妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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非常に短いですが更新です。


顛末

 

side イルデブラン大司教

 

あの日、聖都ラボナの町は半壊した。

そして彼等(・・)は破壊だけを残し何処かへと去っていった。

幸いと言っていいのだろうか、死者は少ない。

だがその死を忘れることはできないだろう。

娘婿だったセネルは死んだ。

幼い赤子と妻を残して死んだ。

英雄として化け物に挑み、そして虫けらのように死んだ。

町の人間は立派な息子だ、と言う。

私も理性ではそう思わなくもない。

……だが、生きていて欲しかった。

娘を悲しませないで欲しかった。

 

アイツは私に認められていないと思っていたのかも知れない。

義息子とは立場の違いからよく意見が対立した。

私はこの町のトップとして、教会の指導者として軟弱な態度を見せることなどできなかった。

だがそれでも認めていたのだ。

アイツが語るまだまだ青臭い正義を、そして理不尽な現実に立ち向かい妥協点を必死に探すその姿を……

特に先日の妖魔騒ぎを治めた事は評価していた。

アイツは気付いていないと思っているだろうがカムリからおおよその話は聞いていたのだ。

清も濁も併せ呑み最善の結果を目指したその姿勢を評価している。

だが、あのクレイモアから生まれた化け物に殺された。

 

町ではあの(・・)化け物の話で持ちきりだ。

私以外(・・・)にも見ていた人間が居たのだろう。

今はギリギリ深刻な疑念レベルで留まっている。

だが、放っておけば事態はさらに悪化するだろう。

チラリと目の前の袋を見る。

それなりの大きさがある袋の中にはぎっしりと大金が詰まっていた。

先程全身を黒い服で覆った陰気な男が渡してきたものだ。

黒服の男はスタフの地にある組織の使いを名乗った。

この事態の沈静化を依頼してきたのだ。

もっとも依頼と言うよりは脅迫、と言った方が正しいような物だったが……

どちらにしろ私には断る理由もなかった。

元々行うつもりだった事に金を払うと言うのだ、ありがたく貰っておくべきだろう。

これだけあれば多くの人の命が救えるのだ。

ならば金の出処など気にすべき事ではない。

 

真実を含んだ噂を完全に打ち消すのは困難だが、その噂の一部を利用して真実(・・)へと誘導する事は簡単だ。

その創られた真実は私がすべき事とも合致するだろう。

だが真実(・・)は慎重に扱う必要がある。

真実(・・)は諸刃の剣なのだから……

 

 

 

その後、聖都ラボナは教会の強力な指導の元、新たな教義が追加された。

一切の妖かしの物を排斥するようになったのだ。

その先頭に立ったのは時の大司教であり息子を亡くしたばかりのイルデブランだった。

傍らには修道士カムリの姿もあった。

彼等は民衆が求める(・・・)真実を語った。

同時に義息子が求めていた難民を含めた全ての住人への救済を精力的に行った。

その裏には出処の分からない資金があったという噂も立った。

しかしそれらは熱狂の中で受け入れられ町は大きく変わった。

善きにしろ悪しきにしろ変わったのだ。

 

変わってしまった町で語り継がれる英雄譚があった。

二人の英雄、無名の剣士と聖都の兵士の物語。

化け物と戦い相打ち(・・・)になりながらも町を救ったというただそれだけの物語。

それだけが一般市民にとって必要とされた真実だった。

そして真の真実は聖職者の間でのみひっそりと語り継ががれる。

 

"殺戮の悪魔"

 

それは銀眼の魔女、銀眼の斬殺者、クレイモアと呼ばれる無名の戦士への嫌悪と憎悪、そして畏怖を含んだ別称だった。

聖都ラボナ、それは妖かしの物を全て排除した白い町、同時に多くの人々を救った慈悲の町。

時は流れ、妖魔による被害は留まる事を知らず人々はより心の拠り所(信仰)を求める。

その中でラボナは外の世界を見ることをせず、美しい世界を維持し続けるのだった。

美しい世界が崩壊するのは数十年の先の話であった。

セネルの遺した赤子が大きく成長した時再びラボナの物語は動き出すのだった。

 

 





元々この物語を書き始めた理由の一つがこの話でした。
”殺戮の悪魔”ラボナでしか出てこない単語です。
そしてクレイモアを表す言葉としては強すぎるように感じました。
基本的に妖魔は単体です。にも関わらず大量に殺す事を感じさせる殺戮を用いる事に違和感を感じたからです。
そこにラボナの妖かしの物を排除する、という教義を考えた時にこの話を思いつきました。
妖魔が現れたのが100年前なのですから教義ができたのはその後です。
そしてそこには他の町にはない何か理由があった筈です。
そんなこんなでこの文章ができました。
書いたのが最初期なのですが上手く修正して組み込めなかったのでこんな形で上げておこうと思います。

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