『101番目の哿物語』   作:トナカイさん

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原作キャラが出ます!
ただし、原作より登場する時期は早めになってます。
時系列が少しだけ変わってますのでその辺りの突っ込みはなしでお願いします。

今年最後の更新です。
来年もよろしくお願いします!


第十一話。女子トイレを撮影する男

「ところでどうして調べるのが『花子さん』なんだい?

もっと近くを探せばコードがあるかもしれないのに」

 

(一文字疾風)の出身中学に向かう途中で、ふと気になった俺は隣を無表情で歩く小柄な少女、一之江瑞江に聞いてみた。

 

「『花子さん』の噂はどこの街にも一つは必ずあるものですからね。しかも定番なのでかなり強いロアだったりします」

 

「かなり強いのに大丈夫なのか?」

 

『振り向いた相手を確実に抹殺できる』そんな存在の一之江が強いというほどのロア。

全国の小中学校、あるいは高校などで一度は誰もが聞く存在の『トイレの花子さん』。

そんな存在に俺達だけで挑んで大丈夫なのだろうか。

そんな心配をした俺の問いに一之江は______

 

「まあ私もサポートしますし。死んだら死んだで貴方の物語が終わりなだけです」

 

自信満々にそう告げた。

 

(ちょっと待て⁉︎

自信持つのはいいけど、俺を見捨てる気満々に語るなよ⁉︎)

 

「君はそういうところになると冷たいね」

 

「そんな事はありません。クラスメイトの皆さんやキリカさんなどには大変優しいです」

 

「俺限定なのかな」

 

「特別扱いです、嬉しいでしょう?」

 

「ああ、嬉しくて涙が出そうだよ」

 

笑顔を作り喜びの表情を浮かべてみたものの、その顔は引きつっていただろう。

 

今の一之江との会話で解った事は、定番のロアだと強いという事だ。

おそらく『認知度』みたいなものが彼女らのパロメーターとなっていて、有名であれば有名であるほど、強かったり、怖かったりするのだろう。

そう考えると……『ロア喰い』の怖さも改めて認識出来る。

なんたって、その正体は、その噂は『魔女』だ。

どんな小さな子供でも、老人でも、どこの国でも、共通して『怖い女性の代名詞』として恐れられているからな。

そんな存在を倒すと一之江は言っているが出来るのだろうか?

いや、違うな。

出来る、出来ないじゃない。

『やる』んだ。

俺達には『やる』という選択しかないんだ。

人類はこれまで数多の不可能を可能に変えてきた。

俺だって不可能だと言われた事をやり遂げてきたんだ。

だからやろう。

そう思い、隣を歩く小柄な少女を見ると俺の視線に気づいた一之江が俺の方に振り向いてきた。

 

「どうかしましたか?惚れましたか?」

 

「ああ、惚れ惚れする外見だなあと思って見ていたよ」

 

「性格はもっと素敵ですからね」

 

「……そうだね」

 

「今の間は何ですか?

殺しますよ、ハゲ」

 

 

 

 

2010年5月12日。午後17時。

 

俺達は、かつての俺、一文字疾風が卒業した市立十二宮(じゅうにのみや)中学校の校門前に着いた。

校門前にはかつての担任。四条先生の姿があった。

 

「こんにちわー」

 

「おや、久しぶりだね、一文字君」

 

「四条先生もお元気そうで何よりです!」

 

記憶によると、三年の時の担任であり、当時所属していた陸上部の顧問でもあった一文字疾風にとって恩師とも呼べる先生の一人だ。

細身で甘いマスクをしていて女生徒からの人気がある教師で、今はスーツ姿のまま、外周を走る部員を見守っていたようだ。

 

「今日は部活を見に来てくれたのかな?」

 

「久しぶりに寄ったのでOBとして様子を見て来ようかな、って感じで」

 

「なるほど。そちらのお嬢さんは?」

 

四条先生は俺の隣に立つ一之江を見た。

俺が女生徒を連れて歩いて来たのに興味を惹かれたようだ。

 

「初めまして、一之江瑞江と申します。本日は私が一文字さんにお願いし、是非彼が卒業した中学校を見てみたい、と申し出た形です」

 

お前誰だよ⁉︎

と突っ込みたくなったくらいに一之江はびっくりするくらい丁寧に先生にお願いしていた。

先生も流石に驚いたらしく、彼女を見てから俺の方を見つめる。

その視線から、「こんな素敵なお嬢様をどうやって?」

という心が伝わってきた。

言ってやりたい。

「いえいえ、思いっきり猫かぶってますよー。

中身は毒舌なホラー少女ですから」と。

 

「なるほど。そういう事ならちゃんとお客さんとして招かせて貰います。僕は四条、彼が三年生の時に担任と、部活の顧問をしていた者です」

 

「ご丁寧にありがとう、四条先生」

 

四条先生はどうやら『色恋方面』に勘違いしたらしく、俺に向かい一度頷いた。

そして近場にいる陸上部の生徒に自分が席を外す事を伝えると、そのまま俺達を事務所の方に案内してくれた。

事務所に向かう途中で四条先生がかつての俺、一文字疾風がした赤裸々なエピソードを話して一之江が、意地悪な笑みを浮かべた。

 

「そういう話しは出来れば本人がいない時にお願いしたいのですが」

 

俺の抗議に二人は笑いあっていた。

それにしても一之江の清楚なお嬢様ごっこは上手いな。

いや、元々あっちが素で毒舌面白娘は俺の為に作ったのか?

いや、それだったら清楚タイプなおとなしい方が嬉しいからあっちが素のはずだ。

 

「はい、これがお客様用の入校証と、スリッパだよ」

 

事務所に着いて入校の手続きが終わると四条先生が備品を貸してくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあ僕は校門か、グランドにいるから」

 

「簡単に、彼女に校内を案内してから練習を見に行きます」

 

「うん、了解。また後でね」

 

俺に目配せしてから、一之江にはお辞儀して先生は立ち去っていった。

四条先生、勘違いしてますが……一之江とは何もないんですよ?

そんな四条先生の、色男の背中を見ながら、一之江は呟いた。

 

「いい先生じゃないですか」

 

「ああ、ルールに厳しいけど、理解力のある先生だよ」

 

ああ、凄えー羨ましい、いい先生だよな。

一文字が羨ましいぜ。

武偵高にもこんな先生がいたら……こんな先生が武偵高に来たら1日で退職しちまうな。

奇人変人の魔窟だからな、あの学校は……。

 

「そういう教師に恵まれたからこそ、今の貴方がいるのですね」

 

「……そうだったらよかったんだけどね」

 

「ふふっ」

 

「何かな⁉︎」

 

「いえ。それでは早速案内して下さいね、一文字さん」

 

一文字さんと呼ばれて違和感を感じてしまう。

 

「その呼び方辞めてほしいな。何だか違和感を感じる」

 

「ですね。ではモンジ、とっとと『花子さんのいるトイレ』に案内して下さい」

 

その命令するような口調を聞くと『ああ、一之江はこうじゃないと一之江じゃないよな』と思ってしまった。

 

「わかった、こっちだよ」

 

俺は一之江を連れて噂がある部室棟に向かって歩き始めた。

しかし、名門学校の制服を着たお嬢様を中学校案内するのにまず向かう場所が部室棟の女子トイレとか、何とも不思議な光景だな。

 

 

 

2010年5月12日。午後17時10分。

 

部室棟に向かう途中で俺は、この中学校、『十二宮中学校』に伝わる『花子さん』の噂について簡単に説明する事にした。

 

「部室棟っていうのは、取り壊されない事が決まった旧校舎なんだよ」

 

「ああ、つまり昔からある校舎だから、そこのトイレに『花子さん』がいるっていうケースですね。よくあるベタな話しなのでバッチリです。戦前からある建物って噂はありますか?」

 

「正にそういう噂がある建物だね」

 

「戦時中に子供が神隠しに遭ったとかも?」

 

「正にそういう噂がある建物だね」

 

「ベタベタですね。バッチリです」

 

つまりそういう話しだった。

古い建物に纏わる噂話や怪談なんてあまり変わらないのかもな。

この中学校ではそれなりにみんな怖がり、女子達はそのトイレには近づかなかったくらいだ。

 

「ベタであればあるだけ、その能力も強いのですよ」

 

「有名な方がいいんだったね、ロアにとっては」

 

「はい。なので、まあ気をつけて下さい」

 

一之江が俺を心配するくらい『花子さん』の能力は恐ろしい、という事なんだろう。

俺は記憶の中から『花子さんに遭った時の対処法』を思い出していた。

確か花子さんの質問に、何か上手く返事をすれば大丈夫とか、そんな感じの対処法があったはずだ。

この中学校の花子さんは返答に失敗すると便器に引き込まれるというタイプだったので慎重に返事しないと大変な目に遭う。

 

そんなこんなで、校舎から少し離れた場所にある旧校舎、部室棟に辿り着いた。

部室棟を見ると、如何にも何かいそうな雰囲気が木造建築からしている。

 

「雰囲気もバッチリですね」

 

辺りの木々が俺達の浸入を歓迎しているかのように騒めいた。

そんな騒めきを気にした様子もなく、一之江は大きく放たれた入り口から中に入り込んで行った。

慌てて追いかけると中はカビ臭さに包まれ、裸電球の頼りない明かりに照らされていた。

床を歩けば「ぎし……ぎし……」と軋んだ音が響き、壁や天井には謎の染みが人の顔のように広がっていた。

 

「目的のトイレの位置は?」

 

「階段を上がってすぐの所だよ。『花子さん』の噂があったから、ほとんどの女子が使ってなかったからかなり寂れているかも」

 

「なるほど」

 

一之江はそんな雰囲気など意に介した様子もなく、いつもの調子でスタスタと歩いて階段を上っていった。

その様子からかなりこういう現場に慣れているという事が解る。

部室棟の二階に辿り着くと、女子のワイワイした声が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

見れば、体操着姿の女子生徒が4人ほど、『花子さん』のトイレから出てきた。

 

「あれ?」

 

俺が変な声を出すのと、一之江が俺を睨むのはほぼ同時だった。

 

「あ、モンジ先輩、お久しぶりーっス」

 

しかも、そこにいたのは俺が知っている陸上部の後輩達だった。

一人だけ知らない金髪ドリル少女が一緒にいるが新入生か転入生だろうか。

俺の記憶にはない子だ。

返事をしてくれた女の子以外の2人は、ぺこりと会釈してくれた。

金髪ドリル少女は「誰よ、コイツ?」みたいな顔で見つめてきた。

視線を俺から一之江に向けると、何故だか驚いた顔をした。

(……一之江の知り合いか?)

 

「やあ、久しぶりだね。部室の様子を見に来たよ」

 

「今、一年にいいのが揃ってるから、バリバリ鍛えちゃて下さいっス!」

 

「本当かい?ならちょっと部室に寄ってから行くよ」

 

「はーい、お待ちしてるっスよー!」

 

サイドポニーテールの髪型の子がニコニコと俺に手を振って、他の2人も嬉しそうにお辞儀してくれた。

(後輩から慕われていたんだな、一文字は)

 

そんな事を思っていると金髪ドリルの少女が三人の少女達に話しかけた。

 

「あっ!ええと……」

 

「ん?ミレニアムさん、どうかしたっスか?」

 

「ううん。私先に帰るよっ」

 

「え、でも……」

 

「一人で大丈夫?」

 

「私は絶対大丈夫!

でも……」

 

ミレニアムと呼ばれた少女はそこで何故か俺達を見て。

 

「貴方達は気をつけた方がいいかもねっ」

 

金髪ドリル少女はそう口にしてその場を去って行った。

何だったんだ?

 

「知り合い、ですか?」

 

一之江がそう聞いてきたが俺にはあんな金髪ドリルの知り合いはいない。

金髪の知り合いなら前世で2、3人いたけどな。

 

「いや、俺よりあの子は一之江を見ていたけど一之江の知り合いではないのかな?」

 

「知りません」

 

その無表情な顔からは何を考えているのかはわからないがおそらく本当に知らないのだろう。

知っていても一之江なら話さないかもしれないけどな。

立ち去っていった金髪ドリル少女の後ろ姿を見ていた俺はこの場に来た理由を思い出した。

さっそくだから聞いてみるか。

そう思った俺はこの場に残った少女達に聞いてみた。

 

「そういえばさっき、『花子さんのトイレ』から出て来なかったか?」

 

「ほい?『花子さん』?」

 

ポニーテールの子が他の2人を見て首を傾げている。

2人共よく解らないと、首を振っている。

……あれ?この子達は『花子さん』を知らないのか?

 

「そこのトイレって先輩の代では『花子さん』いたっスか?」

 

「いや、まあ……そうだったんだよ。悪いな、気にしないでくれ。部活頑張ってね」

 

「了解っス!それではー!」

 

可愛らしく敬礼して、ポニーっ子達はパタパタと走り去って行った。

 

「大人気ですね、モンジ先輩」

 

「まあ、そうだね」

 

「で、女子が誰も使ってないっていうのは嘘ですか、モンジ先輩」

 

「ぐっ……俺達の時は使ってなかったはずなんだけどなあ」

 

年月が過ぎて、『花子さん』の噂が廃れたりしたのだろうか?

 

「まあ、元々男子はあんまり関係ない噂だったから、女子が噂に飽きて気にしなくなったのかもしれないね」

 

「場所が女子トイレですしね。先輩が一緒に入って確かめてあげよう、でへへ、とか言わなかったのですか?」

 

「……一之江は俺を何だと思ってるのかな?」

 

「初対面の美少女に抱きつく変態男と思っています」

 

「その節は大変失礼しました……」

 

「大変失礼されました」

 

一之江はまだあの事を根に持っているみたいだ。

いつまで言われるんだ?

一生か?

ずっと言われ続けるとか嫌だぞー。

 

「女子トイレに入りたいとかは思わなかったんですね?」

 

「ああ、別に入りたいとかは……」

 

「入ったら変態ですしね。でも入りたかったんでしょう?」

 

「どうしても人を変態扱いしたいようだね」

 

「自分を殺しに来たおばけをいきなり抱きしめた変態ですからね」

 

「いや、だからあれは」

 

「入りますよ、変態さん」

 

「……はい、すみません」

 

 

 

一之江が先にトイレに入っていき誰もいないのを確認してから俺も中に入った。

入る際に清掃中の看板を出入り口にかけて置いた。

これならちょっとやそっとじゃ誰も入って来ないだろう。

……なんか計画的に女子トイレで何かしようとしている不審者みたいだな。

 

「さて……Dフォンを取り出して下さい」

 

「ああ、2台出した方がいいのかな?」

 

「そうですね。何かしら反応があるはずですから一応2台出して下さい」

 

「了解」

 

「熱くなったり、赤く光ったりはしていませんか?」

 

一之江と初めて会った時や追いかけられた時は熱くなったな。

取り出して確認してみたが両方とも熱くなったり、赤く光ったりはしていなかった。

 

「特になんともないな」

 

「おや。少なくとも貴方に危険はないという事ですね」

 

「危険を感知すると赤く光ったりするのか?」

 

「ええ。相手が持ち主に危害を与えるつもり満々だったり、そのロアとして取り込もうとして、なんらかの力を発生させていると熱くなります」

 

なるほど。

Dフォンにはロアが危険かどうか察知する機能があるのか。

……って待てよ!

 

「って事はあの時、一之江は俺を……」

 

「本気で殺すつもりでしたからね」

 

「やっぱりそうなんだね」

 

危なかった、疑いが晴れてなければ今頃、俺は一之江に……。

疑いが晴れて本当に良かったー。

 

「あの時は貴方が『ロア喰い』の手先である可能性もあったので、脅しも兼ねました」

 

「そうか。前の晩に電話に出なかったから警戒されている、と思ったんだね?」

 

「そうです。ロア(こっち)との戦いに慣れている『主人公』であった場合、私は全力で殺そうとしなければいけません。物語が取り込まれる前に」

 

『主人公』という存在は、一之江にしたらそこまで言わせるほどの要注意人物という事になるのか。

 

「では、そろそろ『花子さん』探しを始めましょうか。

Dフォンのカメラでトイレ内を撮影して下さい」

 

「ああ、わかったよ。

じゃあ撮るよ」

 

一之江の言う通りに、Dフォンのカメラでトイレ内を撮影し始めた。

 

「どうですか?Dフォンに反応はありますか?」

 

「いや、何の反応もないな……」

 

(しかし……『メリーさん電話』の逸話を持つ一之江が恐れる『魔女』と『主人公』のロアか。

『魔女』の事は詳しく解らないが、『主人公』についてはよく知らないといけないよな。

自分に関わる事だしな……)

 

「しかし……」

 

考え事をしながら女子トイレ内に俺がカメラを向けていると一之江が口を開いて______

 

「中学生の女子トイレを携帯のカメラで撮影する人が隣にいると言うのは、なんと言うか凄く微妙な気分になりますね」

 

そんな事を言ってきた。

 

「仕方ないだろ⁉︎」

 

言われると物凄く申し訳ない気分になってくる。

 

「まあ、モンジ弄りはこのくらいにして、本当にコードはありませんか?」

 

「うん、反応ないね」

 

「問題のトイレはどこですか?」

 

「確か、一番奥の個室だったはずだよ」

 

「では撮って下さい」

 

一之江に言われるまま、個室トイレの中をDフォンのカメラで撮り始める。

 

「そして、女子トイレの個室を撮影する男」

 

「だから仕方ないだろー!」

 

一之江は俺弄りを辞めていなかった。

 

ああ、もう、どうにでもなれ……。

 

 

 

それからしばらく中を撮影したが特にDフォンに何の反応もなく、俺達は女子トイレを後にする事にした。

トイレから俺が先に出た所で廊下の角を曲がって来た四条先生に遭遇した。

 

(危ぶねえー⁉︎

あと一歩タイミングが悪ければ女子トイレに浸入してた不審者として職員室に連れて行かれてもおかしくなかったぜ……)

 

「おや、トイレを案内していたのかい?」

 

「ええ。一之江はちょっとオカルトに興味があって」

 

「オカルト?

へえ、確かに綺麗なお嬢さんだからちょっと似合う趣味だね」

 

「だからこのトイレに案内したんですよ」

 

「ふむ……このトイレに何かあったかな?」

 

……え?

 

「いや、俺達の時代に『花子さん』の騒動があったじゃないですか」

 

「『花子さん』……?

そういう噂話が生徒の間であった、という事かい?」

 

……待て。待ってくれ!

おかしい。何かがおかしいぞ。

先生と一文字がこの学校で過ごしていた頃。

女子達が本気で怖がったせいで先生は対策を取ったり、注意を呼びかけたりしてくれた、と一文字の記憶にはある。

夏休みの合宿とかでもみんなでわざわざ見回りしたくらいだ。

勿論、先生も。

一文字の記憶が間違ってなければ……先生の記憶が改竄されている?

……そんな事出来る奴なんて。

 

「どうかしましたか?」

 

一之江が手を拭きながらトイレから出てきた。

 

「いや、ほら、一之江……」

 

何て言ったらいいんだ?

ヒステリアモードで導き出した答えを言うか。

いや、まだ情報が少な過ぎる。

 

「ああ、この学校にも『花子さん』の噂などがあると一文字君にお聞きしたので、連れてきて頂いたんです。私は趣味で民俗学を少々かじっていますので」

 

「ああ、そういう事でしたか。なら詳しい先生にお取り次ぎしましょうか」

 

「まあ、本当ですか!はい、是非お願いしますっ」

 

一之江はスーパーお嬢様モードで四条先生と会話して、見事図書室にまで行く事を取り付けた。

 

「それじゃあ、図書室に行こうか」

 

「宜しくお願い致します」

 

四条先生の案内に一之江は丁寧にお辞儀してから付いて行く。

 

 

……先生が忘れている。

あるいは記憶を改竄されている⁉︎

その事実に、俺の胸の中に広がるモヤモヤとしたものに、眩暈と似た気分を味わった。

 

一之江の後に付いて行った図書室で詳しい先生から話しを聞いたが、その先生は戦時中の体験や歴史については詳しく教えてくれたが______何故か、当時から噂されていたはずの『花子さん』については全く覚えていなかった。


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