問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ?   作:ふわにゃん

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白き夜の魔王

 

 

 

「生憎店は閉めてしまってな。私の私室で勘弁してくれ」

 

六人は白夜叉の私室に通された。部屋に入ると香の様なものが焚かれており、鼻を擽る。

 

個室としてはやや広い部屋の上座に腰をかけて白夜叉は六人を見渡す。

 

「もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の三三四五外門に本拠を構える、“サウザンドアイズ”の幹部の白夜叉だ。そこの黒ウサギとは少々縁があってな、コミュニティが崩壊した後にもちょいちょい手を貸してやってる器の大きい美少女と認識してくれ」

 

(こいつ自分のことを美少女と…まあ確かに顔立ちはいいけどさ)

 

蘭丸は心の中で突っ込んだ。

 

「その外門って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な修羅神仏が住んでいるのです。箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられています」

 

「そして私のいる四桁から上が上層と言われる場所だ」

 

「つまり、上層は修羅神仏が集う人外魔境と言ったもんなのか?」

 

「まあそんなところかの」

 

黒ウサギが紙に箱庭を上空から見た簡単な図を書いた。

 

それを見て

 

「超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな、どちらかといえばバームクーヘンだな」

 

「俺はバームクーヘンに一票かな?」

 

「私にはタマネギに一票ですね」

 

五人の身も蓋もない感想に黒ウサギはガックリとする。

 

「ふふ、うまいこと例えるの。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ………その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は黒ウサギの脇に置かれている水樹と呼ばれる苗木を指差す。

 

「して、その水樹は誰がどのようなゲームで手に入れたのだ?知恵比べか?それとも…」

 

「いえ、この水樹はここにいる十六夜さんが素手で叩きのめしたのですよ」

 

「なんと⁈知恵や勇気ではなく、力とは、その童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、そうは見えません。もしそうなら黒ウサギは見ればわかりますし」

 

「ふむ、しかし神格を倒すには同じ神格を持つ者か、あるいは種族のパワーバランスが大きく崩れた時だ。ちなみに人間と蛇はドングリの背比べだぞ」

 

「神格ってなんだ?」

 

「神格とは生来の神そのものではなく種の最高のランクに体を変幻させるギフトのことだ。例えば蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。人に神格を与えれば現人神や神童に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。多くのコミュニティは神格を手に入れるために上層を目指すのだ」

 

「なるほどな…」

 

「それと、私からも質問していいか?」

 

白夜叉は蘭丸の隣のミロに視線を移す。

 

「ミロ、何故おんしがここにおるのだ?確か、おんしのコミュニティ“レンジャー”にはあの歪みの調査を依頼したはずだが?もしや調査が終わったのか?」

 

「はい、あの歪みの原因はましこの蘭丸さんが歪みの中にあったゲームをクリアしてくれたのです」

 

「なんと!ふむ、グールとは…それにそこの童もそのグールを倒すとはの」

 

白夜叉は最初こそ驚いたが、不敵な笑みに表情を変える。黒ウサギや十六夜達も驚きや好奇の目で蘭丸を見ている。人に注目されるのが苦手なのか、大袈裟に咳き込んで白夜叉を見る。

 

「話を戻すが…白夜叉はあの蛇と知り合いなのか?」

 

「知り合いも何もあの蛇に神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年前の話だがな」

 

「へえ、じゃあお前はあの蛇より強いのか?」

 

「当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁より下のコミュニティで右に出るものがいない最強の主催者だぞ」

 

“最強の主催者”その言葉に十六夜、飛鳥、耀の三人は目を輝かせる

 

「そう。では貴女のゲームをクリア出来れば私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのね?」

 

「無論、そうなるの」

 

「ちょうどいい探す手間が省けたぜ」

 

十六夜、飛鳥、耀の三人は闘争心を剥き出しに白夜叉を見る。

 

「抜け目のない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

 

「み、皆さん?」

 

「よいよい黒ウサギ。私も遊び相手ちは常に飢えている」

 

「ノリがいいわねそういうの好きよ」

 

「後悔すんなよ」

 

「お前ら元気だな」

 

クスリと笑う蘭丸の他の三人は嬉々として白夜叉を睨む。

 

「そうそう、ゲームの前に一つ確認しておく」

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し笑みを浮かべている。

 

「おんしらが望むのは“挑戦”かそれとも“決闘”か?」

 

刹那、六人の視界は意味を無くし、脳裏を様々な情景が過ぎる。

 

黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

 

五人が投げ出されたのは、白い雪原と湖畔……そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「なっ………⁈」

 

黒ウサギを除く五人はあまりの光景に言葉を失った。

 

「今一度名乗り直そうかの。私は“白き夜の魔王”太陽と白夜の星霊、白夜叉。おんしらが望むのは試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

 

白夜叉は先程の笑みとは違う圧倒的な実力を裏付ける笑みを浮かべている。

 

「水平に廻る太陽と……そうか白夜と夜叉。そうかあの太陽とこの土地はお前を意味しているのか?」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそが私が持つゲーム版の一つだ」

 

「これだけ莫大な土地がただのゲーム盤⁈」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「………」

 

五人は言葉を失った。白夜叉はこの箱庭でも最強クラスの魔王である。十六夜達問題児四人がまとめてかかってもかなわない程に。

 

「降参だ白夜叉」

 

十六夜が降参のポーズを取るかのように両手を上げる。

 

「ふむ、では試練を受けると?」

 

「ああ、これだけのゲーム盤を用意できるんだ。あんたにはその資格がある。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

プライドの高い十六夜らしい可愛らしい意地の張り方だと思い白夜叉は笑った。

 

「くく…して、他の童達も同じか?」

 

「ええ、私も試されてあげるわ」

 

「右に同じ」

 

飛鳥と耀も同じ様に試練を選んだ。黒ウサギとミロはホッと胸を撫で下ろす。

 

「して、そこの童はどうするのだ。おんしの返答を受け取ってないが」

 

白夜叉はこのゲーム盤に来てからずっと黙っている蘭丸が気になっていた。蘭丸はふと笑みをこぼし、

 

「俺は…決闘だ」

 

黒ウサギとミロはピシッと体を固めた。問題児の中で一番冷静に分析できそうな蘭丸が白夜叉との決闘を選ぶとは思っていなかった。ましてやミロはグール戦で蘭丸の実力を見たがそれでも白夜叉とは戦うには程遠いとわかる位白夜叉は強いのである。

 

「おんし…本気か…」

 

「ああ、正直勝てるかはかなりキツイが面白くはできるぜ?最悪、遊び相手位にはな」

 

蘭丸は絶対な自信と言った顔で白夜叉を睨む。

 

(こやつの目…なるほど面白い)

 

「よかろう!おんしの顔は本気だ!魔王としておんしと命と誇りをかけて戦おう‼︎」

 

白夜叉も本気のオーラを出していた。

だが黒ウサギとミロは大慌てで蘭丸に詰め寄る。

 

「ちょっ…ちょっと待ってください蘭丸さん‼︎」

「そうですよ!考え直して下さいいくらグールを倒したからとはいえ…」

 

「落ち着け、それはわかってる。だが、俺の本能が戦いたいって疼くんだ。心配するな」

 

蘭丸は笑いながら二人の頭をポンっと叩く。

 

「まあ最初はこの者達の試練をやらせてくれ」

 

「ああ、いいさ。お楽しみは最後にってね」

 

こうして“白き夜の魔王”白夜叉と“時空間の支配者”の異名を持つ蘭丸の戦いが起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 


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