妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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ちょっと短いです切りが良いので更新です。


露顕

 

全ての初まりはラボナにて探していた妖魔を発見した事だった。

南部ミュシャへと赴いた物の僅かな痕跡以外にはほとんど何の収穫も得ることができなかった。

数少ない収穫と言えるのは残された妖気からレイである事が確定した事、そしておそらく中央の方面に向かったであろう事だけだった。

要するに私は任務に失敗しかけていたという事だ。

事実をそのまま報告したら何らかの処罰が下される可能性もある。

ただでさえ疑われているのだ、本当の事を言っても信じてくれる筈などないだろう。

まぁ、処罰と言っても普段より厳しい任務に当てる程度だろうから、ある意味今と何も変わりはないのだが……

その事実を思い出し自嘲的な笑みを浮かべる。

とは言え無駄にリスクを負う必要など微塵もない。

どうしても見つからない時は以前から目を付けていた妖魔を適当に代わりとして差し出すつもりだ。

盗賊に紛れ込んでいる妖魔がまれに居るのだがその内一体が偶然近くに居たので目を付けておいたのだ。

多少怪しまれるだろうが何もしないよりはよっぽど良いだろう。

もしバレても条件には取り敢えず合っているのだ、嫌味を言われて再捜索する事になるだけだろう。

 

発見したのは命令を受けてから一ヶ月、期限ギリギリの事だった。

その時主に考えていたのはどう報告すれば盗賊に紛れている普通の妖魔をそれらしく見せる事ができるか、だった。

捜査も一応は続けていたが、何かの拍子に妖気を開放でもしない限り見つけることはできないだろうと半ば諦めていたからだ。

そして発見できないまま仕方なくエルミタ(黒服)と合流するために拠点としていた港町に戻ろうとしていた時の事だった。

不意に中央部、一般にはトゥルーズと呼ばれる地方でレイらしき妖力を感知したのだ。

南部、ミュシャに居たためかなり距離はあったが、捜索のために限界ギリギリまで探知網を広げていたのが幸いしていた。

報告のために南部の中でも北の方に移動していた事も大きいだろう。

とにかく私はレイを発見してしまったのだ。

場所はおそらくラボナ、妖力を解放していた時間は短かったが、その間に近くに存在していた普通の妖魔の気配が消えた。

おそらくレイが妖魔を倒したのだと判断する。

妖魔が妖魔を打倒する、そんな変わった事をするのはレイぐらいのものだろう。

 

「ふふふ、見つけたわ……」

 

ようやく発見した獲物に舌なめずりして合流を急ぐ。

時間が経てばまたどこに居るのか分からなくなってしまうからだ。

 

 

 

そして拠点となる港町に戻った私はいつも通り怪しいエルミタ(黒服)に事と次第を報告する。

この前言っていたように討伐隊を編成して討伐に赴くことになると思っていたがエルミタ(黒服)に報告した所思いも掛けない事が判明する。

何と既にラボナから依頼を受けており妖魔の討伐に戦士を一人派遣していると言うのだ。

おそらくレイに倒された妖魔を斬殺するために雇われた戦士なのだろう。

確かにそう判って妖気を探ってみると戦士の一人がラボナに向かっているらしい事が分かる。

このペースで移動しているのであれば一週間もあればラボナに着くだろう。

それにこの妖気、もしかしてこの戦士は……

 

「マズイわね……」

「何がだ、ジェシカ?」

 

私の予想通りだとすれば色々とマズイのだが、その全てを説明するのは愚か者のする事だろう。

情報というアドバンテージをみすみす相手に渡すことはない。

今、私がすべき事は事実の一部を隠しながら上手く危機感を持って貰うことだ。

そのためには組織にとってどんな状況が不利益を生むのかを常に把握しておく必要がある。

この場合は単にレイの脅威をちょっと煽るだけで充分だろう。

 

「あの妖魔、とっても隠れるのが上手いのよ」

「それがどうした」

 

いくら伝えていない事があるとは言え、さっきの報告の中で妖気を隠蔽している状況だと見つける事が困難な事は伝えてある。

であればこの程度でも理解してくれるかと思ったのだが……

ようするにこの男はその事実を正しく認識していないのだろう。

探知に特化した私でも近くに居るか妖気を解放していないと見つけられない、いわんや普通の戦士はという事実を、だ。

理解の悪い上司にため息を付きたくなるがそこは堪えて丁寧に教えてあげる事にする。

 

「良い?あの妖魔に本気で隠れられたらかなり近づかないと私でも気付けないわ」

「ああ、で?」

 

本当に頭の血の巡りが悪いらしい。

舌打ちしたくなるのを我慢しながらさらに言葉を重ねる。

 

「……そんな妖魔が私達(組織の戦士)の接近に気付いたらそっと気付かれないように逃げるに決まってるわ、そしたらまた妖気を出すまで中々見つけられないことになるわね?」

 

そこまで言ってようやく理解したのか怪しげなフードの中で何やらエルミタがブツブツ呟きながら悩み始める。

エルミタに伝えたのはごく単純な事実なのだ。

レイを見つけるには私、あるいは探知が得意な上位勢がそのつもりで近づく必要がある。

にも関わらず今回はごく普通の戦士が隠れる気もなく近づいているのだ。

この前戦士から逃れえた事を考えると今回も逃げられる公算が高いと言えるだろう。

 

「ふむ、仕方あるまい……いや、ちょうど良いのか?……ジェシカ!!」

「何かしら?」

「今直ぐこの場を出発しキュビザ及びセロクエルの村でセラとエルザに合流した後ラボナに向かう」

「到着する頃にはきっと全部終わっているわよ?」

 

そう最大の問題点はここから急いでも15日かそこら掛る事なのだ。

彼女(・・)はおそらく7日後にはラボナに到着するというのに、だ。

即ちどれだけ急いでも間に合わない。

 

「それくらい分かっている」

「あら、気付いていたのね?」

 

つい言葉が漏れてしまった。

エルミタがギロッと睨んでくる。

が、まぁ、気にする程の事ではない。

適当に肩をすくめる。

それよりも一体どうするつもりなのかが問題だろう。

 

「……ふんっ、船を使う」

「船、ですって?」

「そうだ、組織の連絡船があるのだ。それを使えばラボナまで徒歩の半分程で移動できるだろう」

「へぇ、それは凄いわね?」

 

黒服はえらく神出鬼没だとは思っていたがそんな移動法を隠し持っていたとは気付かなかった。

おそらく組織の重要な秘密なのだろう。

それを私に伝えるとは……

それだけレイが目障りなのか、それとも殊更に秘密にするべき事でもないという事だろうか?

悩んでも仕方ないだろう。既に知ってしまったのだ。

今はただラボナに向かうことだけを考える事にしよう。

 

「ところでこの前は後一人いつとか言ってたけどその娘はどうするのかしら?」

「既にラボナに向かっている、現地か到着前に追いついて合流しろ」

「あらあら、今ラボナに向かっている娘が最後の一人なのね」

 

既に二人は出会っている。

これが一体何を意味しているのか……

そして、もし追いつけずにあの戦士が、彼女がラボナに先に到着した場合どうなるのか、あの二人(・・・・)が出会うのかどうか

 

「間に合えば良いのだけど、ギリギリ、ね」

 

小さく呟く。

何が起こるにしても急ぐに越したことはない。

 

 

 


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