっちから攻撃が飛んでくるか分からない。
「ソラソラソラァ!!」
「強いね。ドラゴノイドは伊達じゃねぇってか?」
「グハハハ。サムヨ、ワガイチゲキヲウケトメタダケデモスサマジイワ!ワレハウレシイゾ!!」
とは言っているが俺は防戦一方だ、威力が半端じゃないから油断も出来ん。
だが喰らってるだけのバカじゃねぇ、俺はパターンを見つけた。とめど無い連撃の中にトドメを刺そうと時折フルスイングを混ぜてくる。その時だけが隙がある。俺はひたすらにその時を待つ。
「サムヨ、ソノテイドカ?ツマラヌナァ。ナラバ、インドウヲワタシテクレル!」
フルスイングが来た、右からのフルスイングを俺は頭を下げて避けそのままの勢いで奴体に当身をし腕を斬り上げた。スパァンと右腕が斬れ飛んだ。
「グアア!!キサマ!ワガ、コウゲキヲミサダメテイタカ!!」
「ふぃー。当たったらどうしようかと思ったが。上手くいったね。」
刀を肩に乗せ挑発するように言う。
「ヤルナサム。ダガ!!」
ブォンと目の前にハルバートが掠めた。
「あっぶね!!」
「カタウデデモワガツヨサ。カワラヌワ。」
右に左にと独特なステップを踏んで、攻撃をしてくる。
また連撃の打ち合いだ。刃を斜めに合わせて受け流す。
だがもう勝負は付いていた。
「マルガム。見切ったぜ。」
「タワケゴトヲ!!」
連撃がスローモーションになって見える。精神を究極までに集中させる。
そして奴の事だ確実にまた大振りがくる。
「セイヤァ!!」
後ろ回し蹴りが飛んできたそれをしゃがんで避ける。
そしてそのままの勢いで上段からハルバートが振り下ろされてくる。
まともに食らったら死ぬ勢いだが、俺は冷静に鞘に納刀しながら身体を左に避ける。
ドゴン!と地面にハルバートがめり込む瞬間。
抜刀。腕から胴体までを横一文字に斬り裂く。ゴトリと音を立ててマルガムの上半身が落ちて、体が光の粒子になって消えていった。
しばらくすると声が響いて来た。
「グフフフ。サスガダ。サムエル。」
「どうも。あんたも強かった。半端じゃなく。」
「アタリマエゾ。ワレハホコリタカキドラゴノイドナノダカラ。」
「そんで?試験はどうなんだ?」
「ムロン。ゴウカクゾ。ワガタマシイハキエルガ。ワガミノカケラガキサマノチカラトナル。」
「んじゃありがたく使わせてもらうよ。」
「ウム。ヒサビサノタマシイオドルタタカイダッタゾ。サァイケ。ツヨキヒトノコヨ。」
「じゃあなマルガム。お前さん最高だったぜ。」
「アタリマエゾ。サラバ。ワガ、センユウヨ。キサマノミニシュクフクアランコトヲ。」
その声を聞いてすぐに目の前が真っ白になっていった。
「相棒!!おい!起きろ!相棒!」
目の前がぼんやりと見えてきた。俺はどうやらぶっ倒れたらしく手に持っていたデルフがカタカタと俺を起こそうと必死みたいだ。
「あぁ…デルフ。俺はどうなってたんだ?」
「相棒!!起きたかい!どうなるもこうなるも、いきなりスボン履いたらなんか独り言言いだしてそのままぶっ倒れちまってよ、おらぁ相棒が頭イカれちまったかと心配になったぜ。」
「はは…確かにそいつはイカれてる奴のすることだな。」
「まぁ〜でもよ!相棒が目を覚ましてくれて良かったよ!」
「ありがとな。ん…そーいや。」
とスボンはどうなった?と気になり下を見てみると。あんなに重かったズボンはまるで羽のように軽く赤と黒の迷彩色のズボンになっていておまけにブーツも履いていた。
「相棒?そーいやそのズボンどうしたんだ?さっきと色がちげぇなぁ。それにブーツなんか相棒履いてたっけ?」
「いや…履いて無かったはずなんだが…」
と頭に声が聞こえてきた。
「サムヨ。ワガブンシンキニイッテクレタカ?」
「その声?マルガムか?」
「相棒?マルガムって誰だ?いや…どっかで聞いたことあるような…」
「ワガハナシハ、アタマノナカデ、ヘンジデヨイ。ソレヨリモドウダ?ワガシュクフクトシテ、ニンゲンノクツナルモノモツケタゾ。」
「ありがたいよ。悪いなマルガム。」
「ヨイヨイ。ワガブンシンガアレバソラヲモカケルコトガデキル。コノヨノコトワリノモノナラスベテウチクダクコトモデキヨウ。サムヨ。オノガタメニツカウガイイ。サラバダ。サムエル。」
「じゃあな。マルガム。」
すると、外の方から竜の気高き咆哮が聞こえた気がした。
俺を祝福してくれるかのような力強い咆哮だった。
「うぉ!!なんだ今の声は!?あ!?今のでわかった!マルガムってあれだ!烈脚斧覇竜マルガムか?相棒?聞いてる?」
「ん?あぁ聞いてるさ。んでどうしたって?」
「相棒のよ、マルガムって単語がどーも引っかかってな。思い出したんだよ!そのズボン確かドラゴノイドの素材だったよな?」
「店主はそう言っていたな。」
「ドラゴノイドの素材。マルガム。そんで何よりそのズボンの色!全部繋がったぜ。相棒、そのズボンの素材はな烈脚斧覇竜マルガムって言う歴代のドラゴノイドの中でも最強と言われた竜の一人だぜ。」
「烈脚斧覇竜マルガム?まぁ確かにハルバートを持ってたしすごく強かったな」
「相棒、戦ったのかい!?」
「あぁ。その我が分身の所有者になりたかったら戦えとよ。」
「すげーや。そんで?どうだった?」
「勝ったぜ。認めてくれて、我が分身を使えとよ。」
とズボンを見せる。
「まじかよ。相棒勝っちまったのか。おでれぇた。烈脚斧覇竜に勝っちまった。」
「なぁ?デルフ。その烈脚斧覇竜ってなんなんだ?」
「マルガムの異名さ、奴が最強って言われる所以はその脚力の強さにあったのさ、空をも自由に走り回り、烈風の嵐のように敵をなぎ倒す。その強靭な脚腰から繰り出される蹴りや斧の一撃は正しく最強。顔にトレードマークの赤と黒の紋様を入れた奴は、その他を寄せ付けぬ程の強さ故に、烈脚斧覇竜マルガムって呼ばれてるのさ。」
「デルフ、よく知ってるな。」
「まぁな、自分でも忘れるぐらいの年生きてればそうならぁ。」
カタカタとデルフは誇らしげに鍔ならし笑う。
「ま、ズボンも手に入れたし、サッサと帰ろう。本当に今日は疲れた…。」
サムは立ち上がり部屋から出ると、ルイズと店主が「何さっきの声は?」とびっくりした顔をしていたが、店主はすぐ笑顔に戻りルイズはぷくーっと可愛らしく頬を膨らめていた。
「旦那!!そのズボンは…」
「あぁ。認めさしたぜ。ドラゴノイドをよ」
「さっすがぁ!!旦那!いやー。あっしの目に狂いは無かったってこった!!」
すげぇや!すげぇや!とサムの肩をバンバン叩く。だが奥のルイズはご不満のようだ。
「おっそい!!いつまでご主人様を待たせるの?早く帰らないと日が暮れちゃうの!!そのズボン履けたんなら帰るわよ」
「だ、そうだ店主。またこの話は今度来た時にな。」
「へい!旦那!またきてくだせぇや!」
とルイズはもう先に外に出て行ってしまっていた。全く気の早いご主人様で。
やれやれと思いながら店を出ようとすると店主に呼び止められた。
「旦那。あの、赤髪の貴族の件ですが。」
「あぁ。どうだった?」
「ばっちしでしたぜ!いやーありがてぇ。いい儲けになりやした。でも旦那に渡すもんですから、ボンクラな剣でねぇんで。もし良かったらつかってくだせぇ。そんじゃ!旦那。またきてくだせぇや。」
「おう。なにからなにまですまんな。またな店主。」
へい!と小切れよい返事をしながら手を振って見送ってくれた。
さてと。我が愛しのご主人様と帰りますかね。
ほんのりと夕暮れが染まる街並みを急ぎ目に新しい出会いに心躍らせながらサムの初めての買い物は終了した。
所変わり帰り道。
そりゃもう町を出た時には夕暮れだったもんだから帰り道なん真っ暗闇だ。ご機嫌斜めなご主人の後ろで松明持って三時間。もうルイズはお怒りマックスだ。
「あんたが遅いからこうなるんじゃない!!全く!」
そして今俺は部屋でお叱りを承っているわけだ。
このままでは外で寝ろなどと言われかねないが。俺には秘密兵器がある。
怒り心頭で怒り疲れたのかベットで横になったルイズを呼ぶ。
「なぁ…ルイズ。」
「なによ?」
ん、とサムは私に何かを手渡してくる。何こいつと思って手を見ると。
そこには昼間欲しかったのに人目が気になって買えなかったイヤリングがあった。
「これ…」
「ま、今日買い物してくれた俺なりのお礼さ。欲しそうにしてただろ?」
な、とでも言うようにサムはニコッと笑った。私は不覚にもその笑顔に胸がキュンって苦しくなった気がした。顔が熱い。でもプレゼントしてくれてすっごい嬉しい。サム、以外とかっこいいのよね。なんて思ってしまった事にまたまた顔が熱くなった。
「べ、別に欲しいなんて頼んでないし言ってないわ!でも、捨てるのは勿体無いから私が貰ってあげる。ありがたくおもいなさいね!」
「はいはい。」
私はサムの手からイヤリングを奪うようにして布団に潜った、真っ赤な顔を見られたらなんて言われるか分かったものじゃないから。
男の人にプレゼント貰ったなんて初めての体験だし。きっとその嬉しさで顔が真っ赤なのよ。と自分に言い聞かせて目を閉じる。
でもね、心のどこかでは分かってた。出会ってそんなに立ってないけど私の為に戦ってくれたこいつから貰ったから嬉しいんだって。でも今の私には素直にはなれなかった。だから眠った振りをした。
「おーい。ルイズ?寝ちまったのか?」
「相棒。嬢ちゃんは寝たさ。俺らも早く休めようぜ。疲れてんだろ?相棒も。」
「それも。そうか。ふぁぁ。寝るとしますかね。」
とサムはいつもの壁際で剣を抱いて寝てしまった。
私は寝ているあいつにならお礼を言える気がして小さな声で呟いた。
「ありがと…サム。って聞こえてないわよね。おやすみなさい。」
言ったらなんかスッキリして心地よい微睡みの中に私はゆっくりと落ちていった。
「すー。すー。」
「聞こえてるさ。ご主人様。俺の方こそありがとな。おやすみルイズ。」
中々素直になれない二人をそっと二つの月は優しく照らしていた。