妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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長くなりすぎてまさかの分割
この章自体を9月中に終わらせるつもりだったのに終わりませんでした。




共闘

 

"覚醒"

 

それは半人半妖の戦士がその限界を超え人から異形の化け物へと変質する事。

覚醒した者は例外なく人を守る者から人を喰らう化け物へとその本質が変質させる。

覚醒者は基となったそれぞれの戦士の特徴に沿ってその姿を大きく変化させる。

ある者は蛇のような姿に、ある者は巨人のような姿に、ある者はケンタウロスのような姿へと変化する。

そして基本的に人の数倍の大きさを誇り、その強さは圧倒的である。

 

そんな覚醒者へとセラと呼ばれた者はなってしまったのだ。

覚醒した瞬間から溢れ出る妖気に圧倒される。

誰もがただ茫然とセラの覚醒を見ていることしかできなかった。

逃げることも戦うことも頭の中から失われただただ茫然としているのみだった。

 

予想外だったのだ。

本来組織の半人半妖の戦士は自らの覚醒が避けられないと自覚した段階で死を選ぶ。

大半が化け物としての生より人としての死を選ぶのだ。

にも関わらずセラは突如として覚醒した。

怒りと憎悪が自らの限界を見失わせたのだろうか?

俺にはむしろ全てを憎んで自ら激流に身を任せたように見えた。

……とにかくセラは制止を振り切り覚醒したのだ。

今考えるべきはこれからどうするか、だ。

最も安易な道はこの混乱に乗じて逃走を図ることだろう。

だが、それはこの町(ラボナ)の住人を、テッドとリズの兄妹やセネル、奥さんのカミラ、それにカムリと言った人々を見捨てる事になる。

それで良いのだろうか?

 

俺が思いを巡らせているとエルダと呼ばれていたクレイモアがふらふらと覚醒者(セラ)へと近づいていくのが目に入る。

一体何を?そんな疑問が頭を過る。

 

「……セ、ラ……本当にセラ、なの?」

 

エルダがほぼ放心状態のままそう問い掛ける。

その声に反応するように今の今まで動いていなかった覚醒者(セラ)が動きを見せる。

本当に見えているのか疑わしいがエルダの方を見たのだ。

エルダは覚醒者が反応した事を機にさらに近寄る。

 

「……お腹すいた」

 

セラ(覚醒者)が一体何を見ているのか分からない目のまま呟く。

次の瞬間だった。

風切り音と共に覚醒者の長い腕が伸びる。

気が付いた時にはエルダはその場から忽然と姿を消していた。

 

「ガッ、グワァッ!!」

 

エルダは覚醒者の手の中に居た。

その姿は一瞬前と一点を除いて何も変わっていなかった。

ただ一点腕が存在しない事を除けば

 

「何これ、美味しくない……」

 

エルダの腕だった物が覚醒者の口の中にある。

不味い不味いと言いながらも覚醒者は吐き出すことなくエルダの腕を飲み込む。

 

「……エルダ、不味い」

 

その一言と共に興味を失ったようにエルダを適当に投げ捨てる。

そこまで見てようやく動き出す。

偶然こちらに飛んで来たエルダを受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

そう問い掛けるとどうにか、と言った風だが確かに頷く。

エルダはガタガタと震えているがどうやら腕以外に外傷はない。

俺がさっき貫いた傷も大体治し終えている。

これならば死ぬ事はあるまい、そう判断し優しくエルダを地面に横たえる。

覚醒者へと意識を戻す。

まだ意識がハッキリしていないのか覚醒者は身を丸めるように自らを抱きしめながらブツブツと呟いている。

 

「……妖魔、殺す、でもお腹すいた……全部、壊す、食べたい、美味しいの……」

「レイアナタも手伝って貰えるかしら?」

 

いつの間に近づいて来たのかジェシカが声を掛けてくる。

ジェシカはアリスも伴っていた。

その手には2本の大剣を持っている。

エルダが落とした物を回収したのだろう。

アリスは覚悟を決めた凛々しいさと僅かな不安が混じり合ったいい顔をしていた。

俺が言うのも何だが取り敢えずだろうがどうやら立ち直ったらしい。

 

「言われなくても」

 

ジェシカの申し出に肯んずる。

覚悟は決めた。

俺はこの町を、知り合いを友人を守る。

 

「アリス、悪いけど動いて貰うわ、エルダは大丈夫?」

「了解しました。ジェシカさん」

「すみません……利き腕持ってかれました……」

 

ジェシカの言葉にアリスは即座に返答する。

エルダもようやく落ち着いて来たのかまだ実感のなさそうな声でジェシカに告げる。

 

「そう、あなたは下がってなさい。再生するなら早いほうがいいわ」

「……私、攻撃型ですよ?再生なんてどうせ上手くできません、なら、少しでも……手伝います」

 

どう見ても戦えそうに思えなかったエルダだが自らの参戦を主張する。

実際エルダの言う通り攻撃型なら手足の再生はできないだろう。

喰われた手足が残っていればくっつける事はできたかも知れないが生憎喰われてしまった。

ならば、そう思わなくもない。

それにここは戦わせた方がエルダの精神上も良いかも知れない。

どちらにせよ戦力は僅かでも欲しいのだ。

 

「エルダ……分かったわ、でも無理はしないで」

 

エルダが頷き立ち上がる。

若干ふらついたようだが一人で立ち上がる。

そしてジェシカから大剣を受け取る。

 

「はんっ、クレイモアと妖魔が共闘とはね」

 

空元気だろうがエルダがそう宣う。

エルダはどうやら俺との共闘を受け入れてくれたらしい。

だが、アリスは俺と目を合わせようともしない。

ただ悲しそうな目でセラを見ているだけだ。

 

「お腹すいた……食べ物、欲しい……」

 

さっきからブツブツと呟くだけだった覚醒者が動き始める。

目標はどうやら俺達ではない。

別の方向へと向かっている。

おそらく先に腹を満たそうと言うのだろう。

そうさせる訳にはいかない。

俺とジェシカは頷き合う。

そして覚醒者へと向かって走り出す。

 

セラの覚醒体は人型に比較的近い物だった。

ただその四肢は異常に長く、小さいが丸い尻尾を持っている。

まるで針金で作った出来損ないのクモのようだ。

そして人間に近い姿をしていながら四足歩行していた。

ゆっくりと移動する覚醒者に一斉に斬りかかる。

 

「……邪魔……」

 

だが、その一言と共に四肢が縦横無尽に振るわれる。

エルダが吹き飛ばされるのが見える。

やはりまだ本調子ではないのだ。

俺は辛うじて剣で受け止めていた。

軽く吹き飛ばされるが問題はない。

アリスは見事に躱していた。

だが、猛攻に耐えかねたのか自ら距離を取る。

ジェシカは流石上位ナンバーと言った所だろうか?

回避すると同時に足首から先を切り落としていた。

これなら行けるかも知れない、そう思った時だった。

斬られた断面から糸のような物が伸び切り落とされた足首へと伸びる。

そしてくっついたと思ったらそのまま何事もなかったようにその足も使い歩き出す。

一瞬で再生されてしまったのだ。

切り落とされた部分を回収した事を考えれば粉々にすればダメージは与えられそうだがあの再生能力は脅威だった。

どうにか覚醒者の歩みを止めようと挑むが一瞬で再生されてしまう。

それも慣れてきたのか斬られた瞬間に既にくっつき始めており切り落とす事すらできない。

 

「見つけた……餌、食べる、二つもいる……でも小さい、足りないかも……」

 

そのまま歩みを止められないままいると俺は信じられない者を見つけてしまう。

そこに居たのはテッドとリズの兄妹だった。

 

「何故こんな所に!?」

 

路地に置いてある樽の裏で兄妹が震えているのが見える。

その表情は恐怖に歪んでいる。

逃げるように声を張り上げるが聞こえているのかすら怪しい。

とにかく一瞬でも覚醒者の意識を兄妹から離さなければならない。

そのために全力で兄妹を守るために攻撃を放つ。

だが、切り裂いても一瞬で再生され覚醒者は気にもしない。

 

「クソっ!!!」

 

このままでは埒が明かない、そう判断しテッドとリズを確保して遠ざけようとする。

だが、位置が悪かった。

ジェシカとアリスは二人共逆側に居る。

エルダに至っては気絶でもしているのか先程吹き飛ばされたまま帰ってこない。

 

間に合わない

 

絶望的なまでに遠い。

普段であれば気にもならない僅かな距離が今この瞬間は遠すぎる。

 

「またっ!また守れないのか!?」

 

無力感が俺を襲う。

それでも足を止めることなど、諦める事などできよう筈もない。

限界まで妖気を解放する。

身体が妖魔へと変化する。

それでも俺の動きは絶望的なまでに遅かった。

何故こんなに弱いのか?

何故俺は救うことができないのか?

覚醒者の長い腕が兄妹を襲う。

目を瞑ってしまう。

 

「ガアッ!!」

 

金属同士がぶつかり合ったような甲高い音と何かが潰れる鈍い音が響く。

そして肺の中の空気を押し出したような野太い(・・・)悲鳴。

……野太い?

恐る恐る目を開ける。

そこにはテッドとリズの死体が……なかった。

そこに居たのはテッドとリズを庇い盾を構えているセネルが居た。

覚醒者の一撃を受けた盾はひしゃげ、鎧が所々破損している。

セネルも怪我を負っている。

だが、生きていた。

生きていてくれたのだ。

誰も死んでいなかった。

 

覚醒者は捕食を邪魔された事に苛立ったようにもう一度腕を振るう。

これならば!

棒立ちになっているセネル達と覚醒者の間に駆け込む。

しっかりと大地を踏みしめ大剣(鉄柱)で受け止める。

そのまま地面にめり込みそうな衝撃が大剣越しに全身を貫く。

ピシリと微かにどこかが壊れたような音がする。

だが、そこまでだった。

大剣(鉄柱)も俺もその一撃を受けきる。

この剣以外であればあっさりと打ち砕かれていた。

リブストスさんに感謝、だ。

まだふらつく足にむち打ちセネルとテッド、リズをまとめて抱える。

突然の事に驚いたのかセネルが藻掻くが気にせずに安全な場所まで距離を取る。

 

「……レイ、なのか?」

「そうだ……そう言えばこの姿を見せたのは初めてだったか」

 

セネルが頷く。

抵抗したのはその所為だったか……

セネル達を降ろす。

セネルはどうにか立ち上がるが、子供達は腰でも抜かしているのかそのままへたり込んでしまう。

ジェシカ達と覚醒者の戦いを横目にセネルに告げる。

 

「テッドとリズを連れていってくれ」

「退けるか!?俺はこの町を守護する兵士だ!後ろにラボナ市民がいる限り敗走は有り得ん!!第一友を見捨てるような人間はこの兵団には居らん!!」

 

セネルが俺も戦う、と主張する。

俺は首を振りながら再度告げる。

 

「このままじゃ子供達が危ない、子供を守るのだって大切な役目だろ?」

「この子達には自力で……」

 

そこでようやく兄妹の様子まで目がいったのだろう。

それまであった勢いが失われる。

 

「コイツらを頼む」

「……分かった、だが避難させたら助けに来るからな……死ぬなよ」

 

そう言うとセネルは子供達を抱きかかえる。

右手にリズを抱えた際に僅かに顔をしかめる。

どうやら骨が折れているのかヒビが入っているのか痛むらしい。

それでも取り落とすことなどなく兄妹を抱え、一度こちらを見た後走り出す。

それを確認し俺は再び戦場へと舞い戻るのだった。

 

 

 

 


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