問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ?   作:ふわにゃん

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“ブラックラビットイーター”

“アンダーウッド”収穫祭本陣営。貴賓室。

耀達が招かれた貴賓室は大樹の中心に位置する場所にあった。窓から覗くと大河の中心なっており、網目の根に覆われた“アンダーウッド”の地下都市が見える。

サラは“一本角”の旗の掲げられた席に座り蘭丸達にすわるように促した。

 

「改めて自己紹介させてもらおうか。私は“一本角”の頭首を務めるサラ=ドルトレイクだ。元“サラマンドラ”の一員でもある」

 

「じゃあ、地下都市にある水晶の水路は、」

 

「勿論私が作った。しかし勘違いしてくれるな。あの水晶や“アンダーウッド”で使われている技術は、私が独自に生み出した技術だ。盗み出したというのは辞めてくれ」

 

その言葉を聞いてジンはホッと胸を下ろした。その事が一番気がかりだったのだろう。

 

「それでは、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが……ジャック。彼女はやはり来てないのか?」

 

「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので、此処は参謀である私からご挨拶を」

 

「やれやれ…相変わらずとんだリーダーだな」

 

「…やっぱり蘭丸さん知ってるのですか」

 

蘭丸はやれやれと笑い、ジャックもその通りと言うようにヤホホと笑った。ジンは今までの展開から、大方想像を立てていた。

 

「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者を、是非とも招いて見たかったのだがな」

 

「北側、最強?」

 

耀と飛鳥が声を上げ、隣に座っていたアーシャが自慢そうにツインテールを揺らす。

 

「そうだ。“蒼炎の悪魔”、ウィラ=ザ=イグニファトゥス。生死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉できる大悪魔。しかしその実態は余り知られていない。三年前に私が南側へ移籍して以降、突如頭角を見せたと聞く。……噂によると“マクスウェルの魔王”を封印したという話まであるそうだが。もしも本当なら、六桁はおろか五桁最上位と言っても過言ではないな」

 

「ヤホホ……さて、どうでしたか。そもそも五桁は個人技よりも組織力を重視致します。強力な同士が一人居たところで、長持ちはしませんよ」

 

「ジャックの言う通り、強力な一個人では五桁のコミュニティは維持できない。その個人を打ち破る者が現れれば、容易く瓦解がかいしてしまうからだ。……その顕著の一例が東側の“ペルセウス”だろう、ジン?」

 

「え?」

 

「ふふ、誤魔化すな。最下層の“ノーネーム”が五桁の“ペルセウス”を打ち破ったのはもう有名な話。それに、例の“黒死斑の魔王ブラック・パーチャー”を倒したのもお前達だろう?」

 

「隠さなくていい。今の“サラマンドラ”に魔王を倒す程の力は無いからな。強力な助っ人が手を貸したのだろうと思っていた。故郷を離れた私だが、礼を言わせてくれ。……“サラマンドラ”を助けてくれてありがとう」

 

「い、いえ……」

 

赤髪を垂れさせて一礼するサラ。

彼女の物言いは高圧的だが、不思議と不快には思えない。

それはむしろ、彼女の持つ風格には相応だと思えるからだろう。

 

「今は“ペルセウス”もコミュニティとして力を上げて来てるぞ?こないだ会った時なんてルイオスが別人だったぞ」

 

「そうなの……あの外道が…」

 

飛鳥はルイオスの外道っぷりが頭から離れず、変わったと言う蘭丸の言葉を信じれていないようだ。

 

「ふふっそうか…ところで収穫祭の方は楽しめているか?」

 

「ああ、まだ全ては回って無いが、活気があってなかなかいいぞ」

 

「それは何より。ギフトゲームが始まるのは三日目以降だが、それまでにバザーや市場も開かれる予定だ。南側の開放的な空気を少しでも愉たのしんでくれたら嬉しい」

 

「ええ。そのつもりよ」

 

 と飛鳥が笑顔で答える。

 その隣で耀は、瞳を輝かせながらサラの頭上にある龍角を見つめていた。

 

「どうした? 私の角が気になるのか?」

 

「……うん。凄く、立派な角。サンドラみたいに付け角じゃないんだね」

 

「ああ。コレは自前の龍角だ」

 

「だけど、サラは“一本角”のコミュニティなんだよね? 二本あるのにいいの?」

 

 小首を傾げて問いかける耀に、サラは苦笑混じりで返答する。

 

「我々“龍角を持つ鷲獅子”の一員は身体的な特徴でコミュニティを作っている。それは確かだ。しかし頭に付く数字は無視しても構わないことになっている。そうでなければ、四枚の翼がある種などは何処どこにも所属出来ないだろう?」

 

「……あ、そっか」

 

「あと他には、各コミュニティの役割に応じて分けられているな。“一本角”“五爪”は戦闘を担当。“二翼”“三本の尾”“四本足”は運搬を担当。“六本傷”は農業・商業全般。これらを総じて“龍角を持つ鷲獅子”連盟と呼ぶ」

 

「そう」

 

耀は短い返事をして、連盟旗を見上げる。

鷲の上体と獅子の下半身。巨大な翼と強靱な四肢を持つ鷲獅子。通常のグリフォンと違う点があるとすれば、その額に龍角が生えている事だろう。二本もある龍角の一本は醜くへし折れている。

 

「……あれ? それなら“六本傷”は何を指しているの?」

 

「“龍角を持つ鷲獅子”のモチーフである鷲獅子が負っていた傷と言われている。コミュニティの組み分けとしては……まあ、全種を受け入れているのではないか? 商才や農業などの知識というのは、普通に生きているだけでは手には入らないものだからな」

 

「ずいぶん曖昧だな」

 

「シッ!」

 

蘭丸のツッコミを飛鳥は慌てて止める。蘭丸の言うことは的を射る事が多いためである。

サラは確かになとクスリと笑う。

 

「収穫祭でも“六本傷”の旗を多く見かける事になるだろう。今回は南側特有の動植物をかなりの数仕入れたと聞いた。後ほど見に行くといい」

 

小さく頭を縦に振った耀はふっと黒ウサギに視線が合う。

 

ポン、と両手を叩いた彼女は、思い出したようにサラに聞いた。

 

「南側特有の植物っていうと例えば……ラビットイーターとか?」 

 

「まだその話を引っ張っるのですか⁉︎そんな愉快に恐ろしい植物が存在がしているわけ、」

 

「在るぞ」

 

「在るんですか⁉︎」

 

そんなお馬鹿な⁉︎と黒ウサギはと、ウサ耳を逆立てて叫ぶ黒ウサギ。耀は瞳を光らせて、更に問う。

 

「じゃあ、……ブラックラビットイーターは、」

 

「だから何で黒ウサギをダイレクトに狙うのですか⁉︎」

 

「在るぞ」

 

「在るのか。本当に南側ってなんでも在るんだな」

 

蘭丸はただ自分の感想を素直に述べた。故に黒ウサギにもグサリと効いた。

 

「素直に納得しないでください!ど、何処のお馬鹿様が、そんな対兎最恐プランントを⁉︎」

 

「何処の馬鹿と言われても……発注書ならそこにあるが」

 

バシッ!とサラの机から発注書を奪い取る黒ウサギ。それを黒ウサギの後ろから覗き見る蘭丸。

そこにはお馬鹿っぽい字でこう書かれていた。

 

『対黒ウサギ型プランント:ブラック★ラビットイーター。八○本の触手で対象を淫靡に改造す」

 

グシャ!

 

「あっ!……」

 

「………フフ。名前を確かめずとも、こんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」

 

ガクリとうなだれ、しくしくと涙を流し始める黒ウサギ。

起訴も辞さないのですよッー⁉︎と大河に向かって魂の叫びを上げる彼女の背には、深い哀愁が漂っている。悲哀に沈んだ彼女はやがて、青髪を緋色ひいろに変幻させて立ち上がった。

 

「……サラ様。収穫祭に招待していただき、誠にありがとうございます。我々は今から向かわなければならない場所が出来たので、これにて失礼致します」

 

「そ、そうか。ラビットイーターなら最下層の展示会場にあるはずだ」

 

「教えて頂きありがとうございます。それでは、また後日です!」

 

「ちょ、ちょっと黒ウサギ!?」

 

グワシ!と飛鳥達の首を鷲掴わしづかみ、黒ウサギは一目散に去って行った。

自分等以外のメンバーを連れたままピョンピョンと流れるように跳び去る彼女の背を見送り、蘭丸達は呆れたように息を吐く。

 

「やれやれ。噂以上に苦労人の様だな」

 

「否定はしない」

 

「ヤホホ!いや全くですねえ!では我々も挨拶しましたし、ここでお暇しましょうか」

 

「ああいや、待ってくれ。お前達にはまだ話がある。蘭丸は“ノーネーム”ののメンバーにも伝えて欲しい」

 

はて、と視線を交わすジャック、アーシャ、蘭丸。

サラは幾分真剣な顔になり、二人に用件を伝えた。

 

「今宵、夕食時にもう一度来て欲しいと伝えてくれ。十年前に“アンダーウッド”を襲った魔王、巨人族について相談したいことがあると」

 

**

 

“アンダーウッドの地下都市”最下層展示保管庫。

 

ズドォォォォン‼︎と雷鳴が轟いた。迸る稲妻が貫いたのは、全長5mはありそうな食兎植物。枝の触手・花弁の触手・樹液の触手と様々な触手が生えたカオスプラントは、緋色に髪を染めて怒る黒ウサギの金剛杵こんごうしょによって燃え落ちた。

遅れてやって来た蘭丸はその破片を拾いながら半笑いで溜息を吐く。

 

「やれやれ、派手にやったな。それにしてもギフトの無駄使いだな。もっと儲ける為に使えってんだ」

 

「そこですか⁉︎こんな自然の摂理に反した怪植物は燃やして肥やしになるのが一番なのでございます!」

 

フン、と顔を背ける黒ウサギ。蘭丸は黒ウサギの頭に手を載せる。

 

「まあ気を落とすなよ。折角の収穫祭だ。楽しまないと損だろ?今日は俺が金を出す。好きなものを買いな。ついでに俺も髪留め買いたいしな」

 

「ら、蘭丸さん…」

 

ジーン。と目を潤ませる黒ウサギ。蘭丸それにクスッと笑った。

 

「こう言う時は女の子には優しくするのが男の鉄則だって親父にも教わったし」

 

「あ、ありがとうございます…///」

 

黒ウサギは頬を赤らめ逸らした。蘭丸は平然と言う為に黒ウサギは恥ずかしく顔を見れていない。それを蘭丸は不思議に思い黒ウサギの額に手を当てる。

 

「ひゃう⁉︎///」

 

「少し熱があるな。やっぱ今日は休むか?まだ収穫祭はあるんだし」

 

「い、いえ!だ、大丈夫ナノデスヨ///」

 

「ん。そうか。ならいいが」

 

黒ウサギは更に顔と耳を赤くしながら言う。蘭丸も納得はしていないが、それ以上は追求しなかった。

 

「…ねえ春日部さん。アレってやっぱり天然かしら?」

 

「うん。なんたって蘭丸は鈍チートだしね…」

 

「それは言わない方が」

 

そしてそのあとは五人は収穫祭を楽しんだ。“アンダーウッドの地下都市”にあるバザーや市場を見て回り、農園に植える為ための苗や種子を物色する。此処でしか見られない毛皮製の商品を驚きながら試着したり、生花で染色された民族衣装を試着したりと、実に姦かしましく過ごした。植物や牧畜についてもある程度の目処めどは付けたが、ギフトゲームの商品を手に入れてからでも間に合うということで保留となった。

 

「うし、じゃあ戻るか。そろそろ夕方だしな。髪留めも買えたことだし」

 

蘭丸は桜の描かれている藤色の髪留めを選んだ。どうやら結構気に入ったらしく珍しく上機嫌なのが見えていた。

 

一同は螺旋らせん状に掘られた壁を登って行き、宛あてがわれた宿舎に戻る。談話室に集まった蘭丸達は椅子に座って一日を振り返った。

 

「前夜祭は、思ったよりもギフトゲームが少ないな。前夜祭だからかな?」

 

「Yes!本祭が始めるまではバザーや市場が主体となります。明日は民族舞踏ぶとうを行うコミュニティも出てくるはずなのです。フフフ、楽しみですねー♪」

 

今にも小躍りしそうな雰囲気でウサ耳を左右に振る黒ウサギ。普段から明るくハイテンションな彼女だが、今回は何時いつも以上に楽しそうである。

思い起こせば、黒ウサギは初めから“アンダーウッド”に来ることを楽しみにしていたようにも見える。

 

「……ねえ、黒ウサギ。もしかして前々から“アンダーウッド”に来たかったの?」

 

「え? ええと、そうですね。興味は有りました。黒ウサギがお世話になった同士が、南側の生まれだったので」

 

「同士……?それって……」

 

「はい。魔王に連れ去れた仲間の一人でした。……幼かった黒ウサギを、コミュニティに招き入れてくれた方々です」

 

黒ウサギの話に、蘭丸達は驚いたように顔を見合わせる。

 

「それじゃあ黒ウサギは、“ノーネーム”の生まれじゃないの?」

 

意外な話だった。

彼女の献身ぶりを見れば、“ノーネーム”が故郷と思うのは当然だろう。黒ウサギは両手を胸の前で組み、大事な宝物を抱きしめるように呟く。

 

「はい。黒ウサギの故郷は、東の上層に在ったと聞きます。何でも、“月の兎”の国だったとか。しかし絶大な力を持つ魔王に滅ぼされ、一族は散り散りに。頼る当てもなく放浪していた黒ウサギを迎えてくれたのが、今の“ノーネーム”だったのです」

 

ギュッと両手を握り、幸せそうにはにかむ。

それとは対照的に、蘭丸達は言葉を失っていた。

今の話が本当なら、黒ウサギは二度も魔王に故郷を奪われたことになる。彼女の見せる献身的な姿勢は“月の兎”である以上に、その体験から来ているのかもしれない。

 

「黒ウサギを同士として迎え入れてくれた恩を返すため……絶対に、“ノーネーム”の居場所を守るのです。そして皆が帰って来た時は、胸を張ってお帰りなさいと言うのです!」

 

ムン、と両腕に力を込めて気合いを入れ直す黒ウサギ。

蘭丸達はそんな彼女の様子を、微笑ましげに見つめていた。

 

花が咲いたような笑みを浮かべる黒ウサギは、ふっと窓の外に目を向ける。格子の隙間から差し込む朱色の光を見つめながら、心の中で遠き日の恩人達へ思いを馳せた。

 

「彼女の名は金糸雀様。我々のコミュニティで参謀を務めた方でした」

 

 

 




随分長くなりました。次回から戦闘に入っていきます。

いつも通り誤字、感想があれば何なりと!

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