追加をするならヨーツンヘイムは確定するけどなぁ。
「で、あんた誰よ」
「私は私だよ?」
どうも。私です。
お仲間か同類だと思って会ってみたら不良でした。
「誰が不良よ!」
「あ、声に出てた?」
「あんた……いい度胸してるじゃない」
状況が悪化しました。
自業自得ですが。
「まぁまぁ、ボーノ氏はもう少しお淑やかにするべきだと思われ」
「うっさい! ボーノ氏言うな!」
ピンク髪のツインテール娘に怒鳴るボーノ氏。
ボーノ氏は黒髪サイドテールに鈴が特徴的。というか、それ以外特徴らしい特徴が無い。
「喧嘩売ってるのね」
「あ、聞こえてた?」
ついついからかいたくなる。
べ、別に悪気があってやってるんじゃないんだからねっ!
……確信犯に救いはないよねぇ。
「そんなことより、早く帰らない?」
「……」
茶髪っぽいような金っぽいような色のボーイッシュな髪型の子がそう言うと黒髪のどこを見ているのかわからない眼をしている子が無言で頷く。
「ご主人様にも報告しないとですね」
「……ちっ。あとで覚えてなさいよ」
「あ、ごめん。聞いてなかった。なに?」
「こっの……!」
「曙。落ち着いて落ち着いて」
羽交い絞めにされているボーノ氏の本名は曙というらしい。
「とりあえず私は陸に上がって休みたいですね。ご一緒させてもらいますよ」
「我に続けー!」
ピンクの子が先頭、曙を押さえながら茶っぽい子、私、ぼーっとしている黒い子が最後尾という順番で海を走る。
しばらくよくわからない問答と曙いじりをしていたら日が暮れてきた。
「漣、曙、朧、潮なのね?」
「ようやく覚えたのね……どれだけ物覚え悪いのよ」
わざと微妙に間違えて遊んでいたところもあるけど。
でも実際日本語は難しいのよ?
ジオンではあんまり漢字を見なかった、というかやはり圧倒的に年数が足りないのだ。基本的なことはインプットされていても稼動時間を考えるとまだまだ幼い。
この4人よりも目線は高いが、それは艤装が大きいから。
腕の長さとかを目算で図ると私が一番身体が小さいみたいだし。
「ほら、見えてきたわよ」
「横須賀よ、私は帰ってきた!」
漣のセリフに何故か私は身体を震わせる。
恐怖? それとも歓喜?
ソロモン?
……サイサリス?
光?
いや。
私はそれを知らない。
そう。私は知らない。
「どうかした?」
「……いや、なんでもないよ」
きっと気のせいだ。だから誤魔化しておく。
「母港に帰る……って言えるのかわかんないけど。港に着くのは初めてなんだ。現地で組み上げられてそのまま初戦で終わっちゃったから」
「……そう」
察してくれたようだ。
それ以上は詮索しないでくれた。
悪い子達ではないね。
(できれば、部下と同じで優しい上官だと私も嬉しいんだけど)
私が頼れるのは私だけ。
だが、それで生き残れるほどこの世界は甘くなさそうだし、私も強くはない。
「正面からそのまま上がって待ってて」
「はいな」
どうやら彼女らは決まった航路から入らないといけないらしい。
新入りを迎えるときや緊急の事態のために正面口は開けているようだ。
混むと大変だからだろうか?
まぁ、どうでもいいか。
言われたとおりに進み、波打ち際の坂を上がる。
「……お、重い」
陸地に初めて足を着けたのだが、感動する前に自重で足がガクガクと震える。
海では平気だったのに。
「待たせたわね……って、なにやってんの?」
「手を貸して……歩けない」
「はぁ!?」
呆れられたが、歩こうとすると転びそうになるのだ。
重力ってなにさ?
放物線? 曲射? 慣性? 空気抵抗?
色々な情報が頭の中を駆け巡る。
気持ち悪い。頭痛い。
「あ、だめだ……」
笑っていた膝が崩れ落ち、
目の前が真っ暗になり、
誰かが支えてくれたような感触を最後に私の意識は闇に溶けていった。
『自動姿勢制御、起動。機能復旧率……64%』
『思考演算回路、正常』
『自立支援プログラム、再構築』
『搭乗員データベースリカバリー』
『データ照合』
『該当?』
『えらー』
『続行』
『存在確認、認識』
『顕現』
『召喚』
『バックアップ……損傷確認』
『修理要請』
『不可』
『……内部点検、移行』
『省エネ』
『切り詰め』
『外部接続、異常なし』
『了解』
『承認』
『認識』
『………』
『再起動』
『再起動確認』
『意識レベル上昇』
『覚醒確認』
『休止状態へ』
『完了』
『………』
『よい世界を、姫君』
『………』
……。
ん?
「うぅ……ん」
眼を開ける。
「知らない天井だ」
天井自体初めて?
いや、そうではないと思うけど。
でも宇宙だとどこでも床であり天井であり壁だしなぁ。
「おきたー」
「おめざめかー」
「ほうこくだー」
小人が私を取り囲んでいる。
眼を向けると一斉にみんな逃げていく。
きゃーきゃー騒がしい。
「お。起きたか」
どこからともなく男の声が聞こえた。
起き上がる。少し調子が戻っているのか感覚に慣れたのか、ふらつくことはない。
「俺はただの、しがない提督だ。よろしくな」
出された手を見つめ、握る。アームと素手は常につながっている必要もないので普通に握手とかできるのだ。
「おまえさんの名は?」
「後期生産型ビグロ6号機、超弩級可搬補給廠MA【ビグ・ラング】よ。ビーム兵器なんかには負けないわ。よろしくね」
提督の瞳を見つめ、私の心は燃え上がる。
この人の下でなら、きっと楽しいことがいっぱいあるのだと。
予感がした。
そして私の、この世界での物語りは始まっていく。
オリヴァー・マイ技術中尉の記憶などもうっすらインストールされていきます。
これで0083のことを知っててもおかしくなくなったね!
(ご都合主義上等な世界へと近付きつつある……)
元からそのつもりだけどね。