問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? 作:ふわにゃん
11年前〜
蘭丸(当時7歳)には母親がいた。
名前を二宮雪菜といい思慮深く、頭の良い女性で蘭丸も彼女が好きであった。
「ねえ母さん、今日のご飯は〜?」
「ふふ…今日はあなたの好きなシチューよ」
「じゃあ僕も手伝うよ」
「あら、じゃあお皿を出してもらえるかしら?」
「うん、いいよ」
「ふふ、ありがと」
蘭丸は雪菜となんの不自由もなく、幸せに暮らしていた。
………あの日、黒瀬晶にさえ出会わなければ。
ある日蘭丸は走って家への帰路を急いでいた。
(今日は、母さんの誕生日だから、帰ったら学校で作ったプレゼントあげなきゃ)
目を輝かせながら蘭丸は走っていた。そして自宅の玄関で荒れた呼吸を整える。そして勢いよく扉を上げる
「ただい……………ま………」
しかし、そこに移ったものに蘭丸は言葉を呑んだ。そこには割れた大量の食器、刃物のような物で切られたであろうソファやクッション、そして力なく倒れている母、雪菜。
「母さん‼︎」
蘭丸は雪菜の姿を確認すると走り出していた。
「ングッ⁉︎」
そして背後から口に布を当てられた。蘭丸は初めこそ抵抗していたが、おそらく何か薬品を使っているのだろう。蘭丸の体から力が抜けていき、抵抗も弱まっていく。やがて、抵抗も収まり蘭丸は意識を失った。
「か……あ……さ………」
「……ん……ここは……」
意識を取り戻した蘭丸の目の前は薄暗く何も見えなかった。そして起き上がろうと身を起こそうとしたがそれは四肢を拘束する鎖によって阻まれた。
「……僕は、誘拐されたのかなぁ」
自分が誘拐されたという事実を実感すると蘭丸は悲しみが胸の奥底から上がってくる。それは7歳の少年にはあまりにも辛く、悲しく、そして怖いものである。
「うう……ひっく…母さん……」
蘭丸は涙を流し始めた。母さん、母さんと泣いていると、突然に明かりがついた。蘭丸は涙を堪え、出来る限りの状況確認をする。7歳でここまで出来る子はいるのだろうか。辺りを見回すと自分は何かの隔離部屋のようなものに入れられ、その周りには何かを測定する出あろう機具が設置されていた。
「ここは……どこなの?」
「蘭丸‼︎」
どこからともなく声が聞こえ、声の方角を見るとガラス越しに同じように拘束されている雪菜がいた。
「母さん‼︎」
「目が覚めたか」
バタン‼︎と扉が開き、男が入ってきた。その男からは小さい蘭丸でも分かる程の怪しさを醸し出していた。その男はいやらしい笑みを浮かべて蘭丸を一瞥している。その醜い笑みに蘭丸は体を身震いさせる。
「おじさんは?おじさんが僕を攫ったの?」
「ああ、俺は黒瀬晶。俺はこの世の神になる為にお前の中に眠る力を奪わせてもらうぜ!」
「僕の……力?」
「なんだ?知らなかったのか……なら俺が教えてやるよ。お前には生まつき、普通の人間ではない特別な力を持ってるんだよ」
「特別な力?」
全くわからないと顔を傾ける。そして雪菜の方を見るが顔を俯ける。
「母さん?」
「…ごめんなさい。蘭丸がもっと大きくなったら話すつもりだったの」
謝るその頬には涙が伝っていた。
「……ねえ、僕の力ってなんなの?」
「それは……」
「それは俺が説明してやる。お前に宿っている力ってのは“時間”と“空間”概ねこの二つと言っていいだろう、その力は使い方によっちゃあこの世を思うがままに支配できる素晴らしいものなのだよ‼︎」
“世界を支配”
その言葉だけでは理解は出来ないが、この男、黒瀬の笑みを見る限り、いいものではないとわかる。
「わかるか?つまりお前の力は神にもなれる力なんだよ!」
「神………?」
だから、と一度言葉を切るとニヤリと笑い、
「お前の力、俺によこせえぇぇぇぇ‼︎」
ひっと涙を堪え切れなく、頬をつー、と涙が伝う。この状況で7歳の少年が大泣きしないのもすごいことであるがそれも限界である。
「とは言え、その力を俺に移すためには所持者の感情を狂わせなければならないらしいからな。……おいガキ。これから起きることを見てろよ?」
ニヤリと笑う黒瀬の右手にはナイフが握られていた。そしてそれを持って、雪菜に近ずいていく。そこまですれば彼が何をしようとしているのかは幼い彼にもわかる。
「やめろ!母さんに手を出すな!」
「クックックッ、そんな口調も出来るなんてな、もうこの時点でも精神が荒れ始めて来てんのか?…まあ所詮はガキか」
ニヤニヤしながらナイフは雪菜の首元に触れ、つー、と血が垂れてきていた。蘭丸は力ずくで鎖を千切ろうとするが鎖はいっこうにはずれない。
「くっ!…くそ‼︎くそくそくそくそーーーー‼︎」
「蘭丸‼︎」
蘭丸は母に視線を戻す、その顔には覚悟を決めたという凜とした顔の母がいた。
「母さん‼︎待ってて。今すぐにそいつをぶっ殺して………」
「蘭丸!!!」
「ッ‼︎」
普段の母からは想像できない程の声で怒鳴る母に蘭丸は言葉を呑んだ。そしていつもの優しい顔に戻り、
「怒りにとらわれては駄目よ。それにあなたの力は世界を支配するためのものじゃない。その力はあなたがいつか世界を救うために神様から与えられた贈り物なの。……だから、あなたは強くなりなさい。いつかまた大切な人を見つけた時に、守れる力を」
「母さん………」
「それを約束してね。それがお母さんとの約束……」
ザシュッ‼︎
話しの最中に黒瀬はナイフを振り、雪菜の首を落とした。ゴトッと音を立てて転がる首に蘭丸の精神を支えていたものが音を立てて崩れ落ちた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
それと同時に蘭丸の周りに大気が集まり始め、蘭丸を拘束していた鎖は高圧力によって砕け、隔離部屋の機材がどんどんと蘭丸へと吸い寄せられていく。
『黒瀬様‼︎二宮蘭丸周辺の重力、磁場が変動しています!通信電波が遮断され、中の様子が確認できません‼︎』
「おぉ!これだ!この瞬間を俺は待っていた!」
黒瀬はナイフを投げ捨てると狂ったように笑い、隔離部屋へと向かう、中は空間が歪んでおり、もはや時間の問題である。
「……吸収(ドレイン‼︎)」
黒瀬が腕を掲げると、蘭丸の体から光の粒子が発生し、黒瀬の体へと入っていく。
「フハハハハ‼︎ようやく、俺が世界を………何⁉︎」
しかし黒瀬はそれ以上、笑うことができなかった。蘭丸の体から発される瘴気が周りの空間を侵食し始めていた。
「チッ!このガキ、研究所ごと消し去る気か⁉︎」
盛大に舌打ちをした黒瀬は辛うじて残っていた出口から脱出する。
「まあいい、一部だけでも奪えただけでよしとしよう………次こそは、その力を必ず」
その言葉を最後に黒瀬は、まるで存在が消えたかのように姿を消した。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
しかし蘭丸の暴走は止まらず、どんどんと研究所を呑み込み、その規模を拡大していった。
この日、二宮蘭丸の存在していた地球は四分の一を消滅させ、地球は円形ではなくなった。
蘭丸君の過去をお送りしました。
蘭丸君のギフトの強大さを表現しようと頑張ってみました。
では誤字、感想の程、よろしくお願いします。