妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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またまた遅くなってしまいました。
最近どうもやる気が起きません。
感想はありがたく読んでますので感想返しはもう少し待って頂けると幸いです。


戯曲

 

風のない暗い夜だった。

生温い風が身体に纏わり付く。

太陽は既に沈みきり、月もまた天に見えない。

静まり返った町、その中を弱い灯りがあちこちで動き回っている。

町を巡回している兵士だ。

今までの規則に従えば今日妖魔が現れる。

それを警戒して兵士の数はいつもよりずっと多かった。

 

眼下に見えるシヴァの家を探る。

どうやらまだ動いていないらしい。

あるいはこの警戒態勢を嫌って動かないかも知れない。

そうなると計画は順延という事になる。

できれば今日動いて欲しいものだ、そんな事を思う。

 

計画は幾つか変更を加えていたが大きな点では変更はなかった。

俺が妖魔を演じ、あくまでシヴァはただの被害者、妖魔の正体は不明で死体だけが残される。

要はこれだけだ。

とは言えいくつか変更があった。

大きな所だと協力者を増やした事だろう。

流石に二人だけでは計画の実行は無理と判断して仲間を増やしたのだ。

この場合の協力者というのは計画の全貌を知らせた上で計画の立案にも関わってもらったという事である。

要するに全幅の信頼をおける人物、かつ俺の正体を知らせても良いと思えた人物だ。

 

その協力者の名前を修道士カムリという。

どこかで聞いた事のあるような名前だが、おそらくその若いときの姿であろう。

何でもセネルの義父イルデブラン大司教の傘下にいる修道士でセネルと親しい温和な人物らしい。

スラムの問題や妖魔の出現に心を痛めており、被害者家族に対してできる限りの支援を行うなど人格者でもあるらしい。

その上強硬派のイルデブラン大司教の派閥でありながら差別意識の少ない頼れる人物だそうだ。

実際協力を持ちかけた時、カムリは快諾してくれた。

正体を明かすかどうかは最後まで悩みに悩んだ――実際せネルは最後まで明かすことに反対していた――が、この事件を終わらせれば最悪逃げ出せば追ってくる事まではしないだろうと思い正体を明かすことにしたのだ。

 

明かしたのは計画実行の前日の事だった。

それまでは俺が妖魔である事だけを隠してそれ以外の情報は共有して話し合っていた。

その所為でどうしてシヴァが妖魔だと分かったのか、とか妖魔に化けるってどうするのか、など肝心な所を説明できず、ただただ大丈夫だからと無理矢理進める羽目になってしまった。

それが原因で何度か口論になったりしたが、逆にそれが良かったように感じる。

雨降って地固まる、その言葉を心底実感できた。

同時に話せないことがあるにも関わらず根底には信用があるカムリに俺も信頼を寄せていた。

 

実際正体を明かした時も拍子抜けするぐらいあっさり受け入れてくれた。

何せあなたはこの町の住人を襲っていないのでしょう?、とそれだけ確認するとセネルさんが信頼しているあなたを信頼しています、と宣ったのだ。

その肝の太さと度量の広さに俺もセネルも驚嘆したものだ。

もし、妖魔と一緒に戦うなど受け入れられない、それも黙っている事も認められないとか言われたときのために事件が終わるまで監禁する用意すらしていた自分達が恥ずかしくなったものだ。

 

 

 

最終的な計画はこうだった。

まず妖魔が動くのを待つ。

これは俺が妖魔の動きを即座に察知できる事とシヴァ宅に人が大量に居るためだ。

こちらから出向いて気付かれずに妖魔を倒すのは困難という判断だった。

だったら妖魔の方に出てきてもらおうと言うのだ。

外側への警戒はかなり厳しいようだが内側からの脱出であれば容易い。

そう言う判断だった。

後はそう変わっていない。

俺が妖魔を倒し、シヴァ宅へ突入、シヴァに変装したカムリを抱えてシヴァのシンパ共にわざと見つかりシヴァが攫われたと印象付ける。

実はカムリを仲間に加えたのはこのためだった。

妖魔は死体になると人間の姿で殺されても妖魔の状態になってしまう。

だからシヴァの死体の身代わりが必要だったのだ。

そしてカムリとシヴァの背丈雰囲気が似ているのだ。

当初はセネルでやるつもりだったのだが明らかに体格が違いすぎたために断念した。

鏡でセネルを抱えた姿を確認したがセネル(筋肉質の大男)どう考えてもシヴァ(やせ細った小柄な老人)に見えなかったのだ。

その後人形や教会にあるミイラなど色々考えてみたのだがどうしても生きた人を抱えている様に見せかけられなかったのだ。

ミイラに至っては持ち上げた途端腕が千切れてしまいセネルと二人でどうにか見掛けだけ修復し慌てて逃げ出すハメになった。

その点忠実に戒律を守り清貧を心がけている修道士カムリは痩せており体格も似ていてその役目に最適だったのだ。

もちろん老人と呼ぶには若すぎるカムリには老人のような化粧をして貰うことでさらに見掛けを似せることになる。

 

時計に視線を落とす。

夜の闇の中かなり見づらいが妖魔の視力なら何とか時針を判別できる。

どうやらまだ予定時間にまでは僅かに時間があるようだ。

その事を確認し、緊張で強張っていた身体をほぐす。

背中に背負ったままだった大剣(・・)を鞘ごと外し撫でる。

それは剣というよりは鉄柱とでも言うべき代物だった。

太めの交通標識、あるいは細い電柱のようだと形容すれば分かるだろうか?

決して幅広という訳ではないにも関わらず極端なまでに肉厚なのだ。

リブストスさんが打ってくれた大剣だった。

妖魔を確認した日から無理を行って打って貰ったのだ。

今日の夕方に完成したばかりのできたてホヤホヤの新品だ。

十分な慣らしすら行なっていない。

扱い方を間違えれば自分の身を危うくしかねない。

一般の剣から考えられない程重いのだ。

一度振れば身体が持っていかれる。

 

良くこんな物を作ってくれたと思う。

何せ剣を注文する際の要望が要望だったのだ。

要望はたった一つひたすら頑丈に、銀眼の魔女の大剣と打ち合っても折れない程頑丈に、だった。

重さも切れ味も全ては二の次、そんな普通ではありえない要望だった。

そしてどうやらリブストスさんはその要望を正しく叶えてくれたようだ。

人間が振るにはあまりにも重過ぎる。

ただでさえ重い通常の大剣(ツヴァイハンダー等)の優に5倍は重いだろう。

妖魔の筋力を持っても自由自在に振り回せるとは言えない程重い。

リブストスさんの説明によると折れない事を優先した結果通常の剣よりも若干柔らかいらしい。

そのため限界を超えた負荷が掛かっても折れるのではなく曲る、あるいは凹む事で衝撃を吸収してくれるそうだ。

その分切れ味は劣悪だそうだがこれだけ重ければ多少切れ味が悪かろうと重さで叩き切れるとの事だ。

 

充分だ

 

そう思う。

むしろ過分だと思う。

リブストスさんには大分無理をさせることになってしまった。

本来妖魔程度であればこんな剣は必要ないのだ。

だから今回は注文だけしといて代わりの剣を使うつもりだったのだ。

にも関わらずリブストスさんは剣が必要なのが今日だと知ると必要最低限の仕事以外は全て放り投げてほぼ不眠不休でこの大剣を打ってくれたのだ。

多少恩があったとしてもここまでやって貰える程ではない。

純然たるリブストスさんの好意だ。

その癖良い経験になったとあくまで自分のためにやったのだ、という姿勢を崩さないのだ。

俺にできる恩返しは確実にこの町から脅威(妖魔)を取り除く事だ。

だからこそ失敗は許されない。

最悪自分(・・)が妖魔として討たれる事も覚悟しておいた方がいいかも知れない。

もちろん犠牲になる気はない。

ただ、状況如何によってはそう言う判断をせざる負えないかも知れない。

俺が(・・)ではなくセネルが(・・・・)、だ。

その時は精々姿を見せ付けながらラボナから逃げ出す事にするとしよう。

 

思考が段々と暗い方に流れていた。

何者かが暗い通りから灯りも付けずに近づいて来たのはそんな時だった。

全身を黒いコートで覆い隠した見るからに怪しげな人物だった。

その怪しげな人物は俺が居る屋根の真下の辺りで何やら周囲をコソコソと伺っている。

その様子を見ていた俺は屋根から飛び降りる。

突然現れた俺の姿に怪しげな人物はビクリと身を震わす。

 

「こんばんは時間通りですね、修道士カムリ(・・・・・・)

 

怪しげな人物はカムリだった。

実はこの時間にここで待ち合わせをしていたのだ。

 

「レイ、さんですか?……驚かさないで下さい、死んでしまうかと思いましたよ」

「それはすみませんでした、とても怪しい人が居たのでこれは脅かすしかないな、と思いましてね?」

 

笑って適当に誤魔化す。

そんな俺の様子に呆れたのかカムリもやれやれと言わんばかりに首を振る。

が、口の端が僅かに緩んでいるのを妖魔の視力はしっかりと捉えていた。

 

「それで、準備の方は大丈夫ですか?」

「ええ、万端です。セネルさんの方も準備に付いたそうです。……後は実行あるのみ、ですね」

 

カムリの変装などの準備ができている事を確認しついに計画は実行される。

ノコノコと妖魔が出て来る。

とりあえずはシヴァの家からは出てきてくれた。

――実はシヴァの家で妖魔が暴れる事が最大の懸念だったのだ。何せその場合対処のしようがない。

そのまま町の中心部の方向へ向かうようだ。

こちらに気づいている様子はない。

 

「カムリさん、妖魔が動き始めました……計画通りです」

「そうですか……ご武運を」

 

カムリを残し静かに気付かれないように妖魔を追いかける。

そして事前に用意してあった巡回している兵士の居ない地点で一気に近づく。

こう言った空白地点が点在するようにセネルが兵士の配置に手を加えたのだ。

シヴァが黒だと分かっているからこそできる小細工だった。

妖魔の背後に忍び寄る。

妖魔はどうやら兵士を避けながら移動したいらしくどちらに行こうか、と周囲を見回していた。

チャンスだ

そう判断し静かにしかし大胆に近づいていく。

既に5歩の間合いに入っていた。

にも関わらず未だに妖魔は気付いていない。

流石にこれ以上は気付かれずに近づく事はできないと判断する。

 

一歩

まだ気付いていない

二歩

妖魔が俺に気付く、遅い

三歩

大剣を構えさらに加速する

四歩

ようやく妖魔が動き始める

五歩

大剣を薙ぐ

 

妖魔の上半身と下半身が別の物体になった。

大剣が薙ぎ払った腹部は消し飛んだ(・・・・・)

上半身が地に落ちた。

下半身も意思を失い倒れ伏す。

 

が、上半身にまだ動きがある。

生きているのだ。

次の行動に移るべく態勢を立て直そうとする。

しかし、勢い良く薙いだ大剣に身体が持っていかれている。

爪が伸びてくる。

咄嗟に大剣で弾く。

返す刀で頭を吹き飛ばす。

 

「……ハァ、危うかった……コイツ(・・・)の扱い方、ちゃんと考えないとな」

 

息を吐き出し、反省する。

何も考えずに振るとやはり隙だらけになる。

さっき自分で思ったはずなのにすっかり頭から抜けていた。

気を付けなくては……

 

妖魔の死体を見つからないように隠す。

幸いな事に近くに空の樽があったのでそれを利用させて貰う。

 

急いでカムリの所まで戻る。

俺が妖魔を追い始めた時からやっていたのだろうか?

カムリは静かに神に祈りを捧げていた。

俺が来たことに気付いたのかカムリが祈りを止める。

 

「……首尾の方はどうでしたか?」

 

穏やかに微笑みながらカムリが尋ねる。

 

「上々です、次に進みましょう」

「承知しました」

 

俺は妖力を開放し妖魔の姿へと戻る。

カムリが一歩後退る。

やはり恐怖があるのだろう。

 

「怖いですか?」

「いえ、そんな事は……いや、そうですね、私はアナタが怖いです……ですが大丈夫、です」

 

その姿にまた驚く。

恐怖を正面から見つめ受け入れたのだ。

驚いている俺にカムリが催促する。

俺はそっとカムリを小脇に抱える。

 

「これから激しく動くことになりますが大丈夫そうですか?」

「あなたが離さなければ大丈夫ではないでしょうか?」

「ハハッ、そうですか……では行きますよ」

 

カムリが頷いたのを確認し闇へと跳び出す。

屋根から屋根へと飛び移り目的地を目指す。

シヴァの家の裏手、先程妖魔が抜け出した窓に忍び寄る。

屋根から目的地を確認する。

近くをシヴァのシンパが見回っているようだ。

が、大した問題ではない。

隙だらけなのだ。

適当に隙をみて気絶させる。

そっと窓から中に侵入する。

入り込めばもうそこはシヴァの部屋だ。

準備しておいた血糊をバラ撒いておく。

ついでに灯りも消しておく、これでパッと見ではシヴァに変装したカムリを見分けられないだろう。

改めて窓を音を破壊する。

そして大剣で適当に部屋を斬りつける。

同時に声帯を弄って悲鳴を上げる。

一応シヴァに似せたつもりだが、一回しか聞いたことのない人物の声などそうそう真似できるものではない。

とは言え悲鳴だけなら簡単には判別できないだろう。

部屋の外が騒がしくなる。

 

「シヴァ様!!どうなされましたか!?」

 

シンパの一人が部屋に入ってくる。

見せ付けるように血に塗れた状態で振り向く。

 

「ウ、ウワァァァァァ!!!!!」

 

絶叫が家中に響き渡る。

それを聞きつけたのか他のシンパ共もやって来る。

徐にシヴァのベッドからシヴァに変装したカムリを抱き上げる。

 

「ああっ!シヴァ様が!!」

「そんな!?」

「この野郎!!!」

 

勇敢なシンパが踊りかかってくる。

殺さないように優しく大剣の腹で弾き返す。

そしてできる限りおどろおどろしく聞こえるように告げる。

 

「シヴァハモ゛ラッテイ゛クゾ」

 

カムリを抱えて窓から外へと飛び出す。

近くから警笛も聞こえる。

どうやら兵士達もこの騒ぎに気付いたようだ。

再び屋根へと上がりそこから逃げる。

が、どうやら中々兵士達の練度が高いらしい。

いつの間にやら屋根の上にも兵士が上がっている。

当然下にも兵士が集まり始めている。

ふむ、適当に蹴散らせばどうとでもなるが、あまり好ましくないな。

傷付けずに逃げるのが最上なのだが……

 

羽、はダメだな。

あれは案外準備に時間が掛るのだ。

そうでなければこの前クレイモアから逃げ出す時もクレイモアが来る前にさっさと崖から飛んで逃げていた。

……ならば

 

煙突に向かって腕を伸ばす。

そのまま少し離れた家の煙突を掴み、そして屋根からダイブする。

同時に腕を縮める。

歪な弧を描きながら離れた家へと高速で移動する。

これを連続で利用することで兵士が居る所をジグザグと避けながら移動する事に成功する。

しばらく適当に動きまわって追ってきていた兵士達を撒く。

完全に撒いたと確信できた所で人の姿に戻る。

 

「ふぅ、やっぱりこっち(人の姿)の方が落ち着くな」

「そうですか……いやはやあそこまで引っ張り回されるとは思いませんでしたな」

 

散々振り回した所為でグロッキーになっているカムリが愚痴る。

 

「ハハッ、すみませんでした、思いの外カムリさんが大丈夫そうだったので、つい」

「はぁ……ですが、うまく行きましたな」

「そうですね、後は仕上げだけです」

 

その後、セネルと合流しカムリと一旦別れた。

そして先程妖魔の死体を隠した場所へとセネルと共に移動し樽を破壊する事で妖魔の死体を外へ出した。

適当に現場を繕った後、セネルが警笛で兵士を集めた。

そこからは簡単だった。

ただ単に俺とセネルで妖魔を倒したと告げるだけだ。

実際直ぐそこに妖魔の死体が転がっている。

この事実があれば細かい事はどうにかできる。

そして実際どうにかなった。

集まった兵士達はただただ妖魔の危機が去った事を喜ぶだけだった。

誰一人として何かを疑う素振りすら見せなかったのだ。

俺とセネルを英雄扱いするのだけは辞めて欲しかったが、取り敢えず計画はさしたる問題もなく成功したのだった。

 





はい、ちょっと無理矢理ですが妖魔騒動を終わらせました。
実はこの妖魔の話、ほとんど話を考えていなかったのでやたら苦労しました。
何せ書いてあったのが有力者の妖魔、セネルと再会・協力、大剣の試し切りの3つだけだったので……
適当に街中でバッサリやった方が纏まりがよかったかも知れません。
プロットがない部分は私のテンションも上がらず更新も滞りがちになってしまうのでこれからはさらにバッサリとカットしていく事にしようと思います。

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