妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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遅くなってしまい申し訳ありません。
プロットを大幅に見なおしたりしていたら思いの外時間が掛かってしまいました。
前話の最期を少し修正しました。
具体的には計画の内容が変わっています。
前話を読み返す必要はないとは思いますが、違和感があったらその所為だと思います。


布石

side セネル

 

とりあえず大まかな計画はできた。

レイも計画に賛同してくれた。

……また彼に押し付ける形になってしまった。

だが、妖魔の正体がシヴァさんであってはならない。

俺はもうただの一兵士ではない。

いや、そうであってはならない、と言うべきだろう。

聖都ラボナを守る聖域守護兵団の部隊長セネルなのだ。

俺は俺の意志で、この町を守る。

そのためなら何でもしなくてはならない。

例えレイに汚れ仕事を押し付けることになっても、だ。

だが、いやだからこそ快く受け入れてくれたレイのためにも最善の結果を得なくてはいけないのだ。

そのためには計画の細部を詰めたり必要な物を揃えたりと色々準備する事がある。

さすがに思いつきをそのまま実行する気はない。

もっといい案が出るかも知れないし、そうでなくとも気付かなかった穴が幾らでもある筈だ。

その穴を一つずつ確実に潰していかなくてはならない。

この計画に失敗は許されないのだから。

そのためにもまず最初にやらなければいけない事がある。

確認だ。

ほぼ確実、とは言えシヴァさんが本当に妖魔である確認をしていないのだ。

別にレイの事を疑っている訳ではない。

だが、直接確認した訳ではない。

もしかしたら偶然訪れた客が妖魔の可能性だってあるのだ。

ならば先ずそれを確認しなくてはならない。

 

意を決し、シヴァさんの家へと向かう。

こちらの苦衷を察してくれたのかレイはただ黙って付いてきてくれた。

シヴァさんの家を尋ねるといつもの世話人ではない男性が対応してくれた。

生憎とその男性には見覚えがなかったのだが、相手は自分の事を知っていたらしくちゃんと対応してくれる。

何事か中に伝えた後、直ぐに家の中へと通される。

そこで俺は思いも掛けない光景を目にすることになる。

シヴァさんの家の中には十数人もの人間が居たのだ。

いつもはシヴァさんと世話人のご婦人、後はたまに相談にやってくる人が居る程度で多くても4,5人ぐらいなのだ。

頼られている人物で常に人の絶えない家ではあったが流石に十数人も訪れていた事はないと思う。

それに何やら家の中の雰囲気がおかしいのだ。

いつもなら和気あいあいと穏やかな空気が流れているのだが今日は何やら剣呑で重苦しい雰囲気だ。

俺の事を睨んでいる人もいる。

そして何より全員が黙り込んでいるのだ。

明らかにおかしかった。

 

だが

 

この状況なら……

想像もしていなかったがシヴァさんの家にこれだけ人が居るのだ。

もしかしたらこの中に妖魔が居るのかも知れない。

そう思いレイに尋ねようと視線を向ける。

 

が、ダメだった。

希望は断たれた。

俺の考えを察していたレイがここには居ないと首を振ったのだ。

意気消沈しながら先導してくれている男性の後に続く。

部屋の中に居た集団はピリピリとした雰囲気と警戒感に満ちた視線を寄越していた。

後に分かることだがこの集団はシヴァさんのシンパとでも呼ぶべき人間で、シヴァさんを守るために自主的に集まっているらしい。

笑えないのは警戒している対象が妖魔ではなく市民である点だろう。

そう、彼等は妖魔だと疑われた(・・・・・・・・・)シヴァさんを市民(・・)から守るために集まっているのだ。

だからこそ兵団の幹部でもある俺を警戒するし、見たことない余所者のレイを睨んでいるのだろう。

とは言え、何事も起こる事なく奥の部屋へと繋がる扉まで案内される。

確か奥の部屋はシヴァさんの寝室になっていた筈だ。

そう思っていると案内役が重々しく告げる。

 

「……シヴァ様がお会いになるそうです」

「そうですか。では失礼します」

「……失礼します」

 

レイの事を睨んでいる案内人を横目にレイを伴って入室する。

奥の部屋は前に見た時と何も変わっていなかった。

こじんまりとした部屋に機能性重視の家具が幾つかあるだけの殺風景な部屋。

その奥にあるベッドに目的の人物が居た。

上半身を壁にもたれかける形で起こしている老人。

老いからだろうか?若干痩せたようにも思えるがその姿はこの町にやって来た時と同じように思えた。

 

本当にシヴァさんが妖魔なのだろうか?

 

そんな風に願望に縋りたくなる程全く変わっていなかった。

だが、この部屋にはシヴァさん以外に人影はない。

未練を断ち切るために確認を取る。

レイが小さく頷いた。

やはり間違いはないらしい。

ここまで完璧に人に成りすます事ができるのか、と感嘆する。

同時に妖魔がどれほど恐ろしい存在なのかを改めて実感する。

チラリと友人(・・)の表情を窺う。

僅かに緊張を感じさせるがいつも通りだ。

レイは昔とほとんど変わっていない。

視線を自分の手に落とす。

そこには皺と傷が積み重なった無骨な拳がある。

対して彼はどうだろうか?

そうカタントの時から変わっていない(・・・・・・・・・・・・・・)

そこからレイは妖魔なのだ、と感じる。

だが、同時にこれ程に頼もしい存在も居ないとも思う。

恐れと信頼、その天秤は傾きを保ったまま揺れ動いていた。

 

シヴァさんが妖魔だと確認を終えた俺達はしばらく歓談した後シヴァさんの家を去る。

流石に目的を達したからと言ってすぐさま立ち去れば怪しまれるし部屋の外にいるシヴァさんのシンパ――シヴァさん曰く自分にはもうそこまで価値がないのだから守る必要等ない、雰囲気が悪くなるからありがた迷惑、だそうだ――に問い詰められる心配もある。

だからこそ表向きの用件をでっち上げたのだ。

ちなみにその用件と言うのはレイがこの町に移り住んでくるからその時はよろしく、と言う挨拶だったりする。

実際どうなるかは分からないが、これなら当たり障りない上に聞かれても問題ない。

レイを連れている理由にもなるとなかなか良い理由付けだったと思う。

それに俺は本当にこの町に留まって欲しいと思っている。

妖魔であるかどうか等関係ない。

ただ、一人の友人として良い人生を送ってほしいのだ。

レイは昔と変わっていないと言ったがそれはあくまで肉体的な事、表面的な見た目だけだ。

一体どんな経験をしてきたのかは知らない。

だが、レイが疲れきっているのは分かる。

レイに今必要なのは安息の地だ。

今回の件で汚れ仕事を押し付けるのだ。

その程度の対価は得てしかるべきだろう。

そう思う。

 

side レイ

 

シヴァが妖魔だと確定した。

家の中にあんなにぎっしりと人が居るとは思わなかったが結局シヴァが妖魔だった。

あの近距離まで近づけば間違いようがない。

唯一の懸念はこちらの正体がバレなかったかだろうか?

妖気はほぼ完璧に消していたとは言え何か感じるものがあったかも知れない。

まぁ、何か気になるとかその程度だとは思うが……

無数の目に睨みつけられ続けるという居心地の最悪な家から出る。

 

セネルはこれから計画実行のための準備をしに行くようだ。

あれほど人目があればそうそう動けないだろうからしばらく時間がある。

だとしても急ぐに越したことはないのだろう。

直ぐにでも立ち去るかと思ったがセネルが何やら言い難い事が言わなくてはいけない事があるように立ち尽くしている。

 

「何か言い忘れた事でもあるのか?」

 

だからこちらから尋ねてみる。

意を決したようにセネルが口を開く。

 

「妖魔はおそらく7日後に動くだろうな?」

「?ああ、これまでの動きから考えるとそれぐらいになるだろうな……それがどうした?」

 

またセネルが一瞬口を噤む、が直ぐにまた開く。

 

「……お前は、お前は大丈夫(・・・)なのか?」

 

その問いに僅かに目を見開く。

セネルはこう言っているのだ。

"お前はその間人を喰わなくて平気なのか"と

 

「……大丈夫だ、我慢する事には慣れている」

「そう、か」

 

大丈夫だ、と伝えた時セネルは安堵したように息を吐き出す。

果たして大丈夫じゃない(・・・・・・・)と伝えた時にどうするつもりだったのか……

そんな思いが口を滑らせたのだろう。

 

「できれば血液か何かあると楽だがな」

 

その発言に驚いたのかセネルが間抜けな面を晒す。

直ぐに表情を取り繕い鋭い目線を俺に向ける。

 

「……お前だったのか」

 

何やら怒りを感じる。

……だが、これは?

 

「カタントの頃、血液が消えるという事件があった。あの犯人はお前だったのか……」

 

何やらおかしな方向に飛び火したらしい。

俺は頬を引くつかせながら言う。

 

「あ、ああ、そんな事もしたような気がするな?」

「確かに特に実害はなかった……だがな、団長がな怪しげな儀式でもやっている可能性があると言い出してな?三日間ほど不眠不休で見張らされた事があってな?あれは冬の寒い日だったなぁ」

 

確かにその頃団長を中心に何人かが動いていたような気がするがそんな事をやっていたのか……

……意外と危うかったんだな。

まぁ、何か人の気配が多い日は避けていたからかち合う訳がないのだが……

汗をダラダラ流しながらセネルに訴える。

 

「そ、そうか、大変だったんだな!すまないと思う!でも、もう……時効、だよな?」

「問答無用!!」

 

セネルのボディブローが肝臓に突き刺さる。

腰の入った良いパンチだった。

腹を抱えて悶絶する。

後遺症を残さないがしばらく動く事もできなくなるようなエゲツナイパンチだった。

 

しばらく後、ようやく回復した俺は足早に去っていくセネルを見送る。

あの後しばらく打ち合わせを行い計画を確認する。

だが、計画はほとんどセネルが俺に説明する形で進み、勝手に修正点を見つけていた。

どうもこう言った立案や策謀は向いていないらしい。

だからこの件に関してはセネルに任せっぱなしにしてしまう。

その事に少し罪悪感を感じる。

町のために働くセネルの姿に羨望を抱くと同時にこの人のよい友人の力になってやりたいと思う。

そのためにも自分に出来る事はやっておかなくてはならない。

そう決意し、計画についてあれこれと考えながら今日もケヒト一家へと向かうのだった。

 






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