問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ?   作:ふわにゃん

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かなり久しぶりの投稿です。今回は主催者と会うところまで進みます。


“主催者”

 

「あー!誰かと思ったら耀じゃん!何、お前たちも収穫祭に」

 

「アーシャ。そんな言葉遣い教えていませんよ」

 

賑やかで、そして聞き覚えのある声に振り向くと、アーシャとジャックの姿があった。

 

「アーシャも来てたんだ」

 

「まあねー。こっちにはいろいろあって、サッと!」

 

そう言うとアーシャは窓から飛び降りて目の前に降り立つ。

 

「ところで耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」

 

「ううん。今着いたところ」

 

「だったら“ヒッポカンプの騎手”に必ず出場しろよ。私も出るしね」

 

「ひっぽ………何?」

 

「ああ、ヒッポカンプってのは………っとここはジンに任せるわ」

 

蘭丸はポンとジンの背中を軽く叩く。ジンは一度蘭丸を見てから説明をした。

 

「ヒッポカンプとは別名“海馬(シーホース)”と呼ばれる幻獣で、タテガミの代わりに背びれを持ち、蹄に水搔きを持つ馬です。半馬半漁と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが“ヒッポカンプの騎手”と言うゲームかと。」

 

普段からいろいろと勉強しているからだろう。ジンの説明に蘭丸も感心の表情を浮かべる。

 

「前夜祭で開かれるギフトゲームじゃ一番大きいものだし、絶対に出ろよ。私が作った新兵器で、今度こそ買ってやるからな」

 

「わかった。検討しておく」

 

パチンと指を鳴らして自慢げに笑うアーシャ。蘭丸は数歩前に歩きジャックの前に立つ。

 

「久しぶりだなジャック。俺の提案したやつはうまく行ってるか?」

 

「ヤホホ、おかげさまで我が“ウィル・オ・ウィスプ”も随分儲かりましたヨ!御礼とは言えませんが、“ウィル・オ・ウィスプ”製の物品もお安くさせていただきます」

 

ヤホホホホホ!と陽気に笑うジャックと連れて微笑する蘭丸。

 

その後“ノーネーム”の一同は、“ウィル・オ・ウィスプ”と共に貴賓客が止まる為の宿舎に入った。土壁と木造の宿舎だったが、中は意外としっかりとした建て付けにしてある。半分が土造りにも拘らず空気が乾燥しないのは水樹の根が常に水気を放出しているからだろう。所々に浮き出た水樹の根は談話室で椅子のようにも扱われていた。その一つに腰をかけた耀は、大きく息を吐いて“アンターウッド”の感想を述べる。

 

「凄いところだね」

 

「だな。南側は箱庭の都市が建設された時に、多くの豊穣神に地母神が来たらしいからな。自然神の力が強い地域は生態系が大きく異なるそうだ」

 

蘭丸の博識に黒ウサギはウサ耳をへにょらせる。

 

「蘭丸さんはどこまで知っているのですか?黒ウサギは驚きですよ」

 

「書庫の本は全部読んだし白夜叉やレティシア、親父からもいろいろ聞いたからな。……だが水路の水晶は北側の技術だ。誕生祭で見たんだが……」

 

へ?と黒ウサギは再びウサ耳と首を傾ける。

 

「おっしゃる通り。“アンターウッド”に宿る大精霊ですが、十年前に現れた魔王の傷跡が原因で、未だ休眠中にあるとか、そこで“龍角を持つ鷲獅子”のコミュニティが“アンターウッド”と共存を条件に守護と復興の援助をしているそうです」

 

「では“龍角を持つ鷲獅子”で復興を主導されている御方が……?」

 

「そう。元北側の出身者。おかげで十年前という短い月日で、再活動の目処を立てられたと聞き及んでおります」

 

「そうですか……凄い御仁でございますね」

 

黒ウサギは胸に手を当て言葉を噛みしめる。箱庭最大の災厄"魔王”に襲われた土地に、颯爽と現れた救世主。そんな両者が“ノーネーム”の問題児たちと似ていると思った。

 

(……となるとやっぱりあの人か……あいつの言っていることと合うな)

 

蘭丸は救世主におおよその確信があった。

“ノーネーム”一同はジャックらと共に“主催者”への挨拶の為、本陣営まで足を運ぶのだった。

 

**

 

“アンターウッドの地下都市”壁際の螺旋階段。

螺旋状に掘り進められた“アンターウッド”の都市をグルグルと回りながら登って行く。深さは精々二十メートル程だが壁伝い登るとなかなか距離があった。

 

現在一同は都市に瞳を輝かせていた。耀は“六本傷”のの旗が飾られてある出店に、瞳を奪われていた。

 

「ねえ黒ウサギ。あの出店で売ってる“白牛の焼きたてチーズ”って」

 

「駄目ですよ。食べ歩きは、“主催者”への挨拶の住んだ後に」

 

「美味しいね」

 

「いつの間に買って来たんですか⁉︎」

 

「蘭丸が奢ってくれ……あれ?蘭丸は?」

 

耀は蘭丸を探す為に辺りの出店を見回した。だが螺旋状の姿は無い。問題行動が殆ど無い為薄いが彼も立派な問題児である。

 

「…ありがとな蘭丸!」

 

「ああ、オーナーによろしくな」

 

と蘭丸は小さめな麻袋を持って出店から出てきた。

 

「もう!どこに行っていたのですか⁉︎」

 

「悪い悪い。ここで出店出してるコミュニティの殆ど顔見知りだったもんでな」

 

蘭丸は麻袋を背負い直し軽く笑う。

 

「ヤホホ。蘭丸殿は下層の商業コミュニティ殆どに商業指南をしていますからねえ。蘭丸殿を下層で知らないコミュニティはいないのではないですか」

 

黒ウサギ達、“ノーネーム”は一抹の疑問を抱いていた。

 

((((蘭丸((さん))(君)って一体何者⁈))))

 

そんな会話をしていると一同は地表に出る。しかしここからが長いのだ。大樹を見上げた耀は口を開けてほうけていた。

 

「……黒ウサギ。この樹何百mあるの?」

 

「“アンターウッド”の水樹は全長五百mと聞きます。境界壁程ではありませんがご神木の中では大きな部類だと思います」

 

「そう…私たちが向かう場所は?」

 

「中ほどの位置ですね」

 

つまり行動二百五十m耀はあからさまにめんどくさそうな表情を浮かべ、

 

「私、飛んで行ってもいい?」

 

「春日部さん、いくらなんでも自由度が過ぎるわ」

 

「ヤホホ!お気持ちはわかりますが、団体行動を乱すのはよくありません。それに本陣まではエレベーターがありますからさほど時間はかかりません」

 

太い幹の麓には木箱のボックスがありジャックの指示で乗って行く一同。

 

「このボックスに全員乗ったら扉を閉め、傍のベルを二回ならしてください」

 

「りょーかい」

 

蘭丸はボックスに備えられたベルを二回鳴らす。すると上空で水樹の瘤から水がながれはじめた。隣の空箱に注水し、引き上げるという原始的な方法だが、ものの数分で本陣へ移動した。

 

エレベーターを降り、幹の通路を進むと、収穫祭の主催者である“龍角を持つ鷲獅子”の旗印が見えた。

 

「旗が七枚?七つのコミュニティが主催してるの?」

 

「残念ながらNOですね。“龍角を持つ鷲獅子”は六つのコミュニティが一つに連盟を作っているのです。中央の大きな旗は、連盟旗でございます」

 

“一本角”

“二翼”

“三本の尾”

“四本足”

“五爪”

“六本傷”

 

そして中央に連盟旗・“龍角を持つ鷲獅子”が飾られた。

 

「連盟旗ってのは三つ以上のコミュニティが連盟を持つ時に連盟旗を作ることができてな、加入コミュニティが魔王に襲われた時に、他のコミュニティは救援にいけるのさ」

 

「そう。助けてくれるんだ」

 

「まあ、助けるかはそのコミュニティが決めることだ。分が悪いと助けてくれることは少ないし、……まあ気休めの為に組むのが殆どだ」

 

他のメンバーは二人が話している間に、本陣入り口の両脇にある受付で入場届けを出していた。

 

「ヤホホ。“ウィル・オ・ウィスプ”のジャックとアーシャです」

 

「“ノーネーム”のジン=ラッセルです」

 

「はい。“ウィル・オ・ウィスプ”と“ノーネーム”の……あ」

 

受付をしていた樹霊の少女は、コミュニティの名を聞いてハッと顔を上げる。

彼女はメンバーの顔を一人ずつ確認して行き、飛鳥で視線を留とめた。

 

「もしや“ノーネーム”所属の、久遠飛鳥様ではないでしょうか?」

 

「ええ。そうだけど、貴女は?」

 

「私は火龍誕生祭に参加していた“アンダーウッド”の樹霊の一人です。飛鳥様には弟を助けて頂いたとお聞きしたのですが……」

 

思い出したように声を上げる飛鳥。

“黒死斑の魔王”と戦った時に助けた、あの樹霊の少年の事だろう。受付の少女は確信すると、腰を折って飛鳥に例を述べた。

 

「やはりそうでしたか。その節は弟の命を助けて頂き、本当にありがとうございました。おかげでコミュニティ一同、一人も欠ける事無く帰って来られました」

 

「そう、それは良かったわ。なら招待状をくれたのは貴女達なのかしら?」

 

「はい。大精霊は今眠っていますので、私達が送らせて頂きました。他には“一本角”の新頭首にして“龍角を持つ鷲獅子”の議長でもあらせられる、サラ=ドルトレイク様からの招待状と明記しております」

 

“ノーネーム”の一同は一斉に顔を見合わせ驚いた。

 

「サラ………ドルトレイク?」

 

「おいおい、まさかとは思っていたがマジでか?」

 

「え、ええ。サンドラの姉である、長女のサラ様です。でもまさか南側に来ていたなんて……もしかしたら、北側の技術を流出させたのも…」

 

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

聞き覚えの女性の声が背後から響き、ハッと一同が振り返る。途端、熱風が大樹の木々を揺らした。激しく吹き荒ぶ熱と風の発生源は、空から現れた女性が放つ二枚の炎翼だった。

 

「サ、サラ様!」

 

「久しいなジン。会える日を待っていた。後ろの“箱庭の貴族”殿とは、初対面かな?………おや?そこの君が二宮蘭丸殿かな?遣いの者を通しては何度かあったが実際に会うのは初めてだな」

 

「ああ、その節は世話になった」

 

蘭丸は自然な動作でネクタイを締め直す。

 

「ふふ、私への挨拶程度にそのような正装とは嬉しいな」

 

「すまんがこれが俺の普段着だ」

 

「おや?そうなのか…ますます面白いな」

 

 

微笑を浮かべながら燃え盛る炎翼を消失させ、樹の幹に舞い降りるサラ=ドルトレイク。姉妹であるサンドラと同じ赤髪を靡なびかせる彼女は、健康的な褐色の肌を大胆に露出している。その衣装は踊り子と見間違える程に軽装で強い意志を感じさせる瞳の頭上には、サンドラよりも長く立派に生え育った二本の龍角が猛々しく並び立っていた。亜龍として力量を推し量るにはそれだけで十分だろう。サラは蘭丸達の顔を一人一人確認すると、受付の樹霊の少女に笑いかけた。

 

「受付ご苦労だな、キリノ。中には私が居るからお前は遊んで来い」

 

「え? でも私が此処ここを離れては挨拶に来られた参加者が…」

 

「私が中に居ると言っただろう? それに前夜祭から参加するコミュニティは大方出揃った。受付を空けたところで誰も咎とがめんよ。お前も他の幼子同様、少しくらい収穫祭を楽しんで来い」

 

「は、はい……!」

 

キリノと呼ばれた樹霊の少女は表情を明るくさせ、飛鳥達に一礼して収穫祭へ向かって行った。残ったサラは蘭丸達に視線を向けると、口元に僅かな笑みを浮かばせて仰々しく頭を垂れる。

 

「南側へようこそ、“ノーネーム”と“ウィル・オ・ウィスプ”。下層で噂の両コミュニティを招くことが出来て、私も鼻高々といったところだ」

 

「……噂?」

 

蘭丸は眉を顰ひそめて問いかける。サラは頷き、踵きびすを返して歩き出す。

 

「ああ。しかし立ち話もなんだ。皆、中に入れ。茶の一つでも淹いれよう」

 

手招きをしながら本陣の中に消えるサラ。それに続いて“ノーネーム”と“ウィル・オ・ウィスプ”のメンバーも招かれるままに大樹の中に入って行った。

 

 

 

 





久しぶりで腕が鈍ってしまいました。ここから勘を取り戻せるように頑張ります。

では、誤字、感想お待ちしております。

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