インフィニット・ストラトス ~その拳で護る者~    作:不知火 丙

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第九話

― セシリア・オルコット ―

 

ザアァァァァーーーー

 

 少し熱めのお湯が肌にあたって下に落ちていく。今日の模擬戦で掻いた汗を流す。

 

「織斑……一夏」

 

 ふとその名前を口にした。

 今日の模擬戦で戦った男のIS操縦者だ。ブルーティアーズの攻撃をことごとくかわし、近接戦闘を挑んできた。しかもファーストシフトをしていない状態でだ。

 ファーストシフトをしてからというもの攻撃があたらなくなり、懐にもぐりこまれてしまったとこは流石に「負けた」と思ってしまった。

 が、結果は相手のエネルギー切れで、何とか勝ちを拾うことができた。何故あそこでエネルギー切れを起こしたのかは分からない。エネルギー切れを起こした本人も驚いていた位だ。

 

「織斑一夏」

 

 もう一度その名前を口にする。

 世界最強である織斑千冬の弟であり、世界初の男性IS操縦者。意思の強い目をしていた。媚びることの無い強い眼差しだった。

 男の人は弱いものばかりだと思っていた。わたくしの父がその例だった。父はいつも母の顔色を伺って、怯えるように暮らしていた。

 今思えば、名家であるオルコット家に婿入りしてきたのだから、仕方が無い部分もあったのかも知れない。

 ISが発表されてからはますます父の立場は無くなっていった。でもそれを幼い頃から毎日のように見ていたわたくしは「情けない男とは結婚しない」と思っていた。

 でも、今日の模擬戦で出会ってしまった。織斑一夏に、意思の強い瞳を持った男の人に……。

 出していたお湯を止め、身体に付いた水滴を軽く払い浴室からでる。タオル身体を拭いてバスローブを着る。そしてそのままベッドの上に仰向けに倒れこむ。

 

(今何をしているのでしょうか?)

 

 思うのは一夏のことだ。模擬戦が終わってからずっと頭から離れない。

 考えれば胸が高鳴り、体温が上がる感じまでする。これは一体何なんだろう? 知りたい、この胸の高鳴りの理由を。この熱い気持ちを……。そう思いながら私は静かにまぶたを閉じた。

 

― 織斑千冬 ―

 

「で、何なんだアレは?」

 

「アレといいますと?」

 

 私は今、一樹の部屋にいる。模擬戦が終わって、事後処理を済ませてすぐさま訪ねた。

 部屋は思っているほど散らかってはおらず、小奇麗な状態だった。私は、一樹が模擬戦のとき使用した武装について問いただした。

 

「惚けるな。お前が模擬戦で使用した武装のことだ」

 

「表向きは只の大型荷電粒子砲ですが?」

 

「表向きといっている時点でアウトだ。これを見てみろ」

 

 そう言って私はポケットから数枚の写真を取り出す。

 

「これは? ……げっ!」

 

 一樹が写真を見て驚く。それはそうだ、そこに写っているのは月の横を青い光の帯が通過している写真だ。

 

「そうだ、一樹が撃った砲撃が月の真横を通った写真だ」

 

「これ、誰が撮ったんだ?」

 

「兎が撮ったものだ」

 

 全く、今は何処で何をしているのやら。

 

「流石としか言えんな。少なくとも事前に監視の目はつぶしておいたんだけど」

 

「……そんなことをしていたのか」

 

 相変らず準備のいいやつだ。

 

「まあ、あっちの技術が絡んできてるからな、ばれても特定の人間しか使えねーから良いちゃいいんだけど」

 

「そうなのか?」

 

「まあね、とりあえず知ってるのは兎だけ?」

 

「今はそう思っていていいだろう。流石に目撃情報はあるだろうがな」

 

「だよな」

 

「で、だ。いい加減話せ。アレは一体何なんだ?」

 

 このままだとごまかされるかも知れんからな。

 そう聞くと一樹は立ち上がり、お茶とお茶菓子を用意し始め私の前に出す。一息ついたのを見計らい話し始めた。

 

「アレは魔力収束砲だよ」

 

「魔力収束砲?」

 

「大気中や使用者の魔力を収束して打ち出す兵装だ。アレはISとジュエルシードの使用を前提としているから、あそこまで大型化してるけど本来はもっと小さいんだ」

 

「ジュエルシード?」

 

「ああ、これのことだ」

 

 そう言って一樹は何処からとも無く取り出した青い綺麗な宝石のような物を投げてよこす。

 

「これが?」

 

「そう、それがジュエルシード」

 

 キャッチしたそれをよく見てみる。

 ひし形で大きさは手で握りこめる程度のもので、中心にアラビア数字が書かれている。

 

「これを使用するのは何故なんだ?」

 

 只の宝石のような物にしか見えない。

 

「それ、ロストロギアって言って、文明の進んだ世界が作り出した危険物なんだよ。こっち風に言えばオーパーツって感じかな? ちょっと違う気もするけど。因みにそれ一つで地球が消し飛ぶからな? 扱いには注意してね?」

 

「ブーーーーー!!!」

 

 私は飲んでいたお茶を噴出してしまった。

 

「うお! 汚ねえ!」

 

「ゴホッ! ゴホッ!……そ、そんなものを軽々しく扱うな!!」

 

 本来で在れば厳重に管理し、保管、もしくは処分されなければならない物だろう。処分にも困る代物だが。

 

「だ、大丈夫。厳重に封印が掛かってるからそう簡単に暴走はしないっすよ」

 

「ふ、封印?」

 

「はい、こういったロストロギアは「封印魔法」という魔法でその機能を封印してあるんだよ。だから触ったりしても大丈夫なんですよ。流石に割ったりしたら不味いけど、そう簡単に割れる物でもないし」

 

「また魔法か……もはや何でもありだな」

 

「俺もそう思う」

 

 都合のいいものだ。

 

「ではその魔力収束砲でジュエルシードのエネルギーを取り出して撃ち出したのか?」

 

「そうです。流石に大気圏を突破して、月まで行くとは思わなかったけど」

 

「当たり前だ。最大射程距離が38万kmなんて兵器があってたまるか」

 

「ですよね~」

 

 衛星軌道上まで届くだけで十分だというのに。

 

「で、そのジュエルシードで何発ほど撃てるんだ?」

 

「いや、わからねーみたいなんだ。ジュエルシードのエネルギー量が測定不能みたいだから」

 

「次に撃ったら終わりという事はなさそうだな」

 

「多分無限だぞ?」

 

 あまりに規格外の性能を聞いて頭を抱える。

 

「で、その武装はバニングスインダストリーズから売り出すのか?」

 

「あ~、無理無理。これ扱えるのがスサノオだけだから」

 

「スサノオ?」

 

「あれ? 紹介してなかったっけ? 俺の相棒」

 

「いや、ちゃんと紹介はされていないな」

 

「そういえば正式にはしてなかったな。ほら、バイクが変形したとき喋ってたろ? あれだ」

 

「ああ、あれか」

 

 そう言うと一樹は首にかけていた認識票を外してテーブルの上に置いた。

 

《改めて自己紹介をさせていただきます。スサノオです。これからもよろしくお願いします千冬殿》

 

「ああ、織斑千冬だ。こちらこそよろしく頼む」

 

《何かと相棒が迷惑をかけますがその分こき使ってもらって構いませんので》

 

「ああ、分かった。存分に使わせてもらうとしよう」

 

「そういうのって普通本人の前でやるか?」

 

 一樹がそう言ってくるが無視しておく。聞きたいことも聞き終わったことだし。

 

「それではそろそろ帰らせてもらうとしよう」

 

「ん? 泊まっていけばいいじゃ……うそウソ嘘! 冗談! 冗談だって!! だからアイアンクローを外しイダダダダダ!!!!」

 

「貴様は何度言えば分かるんだ?」

 

 そういいつつギリギリと力を強めていく。

 

「ごめんごめんごめん!!! 反省してます! 猛省してますから外してーーー!!!!」

 

「ふん」

 

 私は掴んでいた一樹の顔を離す。こいつももう少ししっかりしていればいい男なんだが…………って私は何を考えている!?

 

「ん? 千冬さんどったの? 顔が赤いぞ? 熱でもあんのか?」

 

「な、何でも無い! 気にするな!」

 

「そ、そうか? それならいいんだけど……?」

 

「ゴホンッ……では明日もある。遅刻はするなよ?」

 

「寝坊しなかったらね」

 

「寝坊をするな馬鹿者」

 

 そう言って私は一樹の部屋を出て行った。

 

― 一樹・S・バニングス ―

 

「では、一年一組の代表は織斑一夏君に決定しました! あ、一つながりでいい感じですね」

 

 山田先生がそう宣言する。

 

「あの~、山田先生。俺、模擬戦で負けましたよね? ついでに言えば勝ったのって一樹さんですよね?」

 

「あ、それはですね「俺は仕事があるから代表になれなくて」「わたくしが辞退したからですわ!」と、言うわけですよ」

 

「そもそもわたくしも大人なく怒ったことを反省していますわ。なのでわたくしは代表を辞退させていただきます。わたくしは勝って当たり前の勝負なのですから、むしろあそこまで粘った一夏さんが褒められるべきですわ。なのでわたくしが一夏さんを鍛えて差し上げますわ!」

 

「…………へ?」

 

「わたくしが指導すれば優勝間違いなしですわ!」

 

 腰に手を当ててポーズを決めるセシリア。動作に一部の曇りがないく、様になっている。すげーな。

 

「セシリアも分かってきたね!」

 

「二人しかいない男子だもん、クラスで持ち上げないとね!」

 

「私達は貴重な経験が積める。他のクラスに情報が売れる。斎藤さんが撮った写真も売れる。一粒で三度美味しいね!」

 

 と、クラスから声が上がる。

 あ、コラ! さりげなくばらすな。一夏が睨んでんじゃねーか。

 ……うお! 千冬さんまで睨んでるし! と織斑姉弟から睨まれていると、

 

「生憎だが一夏の指導は間に合っている。私が直接頼まれたからな」

 

 モッピーが声を上げる。私がと言う所を強調しているのはお決まりである。

 

「あら、ISランクCの篠ノ之箒さん。Aの私に何か意見でも?」

 

「ら、ランクは関係ない! 大体貴様こそGランクの一樹さんに負けたではないか!」

 

「そ、それは不意打ちだったからですわ! 開始も開始直前から砲撃準備を完了しているなんて卑怯ですわ!」

 

「うるさい、黙れ!」

 

スパン! スパン!

 

 と千冬さんが二人の脳天に出席簿を叩き込む。二人は頭を押えてうずくまる。

 

「貴様らのランクなど意味は無い。単なる目安だ。そんなものは自慢にならん。それとオルコット、貴様は勘違いをしているぞ?」

 

「か、勘違いですか?」

 

 セシリアがキョトンとしている。

 

「ああ、本人から説明してもらったほうがいいか? なあ、一樹」

 

 そう言って俺に丸投げしてきた。うへぇ。仕方ない説明しますか。

 

「あ~、千冬さんが言ったことだけどな。オルコット、まず何処が卑怯なのかもう一度言ってみろ」

 

「わたくしがアリーナに出た瞬間に攻撃したことですわ。本来の模擬戦であればしっかりと開始の合図を待つものです!」

 

 ふむ、まあそうだろうな。実際、一夏の時は既に開始の合図はされてたわけだし。

 

「じゃあ、俺が模擬戦前に言ったことは覚えているか?」

 

「もちろんです。外で待っていると」

 

「こうも言ったはずだぞ? 出てきたら試合開始だとも」

 

「そ、それは……」

 

 言いよどむセシリア。ふむ、ちゃんと覚えているみたいだな。

 

「つまり、俺とオルコットの模擬戦は、オルコットがカタパルトから射出された瞬間から開始されたんだ。ゆえにあの射撃は卑怯でもなんでもなく正当なものだ。実戦だったらとか何とかは言わねーけど、オルコット自身がそこに誘導されたことには気付いたほうがいいぞ?」

 

「わたくしが、誘導?」

 

「そうだ、まず第一に試合開始のタイミング。これは完全に俺は把握していたし、オルコットは曖昧だったろ? これは大きな差だよ。開始の合図前に武装の準備もできるし罠だって設置できる。次に情報、俺は飛べないって事オルコットも知っているだろ?」

 

「え、ええ。自己紹介のときに言っていましたから」

 

「くわえて、一夏との模擬戦で手の内をある程度さらしてるだろ? そうすると、オルコットの行動が読めるわけだ。空も飛べない奴に対して、空の飛べるやつ、加えて遠距離仕様ときた。じゃあどういう行動をとってくるか? 答えは制空権を確保することだ」

 

「あ……」

 

「案の定、セシリアは空に向かっていってポジションを取るために静止したろ?」

 

「は、はい……」

 

「そこを俺に狙い撃たれた訳だ。現に俺は空に向かって構えてたろ? アレはセシリアがあのあたりに止まるだろうとあたりをつけたからだ」

 

「………………」

 

「逆にあそこでカタパルトの勢いそのままに、俺に突っ込んできたら、ああいう結果にはならなかっただろうな。っと、こんな所かな? まあ、正々堂々ってのも嫌いじゃないけど、俺はどっちかって言うと、どんなことをしても勝てば良いって方だからな。そういった意味でも相性が良くなかったってのもあるな」

 

「なっ! そ、そんな卑怯な事をしてでも勝ちたいのですか!?」

 

「あ~、それは状況によるな。はっきり言っちまえば昨日の模擬戦はどうでも良かったし。でも俺の知り合いとかの命が掛かってくれば、どんなことをしても命を救おうとするぞ。助けに行って正々堂々戦って勝てりゃいいけど、負けました。知り合いも殺されましたじゃ話になんねーだろ? 俺はどんな事をしても助けたいし、死にたくも無い。だからそのときできることを全部やっておくんだよ。まあ、これは俺の考えだからそれをどう受け止めるかはオルコットの勝手だ。ま、頭の片隅にこんな考えもあるんだなってぐらいに覚えといてくれればいいさ」

 

「……分かりましたわ」

 

「こんな所でいいですかね千冬さん」

 

「そうだな。全員一樹の真似をしろとは言わん。だがこういう奴が自分の敵だった場合というのも十分に考えられる。今の話は忘れることの無いようにしろ」

 

『はい!』

 

 とクラス全体が元気よく返事をする。

 

「一樹さんって色々考えて戦ってるんですね。吃驚しました」

 

 と、一夏が言ってきた。

 

「いや、只の思いつきで説明しただけだ。俺もこんなにすらすら出てくるとは思わなかった」

 

「何で最後の最後で台無しにするんですかアンタは!!!」

 

 一夏の突込みが教室に響いた。

 

― 放課後 ―

 

「で、何で俺はここにいるんだろうか?」

 

 俺がいるのは第三アリーナ。この間セシリアと模擬戦をした場所だ。

 

「何でって、ISを訓練するためでしょ?」

 

「いや、そもそも俺はISは別に使えなくてもいいんだけど?」

 

「なら千冬姉に言ってくださいよ」

 

「…………無理だ!」

 

「無駄に爽やかな笑顔で言わないで下さい」

 

 少し考えてから額に出た汗を腕でぬぐいながら言い放つ。

 あの後、千冬さんからクラス対抗戦まで一夏の訓練を見てやれと命令されてしまいしぶしぶ付き合っている状態だ。因みにマリアも一緒にいる。

 

「まあ、いいじゃないですか一樹大御爺様。久しぶりに訓練つけていただきたいですし」

 

「う~ん、まあ仕方ねーか。お~い、そこで言い争っている二人共、訓練内容説明すっから集まれ~」

 

 俺がそう声をかけるとドドドドと勢いよく近づいてくる。

 

「「バニングス(一樹)さん! もちろんわたくし(私)が一夏さんと一緒ですよね!?」」

 

 二人でハモりながら俺に聞いてくる。

 

「今日は近接戦闘を中心にやっていくから、まずモッピーが一夏の相手をすること。オルコットも一夏側な」

 

「? それはどういう意味ですの?」

 

「もちろん近接戦闘のみで箒に挑むんだよ。とりあえず武装は持ってきたからあん中からすきなの使え」

 

 そう言って親指でくいっと指す。そこには大小、古今東西、色んな近接武装が置いてある。

 

「な、何故わたくしもなんですか?!」

 

「あったり前でしょ? 遠距離だけで相手を制圧できると思ってんのか?」

 

「と、当然ですわ!」

 

「模擬戦で素人の一夏にあっさり懐に入られたのに?」

 

「うっ……」

 

 痛いところをつかれてうめくセシリア。

 

「いいかオルコット。今お前のブルーティアーズは確かに遠距離仕様かも知れん。だがこれからずっと遠距離仕様であるという保障は無いんだ。第一それ、データ取りの為に乗ってんだろ? そうしたら、遠距離だけの武器じゃなくて、中近距離の武装だって送られてくるかも知れないだろ? それに、遠距離仕様の奴が、いきなり近距離戦闘しかけてきたらどう思うよ?」

 

「……吃驚しますわね」

 

「そうだ。極端な話、そのライフルを鈍器代わりに殴りかかってきたらまあ吃驚するな。それに懐に入ったと思ったら実は近距離のほうが得意でした何て事実を突きつけられてみろ、相手からすれば精神的ショックもかなりのもんだぞ?」

 

「一理ありますわね」

 

「一つのものを極められるのならそれに越したことは無いが、全体が平均以上にできてなきゃ話にならん。たとえばオルコットと千冬さんが戦ったとしよう」

 

「か、勝てませんわ!?」

 

「例えばだ例えば。まあ、オルコットも遠距離を極めたとしよう。近距離型の千冬さんは距離をとって戦う相手とは当然戦いなれている。弾をよけて、近づいて斬る。これだけしか出来ないんだからな」

 

「まあ、そうですわね」

 

「対してオルコットは距離をとりつつシールドエネルギーを削って勝つしかない。懐に入られたら瞬殺されるんだからな。でもここで、実はオルコットは近距離も一流だったとしよう。するとどうなる? 千冬さんの攻撃を捌きながら再び距離をとることに成功する。みろ、これでオルコットの勝率が上がったぞ?」

 

「あ……」

 

「遠距離仕様の機体だからといって近距離が苦手である必要は何処にもない。自分の手札は多いい方が良いんだからな。これは一夏やモッピーにもいえることだからな。今日は近距離訓練でも明日は遠距離の弾幕をひたすら避ける訓練するからな? もちろん銃器の訓練も徐々に入れていくから覚悟しておけよ?」

 

「「は、はい!」」

 

「あと、マリアは斬艦刀な」

 

「はい、分かりました」

 

 そう言ってマリアは斬艦刀を展開する。

 そして、それを見た三人がぎょっ! とする。それはそうだ。見た目は西洋剣のような形をしているが、大きさが異常だ。長さは五~六mはあり、肉厚は人の胴体ほどある。

 

「か、一樹さん!? あ、アレは?」

 

「バニングス社が開発した。斬艦刀だ。小さい戦艦なら真っ二つに出来るらしいぞ?」

 

「「「はい?」」」

 

「ISに乗ってるんだから死んだりしねーから安心しろ。でもまともに食らうと一発でシールドエネルギーがなくなるから注意しろよ? じゃ、まずさっき言った通り箒対一夏、マリア対オルコットで行くぞ? その後対戦相手を変えて、更にその後は二対二のチーム戦をするからな」

 

「一樹大御爺様は参加しないのですか?」

 

「時間があったら相手をしてやるよ」

 

「分かりました! セシリアさん! 全力で行かせてもらいます!」

 

「あ、コラ! 近接素人のセシリア相手に本気を出すな!」

 

「ですが長引いたら一樹大御爺様と対戦できません……」

 

マリアがショボーンとした顔をする。

 

「あ~、分かった。終わったら相手をしてやるから本気を出すな」

 

「はい! 分かりました!」

 

 そう言うとマリアは笑顔になる。

 

「一樹さんって基本マリアに甘いですよね」

 

「当たり前だ。可愛い玄孫だぞ? 一夏と比べたらまさに月とミジンコだ」

 

「スッポンですらない?!」

 

「ほれ、馬鹿言ってないでとっとと始めるぞ」

 

 そう言いながら訓練を開始した。

 

― 凰鈴音 ―

 

「ふ~ん、ここがそうなんだ」

 

 私は今IS学園の校門にいる。着替えや、日用品の詰まったボストンバッグを肩に提げてIS学園を見上げる。

 始めはこんな所来る気はさらさら無かったけど、テレビで一夏がIS学園に入学すると放送され、それを見た瞬間無理を言って(脅迫してともいう)IS学園に入学させてもらうように頼んだのだ。

 まあ、流石に入学式には間に合わず、転校という形になってしまったのは仕方がないといえば仕方が無いのだけど。

 

(一夏、元気にしてるかな?)

 

 私がIS学園に来る最大の理由だ。

 

(約束、覚えてるかな~、私のこと見て分かるかな?)

 

 ひとたび考えれば色々なことが思い浮かぶ。もし分からなかったらどうしてやろう? いやいや、分からないくらい私が綺麗になったって事だから良いか。

 こうしてまた再会できるのも何か運命的なものを感じるし。そんなことを考えていると遠くから話し声が聞こえてきた。

 

「しかし一夏、もう少し何とかならんのか?」

 

「仕方ないだろ? 空をとぶイメージなんてそう簡単にできねーよ」

 

「一夏さん、あくまでもイメージなのですから自分のやりやすいようにしたほうがいいですわよ?」

 

「そうだな、流石に一樹さんに聞いてもな~。一樹さん飛べないし」

 

 聞き間違えるはずが無い。一夏の声だ。しかし、余計な声が二人分ほど聞こえるのは気のせいだろうか?

 それを聞いてか、反射的に身を隠してしまう。その声は段々近づいてくる。

 

「しかし、マリアの斬艦刀。すごかったな」

 

「ええ、アレが顔の直ぐそばを通りすぎたときは生きた心地がしませんでしたわ」

 

「流石に捌くのにも一苦労だったからな。一見力任せに見えるが、きちんとした基礎ができているから斬撃が伸びてくる。厄介な事この上なかった」

 

 チラっと三人を見てみると若干青ざめた顔をしていた。

 な、何があったんだろう? ここじゃはっきり内容まで聞こえないし。

 

「しかし、一樹さんもマリアもタフだよな。アレだけ動いてまだ訓練するって言うんだから」

 

「わたくしとしては、第三世代機に第二世代、しかも初期のISが勝てること自体信じられないのですが……」

 

「本当にあの人のISランクGなのだろうか?」

 

 段々遠ざかって行ってしまったので詳しい内容まで聞こえなかったけど、何よ! 一夏の奴! 他の女と仲よさそうに歩いちゃって! 私との約束があるって言うのに! しかも二人も!?

 フフフ、こうしちゃいらんないわね。早く手続きを済ませて邪魔な連中を蹴散らさなくちゃ! 私は早足に受付を探す。しかし、何でこう馬鹿でかいのかしらね? こんなに広い必要あんの?! そう思いながらやっと受付を見つける。

 

「すいません、転校して来た凰鈴音ですけど」

 

「あ、凰さんですね。話は聞いています。そうしましたらこちらの書類にサインをお願いします」

 

 と事務員の人が言って、ドンッ、と出された書類の束。

 

「ちょ、こんなにサインしなきゃなんないの?!」

 

「はい、各種誓約書や手続書、国際条約関係にその他もろもろですね」

 

「え~っ! ここで書かないと駄目なの?」

 

「はい、万が一失くされても困りますし、書類が有効なのが本日までですので、それを過ぎてしまうともう一度書き直さなければなりませんので」

 

「わ、分かったわよ! 書くわよ!」

 

 事務員に文句を言いつつ書類を書き始める。何度も同じことを書いていく。

 

カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 

 書類を書き続けてだいぶ時間がたった。事務員の人も書き上げた書類をその場で確認してくれている。

 残りの書類も後数える程度だ。終わりが見えてきたから一息ついて、事務員の人に聞いてみた。

 

「あ、すいません織斑一夏って何組なんですか?」

 

「織斑くん? 彼は一組よ。何でもクラス代表になったみたいだけど。すごいわよね~、流石織斑先生の弟さんよね」

 

「ふ~ん、あ、二組のクラス代表も決まってるんですか?」

 

「ええ、こっちはもう一人の男性操縦者のバニングスさんの玄孫(やしゃご)さんでマリアさんね」

 

「ふ~……ん? 玄孫?」

 

「ええ、孫、曾孫、玄孫の玄孫ですよ」

 

「そ、そうじゃなくて! もう一人の男性操縦者って何歳なのよ?!」

 

「え~と、確か実年齢は三十歳ね」

 

「さ、三十歳で玄孫なんてできるわけ無いでしょ?!」

 

 人間の成長を計算すればその年で玄孫が出来るはずがない。

 

「そうよね、それが普通の反応よね。IS学園で働いてる人はもう慣れちゃったからそんなに驚かないけど、その話は本人から聞いたほうが納得するわよ? あ、噂をすれば。バニングスさ~ん!」

 

 事務員さんは私の後ろに向かって手を振る。

 そこには女子生徒をお姫様抱っこした大柄な男がいた。男の方も手を上げて答える。

 

「う~っす、木村さん。アリーナの使用終了の報告と、打鉄の返却完了したんで宜しく」

 

「はい、分かりました。え~っとマリアさん大丈夫ですか?」

 

「ええ、ちょっと訓練のしすぎで動けなくなっちゃっただけっすから。意識はあるので大丈夫です」

 

 男のほうがそう言うと抱っこされている女の子も力なく手をひらひら振っている。どうやら本当のようだ。

 

「そうですか、分かりました。あ、こちらにサインをお願いします」

 

「あいよっと」

 

 そう言って男は出された書類にサインをして、さらに受付横にある端末を操作して手続きをしている。

 

「ほい、完了。お疲れ木村さん。で、こちらの嬢ちゃんはどちら様?」

 

「あ、こちらは転校生で中国代表候補生の凰鈴音さんですよ。一年二組なのでマリアさんと一緒のクラスですね」

 

「お、そうか。宜しく頼む。俺は一年一組の一樹・S・バニングスだ。こっちは一年二組のマリア・S・バニングス俺の玄孫だ。マリアと仲良くやってくれ。マリア、立てるか?」

 

「はい、大丈夫です。すいません一樹大御爺様お手数かけました」

 

「気にすんな」

 

「それと、凰さん。先ほどはあんな格好ですいません。改めましてマリア・S・バニングスです。同じクラスみたいですので宜しくお願いしますね」

 

 そう言って丁寧に挨拶をしてきた。マリアと名乗った女の子はショートカットの金髪が良く似合っている綺麗な人だ。

 スタイルもいいし……くっ! 別にうらやましくなんか無いんだからね!!

 

「宜しく、って言いたい所だけどあんた二組の代表なんだってね? それわた「代わってくださるんですか!!」……へ?」

 

「ありがとうございます! テストパイロットの方を優先しなければならないので代わっていただけると本当に助かります! 最近武装テストが遅れ気味になってまして、これ以上遅れると今月のお小遣いが心もと無く……」

 

「そ、そう……大変ね……ってISのテストパイロットしてんならそこらへんのサラリーマンよりいい給料出るわよ?!一体何に使ってんのよ?!」

 

「いえ、実はですね。バニングス社のテストパイロットなんですが、実家の家業を手伝っているだけですのでお給料は出ないんですよ。お母様が厳しくてですね、高校生にそんな大金必要ないっておっしゃってまして……お小遣いは月額一万五千円なんですよ」

 

「「え?!」」

 

「って何でアンタも驚いてんのよ?」

 

「いや、知らなかったし。大企業の娘がまさか一般庶民並みのお小遣いだったとは……あ、いやでも一般庶民よりは若干上か? 俺が高校のとき五千円だったし」

 

 ぶつぶつ言っている男を無視してマリアを見ると、

 

「ありがとうございます凰さん! これで今月も無事に過ごせそうです! ああ、もし手伝えることがあったら言ってください! できる限り善処しますから!!」

 

 両手をガシッっと掴まれてお礼を言われた。

 

「そ、そう。じゃあ、そん時は宜しく頼むわ」

 

「ええ、喜んで!」

 

「ん、じゃあ、俺達はこの辺で。行くかマリア」

 

「はい!」

 

 私はそう言って去っていく二人の後ろ姿を呆然と見つめていた。ボーっとしていると事務員の木村さんが声をかけてきた。

 

「凰さん、じゃ、残りの書類お願いしますね」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 とりあえず書類を書いていると、

 

「あ、そういえば玄孫のくだり聞くの忘れてた」

 

 今更、本来の目的を今思い出したのだった。

 

― 月村すずか ―

 

 私は自宅で夕食も済ませて、先日一樹さんから送られてきたデータを元に、大型荷電粒子方の改良をしていると、家のインターホンが鳴った。

 まだ遅い時間ではないが誰かが会いにくる予定も入っていない。一瞬お姉ちゃんかとも思ったけどインターホンを鳴らすのはおかしい。なので私は、

 

「ノエル、対応してきてもらえる?」

 

 とノエルにお願いした。ファリンでもいいかと思ったが、襲撃者の場合ファリンだとやや不安が残る。

 

「畏まりました」

 

 そう言って玄関の方へ向かっていくノエル。アリサちゃんが亡くなってからノエルとファリンは再び家に戻ってきた。

 前と同じように働いてくれている。少し立つとノエルから連絡が入った。

 

「すずかお嬢様、懐かしいお客様です。お通ししてもよろしいですか?」

 

 懐かしい客? まあ、ノエルが対応して通していいか聞いてくるぐらいだから、問題ないだろう。

 

「分かった。応接室に通して。私も直ぐに行くから」

 

 さて誰のことだろう? ここ最近会っていない人は沢山いるからその人達の顔が現れては否定されていく。

 そんなことを考えながら応接室に入ると、そこにはカーゴパンツに男物のジャケットを着た赤毛の女性とスーツ姿の大柄な白髪の男性がソファーに座っていた。

 

「ヴィータちゃんにザフィーラさん!?」

 

「おう、すずか久しぶりだな!」

 

「邪魔している」

 

「うわ~! 久しぶりだね! 元気にしてた?」

 

「ああ、ひよっこどもを毎日鍛えてやってるよ」

 

「もう主も五代目だからな、毎回主との別れはつらいがそれ以上に出会いもあるのでな。毎日楽しく過ごしている」

 

 そう答えるヴィータちゃんとザフィーラさん。でも、そんなことより……、

 

「ヴィータちゃんおっきくなったね? 成長するようになったの?」

 

 あの小さかったヴィータちゃんがすっかり大人の女性になっている。

 身長もあり、出るところは出て、引っ込む所は引っ込んでいる。まさにナイスバディーだ。二つにしていたお下げも、一つに纏めている。

 

「いや、違うんだよ。今の主、五代目のアーチェになったらいきなり成長したんだよ。色々調べたけど結局は原因不明。一番有力なのはアーチェの魔力のせいで成長したって説だな」

 

「魔力のせい? どういう事?」

 

「強すぎるんだよ。アーチェの魔力が。何つったって魔力測定不能をたたき出した奴だからな」

 

「そ、測定不能?!」

 

 嘘でしょ?! だって向こうには大型の測定機があるんだよ?!

 

「ああ、そのせいで新しく魔力ランクEXなんてもんが出来ちまったからな。で、その魔力が夜天の書を通してあたしを成長させたんじゃないかって説だ。シグナムにシャマルにザフィーラも全員魔力ランクが上がったからな」

 

「そ、それはすごいね……あ、でもそれってまた主が代わったら元に戻るって事?」

 

「……あ」

 

 そこまで考えてなかったんだね。

 

「ど、どどどどうしよう!? あたしはまたあのちっさい身体になっちまうのか?!」

 

 相当慌てている。そんなに嫌なんだろうか?

 

「嫌に決まってんだろ!? 街を歩いたら小学生に間違えられるし、ちょっと買物に行けば偉いね~って褒められるんだぞ!? 頭撫でられるんだぞ!? あたしはお前らよりずっと年上なんだ!!」

 

 さりげなく思考を読まないで欲しいな。

 

「落ち着けヴィータ、それは代わってみないと分からん事だ。今の内にその身体を楽しんでおけ」

 

「おい、ザフィーラ! さりげなく元に戻るような事言うんじゃねーよ!!」

 

「ふふふ、大変だね。でもヴィータちゃんどうしたの急にこっちに来るなんて。何かあったの?」

 

 それはそうと只の観光であれば問題ない。

 しかし管理局として来ているのなら話は別だ。ジュエルシードや闇の書見たいな事が起きようとしているのなら何とかしなきゃいけない。

 

「あ、ああ、実はだなつい先日地球から次元震が観測されたんだ。だからその調査で来たんだけど、すずか何か知らな…………お前原因知ってるだろ?」

 

「な、ななな何を根拠に?!」

 

 ヴィータちゃんの説明を聞くとだらだらと冷や汗が流れ出る。それを気付かれたようだ。

 

「すずか嬢、その答えが既にアウトです」

 

「うっ……はい、多分原因は私です」

 

 先日送られてきたデータの数値を見たら「あ…………」って感じに不味い数値だったからだ。

 

「全く、こっちの技術を使うなら気をつけねーと不味いだろうが。幸い大事にはならなかったからいいものを……」

 

「すいません。反省しています」

 

 うう、ヴィータちゃんにお説教されちゃったよ。前まではそんなに迫力無かったのに、今ではすごい迫力だよ。

 

「で、どうしてそうなったんだ?」

 

 と、聞いてきたので私はちょっとした悪戯をする事にした。

 

「え~っと、それについては私には分からないんだ。だからそれを使った本人に聞くといいよ」

 

「分からないってどういうことだよ」

 

「私が造っただけでまだ詳しいデータやそれを使用した経緯については分かってないんだ。だから今から言う場所に行って聞いてくるといいよ。まあ、今日はもう遅いから泊まっていって、明日にでも聞いてきたらいいと思うよ」

 

 まあ、嘘は言ってないよね。詳しい経緯は聞いてないし。データは詳細な奴は来てないし。

 

「まあ、そういう事ならそれで良いか。すずか、悪いけど部屋貸してもらっていいか?」

 

「うん! もちろんだよ! 私もヴィータちゃんに色々聞きたいことあったし!」

 

 積もる話もあるしね!

 

「すまないすずか嬢。世話になる」

 

「いいって気にしないで」

 

 さてと! 部屋の準備しなくっちゃ!

 

「あ、すずか。さっき言ってた場所って何処なんだ?」

 

「それはね、IS学園っていう所だよ」

 

 そう聞いてきたヴィータちゃんに、私は一樹さんのいる学園の名前を教えるのだった。

 

 

 


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