問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ?   作:ふわにゃん

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今回は短めです。


再来

 

その頃耀はヘッドホンの件と、収穫祭の滞在期間の事を黒ウサギにバレ、その事を黒ウサギに問い詰められていた。

蘭丸はコナゴナになった十六夜のヘッドホンを手に取る。

 

「……なるほどな。そういうことか……それならヘッドホンは俺に任せてくれ」

 

「本当に⁉︎」

 

耀は少しだけ顔が明るくなった。

 

「ああ、状態がアレだから少し時間は掛かるが、それでも……」

 

蘭丸の声は緊急を知らせる鐘の音によって遮られた。

 

「大変です。巨人族がかつてない大軍を率いて………。“アンダーウッド”を強襲し始めました!」

 

直後、地下都市を震わせる地鳴りが一帯に響いた。

 

**

 

 大樹の根から外に出た耀達が目の当たりにしたのは、半ば壊滅状態となった“一本角”と“五爪”の同士達だった。 警戒の鐘が鳴らされてからほんの僅かな間に、一体何があったというのか。

 

「ったく……見張りは何してたんだ」

 

毒づきながら蘭丸は戦場に飛びたして行った。

 

「あ!蘭丸さん⁉︎」

 

黒ウサギの静止も耳にせず瞬く間に蘭丸の姿は見えなくなった。他の面々も予想外の事態に困惑する中、空から旋風せんぷうと共にグリーが舞い降りてきた。相当激しく戦っていたのだろう。自慢の翼は度重なる戦闘で荒れており、後ろ足には深い切り傷を負っている。耀の隣に降り立った彼は血相を変えて訴えた。

 

『耀……!ちょうどいい、今すぐ仲間を連れて逃げろッ!』

 

「え?」

 

『彼奴の主力に化け物がいるッ! 先日とは比べ物にならんッ! このままでは全滅だ! お前達だけでも東へ逃げ、白夜叉殿に救援を……!』

 

グリーが叫ぶ最中、琴線きんせんを弾く音が響いた。聞き覚えのある耀はハッと顔を上げる。

 

(この音……濃霧の時と同じ……!)

 

先ほどの戦闘を思い出すが、しかしそれを伝えるだけの暇は与えられなかった。琴線の弾く音は二度三度と重なり、音色の数だけ最前線の仲間達が次々と倒れていく。音源から離れている耀達でさえ、意識が飛びそうになるほどだ。

 

『奴だ……!あの竪琴の音色で見張りの意識を奪われ、二度の奇襲を許してしまった。今は仮面の騎士が戦線を支えているが、それも何時いつまで持つか……!』

 

グリーの悲痛な言葉を翻訳する黒ウサギ。途端、ジャックは驚嘆の声を上げた。

 

「仮面の騎士……!? ま、まさかフェイス・レスが参戦しているのですか!?」

 

「ま、まずいぜジャックさん! アイツにもしもの事があったら“クイーン・ハロウィン”が黙ってねえよッ!! すぐに助けに行こうッ!!」

 

ジャックは麻布に火を付けて業火を纏い、アーシャはその上に乗って最前線を目指す。

 

「……この竪琴を弾いている巨人って、仮面の人でも勝てないの?」

 

『というよりも、攻めあぐねている。あの音色は近くで聞くほど効力が高い。それで昨日、サラ殿も力を抑えられていたそうだ。となれば、神格級のギフトと見て間違いない』

 

「神格……それで、仮面の人と竪琴の巨人は?」

 

『先ほどまで共に戦っていたが、琴線のほうは姿を消した。仮面の騎士は音色に耐えながらも戦いに臨のぞんでいる。……それと竪琴の主は、巨人族ではない』

 

「え?」

 

『身長はお前達と大差ない。深めのローブを被った人間だ。巨人族が従っているところを見ると、奴が指揮者なのかもしれん」

 

唸る様な声を漏らすグリー。その間も巨人族は次々と攻め込んできていた。遠くでは巨人族の雄叫びと幻獣達の断末魔が重なり合って響いている。

 

『それに数だけではない。空から確認した巨人族の数は五〇〇超。かつてない大軍隊だ。戦闘を請け負う“一本角”と“五爪”が壊滅状態では、もう……」

 

「……っ……」

 

想像以上に厳しい状況を知らされ、耀は思わず言葉を無くした。それに無双の強さを持つ蘭丸でも音には対抗できるか分からない。耀が頭を抱えていると、ジンが一歩前にでた。

 

「大丈夫。僕に考えがあります」

 

「……え?」

 

「先ほど“サウザンドアイズ”からギフトが届きました。僕の予測が正しければ、このギフトで敵の戦線を瞬間的に混乱させることが出来るはずです」

 

「ほ、ほんとに?」

 

「はい。しかしそれだけでは足りません。竪琴の術者を破らなければ、同じことを繰り返すだけです。敵の主力を逃がさないためにも……耀さん。貴女の力が必要です」

 

力を貸してくれますか、とジンが尋ねる。彼の申し出に耀は瞳を瞬かせて驚いたが、すぐに眉を顰ひそめた。

 

「……それは、私に見せ場を譲るということ?」

 

「違います。僕の予想が正しければ、耀さんの力が必要な状況に陥るはずです。貴方でなければ出来ないことです」

 

真っ直ぐ、耀を見つめ返す。同情で見せ場を譲られたのではないか、という勘ぐりはその視線で消え失せた。

 

「……わかった。作戦を教えて」

 

**

 

最前線では仮面の騎士、フェイス・レスが音色に耐えながらなんとか戦線を保っていた。

フェイスは蛇蝎の剣を握り締め、肩で息をしていた。

 

(……巨人族は問題は……だけどこの音は……)

 

そしてまた竪琴の音色でフェイスの動きが止まる。それを好機と見た巨人は錫杖を振り下ろす。

 

(しまっ……)

 

だが巨人の攻撃は心臓を貫く槍によって阻まれた。

 

「無事かフェイス」

 

蘭丸はフェイスの側による。仮面の下で笑みを零すがすぐに何時もの無表情を繕う。

 

「ええ救援には感謝します。ですがいくら貴方でもあの竪琴には問題無いとはいかないようですね」

 

「ああ、マジで耳障りだ。だがジンに作戦があるっぽいしなんとかするだろうな。それまでは現状維持だ」

 

蘭丸は巨人の攻撃をあしらいながら応える。フェイスは

 

「作戦ですか?となるとあのギフトですか?」

 

「知ってるのか?……そうだ。恐らくその後に隙ができるだろうからその時に一気に攻め込む。それが作戦だ」

 

そうして蘭丸とフェイスは音色に耐えながら巨人族の攻撃をあしらう。すると後方より、黒い風が風に乗り運ばれてきた。それを受けた巨人族はどんどんと倒れて行った。

倒れた巨人族は白黒の斑模様浮かばせた。

 

「これは…“黒死斑の魔王”?」

 

「そうだ。“ハーメルンの魔道書”から切り離されて、神霊じゃないが、八千万の死霊の代表だからな。かなりの大戦力だ」

 

ケルト神話群に記される、巨人族の逸話。

その中の一説・ダーナ神話群と呼ばれる巨人族の闘争を記した史実には、黒死病を操ることで他の巨人族を支配していた記述がある。“治療法が確立されていない病を操る”とは、最強最悪の支配体系の一つだろう。ましてやペストが操る黒死病には八〇〇〇万もの死霊というバックアップがある。そこで彼女の力で伝承に則のっとり、巨人族の混乱を煽あおる算段だった。

 

「もしかして、貴方は仲間がこの作戦を実行することは予想とうりだったのですか?」

 

「まあな。あとは一気呵成だ反撃に出るそ!」

 

「はい」

 

巨人族が倒れ始め好機と見た蘭丸とフェイスはあっという間に巨人を倒して行く。

 

こうして程なくして勝負は決した。

 

 

 

 





今回はこれで終わりです。

ヘッドホンの件は蘭丸が直せるので、“クイーン・ハロウィン”の力は使用しません。ご理解の程よろしくお願いします。

誤字、感想、お待ちしております。

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