雲の上に文化を作り上げている存在のことなど――。
「見ろ、島だ!空島だ~!」
雲の道の出口で巨大なエビに投げられた先は、神の国スカイピアという島だった。
真っ白な雲の地面に幾つかの植物や道、建物がある。紛れもない島だ。ルフィとウソップとチョッパーは船が着くなり真っ先に飛び移った。
サウスバードを放したナミが置いてあった地図を持ちだす。
「航海士さん、スカイピアって」
「えぇ、ルフィが見つけた地図にあった名前よ。空から降ってきたあのガレオン船も200年前にこの島に来ていたのね。
あの時は正直こんな空の世界想像もできなかったけれど……」
浅瀬に向かってナミは飛び降りた。
「ハハ!ほら、体感しちゃったんだもの、疑いようがないわ!エリオ、スバル、アンタたちも早く来なさいよ!」
満円の笑みでナミが手を広げる。
「は、はい!」
エリオは未知の海と陸に興奮を隠せず、しかし多少の不安もあり、ごくっと唾をのんで飛び込む。
雲は普通の水よりも抵抗が少なく、それでいて感触が気持ちいい。水の下にある島雲が海雲があるにも拘らずフカフカしている。
これまでの人生で感じたことのない経験にエリオが歓喜に顔をほころばせた。
「凄いです!こんなに不思議な体験、初めてです!」
「フフ、私もよ。じゃ、行きましょ?」
ナミがエリオに手を差し出した。エリオはその手を握って丘のほうに走る。
その光景を見ながらロビンが遠くを見るような目をした。
「航海や上陸が冒険だなんて、考えたこともなかった……」
飛び降りようと階段を下りたロビンは、何かと足の見ているスバルがいたのに気が付いた。
そういえばまだ船から降りていなかったようだ。
「あら、何をしているのかしら?」
「いや、ちょっと、マッハキャリバーで海雲や島雲を走れるのかなって。相棒、いける?」
『わかりません。保証は出来かねます』
「頼りないな~。まあ試してみよっか!」
スバルは跳躍し、海雲に飛び込む。先ほどはルフィの腕に捕まって海雲の中を突っ切っていったが、今度は自分で走れるか。
マッハキャリバーは応えた。海雲に滑るように着地し、そのまま滑走する。
「あはっ!いけた!」
「アラ…」
ロビンは少し驚いたようにスバルを見た。
一方先に陸に上がった彼らは既に空の世界を楽しんでいた。
「この椅子、雲でできてるわ。やっぱり雲を形成する技術でもあるのかしら」
「すげー。フカフカ雲と違ってマフっとしてるぞ!」
「曇ってこんな風に固まるんですね…」
エリオはナミとチョッパーが座っている白い雲でできた椅子を指でつんつんついている。
ビーチのほうでサンジたちの声がした。
「天使だ!天使がいるぞ!」
「て、天使!?」
これほどまでに常識外れの物を見せられて信じない方がバカらしくなってきたが、エリオはまたもすっとんきょうな声を上げた。
そこには白い肌をしたきれいな女性が立っていた。
「あ、あなたは?」
「私はコニス、何かお困りでしたらお力にならせてください」
「知りたいことがたくさんあるのよ。ここは私たちが知らないことだらけで」
「何でも聞いてください」
「ナミさん!危ない!」
コニスに話しかけてたナミの背中をエリオが押す。
そのすぐ近くをバイクのような船に乗った中年が乗り上げてきて――大樹に激突し、止まった。
「みなさんお怪我はありませんか」
「いやお前がどうだよ」
「コニスさんのお友達でしたか。私はパガヤと申します。これからうちに来ませんか。空の幸をご馳走しましょう」
一同は喜んでその申し出を受け入れた。その中でナミだけ別の物に興味を示していた。
パガヤが乗っていた奇妙な船だ。
「その前に聞いていい?これどういう仕組みなの?どうやって海を走ってるの?」
☆
「降りろ~沈め~」
「ガキか!」
パガヤが乗っていた乗り物、操縦が難しいと言われるウェイバーを乗りこなすナミに罵声を浴びせるルフィ。
まるで路上を走るバイクのように優雅に走るナミはウェイバーを気にいったようだ。
「おじさんこれもう少し借りてもいい?」
「ええ構いませんよ」
パガヤの了承を得て、ナミは更に沖のほうにウェイバーを進めていった。
「ナミさーん!」
「スバル!?」
後ろを振り返るとバリアジャケットを装着したスバルが同じように雲を滑るかのように走っている。
「あんたのそれ、雲の上を走れるのね」
「はい!ウイングロードの上を走る要領で乗ってみたら走れたので」
「そう…ねえ、どうせなら付き合ってよドライブ。ちょっとあっちのほうまで行ってみない?」
「はい!」
ウェイバーを走らせ、その後をマッハキャリバーが追う。
周りから見た島は、建物が色々建ち、雲を切ったりと作業をしている人たちがいる。
どれもコニスたちのように独特の髪型と背中に小さな羽をつけている。
「民族衣装かしらね。それとも空に住み続けていたら生えるのかしら」
「本当に雲を加工しているんだ……凄い世界だなぁ……あれ?」
進んでいく先にスバルは奇妙なものを見つけた。
「ナミさん、あっちの島…地面がありますよ」
「え?空の上なのに……?」
近づくにつれて、その島がスバルのいう通り空の上にあるはずのない地面でできた島に辿り着いた。それだけではない。
「気がおっきい…てっぺんが見えない」
「どれもでかいわね。樹齢何年くらいになるのかしら。1000年くらいは立たないとここまで大きくはならないわよね」
まるで太古の森のように巨大な植物が根付いている。猛獣や怪鳥の鳴き声も聞こえてきて不気味さを増す。
いや――
「声?それに……衝撃音?……それに…だんだん近づいてる?」
スバルは敏感に森から聞こえる音を拾う。
ナミも何か不吉なものを感じ取ったのか、ウェイバーのハンドルを切り始めた。
「気味が悪いわね…ここはすぐにも離れましょう」
「は、はい…ナミさん!」
スバルはすぐさまナミに飛びかかった。ナミは何が起こったのかわからないままスバルに抱かれるように移動した。
刹那、背後から発射された砲弾がスバルたちのいた空間を貫き、地面の島で炸裂した。
(――いや!何かを狙って撃っていた?)
スバルは背後にいたのがゲリラなことに気が付いた。ただそのゲリラはこちらを見ずに、着弾して煙を巻き上げている部分を見ている。
どうやらこちらに気にかけている様子は一切ないようだ。
「ちょっと、なに!?何が起きてるの!?」
ナミが混乱して少し涙目になっている。
スバルは何かを感じ取ったようにナミを制する。
「静かに!誰か出てきます!」
「え?え??」
しばらくして、煙の中から誰かが出てきた。そいつは怪我をしていて、しかし他の空の住人と違い背中の羽が見当たらない。
その男はナミたちを見つけた途端、必死に声を絞り出した。
「ナァ…頼む、助けてくれ!乗せてくれ!さっき船に乗り遅れたんだ…!礼ならいくらでも……」
「え、え、でもこれ一人乗りで、乗れるかな……わかんない」
「わ、わかりました。すぐに助けます!」
スバルは勢いよく返事を返した。
「ちょ、ちょっとスバル!?」
「怪我をしているんです。ほっとけません」
「もう、得体がしれないって言うのに……仕方ないわ」
「た、助かる。恩に着る……って、うわ!ゲリラ!?」
男はスバルたちの背後にいたゲリラを見て恐怖の声を上げた。それとほぼ同時だった。
天から一条の光が男の上に降り注ぎ、地面ごと男を焼き尽くした。
「クソ、エネルめ!よくもヴァースを!」
そう毒づき、滑るかのように方向転換してその場を去って行った。
余りの出来事に二人は放心状態になった。
「なんなのよ、今の光は……」
「あんなことができるなんて……ナミさん」
「今度は何よ……」
「島のほうから誰か来ます。隠れましょう」
「え?え?」
状況が整理できていないナミの腕を引っ張り、島のほうからは死角になる位置まで移動した。
すると島のほうから声が聞こえてきた。複数の男の声だ。
「今の男…さっき誰かと話をしていたようだが……?」
「ゲリラだ。今逃げた。命を乞うていたのだろう」
「――しかしエネル様も一体どういうおつもりか……自分でカタをつけるとは。我々は何の為に……」
「時間切れという事だろうよ」
『時間切れ?』
「次の〝不法入国者”が既にこの国に侵入している」
「またか」
「青海人を〝九人”乗せた船だとアマゾンのばあさんから連絡があった」
ナミとスバルはドキッと身を震わせた。
「九人……って言ってましたね。これってどう考えても……あたしたちのことですよね」
「不法入国…!?確かにお金は払わなかったけど……でも通っていいって」
「しっ静かに」
男たちは踵を返し始めた。
「フン。たった九人とは手応えがない」
「四では割り切れんな」
しばらくして声も足音も聞こえなくなったから、二人は溜息をついた。
「とにかく戻りましょう。早く知らせないと」
「そうね……得体が知れないし、早く動いたほうがいいわね」
スバルとナミはエンジェルビーチのほうに転進した。
引っ越しで遅くなりました。
とりあえず原作と同じ展開はできるだけ飛ばす方向で。
次でアッパーヤードまで行けるといいな。