『101番目の哿物語』   作:トナカイさん

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キンちゃんが変身ー!
原作と比べ、かなり早い時期に目覚めました。
モンジより元がハイスペックだからいいよね?ね?

反論は聞かん!(嘘)

目覚めたと言っても完全に使いこなしてはいません。
使いこなしてはいません!←ここ、重要!
大切な事なので2度書きました。


キンジはすでに人間離れしてますが大丈夫!まだまだ成長の余地はありますって。
……ありますって。(多分)

では、どうぞ。


第十七話。背中の暖かさ

その言葉を言い放った瞬間、俺は自身の体が軽くなっていくのと俺の周りから音が消えていくのを感じた。

それは、まるで空中に浮かんでいくような無重力空間を漂うような不思議な感覚で、だけど不思議な事にそれは決して嫌な感覚ではなかった。

そして、体が軽くなったのと同時に、虫達に遮られていた視界も良くなっていく。

瞼を開き辺りを見渡すと俺に覆い被さっていた虫達が一斉に俺から離れていくところだった。

まるで何かから逃れるかのように。

虫達が体から離れていく感触を感じながら自分の体を改めて見渡すと動かせなかった体全体からは赤い、緋色の光が溢れていた。

その光の源を探すとその光は制服のズボンから溢れていた。

その光源の中心はズボンのポケットだ。

ポケットに左手を突っ込んで光源の元である緋色に光り輝いくDフォンを取り出すと俺はそれを握りしめたまま、熱い左手の甲をキリカに向けた。

 

 

直後Dフォンが勝手に動作し、俺自身を写真に写す!

すると、今までにない不思議な和音のメロディーが動作音として鳴り響き______。

 

「わぁ!」

 

キリカの驚く声が聞こえた。

 

霧深い公園の景色が赤と金の色に包まれた。

俺の周囲を蝋燭の炎に似た無数の緋色の光が回転していく。

その炎を見つめると炎が変化し、一条の光の線となって俺の頭の中に入ってきた。

頭の中に入った光は俺が持つ力の使い方の情報として頭の中に流れ、ヒステリアモードの俺はその情報により俺の力の使い方を理解していく。

そして使い方を理解した俺は俺を襲った蜘蛛を3匹捕まえ、その蜘蛛の中から一匹を選び、その蜘蛛に触れた。

その蜘蛛の物語に『干渉』してその物語の存在性を『変化』させて俺が思い描いた『イメージ』を具現化させる為に。

 

 

『不可能を可能にする男』。

(エネイブル)

それは俺自身を示す二つ名。俺自身の事だが、その姿、その存在とは一体どんなものなんだろうか?

俺が思い描くその物語とはなんだろうか?

その姿を想像し、蜘蛛に触れながら自身の姿をイメージすると自分自分が想像した姿へと俺の姿が変化していく。

 

「うわ、わあー。変身だー!

変身ヒーローになったー」

 

キリカの驚いた大声が聞こえた。

 

「『主人公は変身する事で強くなる』ものだからね!」

 

俺が思い描いた姿は、俺自身が着慣れていた前世での格好。

そう、トレーニングウェアから東京武偵高の制服姿へと俺の姿は一瞬で変化していた。

その制服に使われている防弾繊維や防刃ネクタイも俺自身のイメージから具現化したものだ。

手に握っていたDフォンは緋色に光り出したかと思えば何故か細長い棒状のものに変化していた。

光が収まるとその棒状のものの姿がはっきりした。

それは俺がかつて使っていた細身の刀。

その直刀に近い形状をしたそれは……スクラマ・サクス。

香港で孫のレーザービームによりクリスマスツリーに変化し、今はヴィクトリア湾の底に沈んだはずのそれが目の前にあった。

 

(これは流石に予想外だ。

……これも武器をイメージしたせいか?

確かに刀欲しかったけど……)

 

「そして主人公は変身してからが本番だよ!」

 

戸惑いながらもスクラマ・サクスを手に取り、キリカに向かってそう告げながら動かないでいる蜘蛛に近づく。

残った蜘蛛2匹を使い、その内の1匹に触れて体を『変化』させていく。

流れ込んできた情報によると俺は他のロアに接触する事でそのロアの存在を改変できるようになる、らしい。

らしい、というのは全ての能力を把握したわけではないからな。

俺が知ったのはロアに触れる事で『干渉』して、新たなロアや事象、モノに『改変』できるという能力を俺のロア、『不可能を可能にする男(エネイブル)』が持つという事だ。

 

赤い蜘蛛に触れると蜘蛛は俺がイメージした形に変化していく。

前世で俺が長い間、使っていた相棒へとその形を変えていく。

 

「うわ、うわあ。蜘蛛が銃に変化した⁉︎」

 

興奮したキリカの声をBGMに蜘蛛を銃に変えた。

キリカの言葉通り、一匹の蜘蛛は一丁の自動拳銃へとその姿を変えていた。

俺が前世で使っていた、自動拳銃の一つ。

ベレッタM92Fへと。

武器を作り出す事に成功した俺だが俺の能力はこれだけじゃない。

 

「驚くのはまだ早いよ?

さあ、糸を出してごらん」

 

俺が片手で触れていた最後の蜘蛛は、俺の指示に従い公園の木々に向けて口から糸を吐いた。蜘蛛の口から吐き出された糸は木の枝に掛かると一瞬で蜘蛛の巣を形成した。

『糸を吐き出したらすぐに巣が出来る』。

そう俺が想像しながら蜘蛛に触れた事により、その想像がイメージ力の具現化により現実に蜘蛛の巣となった。俺のイメージ通りに。

吐き出された蜘蛛の巣は網目状に広がっていた。

やがて霧が立ち込める中、強風が吹き蜘蛛の巣を飛ばした。

飛んだ蜘蛛の巣はキラキラとした光の粒子となり、その粒子は飛ばされた蜘蛛の巣の真下にいた俺に降り注いだ。

その光を浴びた俺は驚くほどポジティブになった。

何をしても今なら成功する。

そうとしか思えなくなっている。

何をしても良い事しか起きない。そういった加護を受けたかのように。

まるでメーヤの『強化幸運(ヴエントウラ)』を受けた時のような。

 

 

 

「風で飛ばされた蜘蛛の巣かあ。『幸せの前兆』の都市伝説の中にある『風で飛んできた蜘蛛の巣は幸運の印』を現したんだね!

なるほど……私が放った『人を食べる虫』の都市伝説に、その蜘蛛の物語に『干渉』して『改変』したんだね。

人を食べる虫だったその子に蜘蛛の巣を作らせてその『巣が風で飛ぶ事で幸福を与える存在』としてその子の存在自体を『改変』したんだね」

 

『物知りキリカ』の異名の通り、蜘蛛の巣に纏わる都市伝説についても詳しく知っていたキリカが解説をしてくれた。

 

「ああ、蜘蛛(・・)のロアだから蜘蛛に纏わる怖くない都市伝説としてその物語を変えてみたんだ」

 

「そんな事が出来るなんてね……やっぱり君は面白いね!

面白いから、危険だから次は確実に殺さないとね……」

 

「出来れば見逃してくれるとありがたいんだけどね……」

 

「それは駄目だよ?

もう、正体を明かした以上は……君を逃せないよ。

というか、何で逃げようとしないの?」

 

キリカが不思議そうな顔をしながら俺を見つめているがそう、俺は自分から逃げようとは一度もしていない。

襲いかかってきた虫達を排除してはいるが、逃げるという行動は一度も取っていない。

 

「なんというか、逃げたらいけない気がするんだよ」

 

「気がする、ってその虫達、超キモいよ?むしろ虫を3つくっつけた漢字の蟲って感じだよ?」

 

「それは嫌だね。嫌だけど……ここで逃げたら、嘘になるからね」

 

「嘘?」

 

「ここで逃げたらキリカ。君と過ごした期間とか、友達って事とか、諸々がそういった事が全て嘘になりそうだからね!」

 

キリカとは俺が一文字として目覚める前から、元々の一文字疾風の親友として結構上手くやってきたんだ。

ここで逃げたら親友として過ごしてきた時間が、思い出が、それらが全部嘘になるみたいで、俺は嫌だった。

 

「あ……あは、あははは⁉︎うん、いいんだよ、モンジ君、それはそれで!」

 

「え?」

 

「だって嘘だもん」

 

「……え?」

 

「みんなの記憶の中に、さりげなく私が混ざりこむ魔術ってのがあってね」

 

「……うん」

 

「私と過ごした大半の記憶は嘘だよ。私と君は知り合ってから実はまだ一週間くらいだしね」

 

「……え?」

 

キリカが言った言葉に、絶句してしまう。

 

「そうか。君は記憶も操れるのか……」

 

十二宮中学での出来事が脳内で再生された。

誰も覚えていなかった『トイレの花子さん』の噂。

まるで記憶を改竄されたかのように話す、四条先生。

噂があった事すら知らないままで女子トイレを利用していた、後輩達。

一つ、一つのピースがジグソーパズルのように当てはまり、ここでようやく繋がった。

彼女は虫を操り、その虫達に襲われた人やロアからキリカは精神や記憶を、虫達が人やロアの肉体を食べていたんだ。

 

「『魔女ニトゥレスト』。君が操る虫は人を、ロアを、記憶を、物語を食べる……それはこう言う意味だったんだね」

 

「うん!大正解!よく解りましたー!

では当たったお祝いに……」

 

キリカが両手を広げると______

 

「四方攻めからの虫さん達によるお・しょ・く・じ・ショーにご招待しまーす!」

 

俺の四方を固めるように虫が集まった。

俺を完全に取り囲む形で。

 

「それはご遠慮したいな……」

 

「ダ・メだよ!だってそのショーの餌は……」

 

「餌は?」

 

予想はつくが、外れている事を願って聞き返す。

 

「君だからね」

 

「やっぱりか……」

 

「うん。残念だけど……ここまで明かしちゃったからにはね。

バイバイ、モンジ君。やっぱり君の事は、好きだったよ」

 

予想通りの言葉と本日3度目かになる告白の言葉を言ったキリカが、右手の人差し指で俺を指すと虫達が一斉に襲いかかってきた。

 

「『干渉』、『変化』……糞、数が多いな」

 

俺は能力によって虫達を排除しようと試みたが……駄目だ。

1体1ならその物語に『干渉』して『改変』できるが複数を、それも四方を囲むように展開している虫達を同時に改変するなんて事は出来ない。

少なくても今現在の俺では……。

銃を撃って虫達の排除を試みるが数が多過ぎる。

すぐに弾切れを起こした俺に虫達が一斉に覆い被さってきた。

スクラマサクスで払うが数が多い。

 

(ああ、糞……これはさっきと同じ状況だ。

能力に目覚める前と同じように顔面にまで蜘蛛やワームが覆い被さって来やがる!

ちきしょうー、気持ち悪いなー)

 

抵抗する間もほとんどなく俺は虫達により襲われた。

頭から全身を包み込むかのように。

何の抵抗もできなかった。

いや、違うな。

抵抗しなかったんだ。

本当は……!

正直な話。

こうなる前に俺は逃げようと思えば逃げられた。

キリカはそれくらい油断というか、猶予をくれていた。

だけど俺は逃げようとしなかった。

出来なかった。

ヒステリアモードの俺には。

いや、違うな。素の俺でも逃げようとはしなかっただろう。

キリカを、女の子を置いて、そのまま逃げ出す事なんて事は。

 

「わっ、こんなに凄い目に遭っても、まだ心が折れないの⁉︎」

 

キリカは全身を虫達に覆いつくされている俺にやたらと驚いていた。

……そうか。

さっきキリカは言っていた。

まずは自分が精神を食べてから、虫達が肉体を食べる、と。

逆に言えば、俺の心が折れない限り、キリカは、虫達は俺を食べれないんだ。

何故ならここにいるのは現実の虫ではなく、あくまで『ロア』の蟲だからな。

だからこそ、ルールが存在しているんだ。

 

「がぼごぼがぼっ」

 

口を開こうとしたが、蟲が口の中に入ってきて開けなくなった。

 

(死ぬ!

『殺しても死なない男』とか呼ばれてたけど、これは死ぬ!

精神的に死ぬ!

口の中で蟲が蠢くとか死んだ方がマシだー‼︎)

 

いきなり心が折れそうになった。

 

「何が言いたいのよ、もう……」

 

キリカの呆れたような声はすっかりいつも通りな調子に戻っている。

まあ、心に余裕が無いのは、迷いがあるのは、むしろ俺じゃない、な……。

だとしたら伝えないといけない。

キリカに。

『ロア』すらも喰い尽くす魔女『キリカ=ニトゥレスト』に。

 

「げほっ、ごぼっ、うぇー、ぺっ、ぺっ!」

 

口の中に入っていた蟲達を吐き出しながら叫ぶ!

 

「俺は、______それでもキリカの事、大好きだよ!」

 

顔面には、虫達が這い回っているせいで、キリカの姿を見る事は出来ない。

だけど声なら届く。

 

「……偽りの記憶なのに?」

 

「偽りでも、キリカはキリカだ!

ならそれでいいっ!」

 

「女の子はみんな役者だよ?演技上手だよ?」

 

「それでも、俺は______」

 

キリカの声には、若干の戸惑いがあった。

 

「そんな事は、嫌う理由にはならない!どうしてもキリカを嫌いになれないんだ!」

 

ヒステリアモードの今、俺は女性に優しい、甘くなっている。

だが、それだけの理由でこんな事は言わない。

 

「俺には君が必要だ!」

 

「……そっか」

 

キリカの声に、申し訳なさそうな響きが込められる。

 

「じゃあ……ごめんね。本当は絶望とか、怒りとか、増悪をいっぱい引き出して、それを私が食べて……その意識を失わせてから、ゆっくり蟲達がモンジ君の体を食べて、そのDフォンを奪い取るつもりだったんだけど……」

 

「それは無理だよ。俺がキリカを嫌いになるなんて事はまずあり得ないからね。キリカ、君は人選を間違えたんだよ。仲良くなる相手として、ね」

 

そう、俺は余程の事がない限り、仲良くなった相手を嫌いになる事はない!

特にヒステリアモードの俺は。

まあ、いきなり虫とか蟲で襲われてはいるが、前世でも実銃とかで撃たれたりしてるしな。

 

「……みたいだね。だから、ごめんね、モンジ君。なるべく痛くないようにその子達に食べさせるからね?」

 

「……やっぱり食べさせるのは変わらないんだね」

 

「うん?だって、その子達は私の攻撃手段でもあるから」

 

「攻撃手段?」

 

「食べちゃえ♪ って言えば、みんなが一斉にバクバクバクー! っと!」

 

「やっぱりかー」

 

「それじゃあ一斉に……」

 

ぞわぞわぞわー‼︎

 

足元からも大量の蟲達が溢れ出して、俺の体を包み込んだ。

全身を蟲達が駆け上がり、制服の下。肌までもわらわら群がってきた。

羽虫とか、蟲同士が重なる音とか、謎の濡れた音とかが耳に入る。

あまりの気持ち悪さに意識が飛びそうになる。

……だけど、どうしてだろうか。

意識を飛ばされそうになるが飛ぶ事にはならない。

なんとなく不思議な感じを背後から感じてしまうからだ。

背中が熱くて。

その熱さが、俺の意識を繋ぎ止めてくれているような。

 

「あれ?モンジ君」

 

「もごもごっ⁉︎」

 

既に口を封じられている俺は返事を返せなかった。

 

「うん、モンジ君。気づいてないかもしれないけどさ」

 

「もご?」

 

「どうして、モンジ君の背中は蟲で包む事が出来ないの?」

 

キリカがその疑問を発した瞬間だった。

 

ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ!

 

突然、携帯の着信音がけたましく鳴り響く。

しかも俺が驚いている間にそいつは勝手に鳴り止み、

 

『もしもし、私よ』

 

スクラマサクスとなったDフォンからそんな電子音っぽい声が聞こえてきた。

 

『今、貴方の後ろにいるの』


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