問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? 作:ふわにゃん
十六夜と黒ウサギが追いかけっこをしている間、飛鳥とレティシアが祭りを堪能していた。
「レティシア、これは何?」
「クレープだ。食わず嫌いか。美味だぞ」
「いえ、そのまま噛り付くのね…」
飛鳥はレティシアの口の周りにクリームが着いているのに少し抵抗を覚えるが意を決してクレープに噛り付く。
「美味しいわこれ!とっても甘いわ」
「それは良かった これくらいで二の足を踏まれたのでは南側には行けないからな」
「なんでなの?」
「南側では“切る、焼く、食う”が基本だそうだ」
「そう、春日部さんが喜びそうね………あら、レティシア、あれは?」
飛鳥の指差す方向にはとんがり帽子を被った手のひらサイズの少女がいた。
「ああ、あれは「精霊か?」ん?」
レティシアが説明しようとすると後ろから声が聞こえたのでレティシアは声の方を向くと、そこには蘭丸がいた。
「ら、蘭丸⁈………あっ!」
レティシアは慌て少し距離を取ろうとあとずさむがレティシアは足を引っ掛けてよろけた。
「おっと。大丈夫か?」
「あ、あああああ………///」
それを蘭丸が受け止めた。しかも抱え方が悪く、顔と顔の距離がかなり近い。レティシアはまるでゆでだこの様に紅くなった。
レティシアは慌てて蘭丸から少し離れた。蘭丸は自分が何か悪い事をしたのかと戸惑っている。飛鳥は一人置いてけぼりになっていた。
「オッホン!……でこの精霊は?」
「あ、ああ、あのタイプの小精霊通常は集団で行動する群体精霊だからな、あの精霊は恐らくはぐれだろうな」
「ふーん」
飛鳥はレティシアの説明を聞きながらその精霊に近づく
「!ひゃあ〜〜‼︎」
精霊は驚いてそこから逃げ出した。
飛鳥は追いかけると言ってレティシアに自分のクレープを渡し走り出した。
「蘭丸、私は飛鳥を追ってくる。先に“サウザンドアイズ”に戻っていてくれ」
レティシアは自分と飛鳥の分のクレープを渡し、飛鳥を追おうとした。
「了解!ん?レティシア、ちょっと待て…………ほらクリームついてるぞ?」
と蘭丸はレティシアの頬についているクリームを指でとりそれを舐めた。
「………///!で、では飛鳥を追ってくる!」
ふたたび顔を紅くしたレティシアは翼を生やし、凄いスピードで逃げる様に飛んで行った。
「ったく…俺がなにしたってんだ?」
蘭丸は苦笑いを浮かべながら受け取ったクレープを人かじりした。
「ん!甘いなコレ」
「やっと捕まえたわ」
飛鳥はやっとの事で小精霊を捕まえた。
「安心して、別にとって食おうってんじゃ無いから」
「ひゃあ〜」
どうやらおなかが空いているらしい。そう見て取った飛鳥は懐から買ったクッキーを取り出す。
「はいこれ。友達の証よ」
「‼︎」
焼きたてのクッキーの香りに誘われてクッキーを受け取ったその小精霊はうれしそうにクッキーを齧っている。
「私は久遠飛鳥よ言える?」
「……あすかー?」
「ちょっと伸ばしすぎね。最後はもっとメリハリをつけて疑問形は無しよ」
「あすか!」
「ふふ…ありがとう」
「じゃあ貴女のお名前は?」
「らってんふぇんがー!」
飛鳥はその小精霊の堂々とした態度で語られる名があまりにも似つかわしくないものであった為か、困惑していた。
「らってんふぇんがー?それが貴女の名前なの?」
「んーん、コミュ!」
「コミュ、コミュニティのことね。でも貴女のお名前は?」
「??」
飛鳥の言葉に小精霊は首を傾げる。この小精霊には名前がないらしい。
「あすか!」
「何かしら?」
飛鳥が思考に陥っていると小精霊が声をかけてくる。そしてその指差す方向には展覧会の会場があった。
飛鳥はせっかくだと言うことで展覧会を見ることにした。
「わあ…素敵」
飛鳥は会場に置かれた数々の出展物に目を奪われる。様々な煌びやかな出展物は飛鳥が今までに見てきたどの美術品よりも美しく、繊細なものであった。
北側は創作系のギフトが豊富である。この展覧会の規模はそこまで大きくはないがそれでもその北側がいかに創作に力を入れているのかがうかがい知れる。
「それに凄い数ね。沢山のコミュニティが出店してるのね」
「きれー」
その美しい作品の数々に飛鳥は魅了されていた。
「もっと奥があるようね。あっちが会場の中心かしら?」
飛鳥は会場の奥へと足を運ぶ。
会場の奥の開けた空間には、燃えるような紅で彩られた鋼の巨人がそびえ立っていた。
「紅い鋼の巨人?」
「おっきー!」
「凄いわね一体どんなコミュニティが…」
「らってんふぇんがー!」
飛鳥が巨人の脇にある制作コミュニティの欄には“ラッテンフェンガー”と書かれていた。
「これって貴女のコミュニティが作ったの?」
「えっへん!」
飛鳥の問いかけにその小精霊は胸を張る。
「『ディーン』・・・・それがこの巨人の名前なのね。すごいわね。"ラッテンフェンガー"のコミュ二ティは」
飛鳥は『ディーン』と“ラッテンフェンガー”に感心しながら奥へと進んでいく。
…が突如として吹いた風により、会場の松明は消え、辺りは暗くなった。
「どうした⁈急に暗くなったぞ?」
「と、取り敢えず近く明かりを付けるんだ!」
飛鳥も近くのろうそくに火をともそうとした時に、突如不気味な明かりが灯った。
『……ミツケタ。ヨウヤクミツケタ……』
そしてその明かりからさらに不気味な言葉が響く。
「卑怯者‼︎姿を隠さず出て来なさい‼︎」
飛鳥の声が反響するが、反応は無い。
『嗚呼、ヨウヤクミツケタ………“ラッテンフェンガー”ノ名ヲ名乗ル不埒者‼︎』
一喝すると壁がうようよと動き出す。その声の正体は大量のネズミだ。
「こ、この……『大人しく巣に帰りなさい‼︎』」
飛鳥が“威光”で追い払おうとするが、ネズミは止まらない。
(“威光”が通じない⁈)
飛鳥は咄嗟に白銀の十時剣で数匹薙ぎ払うが数匹倒れても数十匹が襲ってくる。
(まさか…この子が狙われてる?)
ネズミの狙いに気付いた飛鳥はその小精霊を服の中に押し込む。
「ムギュ⁈」
「大人しく入ってなさい!落ちては駄目よ‼︎」
飛鳥はそのまま走り出す。その際に十時剣で薙ぎ払いつつ、ネズミから逃げる。
(駄目…追いつかれる!)
「ネズミ風情が!我が同胞に牙を向けるとは何事だ!」
怒号と共に黒い竜巻のようなものがネズミ達を殺戮する。声の主は幼い幼女の姿から大人の女性と言った姿に変わっていたレティシアであった。服装もメイド服も真紅のレザージャケットに代わり拘束具のような奇形なスカートを履いている。
「術者は何処にいる!姿を見せよ!往来の場で強襲したにはそれ相応の覚悟があってのことだろう!コミュニティの名を晒し、姿を見せ口上を述べよ!」
レティシアが叫ぶが、反応は無い。どうやら既に術者は姿をくらませた様だ。
「貴女、レティシアなの?」
「ああ」
「貴女ってこんなに凄かったのね」
「あ、あのな主殿。褒められるのは嬉しいがその反応は流石に失礼だぞ。神格を失ったとはいえ、私は元魔王で純血の吸血鬼で誇り高き“箱庭の騎士”。ネズミごとき幾千を相手にしても遅れをとるはずがない」
レティシアは拗ねたような口調で言った。
「それより飛鳥。怪我は無事か?」
「ええ、この服に加護があったおかげで大きな怪我は無いわ。流石に噛まれた箇所は服が破けたけれど」
「あすか!」
急に飛鳥の胸から小精霊が飛び出し、飛鳥に抱き付いた。
「あすか!あすかぁ!」
小精霊は今にも泣きそうだが飛鳥は「大丈夫よ」と言いながらその小精霊の頭を撫でる。
「やれやれ、取り敢えず日も落ちて来たことだ。今日はその小精霊を連れて帰ろう」
「ええ、そうね」
レティシアの飛鳥は“サウザンドアイズ”に戻ることにした。
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