【完結】ゼロの極点   作:家葉 テイク

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第一二章

 結果、ルイズは信じられない光景を目にしていた。

 

「(あれ……? あれー……?)」

「(何の計算もしてなかったのならそれはそれで凄いわね。まあ、私は身のこなしを見ただけで何となく分かったけど)」

「(空賊にしては『がっつく』様子も見られなかったしね)」

 

 こそこそと話している三人の目の前にいた空賊の頭は、ヒゲを生やした縮れ黒髪の屈強な男ではなく、高貴ささえ感じられる金髪の精悍な青年だった。ヒゲは付け髭、眼帯は伊達、黒髪はカツラというわけだ。周りにいる空賊も、先程までのニヤニヤ笑いはどこへやら、真面目な顔をして直立している。明らかに、軍隊の統率のとれた動きだった。

 

「大使殿に失礼な行いをしたことを詫びさせてもらいたい。私はアルビオン王立空軍大将にして本国艦隊司令長官……もっとも、この一隻限りの無力な本国艦隊だがね」

「あ、あの、えっと……」

「おっと、大使殿にはこういった方が分かりやすいかな。――ウェールズ・テューダー。アルビオン王国の皇太子さ」

「は、え……?」

 

 呆然とするルイズへ説明するように、空賊の頭――いや、ウェールズは話し出す。

 敵の補給線を断つのは戦の基本、しかしながら王軍の軍艦旗を掲げたのではあっという間に狙われてしまうから、空賊を装うことでカモフラージュをしていること。

 外国に王党派の味方がいるというのが信じられず、あえて粗末な扱いをして本当に味方なのか確かめたこと。

 そこまで言っても、ルイズは呆然としているばかりだった。今まで敵だと思っていた人間が目的の人物だと知って、まだ好悪の反転に感情がついていけていないのだ。そんなルイズをよそに、ワルドが本題を切り出す。

 

「アンリエッタ姫殿下より密書を言付かってまいりました」

「ふむ。姫殿下とな。君は?」

「トリステイン魔法衛士隊グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。子爵にございます」

 

 それからワルドはルイズと麦野を手で示し、

 

「そしてこちらがトリステインの『勇敢』な大使、ラ・ヴァリエール嬢とその使い魔の女性にございます」

「はっはっは! 全く先程の勇敢さには驚かされたよ。もっとも、君たちの方は真相を既に理解していたようだが。して、その密書というのは?」

「あっはい、こちらに……」

 

 ルイズは懐から手紙を取り出し、ウェールズに手渡そうとしたが、寸前で止まった。怪訝な表情を浮かべるウェールズに、ルイズは戸惑いがちに口を開く。

 

「え、えっと……」

「どうしたんだね?」

「し、失礼ながら、本当に皇太子さまでいらっしゃいますか?」

 

 その言葉に、ウェールズは苦笑した。

 

「まあ、そう思うのも無理はない。僕は正真正銘、ウェールズ・テューダーさ。何なら証拠を見せよう。先程君が見せたようにね」

 

 そう言って、ウェールズははめている指輪を翳した。指輪は水のルビーと同じように、内部で風が渦巻くような不思議な輝きを持っていた。

 ルイズの指にある水のルビーと共鳴し合い、虹色の光を周囲に振り撒く。ワルドがおおっと呻き、麦野は無言のままにその光を見ていた。

 

「この指環はアルビオン王家に伝わる秘宝、『風のルビー』だ。水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹というわけだね」

「た、大変失礼をばいたしました」

「はっは、気にしないで良い。無理もないことだよ」

 

 その言葉に深々と礼をして、ルイズはウェールズに手紙を手渡した。

 何か芝居がかったやりとりが行われているが、麦野の視線はそこには注がれていなかった。

 彼女はただ、指環の方だけを見つめていた。

 

***

 

 ウェールズ皇太子がアンリエッタとの恋文を携帯している訳もなく、保管されているというニューカッスルの城まで向かうことになった。流石にそんなことをしたら身元がバレてしまうのでは……と思ったルイズだったが、どうもそうはならないらしい。

 アルビオンの下半分は大河から漏れる水が散らばった霧が覆っている。その為、アルビオンの真下は頭上の大陸と霧による視界の悪さによって、座礁の危険性が非常に高い危険地帯となっている。その為、貴族派は近寄らないのだ。

 経験のある航空士であれば造作もないことらしいが、どうやら貴族派にそうした経験を持ったものはいないのだろう。

 まるで空賊だな、とワルドはそんな話を聞いて呟いていたが、まさしくだった。

 

「……もう、訳が分からないわ」

 

 ルイズが、城のホール近くのバルコニーでそんなことを呟いた。傍らには麦野がいる。ワルドは、何やらウェールズと会話を交わしているようだった。

 あの後、城に着いたルイズは手紙を受け取る際、ウェールズに亡命を勧めた。かなり熱っぽく、声さえ荒げて言った。しかし、ウェールズはそれを固辞した。それどころか、叛徒どもに手痛い打撃を与えて死ぬことこそ誇りだ、と言ったのだ。ウェールズの侍従パリ―はウェールズが商船から奪い取った硫黄の樽を見て『これで名誉の戦死を遂げられる』なんて喜ぶし、夜にはこうして明日の決戦に向けてパーティまで開いている始末。……明日には、全員死んでしまうというのに。

 

「わたしだって貴族だから、名誉の戦死って気持ちは、分からなくないわ……」

 

 恋文は、確かに受け取った。大使としての任務は、これで果たせる。だが、それ以外は何も得られなかった。ウェールズも、アルビオンも、明日にはこの空に散ってしまう。……何も残せずに。

 

「……でも、こんなの犬死じゃない! 名誉なんてどこにもない!! それだけじゃない。ウェールズさまが死んだら、姫さまだって悲しむのに! どうしてあの人たちはあんな風に笑っていられるのよ!? みんなみんなみんな、自分のことしか考えてないんだわ!!」

 

 感情が爆発したのだろう、ルイズは隣にいる麦野にそう言った。

 麦野はそんなルイズには頓着せず、喋りはじめた。

 

「……なあ『ご主人様』。すこし私の世界の知識を話してやろう」

 

 麦野はそう言って、話し始めた。ルイズは怪訝に思ったが、話を聞くことにした。

 

「――ルビーやサファイアとかいった宝石がある。それは分かるわね?」

「……ええ」

「こいつらはコランダム――酸化アルミニウムの結晶に不純物が混ざったもので、成分的には全く同じなのよ」

「えっ? でも、ルビーもサファイアも全く色が違うじゃない」

「コランダムってのは本来無色透明なんだけどね――結晶に組み込まれる僅かな不純物――イオンによって色がつき、ルビーだのサファイアだのと呼ばれる。本質的には殆ど同じなんだよ。アンタだって水のルビーだの風のルビーだの、赤じゃないものもルビーって呼んでるでしょ」

「……」

 

 言われてみれば、といったように頷くルイズに、麦野は鼻を鳴らして続ける。

 

「ここからは私の世界でもかなり『深い』ところの話だが――『天使の涙』っていう宝石が、見つかったことがあってな」

「……てんし?」

「こっちで言えば、始祖の使い魔みたいなモンだよ」

 

 麦野は適当に言い、

 

「『天使の涙』。基本は無色透明。中心部のみが黄金に輝いているっていう、普通じゃあり得ない色の鉱石よ」

「……ダイヤモンドの中に黄金が埋まっているってこと?」

「そうじゃない。組成は同じなんだよ。ただ、結晶構造の中に()()()()()()()()()()()()()()()があるから、そんな風に見えるの。勿論、科学的にそんな振る舞いをする物質は存在していない」

「…………それで、何か凄いっていうのは分かったけど、それがどうしたのよ?」

 

 ルイズは首を傾げた。話を聞く限り何か普通でないことは分かるのだが、だからといってそれだけでは『珍しい』以上の評価は得られない。この使い魔がわざわざ前の世界のことを話すのだから、たとえ世間話でも何かしらの特別な『何か』があるはずだ。

 

「デカい宝石ってのは、それだけで逸話ってのがあるもんだ。この世界にはないか? この宝石は不幸を呼ぶとか、この宝石を身に着けているものは幸せになるとか」

「……まあ」

「この宝石にもある。ただ、面白いのは『リスクが明示されている』ところでね。……『天使の涙は、正しく利用すれば天使と会話できる。ただし、失敗した場合は確実に死が訪れる』。そんな逸話があったんだ」

「……」

「とんだオカルトだろ? 私も信じてなかったんだが……だが、あの一連の事件で『魔術』の存在を知っちまったからね。……そうなると、あながち間違いじゃないんじゃと思ってね」

 

 そう言って、麦野はルイズの指先に視線を落とした。

 それで、ルイズは何となく麦野の言いたいことが分かった。

 

「オカルトを呼び込む宝石。……なら、そこに組み込まれている『何か』っていうのも、オカルト絡みであるのが道理よね?」

「……そうね」

「残念ながら現物を持ってはいないが……此処には、『天使の涙』と同じように通常では考えられない振る舞いを見せ、そしてオカルトじみた効力を発揮するルビーの亜種がある」

「こ、これはダメよ。トリステインの国宝なんだから、あげないわよ」

「分かってるわよ。だが、あの風のルビーなら良い。どうせ明日には滅んでる王家なんだ。国宝を保護するとかの名目で回収したって問題ない。お誂え向きに前トリステイン王はアルビオンの王族なんだし、本流が途絶えたんならこっちが所有権を主張したって良いんだし」

「……ねえシズリ、何であんたそんなにそのルビーに固執してるの?」

「目的の為」

 

 麦野はそう断言した。

 

(――〇次元の極点っていうのは、ミクロを超えた最小単位の概念だ。原子崩し(メルトダウナー)でソイツに干渉するのも、一次元の極小の線を切断するって方式だし。なら、物質の構成単位になるほどの極小サイズのオカルトを解析することで〇次元に応用できる可能性はかなり高い。……クク、とんだ期待外ればかりだと思っていたら、此処に来てツキが向いて来たわね。運が良ければ、研究にかかる時間をかなり短縮できる)

 

 まるっきり捕らぬ狸の皮算用だったが、しかし『極小サイズの異能』が存在するという証拠があるのはどちらにせよ有難かった。前例があるなら資料探しだって捗る。

 

「シズリ……シズリの目的って、何?」

「アンタには関係ないことよ。まあ、悪いようにはしないから安心しなさい。悪いようには、ね……」

 

 上機嫌の麦野はそう言って、シャンパンを煽った。

 自分の目的とやらを語るつもりは、毛頭ないらしい。なら良い、とルイズは思う。まだ自分はそこまで信頼されていない。言うべきと思う程、この女性の中で大きな役割を持っていない。それなら、認めさせてやるだけだ、とルイズは思う。

 

「……それで?」

 

 話も終わったらしいので、ルイズは麦野に問いかけた。何で、いきなりこんな話をしたのだろう。ルイズの話とは全く関係のない話だったが、これがどういった意味を持つのだろうか? 麦野は、何かをさとして伝えようとしているのだろうか?

 しかし、問われた麦野はあっさりと聞き返した。

 

「それでって?」

「いや、いきなりこんな話したから、どういうことなのかなって……」

「あん? 意味なんてないわよ。ただの世間話。まさかアンタ、私がアンタのことを慰めるつもりだとでも思った? 馬鹿なこと言っちゃいけないわ。ソイツはアンタの問題。アンタが自分で勝手にどうにかしていなさい」

 

 そう言って、麦野はシャンパンを飲む。

 麦野は、やっぱり麦野だった。

 だが、彼女の明け透けな物言いは、却ってルイズの負けん気に火をつけた。そうだ、こんなところで落ち込んでいるなんて、自分らしくない。納得がいかないなら、とことんまで、納得がいくまで噛みつくのがルイズだ。

 そうして、ルイズはホールの中へと歩を進めた。

 まるで、それまで逃げていたものに改めて向かい合うかのように。

 

***

 

第一二章 敗戦の流儀 The_Duties_of_Losers.

 

***

 

「亡命の決断を」

 

 パーティホールに戻ったルイズは、ワルドと談笑していたウェールズにそう切り出した。

 突如現れたルイズに唖然としていたウェールズは、ぽかんとしてルイズの方を見ていた。

 

「ルイズ、此処でそういうことは……、」

 

 ルイズの様子に気付いたワルドが、戸惑いがちにルイズを宥めにかかる。しかしルイズはその手をやんわりと抑えた。聞かない、ということだ。ワルドは助けを求めるようにバルコニーに視線を向けたが、そこには肩を竦める性悪女の姿があるだけだった。どうやらルイズを焚き付けたのはこの女らしい。

 

「……ミス・ヴァリエール。場所を移そうか。その話題は此処には相応しくない。他の兵士たちの士気にも関わることだ」

 

 神妙に言うウェールズに、ルイズはこくりと頷き、先導に従ってパーティホールから出る。そんな二人を気遣うように、ワルドも後に続いた。

 ホールから出たウェールズは、困ったような苦笑を浮かべた。

 

「……それで、その件については既にお答えしたはずなんだけどね」

「それでも、です。殿下、どうかトリステインに亡命を」

「――ミス・ヴァリエール。忠告しておくが、君の『それ』は単なる子供の癇癪のようなものだ。考えてもみてくれたまえ。僕が亡命したところで何になる? 僕の力である『王族』というステータスは、反乱軍が国を征服すれば何のメリットにもならなくなるんだ。むしろ、貴族派がトリステインに攻め入る口実になってしまう」

「そんなことは分かっています」

「いいや、君は何も分かっていない」

 

 ルイズはかっとなって、敬語も忘れて元の口調で噛みついた。

 

「あんたが死んじゃったら!! もうハッピーエンドなんかあり得なくなるっつってんのよ、この分からず屋!! 何で最初っから勝つことを諦めてるのよ!! 最後の最後まで、汚い手を使ってでも足掻きなさいよ!! 今! この瞬間!! どうせ死ぬんだからなんて諦めたりせず、泥に塗れてでも戦いなさいよ!! 恋人なら姫さまを、アンを泣かせてんじゃないわよ!!」

「それが、分かっていないと、言っているんだッッ!!!!」

 

 叫んだルイズに被せるように、ウェールズが一喝した。温厚な皇太子の突然の激情に、ルイズは思わず怯む。

 それから優しく穏やかに、ウェールズは諭すような調子で口を開いた。

 

「怒鳴ったりしてすまない。……だが、ハッピーエンドなんかとっくのとうにあり得ないんだよ。此処に至るまで、いったい何人の我が下僕が死んだのだろう。その家族も。無辜の民も。両手両足を使ったとしても、数えることはできまい」

「…………、」

「分かるかい、ミス・ヴァリエール。『幸せな結末』なんて、こんな状況を引き起こした僕には許されないんだ。この上、逃げ回って戦争を先延ばしにする? 冗談を言わないでくれ。そんなことをしたら、民はさらに疲弊する。此処で死ぬことで、貴族派に手痛い打撃を与えて滅びること、それが僕にできる最良の選択なんだ」

「…………」

 

 ウェールズは、笑顔を浮かべて言った。

 死ぬしか、ない。

 そうすることでしか、救いがない。

 ウェールズ自身が諦めているのではない。もはやそうするしか道がなくなっている。ルイズと何歳も違わない少年が、そんな状況に追い込まれて、それでも誰かの為に笑っている。

 ルイズは、そんなこと考えたこともなかった。

 ルイズは部外者の、ただの学生だ。こんな戦争なんかどうにもできない。ハッピーエンドなんか作れない。そもそも、始まりからしてハッピーエンドなんかあり得なかった。ルイズは、悲劇の真っただ中にちょっとやってきただけの観測者でしかないのだ。箱の中にいる猫が死んでいるかどうか、確認するくらいしかできることはない。

 ルイズは、ただただ俯いた。

 

「…………、感謝するよ、ミス・ヴァリエール。君のお蔭で、自分の心の中にある決意を吐き出すことができた。改めて、覚悟を決めることができた。君の様に純粋な少女が大使で、本当に良かったと思う。だから――」

「……めない……」

 

 どうしようもない。

 …………本当にそうか?

 この状況は、本当にどうしようもないか?

 何か、あるんじゃないか。麦野の力を借りる、なんてことではない。もっと、この状況を覆せるピースがどこかにあるんじゃないか? そして、それに気付ければ、戦争にだって勝てるんじゃないか?

 

「……? ミス・ヴァリエール?」

「……認めない。確かに、もう完璧なハッピーエンドなんか生み出せないのかもしれない。死んでしまった人達は戻らない。でも、そのことであんたが幸せになっちゃいけないなんて、そんなこともっとあり得ないでしょうが!!!!」

 

 ルイズの目には、もはや迷いは存在していなかった。

 確かに、王族である以上、配下の貴族を制御しきれなかった責任はある。そのことによって民を疲弊させた責任もある。だが、だからといって死ぬことでしかその罪を贖うことができないなんてことはない。勝ち残り、生きて、その後の国を一刻も早く再生させることでも、償いになるはずだ。

 

「……そんなことはない。内憂を払えなかった王族には、相応の責任が、」

「それに、どうせ貴族派は止まらない。貴族派のスパイは既にトリステインにもいるのよ」

「な、んだって……」

「アンタ達が此処で滅んだところで、アルビオンは止まらない。さらに戦火を拡大させていく。此処で食い止めないと、さらに悲劇が広まるのよ!!」

 

 ウェールズは、暫しそんなルイズのことを見つめていた。

 そしてやがて、震えながら口を開く。

 

「……なら……なら、どうしろと言うんだ……。相手は五万。こちらは精々数百の兵しかいない。こんな状況で、どう勝てというのだ。僕にはもう、死ぬことしかできないんだ! それすら民やアンの為にならないというのなら、僕は一体どうすればいいんだ!!」

「言いなさい」

 

 ルイズは、瞳に燃えるような輝きを湛えて言った。

 

「恥も外聞も捨てて、頼りなさいよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを!! たったの一言あれば、わたしは戦う。あんた達に、勝利を授ける!」

 

 ――馬鹿げた提案だった。

 現実を見ていない小娘の戯言。誰だってそう思うだろう。相手は五万。ルイズ一人が加わったところで、それは何の意味もない。たった一人の戦力増加で勝ちが拾えるほど、戦争は甘くない。

 それに、ルイズが参戦したら、それはもう外交問題だ。トリステインの大使が内政干渉したとなれば、貴族派は大手を振ってトリステインに攻め入るに決まっている。

 ……ただ、ワルドはそれを見て、ひとり歪な笑みを浮かべていた。ウェールズは、不思議な信頼感をおぼえた。本当にこの少女ならそんな結末を生み出しかねない。そんな気持ちになった。

 

「…………」

 

 ウェールズは、ただただ俯いた。

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、悩みに悩んで、あらゆるものと天秤にかけて、そしてやがて、口を開いた。

 

「……助けて、くれ」

 

 ぽつり、と。

 ただの少年が、小さく呟いた。

 

「助けられるものなら、助けてくれ! この国を。そして民を! 助けてくれ!」

「――――分かったわ」

 

 ルイズは頷いた。ワルドが小さく笑う。

 どうやら、ワルドもまたそんなルイズに付き合うつもりのようだった。こんな危ないことに付き合わせてしまって悪いな、とルイズは心の中で思ったが、そんな弱気は振り切ってウェールズの瞳を見つめる。

 

「任せなさい。このわたしが、この国を救ってみせる」

 

 そう、言い切ったルイズの姿はまるで聖女のようで――――。

 

 ――――そんな聖女の耳には、どこからかオルゴールの音色が聞こえていた。


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