今回は皆の評価がどうなるかわかりませんが、このSSを書く上で最初から決まっていたことです。
では、どうぞ・・・・・・
俺は、蒼真と共に地下水脈を抜け出し大時計の間へとやって来た。大時計の真下はこの城の中心、最も城の魔力が集まる場所。城の魔力を利用して魔王の魔力を持ったもう一人の蒼真を作りだし、それを倒すことで魔王の力を消滅させる。失敗すれば蒼真は魔王となり人の敵になったしまう。蒼真は思いつめた表情で大時計の仕掛けを解除し中枢へと降りていく。
「蒼真、大丈夫だ。俺も協力する。お前は一人じゃない」
「うん、ありがとう。でもお願いがあるんだ」
「お願い?いったいなんだ」
「ここから先は、僕一人で行きたいんだ」
「なっ、危険すぎる」
「わかってる、でもどうしても僕一人でやらないといけないんだ」
蒼真の真剣な表情にこちらが折れ、納得してしまう。
「いいか、異変を感じたらお前が何と言おうと駆けつけるからな」
「うん、ありがとう。リヒターと知り合えて本当に良かった」
「おいおい、別れみたいに言うなよ。親友としてこの城から出たらいっぱい遊ぼう」
「あはははは、それは楽しみだ」
二人で笑い合いそして、
「行ってくる」
「あぁ、行ってこい」
「...、....」
これが、蒼真との最後の別れになった。
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リヒターと別れ、中心部へと来た。この城の魔力に
「我、天秤を作る者。魂を作る者。一より全を作る者」
術を唱えると魔法陣が構成され、陣の中心に天秤が現れる。天秤の皿の片方へ僕は歩みを進める。皿に乗ると天秤は僕の方へ傾く。
「生まれるは半身。創るは理。原初へ還り、今世へと生まれるは対極の子」
体から力が抜ける、すると僕の方へ傾いていた天秤が水平になりだす。反対側に実体のない影が生まれる。【ドッペルゲンガー】もう一人の自分。都市伝説では出会ったら死ぬと言われているが史実はわからない。
「「今、天秤は平等へと生った。ならば、一より生まれしは平等なりし命。理に認められし命」」
一人で唱えていた術は今では二人で唱える。
「我は影持つ光」
「我は光より出る影」
「「ここに、光と影揃えん!!」」
術が完成し、魔法陣が消えると、ドッペルゲンガーを利用して生まれたもう一人の
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蒼真によって完成した術で俺は蒼真の前にいた。うすうす感じていたが俺がこの城で創られた人格、魔王だったわけだ。思い返せば記憶の中の俺は自分の事を僕と言い、人と関わろうとしていなかった。
「よう、元気か俺?」
「うん、元気だよ僕」
まるで久しぶりに会う兄弟の様に挨拶する。これから行われるのは、互いの存在を掛けた殺し合い。
でも、分かってる。ここで死ぬのは俺だ。よくある物語、
「ほんとはさ、一杯しゃべりたい事有ったんだけど」
「うん、時間も無いし」
「さくっと、やってくれと言いたいが」
「ん?何かある」
最後に我儘言わせてもらおう
「いや、俺死んだあとってさ、事件の首謀者倒すんだろ?」
「う~ん、ウォルターさんやアル兄さんが倒してくれないかな?」
「あ~居たなそういや。忘れてた」
言われるまで本気で忘れてたよ
「ちょっとひどくないかな」
「だったら後で謝ってくれ」
「いや、謝罪は自分でだよ」
「いや、無理だし。ってバカな話してる暇なかったな」
無言で頷き俺に先を促す
「最後にさ、お前が一人でやっていけるか確かめたいんだ」
「確かめる?」
「あぁ、最初で最後の兄弟喧嘩。って、兄弟はおかしいか」
「ううん、おかしくないよ。僕たち兄弟でいいよね」
「そっか、アニキが優しくてうれしいぜ」
「あれ、僕がお兄ちゃんなの」
「だって、俺弟キャラだぜ」
それに、後から来たのは俺だしな。兄弟喧嘩には相応しくない真剣を持ち、構える。アニキも剣を構え二人して駆け出す。
「「たぁぁぁぁぁぁ」」
俺と蒼真の最初で最後の兄弟喧嘩。素人剣術、8歳の子供の振り回す剣に虚実などが混ざる事もなく。ただただ、相手めがけて剣を振り、振られた剣を迎え撃つ為振り回す。真剣である事を除けばただのチャンバラごっこだ。喧嘩なんて言ってみたけど、これじゃ仲の良い兄弟が遊んでるようだ。
キン、キン、ギャン。しばらくすると剣戟の音でリズムをとったりして束の間のひと時を楽しむ。お互い目に涙を溜め、一秒でも長く相手との思い出を刻む。キン、キンこの後は大振りでの一撃、これ以上は未練が残りそうだからもう、終わり。剣を振るフリをして手の平から剣を捨てる。そして・・・・・・・・・蒼真の剣がこの幕を閉ざした・・・・・
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先ほど巨大な魔力が足元の中心部へと集まった。おそらく術が発動したんだろう。俺は、父様から失敬してきた、家宝の鞭を握りしめ蒼真の無事を祈った。蒼真の最後の呟きが頭から離れない、
「ごめん、さよなら」
魔王になるわけない、無事に帰ってくる。でも蒼真のいつもは『俺』だったのに『僕』と言ってる呼び方が不安感を消してくれない。そして、中枢の魔力が先ほど以上に膨れ上がる。異常を察知した俺は、蒼真のもとへ駆けつける為に走り出した。
中枢にたどり着いた俺が見たのは、空の『蒼』と夜の『黒』をイメージさせる大剣を持って泣き叫ぶ蒼真の姿だった。
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振り下ろされた剣より鮮血が舞う。蒼真が振り下ろした剣だから、血が出るのは俺のはずなのに何で
「・・そ・う・・ま?」
「ごふぁっ」
口から血を吐き、お腹に深く刺さった蒼真の剣。漸く脳が意味を理解し始める。でも、心が理解を拒む。
「そう・・ま?な・にしてるんだ?は、はは、切る相手間違えてるよ。ど・じだ・な」
「ま・ちが・えてな・いよ」
たどたどしく、でもしっかりと俺の言葉を否定する蒼真。理解する、理解する、理解したくないのに理解した。蒼真は最初っから自分が死ぬつもりだった。
「なんだそりゃ、違うだろ。そこは魔王が死ぬべきなんだよ。勇者が死ぬなんて有っちゃいけないんだよ!」
「ごめん・ね。でも・・さ、かんが・・えたん・だ。魔王が・死んで・・・城を・封・印して・・も」
「しゃべるな!もうしゃべるな。フェイ、来てくれフェイ。【生命の霊薬】を使ってくれ。早く!!!」
使い魔を呼ぶ。妖精だけが使える生命の霊薬。死の淵に立った者を万全の状態で蘇生させる秘薬。それがあれば助けられるはず、なのに答えてくれない。
「フェイ!何で来ないんだよ。来てくれよぉ。蒼真を助けてよぉ」
「むり・だよ、この魔力じゃ」
徐々に蒼真から力が抜け、俺の中に入ってくる。
「い、嫌だ。いらない、こんなのいらない」
「聞いて」
「違う!蒼真は俺じゃない、俺じゃいけないんだよ」
「魔王がい・なくて・も、城・があれ・・ばまた事・・・件が起・きるかもし・れない」
頭も心も理解した。蒼真はもう助からない。でも、駄々をこねる子供の様に振る舞った。けど蒼真はもう俺の言葉に返事をせず、伝えたい事を伝えようとしてた。
「だから、思っ・・・たん・だ。優し・い魔王が城・・を守ればいいん・だって。蒼真な・ら優しい・魔王に・なってく・れるって」
「それなら、俺じゃなくても」
「僕はダメだ・よ。記憶知ってる・でしょ。この城に・来る前から人へ・・の憎しみに囚わ・れ、人と距離・・を置い・ていた」
知ってる。なぜか人に対して理不尽な憎しみが湧いてきて、いつか誰かを傷つけるかもしれないと恐怖し、人から離れてる事を。
「でも、君・は違う。リヒターとすぐに仲良くな・・れた君な・ら」
「でも、今は魔王の記憶で、憎しみや怒りが俺を支配するかもしれないし」
「だい・じょ・・・うぶ。いか・りも、にくし・・・みもぼくがつれ・て・く」
蒼真から流れてくる力の一部がお腹に刺さったままの剣に流れていく。
「きみ・に・・つら・いもの・を・・せおわ・せる・・・ぼくを・・ゆるし・てとは・いわない」
「そんなの許すよ。許すからいかないでぇよぉぉぉ」
「お・かさん・とおと・・うさん・に、おやふ・こうし・・てごめんって・・つたえ・てほしい・な」
「謝罪は自分でするもんだろ。蒼真が言ったんじゃねぇか」
蒼真の瞳から光が無くなっていく。
「さい・ごにおく・りものが・・あるん・だ」
「何くれるんだ?」
「そう・まをあげ・・る」
「へっ?」
「そう・まう・・けとって。ぼ・くのな・まえ。ぼくの・きぼう・・・・・・」
そういってそうまはきえた・・・・・・。そうまのちからをとりこみすがたのかわったけんをのこし。おれはそのけんをだきしめ
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・」
あのときわがままをいったじぶんにこうかいしていた。
・・・・・・・・・今回はこのまま終わりです。