インフィニット・ストラトス ~その拳で護る者~ 作:不知火 丙
― 斎藤一樹 ―
ミーン、ミンミンミンミーン。
そこかしこで蝉がこれでもかというほど鳴いている。これが無ければ夏じゃないと思う反面、もうちょっと静かに鳴けないものかと思う。
季節は夏、八月の上旬。夏真っ盛りである。今日の最高気温は39℃になると天気予報で言っていた。
で、そんなくそ暑い日に、俺はワイシャツを着て黒いネクタイを締め、黒いスーツのズボンをはいていた。
そして俺は海鳴市を見下ろせる山にあるお寺に来ていた。
「暑いな……」
そうつぶやき、ハンカチで汗を拭く。
「そうだな……」
隣で同じくスーツ姿の織斑先生が答える。
「水分はこまめに取れよ」
「ガキじゃあるまいし、日射病になんぞならねーよ」
「今日が命日だというのを忘れていたのは何処のどいつだ」
「……すんません私めにございます」
「まあいい、こっちだ」
そう言って織斑先生はお寺の墓地へと入っていく。
三ヶ月前、約束した命日を調べるのはあっさり教えてもらった。っていうか次の日には調べ終わっていたようで、そんなお願いをするより他のお願いをした方が良かったのではないかと考えてしまった。
調べてもらった命日が八月の頭で、三ヶ月あるとのことだったので、ひとまず仕事優先しある程度手持ちのお金やら、生活用品をそろえることにした。
仕事に関しては未だにパテシエ兼用務員だった。一度はパテシエはお役御免となり本来の人と交代したのだが、生徒および職員からの署名によりパテシエに戻されてしまった。
正直本職の人を差し置いて俺が作るのは気が引けるのだが、その本人も勉強になるということで結局俺が作る羽目になった。
でも、人が一人増えたので正直助かった。忙しさは半分になったし、全生徒にもいきわたるようにもなった。嬉しい限りである。
そのおかげで自分の時間も取れるようになったので今の世界を堪能している。
っていうか良いね百年後! 漫画に小説、アニメにゲームが沢山ある!
クオリティも高いし、漫画も小説も読んでいた奴の最終巻とかで出たりしてもう一気読み状態でしたよ! リメイクされてる奴もあったりで俺のテンションが有頂天だった。常にリミットブレイク状態である。
この三ヶ月はそういった意味では実に充実していた。他に調べることはあったが全部そっちのけだった。
今では携帯端末にほぼ全作品が入っているのでいつでも好きなときに見ることができる。
だから何が言いたいかというと命日だって事をすっかり忘れていたのである。
今朝、IS学園の用務員室(俺の部屋)に織斑先生が訪ねてきて思い出した。危うく行きそびれるところだった。
とりあえず最寄のモノレールから都市部まで行き、そこから電車を乗り継いで海鳴市まで来たのだ。
そして今、お寺の墓地を進み高町家のお墓を探している。さほど大きな墓地ではないのですぐに見つかった。
一般的な黒い墓石に高町家と掘られ、その一角はチョコチョコと雑草が生えている。
長年放置されている訳ではなく、誰かがそこそこ掃除しているようだ。とりあえず雑草を抜き、周りを綺麗にした後、水を入れた桶と柄杓を使い墓石を綺麗にしていく。
そして最後に買ってきた花をそなえ、お線香を焚き、手を合わせる。しばらく手を合わせた後立ち上がり空を見る。
そこはとても青く吸い込まれそうな空があり、遠くに入道雲がみえる。その入道雲はなぜかぼやけて見えた。
「斎藤……」
そんな俺を見た織斑先生が声をかけてきた。
「すいません。ちょっと一人にしてください」
「分かった。出口で待っている」
「ありがとうございます」
そう言ってきた織斑先生にお礼をいう。
忘れていたとはいえ流石にその場に来るとこみ上げてくる物がある。つい数ヶ月前までは一緒にケーキを作ったり、作り方を教わったり、コーヒーの入れ方を教わったり、どっちが美味しく入れられたか勝負したり、模擬戦をしたりと日常だった。
アリサがBSSを興して、初の仕事が成功したときはみんなで馬鹿騒ぎもした。アリサに告白されたのもちょうどそのときだった。お互いに意識していた部分もあって俺はあっさりOKした。
その後はお互いに忙しかったけど会えたときは命一杯楽しんだ。いろいろあったが充実した日々だった。
でもそれはあっさり壊された。ミッドチルダでのロストロギアを使用した大規模テロ。なのちゃん達エースクラスは各地で同時発生したテロに分散させられ、俺はそのとき地球に居て現場に行くには時間がどうしても掛かってしまった。
その結果、ロストロギアは暴走状態になり、俺が到着したときは爆発まで残りわずかという最悪の一歩手前まで来ていた。
しかもロストロギアの魔力が強すぎて封印すらできないときた。そんな状態で俺のとった行動は、ロストロギアを引っ掴み、持っていたジュエルシードを意図的に暴走させ、虚数空間を出して、そこへ飛び込むという手段だった。
俺はすぐさま氣と魔力を全開にして身体強化をして、暴走するロストロギアを抱え虚数空間に飛び込んだ。案の定魔力は無効化され、暴走が弱まったところを一気に封印した。
誤算があるとすれば、プレシアさんを助ける時に使ったカーボンナノチューブのワイヤーをテロリストに切られた事だった。
俺自身絶対に切れないというのが頭にあったから、特に何をすることも無く、そのままずっと使用していた。
その結果がこれだ。虚数空間に落とされ、百年後という未来に来て、家族も親友も帰るべき家も失った。
自分の油断が招いた結果でもあった。それを思うと悔しくてやりきれなかった。強く握り締めた拳からは血が落ちて地面を汚す。
どのくらいそうしていただろうか? 今までの事を思い出していると随分時間がたってしまったように感じた。一通りお墓参りもすんだ事だし一旦織斑先生と合流しようと思ったとき、
バシャ! コロコロコロ。
と音がした。何か液体をこぼしたような音と、何かが転がる音だ。
その音をした方を見ると、そこには女性二人と、男性一人がこちらを見て驚いた顔をしていた。
女性二人は二十代だろうか? とてもよく似ていて家族だということが一目で分かる。紫の髪を腰の辺りまで伸ばしていて、片方は白いカチューシャをつけていた。
男性の方は俺と同じか少し低いくらいの背で、整った容姿に短く切ってある髪、体つきも鍛えているようで無駄が無い。三人とも俺の良く知った人たちだった。月村忍、恭也、すずかだった。
「……嘘」
忍さんがつぶやく。
「一樹……さん?」
すずかが呆然としたまま聞いてくる。
「一樹なのか?」
恭也さんもまだ驚いたままだった。
「うっす、久しぶり。いや百年ぶりか?」
軽く手を上げ答える。
「どう……して? だって虚数空間に落ちたって……」
すずかが聞いてくる。
「おう、落ちたら百年後にぶっ飛ばされた。だからここに居るのは幽霊でも幻でもなんでもない。本物の斎藤一樹だ」
そう言って俺は三人に近づき、すずかの頭をなでる。
「ただいま。また会えてよかった」
「うん!……うん!」
そういうとすずかがぽろぽろと泣き出してしまった。
「忍さんも久しぶりです」
「まったくよ。長生きもするものね。まさかこんな再開があるとは思わなかったわ」
そうにこやかに答えてくる。
「恭也さんも」
「まったく、お前は何処まで規格外なんだ?」
差し出した手を握り返してくれる。
「正直こんな事になるとは思いませんでしたよ」
「今はどうしているんだ?」
「IS学園で働いています。三ヶ月ほど前にそこで助けられました」
「三ヶ月前?」
「ええ、どうも三ヶ月前に虚数空間から放り出されたみたいで。で、放り出された先がIS学園でそこでいろいろ事情を聞かれたって訳です。お寺の入り口に女性が立ってませんでしたか?」
俺は三人に聞く。
「ええ、お墓参りに来たら「ブリュンヒルデ」の織斑千冬が居るんだもんびっくりしたわよ」
「その人にここまでつれて来てもらったんですよ。桃子さんと士郎のお墓参りするために」
「えーーー!! 本当ですか!? ど、どうしようお姉ちゃん! サイン貰っちゃおうか?」
「落ち着きなさいすずか。で、何処まで話したの?」
「俺が過去から飛ばされた人間だって事は知ってます。いや~、流石に百年もたってると思わなくて。普通に自己紹介とかしたら百年たってるって言うもんだから吃驚したのなんの。だから俺の知り合いだって言うと」
「自動的に俺たちも百年生きたって事が相手に伝わるわけだ」
「他には?」
「特に何も。魔法の事も話してませんし」
「そう……。一樹からみて織斑千冬はどんな人物かしら?」
「そうっすね……信頼はできますよ。後は良くも悪くも武人というところですかね」
俺なりの評価を忍さんに伝える。
「で、いきなりばれた時はどうするのかしら」
「へ?」
忍さんからそういわれ後ろを見る。するとそこには驚いた表情をした織斑先生が立っていた。
「斎藤……、そいつらは一体何者だ?」
忍さん達を見てめちゃくちゃ警戒している。
「織斑先生、出口で待ってるんじゃ……というか何故ばれたし」
「あまりに遅いから迎えに来たんだ。それに前に写真を見せたことがあっただろう?」
「写真?……おお、あの集合写真か!」
ポンと手を叩き思い出す。
「一樹さん、それ割りと重要ですよ!」
そりゃそうだ。面が割れることがどんなに危険なことか。
「ですよね~、いや~、すっかり忘れてたわ」
「一樹、この三ヶ月何してたんだ?」
「漫画と小説とアニメとゲームしてた。後仕事」
「仕事はおまけか……。他にすることがあったんじゃないか?」
「いや~、百年分の漫画と小説とアニメとゲームはいくら時間が有ってもたんない。まだまだ積みゲー状態になった作品がいくつあることか……」
「そんなことだろうと思ったわよ」
めちゃくちゃ呆れてる忍さん。
「答えろ斎藤、そいつらは何者だ!?」
痺れを切らした織斑さんが声を荒げて言ってくる。
「一樹、あんたが決めなさい。私たちのことを話すか、記憶を消すか」
「うえ?! まじっすか?」
そんな重大なことを俺に任せますか?!
「元はと言えばあんたの責任でしょうが」
「じゃあ、話す」
「えらくあっさり決めたわね?」
「まあ、命の恩人だしな。ここは誠実に答えた方が一番と見た」
「でももし彼女が私たちのことを話たら……」
忍さんが念を押してくる。
「そん時は俺がきっちり片付けますよ」
「そう……なら良いわ。織斑千冬さんでよかったかしら?」
「そうだが」
「私は月村忍と申します。こちらは夫の恭也、こちらが妹のすずかです」
恭也さんとすずかちゃんがぺこりと頭を下げる。
「月村……? まさかあの「月村」か?!」
「ええ、その認識でおそらく正しいでしょう」
「ん? 織斑先生、「月村」ってそんな有名なの?」
「ああ、バニングス・インダストリーズを支える一角だ。研究開発部門トップが「月村」から代わったことが無いが、誰一人としてその姿を見た者は居ないという。都市伝説の類と思っていたがまさか本当だったとは……」
「……桃子さんにも言ったけど……何してんすか忍さん」
「いや~、いろいろと助けてもらった事もあったしね。それに、なのはちゃん、亜夜ちゃん、はやてちゃん、フェイトちゃんにそろってお願いされちゃ~ね~。それに、一樹が死んだと思って塞ぎ込んでたアリサちゃんみちゃったら……ね。すずかからもお願いされちゃって。待遇も良かったしね。研究開発し放題だったし」
あはははと笑う忍さん。
「それに、私達のことを守ってもくれている。持ちつ持たれつなのよ」
「まあ、そうだろうな。で、バニングス・インダストリーズってのは? BSSの他にまた会社を興したのか?」
「違います。興したのはつい最近です。ISが出てきてそれの研究開発をはじめるために興したのがバニングス・インダストリーズです。今じゃ世界でもトップスリーに入るIS開発企業なんですよ」
「ふ~ん、本社はやっぱアメリカ?」
「はい、ですが研究開発部門は日本にあります」
「ふ~ん、後は……ここじゃ何だから移動するか。スサノオ、監視は?」
《周囲十キロ圏内にそれらしい反応はありません》
「忍さん、どっか良い場所有ります?」
「そうね、じゃあ懐かしい場所に行きましょうか。私たちの家で良いわよ」
「庭は大丈夫? 変に防犯装置が動いても困るんだけど」
「じゃあ、玄関ホールで良いわ。そこなら大丈夫よ」
「了解、じゃみんな集まってくれ」
そういうと月村組は周囲によって来てくれた。が織斑先生がためらっている。
「織斑先生?」
「む、分かった」
声をかけると近づいてきてくれた。
「じゃあ、いきます。転移、……座標固定完了」
俺がそういうと足元に大きめの魔方陣が出てきて、全員がその上に乗っている。
「な、何だこれは?!」
「はいは~い別に害は無いから動かないでね」
俺はそう言って離れようとする織斑先生の方をガッとつかむ。
「は、離s」
織斑先生の言葉は最後まで言われることはなく、俺たちは墓地から姿を消し、残ったのは空になった桶と、柄杓が残されていた。
― 月村邸 ―
そこは見慣れた月村邸の玄関ホール。照明は点いていないが、窓から入ってくる日光で中はそこそこ明るい。
「こ、ここは?!」
一瞬で景色が変わり、家の中に居ることに驚きを隠せない織斑先生。
「すずか、恭也、悪いけど家の中を確認してきてもらえる? 念のためにね」
「「ああ(はーい)」」
「じゃあ、織斑さんこちらへ」
そう言って忍さんはさっさと行ってしまう。
「斎藤、一体何がどうなっている? 何が起こっているんだ?」
織斑先生が混乱してる。少し危ないか? そう思って少し話をする。
「まず深呼吸をしましょう。ここは危険なところじゃない。大きく息を吸って~、吐いて~。少し落ち着きましょう」
そう言うと、言う通りにしてくれた。いつもこの位素直なら良いのに。
「すまない、落ち着いた」
「じゃあ、まず今起こった現象を説明しましょう」
そう言って俺は眼鏡をかけて白衣を着て、どこからとも無くホワイトボードを取り出す。
「何故そんなものを着る? というかそれは何処から出した?」
「まあ、これは様式美って奴です。何処から出したかはまだ秘密です」
「……さっさと説明しろ」
「はいはい、先ほどのは「転移」と言って、まあ遠くに一瞬で移動できる「魔法」です」
「魔法……だと?」
「はい。詳しくはまた後で話しますけど、ようはさっきまで居た墓地からこの家、「月村邸」まで移動しました。まあ瞬間移動みたいなもんです。時間も数秒ほどしかたってません。ここの所在地は海鳴市のちょっとはずれにある高級住宅街ですね。別に異次元とか異世界とかじゃないので安心してください。歩いてだって帰れるし、バスに電車だって使えます。ここまでは良いですか?」
「……ああ」
「OK、もしここで織斑先生がこの先のことを知りたくないと言うのであれば、そのまま帰ってもらって構わない。俺は何もしないし忍さん達にも何もさせない。ただ俺とはここでさよならだ。俺はこれから「月村」側の人間になる」
「……それは「裏側」の人間になると言うことか?」
「う~ん、半部正解で半分間違い。もし織斑先生が聞かないと言うのであれば俺は別のところに行く」
「別のところ?」
「はい、今は話しちゃうとフライングなので織斑先生が決めてから話します」
「聞くとどうなる?」
「う~ん、そこはなんとも。別に四六時中監視が付くわけでも無いと思いますし、契約書に血判を押して怪しげな契約をするわけでもないですからね。普通の生活を送れますよ。ただ、ここでの秘密を誰かにしゃべって、それにより「月村」の誰かが傷ついたり、死んだりしたら俺はそれが誰であろうと許さない。それが例えどっかの大国の指導者でも、貴方であってもだ。その身をもって後悔させに行きます」
そう言って殺気を織斑先生にぶつける。
「ッ!」
「ただ、それを破らなければ俺は何時どんな時だって織斑先生を護る事を誓いますよ」
「……そんなことを言われたのは初めてだ」
「ありゃ? またはじめてを頂いちゃいましたかな?」
「茶化すな」
そう言って織斑先生の顔が少し緩む。どうやら調子が戻ってきたみたいだ。
「じゃあ、決めてください。このまま何も聞かず帰るのならあっちへ」
そう言って俺は玄関を指し、
「そうじゃないのであればこっちへ進んでください」
続いて、忍さんが入っていった方をさす。
「すまない、心配をかけたようだな。もう大丈夫だ。斎藤、話を聞きに行こう」
「良いんですか?」
「ああ、さっき私はお前が怖いと思った。いつもヘラヘラしていてつかみどころの無いお前を怖いと思ったんだ。だがそのお前が護ってくれるというんだ。こんなに心強いことはない」
「買いかぶりすぎですよ。俺はそんなに強くない」
「それならそれで良いさ。重要なのは私がそう感じたことだ」
ま、それならそれで良いか。
「じゃあ、こっちです」
「ああ」
そう言って俺は忍さんの待っている応接室へと入っていった。
「随分時間が掛かったわね?」
「あのまま忍さんを追いかけていったら不公平でしょうに」
不満を言いつつソファーに座る。定期的に掃除はしているらしく、応接室は綺麗な状態だった。
「あら、自分の有利なように進めるのは交渉ごとの基本よ?」
「それについては同意しますが、今回は必要ないです。あともう聞く覚悟はできていますので「月村」についての話をまずしてください」
「あら、そうなの?」
「はい、だからさくっと自分が吸血鬼だって事、話しちゃってください」
「あんたがそれを言ってどうすんのよ!!」
スパン!
何処からともなく取り出した張閃ではたかれる。
「吸血鬼だと?」
「はあ……、まあそうね「夜の一族」って言ってね。……」
忍さんの説明が始まった。
「夜の一族」のこと、恭也さんのこと、「魔法」のこと、「管理局」のこと、BSSとバニングス・インダストリーズの事、俺達の全てを話していった。そして話し終わった後、
「どうですか織斑先生」
「まさかここまで大きな話だとは思わなかった」
ふう、とため息をついてソファーに背中を預ける。今頭の中で必死に情報を整理してるころだろう。
「はいどうぞ」
織斑先生の前に紅茶が出される。すずかの入れた紅茶だった。
「ああ、すまない」
「いえ、気にしないでください」
そう言って織斑先生は一口飲む。
「美味いな」
「ありがとうございます」
「お、本当だ。随分腕を上げたな~」
俺も一口飲み感想を言う。
流石に百年あっただけあって美味しい入れ方が身についているようだ。
「それで、一樹は管理局に戻るのか?」
「う~ん、顔出し位はした方がいいのかもしれないけど連絡も、移動手段も無いしな。ま、しばらくIS学園の世話になるよ」
昔自宅にあった、ミッド直通の転送ポートはもう無いし。現時点ではそれが良いだろう。
「そうか……」
その答えを聞いて織斑先生は少し満足そうに微笑む。
「一樹さん、今日はどうするんですか?」
「ん? ウホ! もうこんな時間かよ」
いろいろ説明していたら遅くなってしまった。まあ、今は夏休み期間中だから大丈夫といえば大丈夫だが。
「どうする? 泊まっていくなら用意するけど?」
「どうする織斑先生?」
「そうだな……お言葉に甘えるとしよう。今日は流石に疲れた」
「分かった、じゃあ後で案内する「あ、すずかちゃん」何ですか?」
出て行こうとするすずかちゃんを呼び止める。
「アレ、まだ残ってる?」
「アレですか?」
「うん、流石に百年たってるからどうなってるか分からねーけど」
そういうとすずかちゃんはにっこり笑って、
「大丈夫ですよ。定期的にメンテナンスして熱も入れてますから」
「マジで!?」
「マジです」
「ヒャッハー! ここに置いてあんの?!」
「はい、ガレージにありますよ」
すずかちゃんの答えにいても立ってもいられなくなる。
「ちょっと行って来る!!」
そう言って出て行こうとする俺を織斑先生が呼び止める。
「おい一樹。アレとは何だ?」
「俺のバイクだよ。いろいろ改造してあるけどな」
「バイク? するとそれはガソリン車か?」
「ああ、そうだけど」
「私も見ていいか? ガソリン車を見るのは初めてなんだ」
「「マジでか?!(本当ですか?!)」」
すずかちゃんと二人で驚く。あ、そういえばガソリン車ってバイクも車も今はもう走ってないんだっけ?
「じゃあ、いろいろ説明しますね。アレから結構いじってあるから中身はほとんど別物ですよ」
「魔改造GJ!!」
イエーイ! とハイタッチを交わす。
そして、ガレージに移動する。ガレージに着いて明かりをつけるとそこには様々な車が並んでいた。俺からすればSFのような車から、見慣れた車両までいろいろ有る。
そしてガレージの端の方にシートが掛けられているバイクを発見した。俺はそれに近づきシートを一気にはがす。
ブワ!
シートの下から出てきたのは、赤いシャープなデザインで、スーパースポーツタイプのマシン。CBR1000RRだった。
「ほう、これが……」
「お~、全然変わってねーな」
「外見は変えてませんよ。でも、さっき言ったように中身は全然別物です。まず最高時速は500km/h、リミッター解除で900km/hまであがります。変速機は九段変速、通常は六段です。デバイス設置もできるのでスサノオのサポートもあります。同乗しているならリンカーコアが無くても念話で会話ができます! フレームは万が一事故にあっても曲がらないハイパービボットレスダイヤモンドフレーム! 更に160km/hで走行した場合、リッター300kmという超低燃費のハイブリットなエンジン!! 燃料タンクはちょっと小さくスリムにした15リットルです。エンジン始動は事前に登録しておく生態認証式!! でも万が一に備えてエンジンキーでも始動できます。更に!! スサノオ専用としてトランスフォームシステムにより、スサノオを頭脳とした人型に変形することができます!!! 全てが特注品のバイクです。ただ、あまりにも廃スペックなので乗れる人が一樹さんと同じレベルの人という条件が付いてしまいましたけど。それに!……」
ウィーン、ガシャ、ガシャ、ガガ、ガチャ、ガチャ、ガシャン!
「お~、スゲーな」
「これは確かにすごいな」
俺はすずかの説明中であったがスサノオをセットしバイクを変形させる。するとバイクは2mくらいの人型に変形する。
「あー! か、一樹さん! まだ説明の途中ですよ?!」
「いや、すまん。あまりにも長かったもんで。で、どうだスサノオ身体を持った感想は?」
人型になったスサノオを見上げながらたずねる。
《すばらしいです。ただこの状態で街を歩けないのが残念でなりません》
屈伸したり伸脚したり、シャドーボクシングをしたりやたらと人間っぽい動きをするスサノオ。
「あ~、確かにそれはできねーな」
「あ、それとですね、スサノオをセットしておけば人が乗らなくても動けますよ」
それを聞いた俺は閃く。
「お~、それは面白そうだ。夜な夜なスサノオだけで走らせておけば」
《都市伝説の出来上がりですね》
「《じゃあ、さっそく今夜あたり》」
「「やめい!!」」
ガン! ガン!
織斑先生と、すずかからスパナで叩かれた。
「《スパナは酷いですよ!!》」
ハモって俺とスサノオが言う。
「「一樹が増えた」」
そういわれスサノオと思わず顔を見あわせてしまう。
「《失礼な! 一緒にしないでくれ(ください)!!》」
「似たもの同士だな」
織斑先生は見たまま、聞いたままの感想を言い、
「スサノオってデバイスですよね?」
すずかはスサノオの人間味あるれる行動に疑問を持つ。
「ま、今日はこのあたりにしときますか」
《了解。トランスフォーム解除》
ウィーン、ガシャ、ガシャ、ガガ、ガチャ、ガチャ、ガシャン! プシュー!
元のバイクに戻ったRRからスサノオをはずす。
「すずかちゃん、明日これに乗って帰りたいんだけど大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですよ。ただガソリン売ってるところってもうほとんど無いので気をつけてくださいね?」
「満タン状態で4500km走れるんだろ? 一日じゃ走りきれねーよ」
日本列島を縦断してもまだおつりが来る。
「それもそうですね」
「最後にいろいろとはしゃいだけどそろそろ休もう。すずかちゃん、明日ちょっと聞きたいことがあるんだが時間はあるか?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、すずかちゃん織斑先生の案内を頼む」
「はい、分かりました」
「じゃあ、お休み、すずか、千冬さん」
「「ああ(お休みなさい)」」
俺は二人に手を振りつつ用意された部屋に向かった。今日はぐっすり寝れそうだった。