地下水脈。城の地下に存在するフロアで、水生系魔獣と魔女の棲みかになっている。その一カ所に隠されるように存在する扉。周りの様子を見るに後から付けられた物だろう。隠された扉の先に何があるのか確かめる為、扉を開き先に進む。扉の先は少し暗く足元に注意しつつ移動する。すると、奥の方に明かりが見え人の手が入った広場に出た。広場の壁は発光する魔水晶(魔力で作られた水晶で魔道具の材料になる)によって昼間の様に明るい。その中心に小さな墓があった。墓の周りは誰かが世話をしているのか花で囲まれている。ゆっくりと墓に近づき、墓に刻まれた名は『リサ』。その名を見た瞬間涙があふれてきた。狂おしいほどの悲しみ、自らを滅ぼしかねない怒り。制御できない感情の波に翻弄され気を失った。
どれだけ気を失ったのか分からないが先ほどみたいな感情の波は存在しなかった。代わりに激しい嫌悪感を入口の方から感じる。コツ、コツと誰かが歩いてくる足音。姿を現したのはウォルターのおっさん。でも、初めて会った時とは違い、腰につけられた
「やはり君の方だったか。これだけは外れてほしかったんだが」
「何がです。それに眉間にしわが寄って怖いですよ」
警戒はどんどん強まり、いやおっさんからは殺気が感じられる。
「君には言ってなかったが、俺の一族はヴァンパイヤハンター。この城の城主である魔王ドラキュラを倒す使命がある」
「ドラキュラ?そいつがこの事件の元凶ですか」
なぜかおっさんの言ってる事が真実だと理解でき、
「魔王ドラキュラ、それは君だったんだ」
すんなりと納得できてしまった。
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俺は、リヒター・ベルモンド。日本には父様の知り合いを訪ねに(次期当主としての挨拶)来ていた。だが事件に巻き込まれ父様と一緒に悪魔城にいた。普段は母様に頭が上がらない父様だが、この時は歴戦の勇士の様に頼もしかった。父様と一緒に探索すると一人の少年を保護した。少年は蒼真と言い俺達と同じく気が付いたら此処にいたらしい。蒼真から話を聞いた父様は思い当たる事があるのか一人で行ってしまった。それからは蒼真と一緒に城を探索していたが、不思議な事に先に行った父様とアルカードさん?の痕跡が見当たらなかった。やはり、この城は父様が滅多に見れない表情をするぐらいに危険な場所のようだ。
探索を続ける内に地下へのルートを発見し、進もうとした瞬間、先に降りた蒼真の足場が崩れ下に落ちて行った。すぐに魔力による身体強化(俺はこれしかできない)をして追いかけようとするが、
地下にたどり着いた俺は蒼真を探した。だが、別行動になった為に蒼真の痕跡は見つからない。最悪の予想が頭をよぎった瞬間誰かの気配を感じる。蒼真かと思い気配の有る方へ急ぐと魔女がいた。魔女は魔力の扱いに優れているが、身体能力の方はそれほどでは無かったはずだ。蒼真を探すため気付かれる前に移動しようとして
「あぁ~ん、蒼真君かわいかった~」
「なんだって!」
思わず大声を上げてしまった。
魔女から聞いた話だといつ作られたかは分からない隠し部屋に入っていったらしい。なぜ魔女と親しくなっているのかと思ったがそれが蒼真の良い所だと納得させ隠し部屋に急ぐ。だが俺はそこで、信じられない光景を見た。父様が蒼真に向けて鞭を構えている光景だった。
「君に恨みはない。だが、魔王を解き放つわけにはいかない」
父様の言ってる事が理解できなかった。蒼真が魔王?そんなこと有りえない。一緒に探索していた時も明るいし優しさを感じられた。きっと蒼真は否定するとそう信じたが
「僕が死ねば、この城は消えるんですか?」
「いや、この城の封印を解いた奴がいる。そいつを止めなければいけない」
「その後、城はどうなりますか?」
「また、封印され直すだろう」
蒼真は否定もせず父様と会話をつづけていた。出会ってそんなに時は過ぎていないが、命を預け合った戦友いや、親友だと俺は思っていた。騙されていたのか、一緒にいたあの姿は演技だったのか疑心暗鬼に落ち入ってしまう。
「そうですか・・・。だったらまだ死ねない」
蒼真の本心が聞けるかと耳を傾ける。
「僕が魔王だとしても、居てはいけない存在だとしても、生きるのを諦めたくない」
「っ、だが君の体と精神は魔王の魔力によって変質し始めている。この鞭が教えてくれている。もう君は初めて会った時の人ではなく人外になっていると」
父様の言葉は俺の頭にショックを与えた。高濃度の魔力は人体に影響を与える。俺が探索を許可したから、俺が引き止めなかったから蒼真を魔王にしてしまった。
「僕の手に入れた知識に人に戻る術があります。可能性が在るなら僕は生きたい」
「くっ・・・・・・だが・・・・・・・俺は」
父様が悩んでいる。まだ8歳の子供を犠牲にするのに抵抗があるみたいだ。でもハンターとしての使命、術が成功する保証もない為に板挟みになっているようだ。俺のするべき行動それは・・・
「・・・すまない。恨んでくれていい。それでも俺は「せい!」なっ、ぐはっ・・・・」
父様めがけて十字架のサブウェポンを思いっきり投げつけた。俺に気付いてない父様は不意打ちをくらい気絶してしまった。
「リヒター・・・」
「話を聞いた。まだ人に戻れる可能性が在るんだな。何をすればいい教えてくれ」
俺は蒼真を信じる。そう決めたんだ。
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二人がいなくなりしばらくすると気絶したはずのウォルターは平然と立ち上がるのだった。
「憎まれ役とは大変だな」
「アルカードか。別にこう言うのは大人の役目だ。子供に嫌われても正しい道に進ませるそれが大人だ」
「そうか」
それ以降二人は言葉を発せずにウォルターは部屋を出て行く。アルカードは墓の前に行くと、ひざを折り
「母上、どうかあの二人を見守っていてください」
過酷な運命に立ち向かおうとする二人の安全を祈るのであった。
長くなりそうなので分けます。
日に日に増えるお気に入りと皆の感想が力をくれる。書いてよかった。