インフィニット・ストラトス ~その拳で護る者~    作:不知火 丙

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第十三話

― 一樹・S・バニングス ―

 

 今、俺と千冬さんヴィータとザッフィーは俺の部屋にいる。六畳間にフローリングのキッチン、風呂、トイレ別のいわゆる1DKの部屋だ。用務員の部屋なのでもっと質素かと思ったが流石はIS学園、1DKの部屋でも機能性やデザインも一流で非常に住みやすく設計されていて、かなりスタイリッシュでもある。

 そして現在六畳間でテーブルを挟んで対峙している。俺と千冬さん、ヴィータとザッフィーという形である。一夏達に話すかどうかはこの会議で決定予定だ。

 

「織斑千冬だ。ここIS学園で教師をしている」

 

「管理局本局、教導隊所属ヴィータ三等空佐だ。まあ、こっちでは階級なんか関係ないから気軽に呼んでくれ」

 

「守護獣ザフィーラだ。よろしく頼む」

 

 そういって握手をする三人。軽く自己紹介を済ませてから、話し合いの準備を始める。ヴィータにザッフィーも千冬さんが俺達の事を知っているというのは説明してある。

 

「ほらよ、ヴィータ。希望の品だ」

 

 そう言って俺はお茶とケーキをヴィータに出す。もちろんヴィータだけではなく千冬さんにもだ。ザッフィーには煎餅を出している。

 

「おお! 待ってたぜ!」

 

 そして一気に食べ始める。

 

ハムッ ハフハフ、ハフッ!!

 

 おおよそケーキを食べているとは思えない食べ方ではあるが、実に美味しそうに食べてくれる。そんな姿を懐かしく、そして嬉しく思う。

 

「ヴィータ、口にクリームがついているぞ」

 

「う、うるせー! 分かってるよ!!」

 

 ザッフィーに注意されたヴィータはそう言って口の周りについたクリームをティッシュで拭う。

 

「さて一樹、スサノオ、再会を祝いたいところだが、さっきの調査結果はどういう事だ?」

 

 ザッフィーが聞いてくる。

 

《そのままの意味です。あのISの残骸からは「闇の書」の魔力が検出されました。すなわち「闇の書」が何らかの形で係わっているということになります》

 

「でもよ~、何だっていまさら? 百年前の事だぞ? 何だってそんなのが検出されんだよ?」

 

「さあな、それこそ神のみぞ知るってやつだろ? 実際あのときの戦闘は今までの中でもとびきりやばいものだったし、どこかしらに影響が残っててもおかしくは無いだろ。まあ、検出されたのが「闇の書」のほうでよかったよ」

 

「まあ、確かにその通りだな。「夜天の書」だったらまた騒ぎ出す連中がいるだろうからな」

 

「なんだよ、百年たってもまだいんのか? そういう連中」

 

 俺は呆れ気味に聞く。

 

「その辺は百年たっても変わんねーんだよ。生まれたときからあたし達(ヴォルケンリッター)がついていて、魔力量も常人の数倍は当たり前、代々そんな状態だから嫉妬、僻みなんて日常だぞ」

 

「よくまあ、そんな状態で管理局に入ろうと思うものだな」

 

 千冬さんも思うところがあるようだ。

 

「まあ、なんだかんだで一部の連中だしな。それ以上にいい仲間にいい友人に恵まれたからな」

 

「そうか……」

 

 本当にその通りだと思う。俺自身も恵まれたものだしな。

 

「それでだ、今後の捜査の事なんだけどよ……「ISコアの事か?」……ああ、管理局としては証拠品、及び調査で一時的にでも提出してもらえるとありがてーんだけどよ」

 

「千冬さんとしてはどうっすか?」

 

「ふむ……」

 

 千冬さんは少し考えてから答える。

 

「コアについては提出することはまあ可能だ。もともと存在しないはずのコアだからな。ただ此方としてもはいそうですかと言って渡すわけにもいかん。そちらの情報が此方に漏れる可能性もある」

 

「逆の心配ではないのか?」

 

 千冬さんの言い方に疑問を持つザッフィー。

 

「ああ、逆ではない。このISというのは少々特殊でな、一人の天才が造りその天才しか造れない代物だ。そしていまだに解明されていない部分が多々ある。そんなものをそちらに提出し、その天才が何らかの方法を用いてそちらの情報を手に入れないという保障はない。情報が漏洩してからでは遅いだろ」

 

「あ~、ISコアネットワークかぁ……」

 

「何だ? そのISコアネットワークって?」

 

 ヴィータが聞いてくる。

 

「もともとあISってのは宇宙開発の為に開発されたもので、宇宙空間での相互位置確認や情報共有、通信等をするためのものってのが現時点で分かっている事なんだけど……」

 

「「ど?」」

 

「正直それだけしか分かってないんだわ。中身がブラックボックスなもんだから公開されてる情報しか分からないってのが本当で、これを造った天才がこのネットワークを使用して管理局の情報を引き出さんとも限らないんだよなぁ~」

 

「でもよ、今の技術で考えるならせいぜい星間通信だろ? 次元間通信なんか出来んのか?」

 

 まあ、確かに一般的な最先端であればそうだろうな。宇宙での活動を前提としてるから出来たとしてもそのくらいだと思うんだけど……。

 

「いや、はっきり言ってあいつを甘く見ないほうが良いだろう。こと、自分の欲望には忠実な奴だからな。こんな面白そうなことを逃すはずが無い」

 

 流石に千冬さんが釘を刺してくる。流石に幼馴染だけあって性格も把握している。

 

「あ~、それは確かに。それに装備品の量子化なんて事を一人で開発してるからな。出来ないという考えじゃなくて、出来るかもしれないと考えておいた方がが良いだろう」

 

「流石に考えすぎではないか?」

 

「いや、馬鹿と天才は紙一重なんていうけど、馬鹿で天才とかだと手がつけられないぞ? それこそ常識ははずれの事を平気な顔してやるぞ。どんなに費用がかかっても、どんなに大型化してもそんな事は考えないで……な」

 

 そう考えると質が悪い。普通だったら法律や費用、施設とかでストップがかかったりするんだけどそれらを平気でブッチしてきそうだからな。

 

「それは十分にありえる話だ」

 

「ISの展開方法や武装等の格納方法なんかを見ると、もしかすると、その天才はミッドの技術に近い知識を持っている可能性がある。まあ、可能性の域を出ないがな。でもそう考えていたほうが良いだろう。万が一って事もあるしな」

 

 正直あいつに管理局関係の情報がばれた日にゃどうなるか分かったもんじゃねー。

 

「じゃあ、どうすんだよ。調査も捜査も出来ねーってんじゃ話になんねーぞ? これで終わりってんならまだしもその保障もないし、むしろ今後も似たような事が発生する可能性のほうが高いぞ?」

 

「まあ、その通りなんだよなこのまま何もしないってのは論外だし……、千冬さん、実際のとこISコアは持ち運びは可能?」

 

「不可能ではないが安全は保障できないな。何せナンバーが無いコアだからな。狙っているところは腐るほどだ。さらに言えば不明ISの襲撃も情報としては洩れているだろうからな。無用な衝突をなくすためにもIS学園(ここ)から動かすのは得策ではないだろうな」

 

「となるとここでの捜査と調査になるか……。ISコアの調査をする奴が一人、捜査をする奴が一人、最低二人をIS学園に入れる必要があるな。千冬さん」

 

「二人か……どんな人物だ?」

 

「俺のプランとしては月村すずかとヴィータで良いと思っているんだが。ついでにバックアップとしてザッフィーをおいておけば戦力的には問題ないはずだし」

 

「すずかとヴィータの二人は何とかなると思うが、流石にそっちのザフィーラは……」

 

「ああ、その辺は大丈夫。ザッフィー」

 

「……仕方あるまい」

 

 ザッフィーはそう言うと狼に変身する。

 

「…………は?」

 

 それを見た千冬さんは唖然とする。

 

「こんな感じで変身できるので、俺かすずかが飼っているわんこという事にすれば問題ない」

 

「犬ではない、狼だ。……すまない千冬殿、驚かせてしまったか。しかし一樹の言ったようにこれが最善であると思われる」

 

 そう説明して人型にもどる。

 

「と、言う訳だ。さっき戦闘もしてるんだし、実力も分かってるだろ?」

 

「あ、ああ確かにザフィーラほどの実力なら問題ないが……これは……しかし……」

 

 千冬さんが悩む。万が一ばれた時のことでも考えているのだろうか?

 

「まあ、ザッフィーならばれる様なへまはしないから平気っすよ」

 

「あ、いや、まさかこんなものを自分の目で見ることになるとはな。正直お前といると退屈しないな」

 

 千冬さんはそういって苦笑する。

 

「この程度で驚いてたら今後心臓が止まっちまうぞ?」

 

「確かにその通りだぜ。この程度日常に毛が生えた様なもんだからな」

 

 そう言ってヴィータと二人で笑う。

 

「……あながち冗談に聞こえないな」

 

「ま、それは今後の楽しみに取っておいて、千冬さん実際どうなりそう? ザッフィーあたりは明日から入り込めるけど?」

 

 千冬さんはザフィーラを見て、

 

「いや、流石にさっきの姿を犬扱いは出来んだろう。となれば許可関係をとっておかないとまずいだろう」

 

 そう言ってきた。確かに見た目完全に狼だしなザッフィーは。八神家にいたときにわんこで通っていた方が謎なのだが。

 

「偽造できるけど?」

 

「降りない許可でもないんだ。それに二人学園に入れるんだ。個別に入るよりまとまっていた方が面倒が無い」

 

「了解、後は……すずかとヴィータの役職か? すずかは整備科臨時講師とでもしとけば良いけどヴィータは……」

 

「すずかの助手で良いんじゃないか?」

 

 ヴィータが提案してくる。

 

「そうなると自由に動けなくないか? 戦闘が出来ると思わないだろうし」

 

「じゃあ、護衛は?」

 

「それだとすずかが重要人物になっちまう。今回「月村」の名は隠す予定だし」

 

 ISの企業の中での「月村」の名前は以外に有名なのだ。しかも半ば都市伝説と化してるし。

 

「一樹のカフェの手伝いでは駄目なのか?」

 

「あ~駄目じゃないけどウェイトレス要らないじゃん? あそこセルフサービスだし。それにヴィータはどっちかって言うと食う専門だしな。鈴木君も要るから人員的に不足してるわけじゃないからな~」

 

「おい一樹、私だって料理くらい出来る!」

 

「例えば?」

 

「……カップラーメン?」

 

「それは料理とは言わん」

 

 ヴィータに軽く突っ込みを入れる。

 

「かといって教員は間に合っているし、臨時講師にしてもISを使ったことが無いとなると難しいな。自由度で言えば一樹の下にいるのがベストなのだが、一応一樹も生徒だからな」

 

 う~む、と千冬さんも悩む。教導隊で何人もの優秀な人材を育てた事のあるヴィータだけど、こっちではその肩書きは通用しないからな。困ったものである。

 

「ふむ、それでは一樹の護衛ということにすれば良いのではないか?」

 

 ザフィーラがそういってくる。

 

「俺の護衛? ……必要か?」

 

「必要なわけ無いだろう。形だけのものだ。ISとやらの男性操縦者というのは貴重なのだろう? デマでも何でも一樹が襲われたという情報を流し、どこぞのテロ組織でもでっち上げ男性操縦者二名を狙っているとし、護衛をつけると決定させればいい。その護衛にヴィータをつければ良いだろう」

 

「それはいい考えだけど、そうなると一夏にも護衛をつけないといけなくないか?」

 

「それなら(バニングス)(セキュリティー)(サービス)から派遣すれば良いだろう。それが駄目なら私がつこう」

 

「あ~、確かにそっちの方がプランとしては良いか? いや、でもザッフィーには隠しだまになっててもらいたいんだが」

 

 流石に普通の敵なら狼状態のザッフィーが戦えるとは思わんだろうからな。そうすれば本当の意味で一夏の護衛にもつけられるし。

 

「それなら更識に依頼をしておけば良いだろう。少なくとも向こうは必ず乗ってくるぞ」

 

「……仕方ないか。そうなると一夏達にこっちの説明するのは」

 

「しないほうが良いだろうな。更識あたりに口を滑らせるのがオチだ。知らないのなら喋りようが無いからな」

 

 千冬さんがばっさりと斬る。

 

「了解だ。ヴィータとザッフィーの事はごまかしておこう。アリサと世界旅行しているときのB・S・Sの護衛としておけば良いだろう」

 

「無難だな。信じるかどうかは微妙だがな」

 

「信じる信じないは別だよ。そう思うしかないんだからな。さてと、とりあえず大筋は決まったな、千冬さんどのくらいかかりそう?」

 

「そうだな……、一ヶ月もあればすべて終わるだろう」

 

「よし、それじゃ……やることは一つだな」

 

 そういってヴィータはにやりと笑う。それにつられて俺も笑う。

 

「再会を祝してパーッと飲みに行くぞ!! もちろん俺の奢りだ!! 千冬さんも行くぞ!! 山田先生も連れてこーぜ!! すずかもつれてくぞ!!」

 

「おっしゃあ!! すずかには言いたいこともあるから無理やりにでも連れてくぞ!!」

 

「はあ、……まあ良いだろう。今日ぐらいはな」

 

「店はどうするのだ?」

 

「ん? ちょっと行った所に「亜瑠覇挫亜弩(アルハザード)」っていう飲み屋がある」

 

「「ブゥーーーーー!!」」

 

 ヴィータとザッフィーがお茶を噴出した。期待通りのリアクションありがとう。わざわざ二人がお茶を飲んだ瞬間を狙った甲斐があったというものだ。

 

「…………なんでその名前なんだよ」

 

「偶然だろ?」

 

 そう言ってさくさくと準備を始めるのだった。

 

― 織斑一夏 ―

 

 所属不明のIS襲撃事件から一ヶ月たった。

 あの日、あの場にいた全員が一樹さんの部屋で簡単すぎる説明を受けた。

 

「すまん、話せない以上」

 

 と、笑いながら言われた。

 結局、ヴィータさんとザフィーラさんはB・S・Sの社員で一樹さんの奥さんの護衛をしていた人達だと教えてもらった。

 そして一樹さんだけど、この一ヶ月をまともに見ていない。まあ、それも無理も無い。一時期、一樹さんを狙うテログループがいるという事で騒ぎになったのだ。

 それのせいで授業も午前中少し顔を出すだけで、後は何処に行っているのかすら分かっていない状態が続いた。千冬姉とマリアは何か知っているみたいだけど、やっぱりというか何と言うか何も教えてくれなかった。

 

「はあ……」

 

 そんな事を考えていると自然とため息も出てしまうわけで……。

 

「どうしました一夏さん?」

 

 セシリアが声をかけてきた。

 

「あ、いや、一樹さんの事を考えてたんだけどな」

 

「やっぱりですか」

 

「やっぱりって、俺ってそんなに分かりやすいか?」

 

「分かりやすいも何も、一ヶ月前からその調子なら誰でも気付きますわよ?」

 

 セシリアもどこか呆れ顔だ。

 

「でも、気にならないか?」

 

「もちろん気になりますわよ。でも、本人が話してくれないんですからどうしようもありませんわ」

 

 調べられるような事でもありませんし、とセシリアは付け足す。

 

「確かにそうだけど……」

 

 そう言いながら俺は一樹さんの席を見る。でもそこに一樹さんはいなくて空席になっていて、一樹さんはまだ来ていなかった。

 こればっかりは調べて分かるような事でもない。

 

「でも、やっぱり考えちゃうんだよ。一樹さんは俺達を信用してくれてないのかなって……はぁ」

 

 そう言いつつもう一つため息をついてしまった。

 結局いくら考えても最終的にそこに行き着くんだよな。一樹さんは

 

「だがその代わりにこれを貰ったのだろう」

 

 そう言ってきたのは箒だった。

 そして、箒の掌には学生証ほどの大きさのプレートがあった。

 

「とある力を感知、計測することのできる端末か……。いったい何を測定するものなんだろうな?」

 

 そういって俺にも渡された端末を取り出して眺める。

 銀色のプレートで特に何も描かれておらず説明されなければただの金属板にしか見えない。

 

「いったい何なのでしょうか?」

 

「さあな~? ただこれにA以上が現れたら逃げろとしか言われてないからな」

 

 一樹さんから受けた説明はたったそれだけだ。

 Aが計測された相手は俺達と互角ぐらいで、それ以上は勝てないから逃げろといわれた。

 

「全く、私達を侮らないでほしいわね!」

 

 と、いつの間にか鈴がいた。

 

「そうは言ってもな~、下手したら一樹さんクラスが出て来るって話なんだぞ?」

 

「何? びびってんの? 一樹ってのもまだ初心者なんでしょ? だったら大した事ないじゃない」

 

「「「……はあ~~~」」」

 

 そんな事を言ってくる鈴に、俺と箒とセシリアもため息をついてしまう。

 

「知らないという事は幸せですわね」

 

 遠い目をして言うセシリア。

 

「同感だ」

 

 うんうんと頷く箒。

 

「一樹さんを甘く見ないほうがいいぞ鈴」

 

 あれ以降一樹さんとは訓練をする機会がなく、ここにいる四人とマリアでもっぱら訓練しているため、鈴は一樹さんの実力を知らない。訓練自体はマリアに訓練内容を伝えているのようなので相変わらずハードだ。

 

「な、何よ三人とも! だ、大体一夏と同じ時期に見つかったんだから技術も同じくらいなんでしょ?!」

 

 同情するような視線が気に入らなかったのかムキになって言ってきた。

 

「そんな事無いぞ、確かにISの操縦だったら俺達の中で一番下だと思う」

 

「何だ、やっぱり「でもな」……何よ」

 

「その一樹さんに一度も勝った事がないんだよ。しかも、四対一で」

 

「……マジで?」

 

「「「マジで」」」

 

 俺、箒、セシリアの三人がうなずく。ここにはいないけどいたらマリアも頷いていたはずだ。

 

「IS四機が同時にかかって打鉄一機に勝てないの?」

 

「「「うん」」」

 

「……どんな変態よ」

 

 鈴が呆気に取られてると、

 

「そうあんま誉めんなよ」

 

「「「「うわ?!」」」」

 

 後ろから声がした。

 

「よ、おはよーさん」

 

 誰かと思ったら一樹さんだった。っていうか、

 

「誉めてないわよ!」

 

「うん、知ってる」

 

 いつもの一樹さんだった。

 

「一樹さんもう良いんですか?」

 

「ああ、とりあえず一通りはな」

 

「襲われたと聞きましたが?」

 

 セシリアが聞いてくる。

 

「あ~、それはデマだ。まあ狙っているテログループはいたけどな。そのせいで護衛をつける破目になっちまったよ」

 

「「「必要なの?」」」

 

 俺達は声をそろえて一樹さんに聞く。

 

「必要ねーよ。形だけだ形だけ。そうしねーと上の連中がうるせーんだよ。だからB・S・Sの知り合いがつく事になったよ」

 

 知り合いということでピンと来た。

 

「それってこの間のときの二人ですか?」

 

「うんにゃ一人だけだ。一夏にもつくからな。B・S・Sの人間じゃないけど」

 

 そう言うとすかさず、

 

「あら、一夏さんには私がついてるから必要ありませんわ!」

 

「あたしがついてるから心配ないのよ!」

 

「一夏には私がつく」

 

バチバチバチ

 

 三人が火花を散らす。何でだ?

 

「お~い、そろそろホームルーム始まるぞ? 戻らねーと千冬さんの出席簿アタックを喰らう破目になるぞ~」

 

 そういうとちょうどチャイムが鳴る。

 

「「「この話、しっかりと決着をつけるわよ!!!」」」

 

 三人が声をそろえて言い、

 

「そんな話はいいからさっさと戻れ!」

 

 スパン! スパン! スパン!

 

 と千冬さん声と共に出席簿が三人の頭の上に振り下ろされた。

 鈴が慌てて自分の教室に戻って、箒とセシリアが頭を抑え慌てて席に着くと、山田先生が教室に入ってきた。

 

「皆さ~ん、今日は転校生を紹介します! しかも二人です!」

 

 山田先生がそういうと教室がざわつく。しかし何でまたこのクラスに二人なんだ? 普通分散させるんじゃないか?

 

「じゃあ、お二人とも入ってきてください」

 

 入ってきた二人を見てざわめいていた教室は一瞬で静まりかえった。それはなぜかって? そりゃ入ってきた二人のうち一人が男なら静まり返るよな。

 

「紹介しますね! ドイツから来たラウラ・ボーデヴィッヒさんとシャルル・デュノア君です」

 

 山田先生がそう紹介して、男の方が一歩前に出る。輝くような金髪をしていて整った顔、男にしては小柄な背丈だ。それでももう一人の方よりは大きい。

 

「フランスから来たシャルル・デュノアです。日本に来たのは初めてですので分からない事も多いと思いますがよろしくお願いします」

 

 そう言ってシャルルはニコッと微笑む。すると、

 

「「「「「キャアァァァーーーーーーー!!!!」」」」」 

 

 クラスのほぼ全員が叫ぶ。

 

「貴公子! 貴公子よ!」

 

「二人目の男の子!」

 

「しかも護ってあげたくなる系の!!」

 

「薄い本が厚くなるわ!!」

 

「地球に生まれてよかったぁぁぁーーーー!!」

 

 耳が! 耳が!! キ~ンって。一樹さんは……って耳栓してるし。

 

「あ~、うるさいぞ! 馬鹿者共!」

 

 千冬姉もめんどくさそうに注意してるし。

 

「し、静かにして下さ~い! まだ自己紹介は終わってませんよ!」

 

 山田先生も注意して、もう一人の方が自己紹介できるようにするけど、

 

「………………」

 

 もう一人の方は黙ったままだ。きれいな銀髪の髪に左目に眼帯をしている。右目のから放たれる視線は冷ややかで、教室を見回して一点で止まる。

 視線の先には一樹さんがいる。

 

「よラウラ、久しぶりだな」

 

「居るとは聞いていたが本当にいたか……」

 

「俺もこんな所で会うとは思わなかったよ」

 

「それもそうだな。クラリッサが寂しがっていたぞ?」

 

 ラウラの一言にざわつく教室と、

 

「どういう事だ一樹?」

 

 目をギュピーン! と光らせ黒いオーラを放ち始める千冬姉。……ち、千冬姉怖すぎだぞ。

 

「きょ、教官?」

 

「今は貴様の教官ではない。織斑先生と呼べ。そしてどういう事だラウラ」

 

 ギロリと千冬姉がラウラを睨む。そしたらラウラはビシッと姿勢をただし、

 

「は、は! ここ最近一樹からのメールが来ないと言っていました! 内容については自分は存じません!!」

 

 上ずった声で答える。額からは汗が滝のように流れている。

 

「ほう……」

 

 そう言うと今度は一樹さんに標的が移った。

 

「あ、いや、日本の事を知りたいって言うから色々一般常識を教えてるだけですよ?」

 

 一樹さんがそう答えるとオーラが引きいつもの千冬姉に戻る。

 

「そうか……、ラウラお前も自己紹介しろ」

 

「分かりました。……ドイツ出身、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ。ただの人間には興味はない。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところに来い。以上だ」

 

 ここ笑うとこ? みんなもポカーンってなってるし。あ、一樹さんと千冬姉だけすっげー笑い堪えてるし。……あ~、なんとなく真犯人が分かった気がする。

 

「きょ、教官? なぜ笑うのですか? これは日本における一般的な自己紹介と教わったのですが」

 

 自分が笑われたのが不思議だったのか千冬姉に聞いている。千冬姉は笑いを堪えながら答える。

 

「そ、そんな自己紹介が一般的なものである訳がないだろ……ぷっ。それは誰から教わったんだ?」

 

「く、クラリッサから教わったのですが?」

 

「悪い、それ教えたの俺だわ……ブハッ」

 

 一樹さんが我慢しきれずに笑い出す。ああ、やっぱりな……。

 

「ま、また貴様か!? くっ、後で問いただしてやるからな!! それよりも……」

 

 プンスカ怒りながらラウラが俺の方に向かってくる。

 

「貴様が……、貴様のせいで!!」

 

 そう言うや否や、

 

パシンッ!

 

 と平手打ちされた。いったいなんで? さっきのは一樹さんのせいなんだろ?

 

「私は認めない、貴様があの人の弟だなどと! 認めるものか!!」

 

 と言って睨みつけてくる。いきなりの事だったから反応できなかったけど、だんだんと叩かれた部分が痛み始め正気に戻る。

 

「ってーな! 何しやがる!!」

 

「……ふん」

 

 抗議も無視され、さっさと自分の席についてしまう。一体なんだってんだ。

 

「あ~、ではホームルームは終了する。一限目は二組と合同のISの訓練だ遅れるな。それと織斑、お前はデュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろ?」

 

「分かりました」

 

「それと一樹、お前にちょっと話がある」

 

「ん? 愛の告白か? いや、もてる男は「馬鹿言ってないでとっとと来い」へ~い」

 

 千冬姉はそう言って一樹さんを連れて行ってしまった。じゃ、俺も準備しないとな。

 

「じゃ、俺達も行こう。遅刻したらどやされる」

 

 俺はシャルルに声を掛ける。

 

「あ、うん。よろしく織斑君」

 

「あ~、一夏でいいぜ。それよりも移動だ。早くしないと間に合わないからな」

 

「え、あ、ちょ、ま、待ってよ!?」

 

 そう言ってくるシャルルの手をつかみ更衣室に移動を始めた。

 

 

 


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