インフィニット・ストラトス ~その拳で護る者~    作:不知火 丙

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※注意 

 こちらは本編の外伝です。本編を読んだ後に呼んだ方が面白くなると思います! ですので本編から読んでいただけたら幸いです。
 ついカッとなって書いてしまいました。気分転換に描いていた物が長くなってしまったのでとりあえず乗せてみます。なお本編とはまったく関係ないので了解願います。あくまでももう一つの世界的な感じで!



第一話

― 斎藤一樹 ―

 

 あまりに脈絡のない展開で申し訳ないのだが、どうやら世界線を移動してしまったらしい。

 とりあえず世界線という言葉を使ったが、正しいかどうかはわからない。今分かっている事はリリカル本気狩流(マジカル)な世界から、IS、つまり《インフィニット・ストラトス》の世界にきてしまったようだ。

 なぜそんなことが分かるかって? だって俺の目の前にワン・サマーの姉のサウザンド・ウインターがいるのだから。

 

「誰がサウザンド・ウインターか」

 

バシン!

 

 サウザンド・ウインターこと織斑千冬が、手に持っていた本で叩いてくる。タイトルはブックカバーがしてあるため分からないが、見た限りだとハリー○ッターぐらいの厚さがある。

 しかも考えている事をさらりと読んでくるあたり、ニュー○イプも真っ青である。

 

「勝手に人の思考を読むとか反則だろJK」

 

「そう思った貴様が悪い」

 

取り付く島もない。

 

「さて、さっきも言ったように私の名前は織斑千冬だ。以降変な呼び方をすればそのつど此れで修正させてもらおう」

 

 そういって手に持っていた本をサイドテーブルに置き、広辞苑ほどの厚さがある本を取り出した。それを見て俺は、

 

「イエス、マム! 以降不愉快な名前で呼ばないよう努力します」

 

 と答え、

 

「呼ばないようにでなく呼ぶな」

 

ドゴン!

 

 と早速一撃をもらった。頭に作ったタンコブ二つから煙を上げ織斑さんの話を聞く。

 

「では、早速いろいろと質問させてもらうぞ」

 

「あ~、その前にちょっといいですか?」

 

「なんだ?」

 

「これとってくれないんですか?」

 

 俺はそういって左手を上げ、左手首についている手錠を織斑さんに見せる。

 正確に言えば手錠は左手首だけでなく、右手首両足首にもついていて、俺の寝ているベッドにつながれていた。

 若干鎖の部分が長くなっているので普通に寝ている分には問題ないが、起き上がることはできそうに無い。

 俺にはそういった趣味は断じてこれっぽちも多分…………ない。

 

「貴様は、身元も身分も分からない不審者だ。しかも非常時ではないにしろ、IS学園の警備に引っかからずに内部に侵入を果たしている。そして、全身に裂傷、擦過傷、打撲、骨折等の怪我をして敷地内に倒れていた。しかもそれだけの怪我をしているにも関わらず、発見場所は争った形跡は一切なく貴様が倒れていた場所にしか血痕は発見されなかった。そんな不審者を拘束もせずにほったらかしにすると思うか?」

 

「おっしゃる通りで」

 

「話がそれたな。さて、貴様はいったい何者だ? 何の目的があってIS学園に侵入した?」

 

 そういうと織斑さんは俺を睨みつけてくる。

 しかも返答しだいではただではおかないと云う殺気までのせてくる。常人だったらそれだけで失禁ものだろう。

 

「そんなに睨まんでください。俺自身何でそんな学校にいたのか分からないんですから」

 

「どういう事だ?」

 

「仕事中に爆発に巻き込まれて、気がついたらここにいたんですよ」

 

 まあ、実際はロストロギアの暴走で出来た虚数空間に落ちてしまっただけなのだが、似たようなもんだろう。

 

「それを信じろというのか?」

 

「信じるも信じないもそっちの勝手ですよ。でも、俺はそれしか知らないんですから、それしか答えられないですよ?」

 

「……ふむ、なら次は貴様の事を教えてもらおうか」

 

「そういえば自己紹介してなかったですね。俺の名前は斎藤一樹、年は二十九、生年月日は新暦五十一年十一月二十七日、出身は海鳴市藤見町、最終学歴は聖祥大学付属高等学校です。後は……何かありますか?」

 

 まあ、新暦やら海鳴やら聖祥やらどうなってるか知らんけど別に構わんだろ。どうせ調べたって何も出てきやしないんだ。

 

「……仕事は何をしていた?」

 

「SP、ボディーガードみたいな事をしてましたよ」

 

 ちなみに此れは地球にいるときのカバーストーリーだ。

 さすがに無職で自宅警備員って答えるわけにはいかないからな。

 

「会社の名前は?」

 

「B(バニングス)・S(シークレット)・S(サービス)社です」

 

「そうか、今言ったことに嘘偽りはないな?」

 

「八~九割は本当の事です」

 

「……それを素直に答えてどうする」

 

「いやいや、いろんな装置で監視してるんだからどれが嘘なのか分かってんでしょ?」

 

「ほう、気づいてたのか」

 

 織斑さんは少し驚いた顔をした後、にやりと笑う。その笑い方がすげー様になっている。

 婚約者がいなかったら惚れてるところだった。

 

「まあ、職業柄そのくらいは分かるようになっとかないと仕事になんないので」

 

「まあ良い。今言ったことを調べてくる。すぐ戻る」

 

 そういうと織斑さんは病室から出て行った。

 …………あれ? 何のリアクションもなし? とりあえず聞くだけ聞いてって感じなのか?

 となるとすでに俺の罪状は決まっているのだろうか? まあ、それは兎も角、

 

(スサノオ、応答できるか?)

 

《肯定、感度良好です。無事目が覚めて何よりです。》

 

 念話を相棒に飛ばす。いつもは首にかけているが今はかかっておらず、無くした可能性も考慮して念話を飛ばしたがどうやら杞憂だったようだ。

 

(今の状況は?)

 

《不明、任務中のロストロギアの封印には成功し、その直後虚数空間に飲まれています。私が確認できたのはそこまでです。現在フレームに若干の損傷が認められるため自己修復中です。なお、全力戦闘に支障はありませんが、長時間は不安が残りますので自己修復完了後の使用をお勧めします》

 

(了解、現在地は?)

 

《隣の部屋に置かれています。他の持ち物も一緒です》

 

(分かった、最悪逃げ出すかもしれないから準備はしておいてくれ)

 

《了解》

 

 そう言って、念話を終了する。

 そうか、封印は出来たのか。あれがそのままだったらミッドは壊滅してただろうからな。止める事が出来て本当によかった。

 まあ、ISの世界に来ちまったのは予想外だったけど、帰れば良いことだしまあ良いか。

 そう思っていると織斑さんが帰ってきた。はえ~なおい。

 

「斎藤、お前の証言の確認が取れた。手錠ははずしてやろう」

 

「……へ? 良いんすか?」

 

「なんだ、嫌なのか?」

 

「いや、大歓迎ですけどね? このまましばらく拘束されるもんだとばかり思ってたから」

 

「まあ、本来であればそうだろうな。言っただろう確認が取れたと」

 

「確認?」

 

「良いか斎藤。気を確かに持て。落ち着いてよく聞くんだ」

 

「?」

 

 織斑さんは一言一言をゆっくり言ってきた。

 

「お前は新暦八十一年に死亡している」

 

「……は? 何をおっしゃる生きてんじゃん。今ここにいるじゃん」

 

「では言い直そう。お前は今から百年前の新暦八十一年に仕事中に爆発に巻き込まれて死亡している。お前の証言通りにな」

 

 織斑さんは百年前というところを強調して言ってくる。

 

「……は? ひゃ、百年……前?」

 

「そうだ」

 

「またまた~御冗談を、いくらなんでもそれはないでしょ~。嘘つくんならもうちっとマシな嘘つきましょうよ。タイムスリップなんて流行んないですって。朝起きたら子供に戻ってたとか、転生とか、神様の事故ならまだしもタイムスリップはないでしょ? あ、でも逆行はありか? ん? 待てよ、逆行もタイムスリップなんだろうか?」

 

「お前が何を言っているのかは知らんが事実だ」

 

 そういってくる織斑さんの顔は真剣そのものだ。

 

「……マジで?」

 

「ああ、私自身信じられんが事実だ。聖祥高の卒業アルバムを調べれ見れば確かに載っていたし、B・S・S社の方に確認も取った。戸籍を調べてみれば八十一年に死亡してはいるものの確かにその存在が確認できた」

 

 笑みをまったく浮かべずに織斑さんは俺の前に調べてきたであろう資料をポンと放りなげる。俺はそれを手に取りまじまじと見る。確かに卒業アルバムのときの写真に、B・S・S入社時の写真だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください?! 手の込んだ悪戯とかじゃあ無いんですよね?」

 

 流石に信じられずにもう一度確認をとる。

 できれば悪戯であってほしいと願いながら織斑さん聞くが、

 

「何度も言うようだが事実だ。お前が信じられないように私だって信じられない。こんなことが現実にあるとはな」

 

「じゃあ、俺の知り合いは……、家族は?」

 

「おそらく……既に亡くなっているだろう」

 

 亡くなっている? 俺は帰れない? いや、もうみんなと会えないのか?

 

「……ほ、本当に?」

 

「詳しく調べたわけではないからはっきりとは言えんが、仮に生きてたとしても百二十歳オーバーだ。お前のことを覚えていられるか怪しいものだ」

 

「……そうですね」

 

 突然の事で頭がついていかない。聞こうと思っていた事が頭の中からすっ飛んで部屋を沈黙が支配する。

 

「突然の事で混乱していると思うが今は休め。怪我も治っていないのだから」

 

「あ、はい……」

 

「後、これを付けてもらう」

 

 そういって織斑さんは俺の腕に時計を巻きつけた。

 特に変わったデザインの物ではなく、実にシンプルで余計な物、機能はついておらず、ついているのは3の数字の隣に日付の機能がついているくらいだった。

 

「これは?」

 

「発信機と通信機機能のついた腕時計だ。ここから出るときにははずしてやる」

 

「そうですか……」

 

「私は仕事があるので失礼する。何かあったら通信機でも、そのボタンでも押せば誰か来るだろう」

 

 そういって織斑さんが指したのはベッドについているナースコールのボタンだった。

 

「はい。ありがとうございます。織斑さん」

 

「お前の持ち物はこちらで預からせてもらっている。後で持ってこよう」

 

「あ、その中に俺の認識票(ドッグタグ)ありますか? 出来ればそれだけでも返してほしいんですけど」

 

 最低限何があっても大丈夫なように相棒(スサノオ)だけは確保しておきたい。

 

「ふむ、大事なものなのか?」

 

「ええ、俺の親父が作ってくれた大事なものです」

 

 嘘は言ってねーぞ。

 

「……良いだろう。少し待て」

 

 そういって織斑さんは部屋を出ると、二、三分で戻ってきた。

 

「これか?」

 

 そういってスサノオを投げてきた。それをキャッチする。

 

「はい、ありがとうございます」

 

「ではな」

 

 そう言って織斑さんは出て行った。気配が遠ざかっていくのを確認してつぶやく。

 

「ふう、……さすがに予想外すぐる」

 

《これからどうするのですか?》

 

 スサノオが念話で話しかけてくる。

 

(まあ、しばらくは怪我が治るまでゆっくりさせてもらう。その後は一旦海鳴に戻ろう。本当なのか確認しないとな。もし本当なら墓参りぐらいしなきゃ)

 

《意外に冷静ですね?》

 

(唐突過ぎて現実味がない。いきなり「あなたの知り合いは全員死んでます」って言われても信じられねーんだよ)

 

《そうですか……》

 

(ミッドチルダの方だってどうなってるか分からないし。地球ってまだ管理外世界なんだろうか?)

 

《流石にわからない事だらけですね》

 

(ほんとだよまったく。誰か連絡は付きそうか?)

 

《否定、全員に連絡を試みましたが応答はありませんでした》

 

(そっか……管理局のほうにも?)

 

《肯定、応答はありませんでした》

 

 …………やっぱり本当なのか? 俺は未来に来ちまったんだろうか?

 やっと家族も出来て幸せな日々が遅れると思っていたのに。そう思うと自然と目頭が熱くなって、持っていたスサノオの上に涙が落ちる。

 

「ごめんアリサ。約束守れなかった」

 

 俺は、左手の薬指にはめた指輪を見つめ呟いた。

 

― 織斑千冬 ―

 

 まったく、世の中信じられない事があるものだ。まさか過去から未来にタイムスリップしてくるやつがいるとは思わなかった。

 斎藤の言ったことが本当だとするのならという事ではあるが、先ほど調べた結果では、斎藤が間違いなく百年前にいた人物だという事だった。

 同姓同名かと疑ったが、あらゆる証拠がそれを許さなかった。聖祥高の卒業アルバムの写真とB・S・S社の履歴書の写真を調べた結果は、99%で一致と出たし、戸籍に関しても確認が取れた。

 斎藤が結婚しておらず、子供もいないため親族に引渡しはできない。斎藤には兄妹がいたがこちらの調査はまったく出来ていない。

 七十八年に海鳴から転出してからの足取りがプツリと途絶えてしまっている。斎藤に聞けば分かるかもしれんが、今はまだ聞かないほうが良いだろう。

 先ほどのやり取りから斎藤自身も相当驚いていたようだ。今やつに必要なのは体を休めることだ。必要に問い詰めれば良い結果を望めるはずが無い。

 そいう考えながら廊下を歩き、斎藤が居る病室の一つ下の階の部屋に入る。

 

「あ、織斑先生。斎藤さんどうでしたか?」

 

 部屋に入ると同僚の山田君が声をかけてきた。

 

「ああ、本人も相当混乱していたようだ。山田君ほかに追加情報は?」

 

「いえ、これといって特には……」

 

「そうか」

 

「しかし、信じられませんね。百年前の人ですか……。あるんですねこんな事」

 

「まったくだ。出来の悪い小説ではあるまいし、現実にこんな事があるとはな」

 

「でも、どうするんでしょうか? 斎藤さん。家族も知り合いも居ないんですよね?」

 

 山田君が首をかしげ聞いてくる。

 

「ああ。B・S・Sが引き取ってくれれば良いが、流石に百年前の人間を雇ってくれるとは思えん」

 

「世界でも有数の大企業ですからね。流石にまた入れる可能性は低いですよね~」

 

「はあ、厄介ごとが増えた……」

 

 ため息をついてしまうのは仕方の無いことだと思う。

 

「報告どうしましょう?」

 

「……そのまま報告するしか無いだろう。幸い資料もそろっている。斎藤が過去から来た人間とギリギリで納得できる程度にはな」

 

「そうですね、後は……手続きでしょうか? 戸籍とか、住民票とか、再取得しないといけませんし」

 

「……出来るのか?」

 

「……分かりません」

 

 なんとも言えない沈黙が部屋を支配する。

 それはそうだ。こんな事過去に例が無い。というかこんなことが日常的にあってたまるか。

 

「まあいい。まず出来ることから処理をしていくぞ。まずは学園長に報告だ。山田君はそのまま資料集めと、報告書を作ってくれ。私は今から学園長のところに行って来る」

 

「分かりました。出来たらそのまま織斑先生に提出で良いですか?」

 

「ああ、そうしてくれ。私も目を通しておきたい」

 

「分かりました。一時間もあればまとめ終わると思いますので」

 

「すまない、よろしく頼む」

 

「はい!」

 

 私は山田君にそういって部屋を出てた。学園長はこの時間だと学園内の清掃か、花壇の手入れをしているところか?

 学園内を回り、学園長を探してまわる。今は春の昼下がり、気温も暖かく外に出ると心地よい風が頬をなでる。

 学生は授業中なので今は見かけない。暖かい学園内を探して回っていると麦藁帽子をつけて花壇の前で作業をしている人を見つけた。

 この学園でそういった仕事をしているのは学園長しかいない。

 

「学園長、少々時間をいただいてよろしいでしょうか?」

 

 そう言うと、その人物が振り向く。

 

「ん?」

 

 しかし、その人物は私の探している人物とは違っていた。

 

「……何をしている斎藤?」

 

「なにって、……花壇の手入れ?」

 

「見れば分かる。私は怪我人がどうして花壇の手入れなんかしているんだと聞いている!」

 

「どうしてって、おっちゃんに声掛けて手伝ってるから?」

 

「お、おっちゃん?」

 

「おう、用務員のおっちゃん。なんつったっけ? く、く、鍬木(くわき)だっけ?」

 

轡木(くつわぎ)だ」

 

「そう、その人がちょうど病室の下で作業してたから気分転換がてら声かけたらこうなった」

 

 ふと見ると確かに斎藤の病室の真下だった。

 ん? ふと気になって斎藤の格好を見てみれば病院の手術着からジャージ姿になっていた。

 IS学園のジャージでもない、市販されているジャージだった。靴は運動靴を履いている。

 

「斎藤、そのジャージと靴はどうした?」

 

「おっちゃんが貸してくれた」

 

「……轡木さんと呼べ。目上の人間に敬意も払えんのか」

 

「払ってるさ。心の中でしっかりと」

 

「心の中でなくしっかり表に出せ」

 

 そういって私はIS用語辞典(厚さは広辞苑と同じ)を取り出し斎藤に向かって振り下ろす。

 

ドゴン!

 

「ふむ、なかなか良い音がしたな」

 

「く、首が! 頭が! 千冬ちゃん! 不意打ちはひでーだろ! これでも一応怪我人なんですけど?!」

 

ドゴン!

 

「誰がちゃん付けで呼んで良いと言った?」

 

「……あい、申し訳ありませんでした。織斑さん」

 

 斎藤は地面に突っ伏したまま手を上げて謝ってきた。

 

「で、轡木さんはどこに行った?」

 

「ん? 道具を取りに行ったぞ。もう少ししたら戻ってくるんじゃねーか?」

 

「そうか」

 

「学園長に用でもあんのか?」

 

「やはり聞こえていたか」

 

「そりゃあ、そう呼ばれれば誰だって聞こえるだろう。黙ってた方がよかったか?」

 

「いや、構わん。ただほかの者がいる時は呼ばないようにすれば良い」

 

「なんで? 全員学園長の顔ぐれーみんな知ってんだろ?」

 

「詮索はなしだ。お前はそうすればいい」

 

「へ~い、あ、おっちゃん早かったな」

 

「はっはっは、若いもんを待たせるのも悪いと思ってね。せっかく手伝ってもらっているんだ。おや? 織斑先生じゃありませんか。どうしましたか?」

 

 私はこちらに来た初老の男性に声をかけられる。

 

「はい、彼、斎藤のことに関して報告をしようと思い探していました」

 

「いや~、そうなんですよ。この度、斎藤一樹と織斑千冬は結婚することになりましたので報告を「ズバガン!」……嘘です。すいません。ごめんなさい」

 

「余計な手間をかけさせるな」

 

 私は部分展開したISの刀を振り下ろす。当てるつもりだったがかわされてしまった。

 

「まあ、まあ、織斑先生。ここではなんですから私の部屋まで行きましょう。ついでですし彼、斎藤君にもついてきてもらいましょう」

 

「……分かりました」

 

 私は斎藤を一睨みし学園長についていく。睨みにこめた意味はもちろん「ふざけたら殺す」だ。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 俺はおっちゃんもと織斑さんの後を付いて行く。

 俺の病室があった建物から離れ、校舎にしてはやたらと豪華な建物に入っていく。

 まあ、アニメとか見てたからしってっけど実際に見ると吃驚する。これ本当に学校か? ホテルとか言われても信じちゃうぞ?

 しばらく歩くと両開きの重厚な扉の前で二人が止まる。どうやらあそこが学園長室のようだ。

 

「入れ斎藤」

 

 織斑さんがあごで促す。何か段々とぞんざいな扱いになってきたな。

 

「おじゃましま~す。お! お茶菓子発見! 食って良い?」

 

 来客用の机の上においてあった饅頭を手に取る。

 

「ええ、構いませんよ。飲み物はどうしますか?」

 

「緑茶で」

 

「分かりました。少し待ってください」

 

 そういっておっちゃんは手馴れた手つきでお茶を入れ始める。それを見るだけの俺と織斑さん。

 

「なあ、こういうのって織斑さんがやるべきなんじゃね?」

 

 手に持った饅頭を食いながら聞く。

 

「黙ってろ」

 

 相手にしてくれないのでささやかな復讐をする事にする。

 

「ああ、しないんじゃなくて出来ないのか」

 

ビキィ!!

 

 あ、固まった。

 

「そ、そんな事はない!」

 

「そんな動揺して答えても説得力無いぞ?」

 

 俺がそういうと織斑さんは立ち上がり言ってくる。

 

「そこまで言うなら入れてやる」

 

「おう、入れろ入れろ。お湯を注ぐだけの簡単なお仕事だ」

 

 そういうと織斑さんはおっちゃんと代わってお茶を入れ始める。

 その作業を横で見ているおっちゃんの様子がおかしい。具体的に言うと柔和な笑顔が段々と固まっていった。

 ちょ、おっちゃん何を見た?!

 

「出来たぞ。飲め」

 

「何で先に入れ始めたおっちゃんより早いんだよ!?」

 

「お湯を注ぐだけなんだろ?」

 

「早すぎだ! 抽出時間がねーじゃねーか!!」

 

「つべこべ言わずに飲め」

 

 そういって差し出された湯飲みには薄く緑色になったお湯と、茶葉が浮いていた。

 

「おいコラ。ちょっと待て。何だこれ?」

 

「茶だが?」

 

 それがどうした?とでも言わんばかりの顔だった。

 

「何で茶漉しを使わねーんだよ!?」

 

「茶漉し?」

 

「うわ……」

 

 おっちゃんの笑顔が固まった理由が分かった気がした。

 

「えーい! 俺がちゃんとしたお茶の入れ方教えたる! しっかり覚えろ!!」

 

 そう言って俺は織斑さんの手を引きおっちゃんの横に行き物色する。

 

「う~ん、あ、おっちゃんこれ使って良いか?」

 

 そういって俺が取り出したのは新茶だった。

 

「ええ、構いませんよ」

 

 おっちゃんはそう言って快く承諾してくれた。俺は新茶の袋をあけ茶葉を取り出す。

 

「まずは一人当たりティースプーンで二杯ほどの茶葉を急須に入れる」

 

 とりあえず二人分急須に入れる。もちろん茶漉しをセットするのも忘れない。

 

「次は、お湯だが新茶の場合は一回湯のみに入れてから急須に入れる。こうすれば沸いたお湯がちょうど80℃くらいになるんだ」

 

 俺の知らん機械の上に置いてあったヤカンをとる。

 確認するとちょうど沸いたところだった。それを湯飲みにいれ急須に移す。

 

「んで、次は四十秒くらい待ってから急須を軽く二~三回まわす。こうすると茶葉が開いて味がちゃんと出るんだ。そんでもって最後は湯飲みに注ぐ。ちゃんと最後の一滴まで注ぐんだ」

 

 俺は湯飲みにお茶を注いでいく。

 

「ほれ、飲んでみろ。おっちゃんの分も入れたからどうぞ」

 

 湯飲みを二人に渡す。受け取った二人はそのままゆっくりと飲む。

 

「む、」

 

「おや」

 

 二人が若干驚いた顔をする。

 

「どうだった?」

 

「悔しいが美味い」

 

「驚きました。入れ方一つでこうも違いますか」

 

「まあ、お茶は種類によって入れ方が違ってくるから全部覚えろってのは難しいけど、自分がよく飲むお茶の入れ方を覚えとけば美味しいお茶が飲めるんだ。覚えておいて損は無いぞ?」

 

「……そうだな、覚えておくとしよう」

 

 そういってひとまずお茶入れは終了。

 三人で来客用のソファーに座る。俺と織斑さんが並び、対面におっちゃんの図だ。

 

「申し送れました。私がIS学園の学園長を勤める轡木十蔵と言います」

 

「エー、学園長ダッタノー、ワカラナカッタナー!」

 

「棒読みで答えるな馬鹿者」

 

「はっはっは、知っていたみたいですね。それでは織斑先生、報告をお願いします」

 

「はい、まず…………」

 

 そういって織斑さんはおっちゃんに俺のことを話していく。

 あらかた話終わっておっちゃんの顔を見ると難しい顔をしていた。

 

「こんなことが現実にあるんですね」

 

「はい、信じられませんが」

 

「………………」

 

 まあ、俺は似たようなことを体験しているので驚きはほとんどないし、今ここでそんなこと言ってもしょうがないので黙っている。

 

「そうすると斎藤君は天涯孤独ですか、困りましたね。今は怪我の治療の名目でおいて置けますが、怪我が治ったからさよならではあまりにも薄情ですね」

 

「はい、各証明書等もかなりの時間がかかると予想されます」

 

「そういった書類が無ければ仕事等も出来ませんからね」

 

 まあ、仕事を選ばなければ暮らしていけないほどでは無いと思うが。いざとなったら危ない橋も渡れるし。

 

「斎藤君はボディーガードのほかに何か出来る事はありますか?」

 

 おっちゃんが聞いてきた。

 

「あ~、とりあえず炊事洗濯料理は一通りこなせます。料理に関しては普通、お菓子作りはとある職人のお墨付きをもらったからそっちは自信があるくらいだな」

 

「ふむ、ならばどうでしょう? この学園の食堂で働いてみては?」

 

「へ?」

 

 こうしてこの時代での俺の職場が決定した瞬間だった。

 

 

 




 お久しぶりです不知火です。
 かねてより分けて欲しいと要望があったので本編と外伝を分けることにしました。ここ最近まったくと言っていいほど執筆が出来なく楽しみにしていただいている方には申し訳ありませんでした。
 これから執筆しますといいたいですが、仕事も忙しくなかなか更新できるか分かりませんが完結目指して頑張りますので、今後もなにとぞ宜しくお願いいたします。
 なお本編と分けるにあたり題名を軽く変えてありますので宜しくです!

追伸
 もしかしたら今月中に最新話を上げられるかも知れませんが、期待しないで待っていてください!

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