インフィニット・ストラトス ~その拳で護る者~    作:不知火 丙

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第十一話

― 一樹・S・バニングス ―

 

 クラス対抗戦当日、対戦表を見ると、原作通り一回戦から一夏と凰の試合だった。

 そうなると確実に乱入してくる無人機が出てくる。まあ、ほっとけば一夏と凰とオルコットで倒すだろうから俺は他の連中が怪我をしないようにするだけだ。

 試合開始は十時ジャスト、後十五分程で始まる。アリーナは満員御礼、座席は全て埋まり、立ち見客が出るほどだ。

 VIP席には各企業、各国の方々が訪れている……が、席が二つほど空いていた。

 

「まだ来てないのか……」

 

 その空いている席をみて呟く。その席はバニングス社の関係者用の席だった。俺はその席を見てため息をつく。

 まさか、遅刻してくるとは思っていなかった。正門で待っていて遅いと思って連絡したら、

 

『あれ? 時間通りには行けませんよ? 言ってませんでしたっけ?』

 

 とすずかに言われて、せっかくの貴重な時間を無駄にしてしまった。

 俺は急いで所定の場所に向かうと、そこは既に戦場となっていた。

 

「オレンジジュースとホットドック!」

 

「ジンジャエールとポップコーン!」

 

「アイスティーとドーナッツ二つずつ!」

 

 そこは仮設の売店だ。軽食とドリンクを出せるだけの簡単なものではあるが、中々に好評だ。

 ギャーギャーと注文が飛び交う中、そこには賢明に注文を捌くマリアにモッピーにセシリア、後鈴木君がいた。

 

「自分はおまけですか?!」

 

 何かを受信したようで鈴木君が突っ込んでくる。当たり前だろう。

 

「すまん遅くなった」

 

「か、一樹大御爺様! もう限界です!」

 

「一樹さん! 遅いですよ!」

 

「早く手伝ってください!」

 

 三人ともいい感じに目がぐるぐるしている。因みに鈴木君はこの程度は慣れているのでそこまで深刻ではない。

 

「「「まだですか~~~!!!」」」

 

 並んでいる生徒が催促してくる。

 

「落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない」

 

 そう言ってくる生徒に、両手のひらを下にして首を振る。が、

 

「後十五分しかないんですよ!」

 

「みんなが待ってるんです!」

 

「つべこべ言ってないで早くしてください!」

 

 あまりにも辛辣な言葉が帰ってくる。

 

「だぁ~、分かったからさくっと注文しろ! マリアとモッピーとセシリアは代金と商品の受け渡しを頼む」

 

「「「はい!」」」

 

 そう言って指示をして注文を捌いていき、どうにか試合前に捌ききることができた。

 マリアとモッピーとセシリアに手伝いの報酬として特等席に案内した。どこかと言うとピットである。一夏側のピットだ。

 ここならば、勝って帰ってきた一夏を褒めるもよし、負けて帰ってきた一夏を慰めるもよし、とモッピーとセシリアに耳打ちするとグッとサムズアップした。

 しかし、二人とも何かを妄想しているのかボケ~として、俺には何の反応も無かった。ショボ~ンである。

 俺はそんな二人を放っておいて、マリアと一緒に客席に行く。

 既に客席は一杯だが、実はのほほんさんに席を確保してもらっているのだ。事前に場所は決めておいたのでそこに行くと、

 

「お~いバーニー! こっちだよ~!」

 

 とだぼだぼの制服を着たのほほんさんが手を振っている。

 

「ありがとうな~……ってい一つしか空きが無いのだが?」

 

 とりあえず空いている席にマリアを座らせる。

 

「ん、バーニーはここ」

 

 そう言ってのほほんさんは自分の席を立ってそこを指差す。そこに俺が座ると……

 

「へへへ~私はここ」

 

 そう言って俺の上に座ってきた。

 

「なっ!」

 

 マリアが驚愕する。のほほんさんは小さいのですっぽりと収まってしまった。

 

「ん~、あんがとな」

 

 さして動揺する事無くのほほんさんの頭をなでる。あ~、癒されるな~。

 

「一樹大御爺様?」

 

「ん~?」

 

 底冷えする声でマリアが呼ぶが、平然と受け止める。

 

「後でアリサ大御婆様に報告させていただきます」

 

「ん? 良いよ。化けて出てもアリサに会えるのならそれでもいいし」

 

 そう言うとマリアはキョトンとしてくすくす笑う。

 

「そう返されるとは思っていませんでした」

 

「お~、バーニーはお嫁さん一筋なんだね!!」

 

「おう、そうだぞ。俺がアリサの事を語りだしたら確実にサッカリンを吐くから気をつけろよ?」

 

「サッカリン?」

 

「砂糖の500~700倍の甘味を持つ人口甘味料」

 

「甘すぎだよ?!」

 

「ま、それは兎も角今は一夏を応援しようぜ?」

 

 そう言って試合場を見る。

 既に一夏の試合は始まっていて、特訓の成果が出ているのか凰の「龍咆」を良くかわしている。

 「龍咆」は空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す武装だ。衝撃を打ち出すという点のみを考えれば「指弾」と似てなくもない。

 だから特訓のときに使ったというのもあるんだけどね。

 

「すごいですね、この攻撃をちゃんと避けてますね」

 

 マリアが見て感心している。多少の被弾はあるもののクリーンヒットではなく掠るような感じである。

 

「でも、よく避けているけどそれだけだな」

 

 確かに攻撃はしっかり避けているが他が駄目だ。

 接近できても、凰の双天牙月で攻撃をいなされ距離をとられて、いまいち決定打に欠けている。

 特訓も弾幕避けしかしてなかったしな~。

 

「凰も近接で良い動きをしてるじゃないか。一夏の近接もそこそこのレベルなのに全く攻撃を受けないな。マリアが何か教えたのか?」

 

「ええ、刀を使う人に対する対処法を少しばかり」

 

「あ~、そうなると一夏の分が悪いかな?」

 

「いえ、まだ分かりません。一夏さんの「雪片二型」は一撃必殺の攻撃力があります。それを上手く使えればあるいは……」

 

 確かにそうだけど、俺が一夏に回避しか教えなかったのには訳がある。それは……

 

ズドォォォォォォォンッ!!!

 

 そのとき、アリーナのシールドを突き破り、上空からかなり強力なビームが試合場に突き刺さる。

 土煙が上がり、爆心地を覆い隠す。段々と土煙がはれ、その姿を映し出す。

 それは奇妙なISだった。手はつま先についてしまうのでは? と思ってしまうほど長く、頭と肩の部分が一体化しており、首という部分がなくなってしまっていた。

 そして最大の特徴は「全身装甲」だった。全身が黒に近い灰色をしており、スラスターの噴射口が付いていて、腕には左右あわせて四門の砲口があった。

 ISは通常装甲を部分的に形成するだけで、全身を包んだりはしない。何故かと言うと、防御のほとんどをシールドエネルギーで行っているためあまり必要が無いからだ。

 ただ全くないのかというとそうでもない。どの国にも子供心を持った大人や、愛すべき馬鹿というのがいるからである。まあ、片手で数えられるほどではあるが「全身装甲」もあるにはある。

 

『緊急事態発生、緊急事態発生、全生徒は速やかにアリーナの外に退去せよ! 繰り返す……』

 

 千冬さんの声で放送が流れ、アリーナのシールドが降りていく。俺はため息をつきつつ、ゆっくりと行動する。

 

「はいは~い、みんな注目! 慌てず、走らず、ゆっくりと急ぎながら非常口へ向かうこと! アリーナのシールドはそう簡単に突破はできないから、怪我をしないように気をつけて非常口に向かうこと」

 

「「「ゆっくりなのか急ぎながらなのかどっちですか!?」」」

 

「ん、良い突っ込みだ。ま、ゆっくりで大丈夫だから急ぐな」

 

「「「はい」」」

 

そう言って周りにいた生徒はゆっくりと非常口へ向かい、俺はそれを誘導する。

生徒達を誘導していると、

 

『一樹、取れるか?』

 

 腕時計から千冬さんの声が聞こえてきた。

 

「どうしました?」

 

『今何処にいる?』

 

「客席ですけど? そっちの状況は?」

 

『……あまり芳しくない。外部からのクラッキングにより、全てのゲートがロックされてしまっている。現在三年の精鋭がシステムクラックを実行中だが、正直制御を取り戻すのはかなり厳しいだろう』

 

「そうなると、増援は無しという事か……」

 

『ああ、だが「俺なら何とかなると?」……ああ、そうだ』

 

「千冬さん、正直に言えば行けるが、ちと回りに目が多すぎる。そこを何とかしない事には動けんぞ?」

 

 今、俺の周りにはまだ避難の終わっていない生徒が山のようにいる。そんな中で魔法を使うわけにはいかない。

 

『……そうか』

 

「ま、心配しなさんな。ここ最近しっかりと訓練してたんだ。凰との試合でも被弾は早々無かったんだ、エネルギーもまだ半分以上残ってるだろうよ。凰としっかり連携取れればISの一機くらいどうって事ないよ」

 

 そうなのだ。俺が一夏を訓練した理由は、凰との試合でエネルギー消費を最小限に止め、乱入戦に突入させるためだ。

 何時、何処でどんなイレギュラーがあるか分からないので、保険をかけておいて損は無いだろうと思い訓練をしたのだ。

 

「と、言うわけだから今の状況に動揺して、コーヒーに塩を入れて、それを山田先生に指摘されて、その腹いせにコーヒーを山田先生に飲ませたりしないようにな?」

 

『そ、そそそそんな事はしない!』

 

あ~、既に遅かったかな? 後で山田先生には美味しいものを作ってあげよう。

 

「まあ、何かあったら直ぐに向かうから安心してくれ。後、ゲートだが別に壊しても良いってんなら今すぐ何とかできるが?」

 

『いや、その許可は下りなかった。それ以外は無いか?』

 

「う~ん、そうしたら裏技を使うか」

 

『裏技?』

 

「ああ、今からマリアをゲートに行かせる。そしてマリアのIS「イザナギ」を介してスサノオにシステムクラックをさせて、コントロールを取り戻す」

 

 直接やると兎が感づかれるかもしれんので。

 

『可能なのか?』

 

「ああ、後はどれだけ時間を短縮できるかだな」

 

『分かった、頼んだぞ』

 

 千冬さんはそう言って通信を切る。

 

「だってよスサノオ」

 

《了解、美人の期待には応え無ければいけませんね》

 

「そういうこった。マリア!」

 

「はい、直ぐに向かいます」

 

「頼んだ」

 

 そう言うとマリアは走ってゲートへと向かう。

 

「スサノオ」

 

《了解、只今イザナギに接続中……コンタクト、イザナギのシステムの最適化を実行……完了、イザナギとの並列処理を実行……完了…………》

 

 スサノオは着々と準備を進めていく。後はマリアを待つ。

 

《イザナギのゲートシステムへの接続を確認、システムクラック開始します》

 

「よ~し、お前の実力を見《北側ゲートを開放》はえーよ?!」

 

《いけませんでしたか?》

 

「いや、良いけどよ」

 

 いくらなんでも早すぎねーか?

 

《日頃から学園のシステムにダイブしていた甲斐がありました》

 

「おま、普段そんな事してたのかよ?!」

 

《暇でしたので》

 

「はは、まあそれでこそ俺の《西側ゲートを開放》最後まで言わせろや!!」

 

 スサノオがどんどんシステムを取り返していく。

 

《試合場へのルートを確保しました》

 

 スサノオが俺の前にウィンドウを開きルートを示す。

 

「よし、じゃあ行くとするか」

 

 俺はスサノオの示したルートを進んでいく。

 いくつかのゲートをくぐって、試合場に入ると既に試合は終わっていた。

 乱入してきたISは地面に倒れており、セシリアのライフルが太陽の光を反射していた。

 三人はお互いの無事を確認して、喜んでいる。お~、予定通り勝てたか。

 

「三人ともお疲れさん」

 

 ねぎらいの言葉を三人にかける

 

「一樹さん、遅かったですね。もう倒しちゃいましたよ」

 

「わたくしと一夏さんのコンビに勝てる人などいませんわ!」

 

「私と一夏のコンビよ! それにしても来るのが遅すぎるんじゃない?」

 

「うむ、そのあたりは一夏の訓練成果を見ておきたかったってのもあるからな。それはそうと三人とも浮かれすぎじゃないのか? ちゃんと確認したのか?」

 

「「「何を?」」」

 

「敵さんが戦闘不能かどうかだ!」

 

 俺がそう言うと同時に、後ろから砲撃が来る。俺は一夏を蹴飛ばし、セシリアと凰を抱えてその場を離れる。

 離れたと同時に俺達がいた場所を砲撃が通過する。そしてそれはアリーナの壁に当たり爆発する。

 

「「なっ!」」

 

 抱えられてる二人が驚きの声を上げ、

 

「グエェ!」

 

 遅れて俺のそばにドシャっと落ちてきた一夏が声を上げる。そこでようやく状況が飲み込めたのか再起動する二人。

 

「ま、まだ動けますの!?」

 

「あ、あんたちゃんと狙ったの?!」

 

「間違いなく胸部を捕らえましたわ! 動けるはずありません!」

 

 ギャーギャーと言い合う二人。

 

「ま、相手さんが普通じゃ無かったって事だろ。いいか、敵を倒したと思っている時ってのは非常に危ないんだ。無防備になっているし、周囲への警戒も薄れる。だからこそ何事も確認するまで気を抜いちゃいけないんだ」

 

 俺は二人を降ろして敵ISを見据える。

 セシリアの言ったとおり胸部からは黒い煙が出ていて、バチバチと火花も散っている。装甲は傷だらけ、腕も一夏に斬られている。明らかに満身創痍で、動いているのが不思議なくらいだ。

と思っていると、

 

「一樹さん! 痛いじゃないですか!」

 

 一夏が起き上がり、文句を言ってくる。

 

「悪いな、俺は男を抱える趣味は無いんだ」

 

「他にやりようはあるじゃないですか!」

 

「ん? 思いっきり踏んづけて地面にめり込ませた方が良かったか?」

 

「更に酷い状態ですよ!?」

 

「しかしだな、俺の腕は二本しかないんだ。一人あぶれるのは仕方のない事だと思わないか?」

 

「いや、まあ、そりゃそうですけど……」

 

「「ちょっと! のんきに話してる状況じゃないでしょ!!(ないですわよ!!)」」

 

 そう言って二人が突っ込んでくる。何だと思って再び敵ISを見ると、

 

「……ん~~~~?」

 

 敵ISの周りに黒い魔力が集まり始めている。

 

「んな?!」

 

 その魔力はISを包み込み、ISを変質させていく。

 全身が黒い魔力で揺らめいていて、頭部は赤い目が不気味に光っている。三人が戦っていたときの面影は無くなり、外見だけを見ると、二メートル程の人型になっていた。

 

「ちょっと何なのよあれ! セカンドシフト!? このタイミングで!?」

 

「でもおかしいですわ、こっちの計器が全く反応していませんわ!」

 

 まあ、こっちには魔力を計測する機械は無いからなぁ~。

 

「一樹さん、アレは一体何なんですか?」

 

「いやいや、知らんがな。むしろこっちが聞きたいわ」

 

 原作は再起動した次の瞬間、一夏にやられてたからなぁ。

 

《警告、現在相手の魔力量はAAランク、未だ上昇中》

 

 スサノオが念話を飛ばしてくる。いやはや、あっさり俺の魔力量を超えちまったか……全く嫌になるねぇ。

 さてどう対処するか……、スサノオを使えば一瞬だがこいつらにばれるし、かといって使わなければ無駄に三人を危険にさらすことになる。打鉄も持ってきてないしなぁ。

 ISの防御フィールドで魔力が防げるかわからねーし、相手が非殺傷設定かどうかも分からん。

 仕方ない、スサノオは使用しない方向で行くか。魔法がばれるより幾分ましだろう。

 

「三人とも下がれ後は俺が……んなぁ! 結界だと!? 一体誰が!!」

 

 俺がやろうとしたとき広域結界が張られた。しかも一夏、セシリア、凰の三人も残っている。

 三人とも周りの景色が変わったことに気付いてキョロキョロしている。

すると、

 

「援護する」

 と、いきなり空から女性が降り立って告げる。

 身長は俺より低いが、170前後あると思われる。頭部にはベレー帽のような帽子をかぶり、赤毛の髪を三つ編みにしている。見覚えのあるジャケットを着ていて、下はロングスカートの様なものを履いている。手にはこれまた見覚えのあるハンマーを持っていて、それを肩に担いでいる。

 その見覚えのある後ろ姿に声をかける。

「おりょ? ヴィータか?」

 声をかけると女性が勢いよく振り返る。

 やっぱりヴィータだった。しかし何故でかくなっている?

「よ!」

 と、片手を上げて挨拶をする。

「か、一……樹?」

 超驚いてる。そりゃそうか。

 

「おう、久しぶりだな」

「そ、そんな……だって、あたしの目の前で……虚数空間に落ちて、し、死んだはずじゃ……」

 あ~、そういえばヴィータがあの場所にいたんだよな。

「残念だったな……トリックだよ」

「何処のベネットだよ」

 

(´;ω;`)ブワッ

 

「な、何だよ急に!!」

 

 急に泣き出した俺を見てどん引きするヴィータ。

 

「約一年! こうまで見事に突っ込んでくれたのはヴィータだけだ!」

 

「あ~、やっぱ偽者じゃなくて本物だな」

 

 当たり前やがな。

 

「ふ、虚数空間に落ちたくらいで死ぬとでも? 残念だったな! その程度で俺は死なん!」

 

「だったら何で百年も経ってから出て来んだよ! みんなどんだけ心配したと思ってんだ!」

 

「それについては正直すまんかった。流石の俺もまさか百年後に飛ばされるとは予想GAIデス!」

 

「あ、そう言えばお父さん犬ってもういないんだよな」

 

「うん、って言うか会社の名前が変わっててびびった」

 

「マジか!?」

 

「うん、ソフトバ○クからハードバ○クになってた」

 

しかも社長が孫吾空になってたし。

 

「……硬くなったのか? 難しくなったのか?」

 

「知らんがな。しかしどうしたんだヴィータ。そんなに劣化しちまって」

 

 俺がそう言うとビシッと固まる。

 

「劣化……だと?」

 

「おう、だってそうだろ? エターナルロリータであるヴィータが成長したらそれはもう劣化だろ? 価値が下がっちまうだろ?」

 

「劣化じゃねーよ! 成長したんだよ! 進化したんだよ! 他の連中からすれば小さな一歩かも知れねーけど、あたしにとっては偉大な飛躍なんだよ!!」

 

「何故はやてはBボタンを連打しなかった?」

 

「ポケモンじゃねーよ! 今の主のアーチェの魔力が高すぎて全員がレベルアップしたんだよ!」

 

「何と!? そうなると爆乳ピンクは超乳ピンクになったと申すか?!」

 

 あの凶悪な兵器がレベルアップしただと?!

 

「何で胸限定の成長なんだよ?! 魔力ランクが上がっただけだ!!」

 

「そうなるとシャマル先生の料理の腕は多少改善されたのか?」

 

 ふと気になったので聞いてみたが、

 

「いや、より酷くなった」

 

「マジでか?!」

 

 一生懸命料理をしても、一向に腕の上がらないシャマル先生を思い出し、全俺が泣いた。つうか何で退化してんだよ。

 

「はあ、くだらねー話はここまでにしてよ、さくっとあの真っ黒いのぶちのめすか」

 

「コラコラ違うでしょうに、駄目でしょうに、死ぬでしょうに」

 

「合ってるし、駄目でもねーし、死にもしねーよ!」

 

 ですよね。

 

「しかし、おめーはどんな状況でも変わんねーな」

 

 呆れ気味にヴィータが言ってくる。

 

「まあな、俺にシリアスはたまにしか似合わない」

 

「そうだな……一樹、この戦闘が終わったら「結婚するんだ」藪から棒に死亡フラグ立てるんじゃねーよ!?」

 

「で? この戦闘が終わったら何だ?」

 

「久しぶりにケーキ食わせろ。あれ以来お前のケーキを超えるもんを食ったことがねー」

 

 ちょっと、頬を赤くしながら言ってくるヴィータ。

 

「ふ、終わったらと言わずに今食べたらどうだ?」

 

「は? 食えるわけねーだろ?」

 

「まあ、よ~く見てろ」

 

 そう言って俺は何も無いその場で卵を割り器に入れる動作をする。すると卵が器に入り、それを更にかき混ぜる動作をする。

 

「? お前何や……って……?!」

 

 そこから更に砂糖、バターを加え湯煎にかけながらかき混ぜていき、生地がベストの状態になったら振るっておいた薄力粉を加え混ぜていく。そこで生地が十分になじんだら型に流し入れ、余分な空気を抜き、オーブンに入れる。

 

「「「?!」」」

 

 そこでヴィータ以外の三人も驚愕する。オーブンに入れた瞬間、なんとも甘く香ばしい匂いが辺りに漂い始めたからだ。

 

《チン》

 

 と、電子音(スサノオ提供)がして、オーブンから取り出す。

 

「「「「!!」」」」

 

 そして全員が目撃した。何も無いはずの場所から確かにそれは現れたのだ。

 黒いオーブンプレートの上で湯気を上げ、見事な黄金色に焼きあがったスポンジケーキの姿を!!

 

シャドウクッキング

 

 何故か習得できた技だった。

 俺はスポンジケーキを型から外し手ごろなサイズに切り分け、それをヴィータに持っていく。

 ヴィータの周りには一夏、セシリア、凰もいるが気にしない。

 

「ほれ、焼きあがったぞ」

 

 そう言って俺はヴィータにスポンジケーキを差し出す。

 目を輝かせ若干涎をたらしつつ、ヴィータは震える手でそれを取ろうとする。が、

 

ヒュン!

 

 と風斬り音が聞こえたと思ったら、俺の手元にあったスポンジケーキが吹き飛んだ。

 

「「「「あああああーーーー!!!!!」」」」

 

 その光景を見た四人が絶叫する。

 空中に投げ出されたスポンジケーキは地面に落ち、無残な姿をさらしそのまま何も無かったかのようにスゥっと消えていった。

 ヴィータが壊れた機械のようにギギギギと何かが飛んできた方を見る。そこに居たのは手を突き出し、何かを放った体勢をしている黒いISだった。

 まあ、こんなことをしていて今まで攻撃されなかったのが不思議なくらいなのだが……。

 

「それとこれとは話が別だ! 食いもんを粗末にする奴があるかぁぁぁ!! やっちまえヴィータ!!!」

 

 俺がそう言うと既にアイゼンを構え、目を赤く光らせて、血の涙を流しているヴィータの姿がそこにはあった。

 まあ、実際にはあくまでもシャドウなので無駄なのかは疑問だが。

 

「ギガントォォォォォ!!!」

 

 ヴィータが叫ぶとアイゼンが巨大化する。

 

「ホーームランッッッ!!!」

 

 気合一閃。

 プロ野球のスカウトマンが居たら、スカウト間違いなしであろうヴィータの見事なフルスイングが黒いISを捕らえる。

 黒いISからトラック同士が正面衝突した様な音が大音量であたりに響く。黒いISはそのままなすすべ無く破片を撒き散らしながら、高速ですっ飛んでいく。

 放物線では無く直線を描きアリーナのシールドにぶち当り、そのまま力なく地面に落下して今度こそ完全に沈黙する。

 俺とヴィータはそれを確認した後、

 

「「食い物の恨みなめんな!!」」

 

 と一言黒いISに告げるのだった。

 

 


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