問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? 作:ふわにゃん
今回から新書突入です。
嫌だ‼︎
“黒死斑の魔王”との闘いから一ヶ月が経つ頃、“ノーネーム”のメンバーは今後の方針を決める為に大広間に集まっていた。広間の中心に置かれている長机に上座からジン、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、蘭丸、レティシア、リリと並んでいる。
(まあこれが順当か……自分で言うのはアレだが)
蘭丸は見渡してそう思っていた。そして上座には緊張した顔で居るジンの姿があった。
「どうしたジン。そんなにガチガチになって」
「だっ、だって旗本の席ですよ?緊張して当然ですよ!」
十六夜と蘭丸は軽く溜息を吐きながらジンをみる。
「あのなぁ御チビ、何度も言ってきたじゃねえか。お前が“ノーネーム”の旗頭であり、名刺代わりなんだ。俺達の戦果は“ジン=ラッセル”の名前に集約されるんだよ。その本人が上座に座らなくて誰が座るんだよ?」
ゲンナリした様子で十六夜が言う。蘭丸はそうだと言うように笑う。
「苦節三年……とうとう我らのコミュニティにも、招待状が届くようになりました。それもジン坊ちゃんの名前で!だから堂々と胸を張って上座にお座りくださいな!」
いつもテンションの高い黒ウサギがさらにハイテンションになっていた。
「でもそれは…」
「『僕の戦果じゃない』なんて言ったら流石にキレるぞ?」
「え?」
蘭丸はもう一度溜息を吐きながらジンの下へと歩く。
「お前がリーダーとしてこれからのことを全て引き受けるという覚悟を背負ったんだろ?俺達はそれをサポートする。だからお前は胸を張ってろ。心配すんな」
ジンの頭にポン、と手を置く。ジンは少し照れ臭そうになりながらも嬉しそうだ。
「…………はい。皆さんのリーダーで在れるよう、頑張っていきます!」
「そっか」
安心したのか蘭丸は自分の席へと戻った。
「では、気を取り直してコミュニティの現状を……リリ、黒ウサギ。お願い」
「わかりました」
「うん」
リリは立ち上がり、現状報告を始めた。
「えっと備蓄に関しては暫くは問題ありません。最低限の生活を営むだけなら一年間は過ごせそうです」
「なるほどな。こないだの“黒死斑の魔王”の件か?」
「はい。十六夜様達が倒した“黒死斑の魔王”が推定五桁の魔王に認定されたのです。それに“階層支配者”からの依頼と言うことで規定額からさらに跳ね上がるかと白夜叉からの報告がありました。これでしばらくは、みんなお腹いっぱい食べられます」
パタパタと二尾を振りながら嬉しそうにはにかむリリ。それをレティシアが宥める。
「リリ、はしたないからやめなさい」
「ご、ごめんなさい」
レティシアに宥められ、リリは自分が露骨だったことを気づき顔を真っ赤に染めた。
「推定五桁ってことは俺が倒したグールの奴と同じに本拠を持たないコミュニティなのか?」
「はい、本来三人だけのコミュニティが五桁に認定されるのは珍しいですが、“黒死斑の魔王”が神霊であった事とゲームの難易度を考慮してのことです」
初めて聞く箱庭の基準に十六夜は興味深そうな視線を向ける。
「へえ、箱庭の桁数ってそんな感じなんだ」
「Yes!ギフトゲームとは本来、神仏が恩恵を与える試練そのもの。箱庭ではそれを分かりやすく形式化したもの、ゲーム難易度は己の格を表すのです」
箱庭のコミュニティの格付けは強力な個人の力ではない。
例を上げると六桁の外門を越えるには、“階層支配者”の提示するゲームをクリアする。
五桁の外門を越えるには六桁の外門を三つ以上勢力下におき、百以上のコミュニティが参加するゲームの“主催者”を務める。
つまり、六桁に行くにはコミュニティの組織力、五桁には主催者としての実力が問われる。
「それで“黒死斑の魔王”を倒した十六夜様達には白夜叉様から金銭とは別に特別報酬があるそうです」
十六夜はへえ、と面白そうな顔を浮かべる。五桁の魔王を倒したということは相当な恩恵であるだろう。ちなみに蘭丸の時には報酬は救助コミュニティである“レンジャー”に渡された。
「それではリリ、最後に農場報告お願い」
「はい、農場はディーンとメルンのお陰で、農場の四分の一が使えるようになりました」
リリは嬉しそうに二尾を振る。
「当選よ。ディーンとメルンが毎日休まずやってくれたもの」
飛鳥は誇らしげに言う。
「そこで今回の本題です。復興した農園区に特殊栽培の特区を設けようと思うのです」
「特区?」
「Yes!有りていにいえば霊草・霊樹を栽培する土地です。例えば…」
「マンドラゴラとか?」
「マンドレイクとか?」
「マンイーターとか?」
「久々能の神とか?」
「Yes♪って皆さんおかしすぎるのですよ!マンイーターなんて物騒な植物、子供たちに任せることは出来ません!それにマンドラゴラやマンドレイクみたいな超危険即死植物も黒ウサギ的にアウトです!それに久々能の神なんて超超レアな御神木をどうやって手に入れるのですか⁈」
「「「じゃあ妥協してラビットイーターとか?」」」
「なんですか⁈その黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは‼︎」
うがーっ‼︎とウサ耳を立てて怒る黒ウサギ。レティシアは溜息を吐きながら話を続ける。
「つまり主殿には農園区に相応しい牧畜や苗を手に入れてほしいのだ」
「ってことは山羊とか牛のことか?」
「ああ、幸い、南側の“龍角を持つ鷲獅子”(ドラコ・グライフ)連盟から収穫祭の招待状が届いている連盟主催と言うこともあり、収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多く開かれるだろう」
レティシア曰く、種牛や希少種の苗を賭けるものも出てくるらしい。それならコミュニティの組織力を高めるには、これ以上にない機会のはず。
それにはなるほど、頷く問題児たち。
蘭丸は“龍角を持つ鷲獅子”の印の押された招待状を見ていた。
「この招待状、前夜祭から参加を求められてんだな。それに旅費や宿泊料は“主催者”が負担するなんてな。“ノーネーム”じゃあ考えられないVIP待遇だな」
「Yes♪場所も南側屈指と美しい河川の舞台!皆さんが喜ぶことは間違いなしです!」
黒ウサギが珍しく強く勧める。十六夜達は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
「へえ…“箱庭の貴族”の太鼓判付きとは……さぞかし壮大な舞台なんだろうな。お嬢様はどう思う?」
「そうね、だってあの“箱庭の貴族”がこれほど推してるのよ?目が眩むぐらいに違いないじゃない。ねえ、春日部さん?」
「うん…これでガッカリしたものだったら黒ウサギは“箱庭の貴族(笑)だね」
「“箱庭の貴族(笑)”⁈なんですかそのお馬鹿っぽいボンボン貴族なネーミングは⁈我々“箱庭の貴族”は由緒正しき貞潔で献身的な貴族でございます!」
「献身的なって所が胡散臭いな」
ヤハハハと笑う十六夜と拗ねるように頬を黒ウサギ。それは黒ウサギの頭を撫でることでなんとか収まったかと思いきやレティシアの頭も撫でることになっていた。
「方針については以上ですが一つ問題があります」
「問題?」
「はい。この収穫祭ですが、二十日間ほど開催される予定で、前夜祭を含めれば二十五日。約一ヶ月の開催になります。この規模のゲームはそうそう無いですし、可能なら最後まで参加したいのですが、長期間コミュニティに主力が不在なのは良くない状況です。なのでレティシアさんと一緒に、一人残って欲しいのですが……」
「「「嫌だ‼︎」」」
「即答か…」
問題児三人は即答に断り、蘭丸は何故か関心するように笑っていた。
「でしたら、せめて日数を絞らせて下さい」
「というと?」
「前夜祭を三人、オープニングセレモニーからの一週間を四人、残りの日数を三人。このプランでどうでしょうか?」
ジンの言うことは最もだ。そこで耀が挙手する。
「それだと二人だけ全部参加出来ることになるよね?それはどうやって決めるの?」
その質問に席次順と言いかけるジンだがこの問題児達がそれで納得するはずが無い。
「なら、箱庭らしくゲームで決めるのはどうだ?」
「ゲーム?」
「あら、面白そうじゃない。どんなゲームをするの?」
「“前夜祭まで、最も多くの戦果を上げたものが勝者”ってのはどうだ?」
これには飛鳥も耀も賛成であり目を輝かせている。
「分かったわ。それでいきましょう」
「うん、絶対に負けない」
不適に笑う飛鳥と珍しくやる気を見せる耀。
「そうか、じゃあ頑張れお前ら」
「何言ってんだ?お前もだよ蘭丸」
十六夜は本気で驚いている口調であった。
「いや、俺は別に…」
「怖いのか?負けるのが……まあ計算高いお前らしい姑息な手段だな。わざわざ負けると分かってて勝負はしねえよな」
「そうね、実に弱々しいわね」
「…………ビビり」
十六夜達はケラケラと笑いながら蘭丸を茶化す。蘭丸はゆらりと立ち上がると、
「おもしろい……そこまで言うなら俺がお前らを完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」
蘭丸は青筋入りの笑みで十六夜達に勝利宣言をした。
こうして“龍角を持つ鷲獅子”の全参加をかけたゲームが始まった。
久しぶりに投稿しました。
個人的な私情でいろいろと立て込んでいまして。おそらく誤字など目立つかも………
では誤字、感想、よろしくお願いします!