妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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超展開です。
批判は受け付けます。
長くなってしまったのでさらに次に続きます。


再会 Ⅱ

 

雲に隠れていた満月がそっと顔を出す。

その月明かりに中現れたのは懐かしい人だった。

僅かな時間ではあるとは言え共に旅をした。

様々な事を教えて貰った。

返しきれない恩があった。

 

「……ジェシカ」

 

その人物の名を呟く。

 

「知り合いなんですか?ジェシカさん」

 

俺の声にジェシカと共に現れた二人の内の一人短髪で勝気そうな方だった。

ジェシカにしか意識が入っていなかったが見知らぬクレイモアが二人もジェシカの後ろに立っている。

即ち妖魔()1人に対してクレイモア4人も居るのだ。

一人だけでも死にかねないのにそれが4人、何というか絶望的な気分だ。

ただでさえアリスの事で混乱しているのに追い打ちなんて掛けないで欲しい。

名前を知らないクレイモア達は適当に短髪と根暗とでも呼ぶことにしとこう。

もう一人の方が小さくてやたらと暗い雰囲気を漂わせているからだ。

多分長いのにまともに手入れしてなさそうな髪が顔を隠している事が印象を暗くしているのだろう。

あんまり関わりたくない類の人間だ……

まぁ、クレイモアの段階で関わりたくなどないのだが。

 

それにしてもクレイモア4人って覚醒者狩りですか?

俺は覚醒者の足元にも及ばない雑魚の妖魔なんですけど……

そんな事を考えている内にクレイモア達の会話が進んでいる。

 

「ん?ああ、色々あったんだ」

 

ジェシカがいつも通り気軽そうにそう短髪の方に答えると

 

「そんな……妖魔となんて……信じられない……有罪?」

 

と何やら根暗がぶつぶつと呟いている。

やっぱり関わりたくない。

 

「ふふ、まぁ、そう言うな、アリス大丈夫か?……勝手に先走って心配したのよ?」

 

根暗を適当にあやしながらジェシカがアリスへと歩み寄る。

当然アリスの近くに居る俺にも近づく事になるので、ジェシカの歩みに合わせてジリジリと距離を取る。

正直格上相手に距離を詰められてしまえば勝機などない。

まぁ、元から勝機はないのだが、逃げることもままならなくなるのは困るのだ。

アリスを放っておくのは心苦しいがきっとジェシカが何とかしてくれると信じることにしておく。

 

「……はい、大丈夫です。ジェシカさん、すみませんでした」

「本当よ、強行軍で疲れて眠っている私達を置いて先行するなんて……もうしちゃダメよ?」

 

そう言いながらジェシカはアリスの頭を優しく撫でる。

その様に根暗がぶつぶつと聞き取りづらい声で訴える。

 

「……妖魔に負けて……泣いてる人なんか放っておく……妖魔先に殺すべき」

「まぁ、そんなに逸らないの、ちゃんと戦うんだから少しぐらい待ってなさいね?」

「ジェシカさん……?……この人も……やっぱり……」

「ジェシカさんがそう言うなら、私は、いいですよ」

 

どうも根暗の方はかなり妖魔に対して恨みを持っているらしい。

たまに根暗からドロっとした嫌な感じの怨念のような殺意を感じる。

それに対して短髪の方は事情を察してくれているのかしばらくジェシカに任せとこうという感じだ。

そのためか短髪はさっきから根暗が俺に襲いかからないように制してくれているらしい。

……正直ありがたい。

 

「改めて、久しぶりねレイ」

「ああ、久しぶりだ、ジェシカ、変わってないな」

 

アリスがある程度落ち着いたと判断したのだろう――あるいはこれ以上俺が離れたら逃げられると思ったか?――ジェシカが俺に話しかけてくる。

どうやらいきなり戦うつもりはないようだ。

 

「ふふ、そっちもね?」

「こんなに懐かしい人が集まってるんだ。同窓会の噂でも聞いて来たのか?」

「あら?それは惹かれるわね?……あなたを殺しに来たのよ」

 

ジェシカがごく軽い調子で殺害予告してくる。

言葉と同時に自然に大剣を向けられる。

 

「そうか」

「ふぅ~ん、もっと動揺するかと思ったけどそうでもないのね?」

 

正直に言えば心臓が飛び出すほど恐ろしい。

だが、殺しに来る事は予想していた、覚悟していた。

ならば想定した通りに全力を尽くして逃げ延びるだけだ……想定したよりも遥かに最悪なのは気にしても仕方がないので気にしない。

 

「はっ、怖いに決まってるだろうが、格上が4人だぞ?……まぁ死ぬ気はさらさらないが」

「ふふ、やっぱり良いわね、ここで殺さなくちゃいけないのが残念よ」

 

ジェシカが楽しそうに笑う。

俺もきっと引き攣っているが楽しそうに笑っているだろう。

何せ生死を掛けたゲームだ。

ベット(賭け)する額が大きければ大きいほどギャンブルは楽しいものだ。

 

「なら、見逃してくれよ」

「私としては見逃してあげても良いんだけどね?」

「何を言ってるんですか、ジェシカさん!!」

 

短髪が口を挟む。

それまでは黙って見ていたがこのジェシカの発言は見逃せない物だったらしい。

ジェシカはこの反応も予想していたのか、チラリと短髪の方を見やると肩をすくめていけしゃあしゃあと言う。

 

「ちょっと他の人がね?」

「それじゃあ、仕方ないな、勝手に逃げるとしよう」

 

後手でバッグの中から目的の物をそっと手に取る。

いつの間にか再び陰った月明かりの他には松明程度しか灯りはない。

夜目が効いてもそうそう気付かれる事はないだろう。

会話をしながらも全員が少しづつ動いているのだ。

クレイモア達は俺を逃がさないように、俺はできる限り逃げるのに有利な位置を確保するために動いている。

ちょっとした動きは暗闇が隠してくれる。

 

「あら、逃げられると思ってるの?」

「まぁ、厳しいが不可能じゃないだろ」

 

その言葉に楽しそうに笑うジェシカ。

だが、どうやら後ろの二人特に若いほうが我慢の限界らしい。

位置関係はアリス以外のクレイモアに対して一息で大剣の間合いに入るには少し遠い程度を維持している。

 

「さて、楽しいおしゃべりは終わりだな」

「そうね……名残惜しいわね……アリス、あなたは下がってなさい」

 

戦いの気配を察したのかアリスが立ち上がろうとする。

そのアリスにジェシカが下がっているように告げる。

 

「私も戦えます!」

 

アリスが訴える。

 

「ここはジェシカに従いなさい。アイツとの間に何があったのかは知らない、でも今のアナタが戦えないのは分かる」

 

短髪のクレイモアが諭すように言う。

 

「でも!?」

「アリス」

「……分かり、ました」

 

アリスが渋々と言った感じだが後ろに下がる。

逆に短髪と根暗が前に出てくる。

 

「じゃ、そろそろ始めっか?」

「ふふ、アナタの成長を見せてみなさい」

 

宣言と同時に隠し持っていた小さな袋を投げつける。

ジェシカ達は躱すそぶりすらみせない。

当然だ、投げた先はジェシカ達ではなく俺とジェシカの間に有った松明なのだから。

一瞬ジェシカ達の意識が投擲物に行く。

その間に俺は備える。

 

「一体何を……!?」

 

白い閃光が辺りに満ちる。

遠巻きに見ていた数少ない野次馬から悲鳴が聞こえる。

ほぼ全ての野次馬はセネルによって避難したがごく一部が未だに残っていたのだ。

お手製のフラッシュ・バンだ。

マグネシウム粉末と火薬の混合物が強烈な光を発する。

今は夜、効果は抜群だろう。

ジェシカ達に対して全力で全ての指を伸ばす。

まだ閃光の影響から抜けられないジェシカ達目掛けて槍のように伸びていく。

 

何かを突き破ったような小さく鋭い音が6つ鳴る。

短髪と根暗の腹部や足などを指が貫いたのだ。

短髪は寸前で気付いたのか四肢のみ、逆に根暗の方は内蔵にも大分ダメージを与えられた。

死ぬ事は(多分)ないだろうが、戦線からは離脱するだろう。

ここまでは想定通りだった。

奇襲攻撃により浅からぬダメージを四肢などに与えてその間にさっさと逃げる。

そのつもりだった。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

伸ばしたのは10指全て、にも関わらず音は6つ

残りの4つが狙ったジェシカは無傷で立っていた。

その顔には面白くてたまらないと言わんばかりの笑顔。

その手の中には俺の指が4本しっかり握られていた。

 

「惜しかったわね?でも、驚いたわ、今のあれ何かしら?」

「……企業秘密だ」

「あら、残念、他には何かあるのかしら?」

 

ない事もないのだが、これが一番成功確率が高かった。

所詮奇襲なのだから備えられれば効果は半減する。

 

「今回は、これだけだっな!!」

 

思いっきり指を引っ張る。

予想していた通りジェシカは離さない。

 

「ふふ、逃げようとしても無駄よ?」

「それは、どうかなっ、と!!」

 

さらに力を加えると同時に指先に近い部分の密度を下げる。

それによって弱くなった部分から無理矢理指を引きちぎる。

痛覚も若干弱くなっていたとは言え激痛が全身を奔る。

それを抑え込みながら指を元に戻す。

 

「ッツ、どうだ!!」

「逃げられちゃった……セラ、エルダ貴方達は回復に専念しときなさい」

 

残念そうにジェシカが俺の指先を捨てる。

根暗がセラ、短髪がエルダと言うらしい。

ドロドロした怨念を感じるが流石に根暗の方も傷が深いのか素直に言う事を聞くようだ。

どうやらしばらく一対一で戦ってくれるようだ。

セラとエルダが回復しきる前に逃げなくてはどうしようもない。

 

ジェシカが大剣を振り上げ踏み込んでくる。

大上段からの振り下ろし!

こちらも大剣を振るい横から撃ち落とす。

大剣を弾いた後、隙目掛けて袈裟懸けを放とうとする。

その時ようやく気付く一体いつ繰り出したのか顎にハイキックが迫っている。

咄嗟に状態を上体を逸らして回避を試みる。

蹴りが顎先数センチを掠めながら飛んで行く。

視界の隅でジェシカが一回転したのを確認する。

同時に左から薙ぎ払いの準備をしているのを見て取る。

このままでは回避不可能と判断して、さらに上体を逸しバク転をするような形で距離を取る。

着地と同時に突きを放つ。

が、あっさりと逸らされ斬り込まれる。

回避は間に合わない。

咄嗟に左手を硬化させ受ける。

辛うじて断ち切られる事はなかったが決して浅くない傷を負ってしまう。

流れる血も激痛も無視して大剣を手元に引き戻し、力の入らない左手の代わりに足で刀身を蹴り上げ斬り上げる。

ジェシカはまだ受けられたままの大剣をテコの棒の代わりにして自らを吹き飛ばす。

反動で俺もバランスを崩して二、三歩たたらを踏む。

ジェシカも態勢を崩していたが間に合わないと判断し仕切り直すために距離を取る。

 

「変わってないのね?……でも、強くなったわ」

 

ジェシカは嬉しそうにそう告げる。

 

「そりゃどういたしまして……ジェシカこそ強くなってるじゃないか」

「あら、それはそうでしょ、年がら年中戦っていたもの」

 

後半は聞こえないように呟いたつもりだったが聞かれてしまったらしい。

どうやらジェシカも楽な生活をしていた訳ではないようだ。

 

「本当に残念だわ……逃げしてあげたいのだけどね?」

 

そこでようやくジェシカが悲しそうな顔を見せる。

 

「お前が居るから!!」

「セラ!?」

 

そう叫びながらセラが俺に襲い掛かってくる。

さっきまで俺が与えたダメージを回復させるべくジッとしていたのだが我慢できなくなったらしい。

まだ回復しきっていない筈なのに突っ込んできたのだ。

感情任せの大振りだったが不意打ちだった事で事態は深刻さをます。

突然の事に回避は間に合わず硬化させたままだった左手で再び大剣を受ける羽目になったのだ。

鈍い音を響かせながらも断ち切られてしまった左手を横目に俺は咄嗟に反撃していた。

だが、左手と一緒に僅かに切られてしまった左足が手元を狂わせる。

肩口から腰に至るまで見事に切り裂いてしまったのだ。

致命傷だった。

そして致命傷を負ったにも関わらずセラは妖力を解放して俺に襲いかかろうとする。

この一瞬の出来事に驚いていたジェシカが慌て出し、セラ(・・)を取り押さえようとする。

 

「セラ!?妖力を抑えなさい!覚醒したいの!?」

 

そんな言葉も虚しく混濁し始めた意識で若い戦士は吠える。

 

「妖魔、全部コロス!!ヨウマにミカタするヤツもコロス!!コロスコロスコロスコロス!!!」

「セラ!?」

「セラ、抑えなさい!!」

 

妖魔に対する強い怒りと憎悪から妖気の解放を続けるセラ。

既に筋肉が膨張を始めており全身が一回り以上大きくなっている。

同時に近寄れないほど激しくのたうち回る。

のたうち回りながらもその膨張は留まることを知らず変化は加速していく。

 

「コ゛ロス!コロ゛ス!コロス゛!コ゛ロス゛!!ミ゛ン゛ナ゛ゴロズ゛!!!」

「セ、ラ……」

 

それをただ茫然と見ている事しかできないレイ、そしてジェシカ達。

 

「ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガグァ、ガゲグァア゛ア゛ア゛ア゛アァアァアアアア」

 

絶叫が聖都に響き渡る。

そして俺達は見てしまう。

小さかったセラの姿は既にそこにはない。

そこに居るのは一体の覚醒者。

手足が異常に長くまるで出来損ないの針金細工のような覚醒者だった。

セラは覚醒したのだった。

半人半妖と言う人間の側に立つ者から覚醒者と言う人間を喰らう物へと。

こうして戦いは新たな局面を迎えたのだった。

 


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