あまり出来が良くない気がしますが、先に進める事を重視して更新します。
リブストスさんによる短剣の鋳造を見学した後、テッド・リズ兄妹にせがまれて遊ぶことになった。
鬼ごっこやかくれんぼをしているといつの間に増えたのか近所の子供達も参加していた。
人数も増えたので缶蹴り――缶がないから木片だったが――なんぞを教えてみた。
実演を兼ねて最初に鬼をやったのだが、名前を知らない子が一杯居て散々振り回されてしまった。
熱くなった結果ちょっと本気を出したりしたのは俺だけの秘密だ。
この大人数で楽しめる新しい遊びに子供達は夢中になった。
ちなみにこれが後に大人の間でも大流行することになる缶蹴りの始まりだった。
1ゲーム終わってもすぐにもう一回やる、と宣言して始めてしまうのだ。
否応なしに付き合うことになるのだが流石に10回を超えた当たりで疲れてしまい休憩する事にする。
遊んでいた広場の隅にある木陰に腰を下ろして休憩する。
子供達が元気よく遊んでいる。
その光景はいつか見た元の世界と同じように見えた。
どんな世界であっても子供は変わらない。
自然とそう思えた。
久方ぶりにゆったりと何も考えない穏やかな時間が過ぎる。
もちろん不安や懸念事項は大量にある。
しかし、今この瞬間はその全てを置いておきたいと思ったのだ。
どれほど時間が経っただろうか?
ふと気付くと近くに人の気配があった。
殺気や悪意が感じられないとは言え一体いつから居るのかすら分からないのは問題だった。
(流石に緩めすぎたか……)
反省し気を引き締め直す。
確認するためにゆったりと振り向く。
そこに居たのはセネルだった。
セネルもまた子供達を穏やかな視線で見守っていた。
顔には隠し切れない疲労が見える。
何か事が上手くいっていないのだろうか?
それでも子供達を見守るその表情はただ優しかった。
町の治安を守る兵士にとっても価値ある光景なのだろう。
何か用事があったのだと思う。
しかし俺達はただ静かに子供達を見守り続ける。
一人の男の子がセネルに気付いた。
「あー!セネルだー!!」
セネルを指さして嬉しそうに叫ぶ。
その声に他の子供達もその存在に気付く。
どうやらセネルと子供達は顔見知りのようだ。
それもかなり好かれているらしい。
子供達はキャーキャー騒ぎながらセネルに飛び掛っていた。
さすがのセネルも何人もの子供達に飛びつかれてはふらついてしまう。
しかしそれでも最後まで倒れずに受け止めきったのは鍛えているからだけではないだろう。
そのままセネルと俺を交えての缶蹴りがなし崩し的に始まってしまう。
初めての遊びにまごつくセネルをみんなで笑ったりした。
楽しい時間が過ぎる。
1ゲーム終え、セネルと俺は抜ける。
不平を漏らす子供達はセネルが説得してくれた。
どうも明日全員分の果物を持ってくる事で決着したようだ。
その表情は大分柔らかくなっており、少しは気分転換になったようだ。
楽しい時間は終わった。
ここからは大人の時間だ。
セネルに連れられて落ち着いて話ができる場所に移動する。
昨日の話の続きだろう。
俺はこの町の妖魔を見つける事を約束した。
その事は問題ない。
この町にいる妖魔は妖気を隠す気などない。
今も何処に居るのか大体分かっている。
すぐに動かなかったのはつい先日妖魔の被害がばかりだからだ。
どうもこの妖魔はかなり規則的に行動しているらしくまだ余裕があると判断できた。
そして兵士を動かす準備ができていなかったのだ。
俺が個人で妖魔を打倒しても良かったのだが、それはセネルに断られた。
この町の問題を俺一人に背負わす訳にはいかない、とか言っていたが、どうも同族を討たせたくないとも思っているようだ。
正直見当違いの気遣いだが、そうやって気遣ってくれる事自体がありがたかった。
その事を踏まえて尋ねる。
「どうなっている?」
「まだ準備が整っていない。妖魔を倒せるだけの技量の者はなかなか、な。今回はその準備の一環だ」
セネルとの話をまとめると
現在イルデブラン大司教――セネルの義父――率いる主流派と表立って対立している。
そのため確証もないまま行動をして怪しまれるのはマズイ。
だから怪しまれないように優秀な兵士をぶつける必要がある。
それには計画を立てる必要がある。
で、計画には情報が必要だ、という事らしい。
という訳で今妖魔がいる場所へと向かう。
ある意味当然なのかも知れないが到着した場所はスラムだった。
薄汚い如何にも適当に作ったと言わんばかりの掘っ立て小屋が立ち並び、生気のない目をした人々が襤褸を纏って座り込んでいる。
そこまでは普通のスラムと変わらない。
しかしこのラボナのスラムには他とは少しだけ違う雰囲気が漂っている。
確かに生きる気力を喪ったような人もいる。
だが、それ以上に活気があるのだ。
末期的な暗さがないとでも言うのだろうか?
ここにいる人々はまだ希望を喪っていない。
ラボナのスラムでは人が
「……分かるか?」
スラムに入りしばらくしてからセネルが俺に尋ねる。
このスラムの状況の事だろう。
そう判断し俺は頷いた。
「これがスラムの住人も守りたい理由だ」
何となく言いたい事は理解る。
普通のスラムに居る人間っていうのはもっと絶望している。
その目には生気はなく、ただ息をしているだけで
そんな人間だらけなのだ。
絶望の果てにスラムまで落ちぶれる人間がほとんどなのだから当然と言えば当然なのだが。
そしてそう言う死んでいる人間を守る意味などあまりない。
感謝する事もなければ何かを生み出す事も基本的にない。
ただ消費するだけの人間なのだから。
それでも兵士はそう言った人間も守る。
何故ならそれが職務であるからだ。
そしてもし自分がそんな目に会ったらという同情と恐れだけが理由だ。
それに対し守り甲斐があるとでも言うのだろうか?
自分達の世界を守るために代わりに戦う。
そんな前向きなモチベーションで働けるのだ。
だからこそ職域を超えてもスラムの住人を助けようとしているのだろう。
だが、何故ここの住人は
確かにラボナは聖都と呼ばれており弱者の救済にも積極的だ。
宗教と豊かさ、そして兵力、それも理由の一端だろう。
だがそれだけなのだろうか?
その答えはセネルが語ってくれた。
「シヴァさんのお陰なんだ」
シヴァとは
自分達の事は自分達で、をモットーに活動して、スラム内で生活を完結できるように環境を整えスラム外へ迷惑をできるだけ掛けないような仕組みづくりを行った人物らしい。
自警団の組織や支援や寄付の一元管理と公平な分配、職の斡旋、果ては開墾地の確保とそこを開墾すれば永住できるように交渉するなど様々な実績を残したそうだ。
セネルもラボナに来た当初は色々と相談に乗ってもらったりしたらしい。
だいぶ高齢のためまとめ役を後進に譲り顧問のような立場に回っている。
現在はスラムから出ることもなく、スラムの住人と一緒に細々と暮らしているそうだ。
今でもスラムの住人には神様のように好かれている偉大な人物だそうだ。
そう語るセネルの表情には隠し切れない親愛の情と確固たる信頼、それに僅かな不安が垣間見えた。
……そうごく微量ではあるが不安の色があった。
話している間にも妖魔が居る場所へと歩を進めていく。
目的地に近づくにつれセネルの表情が強張っていく。
そして、目的地
「……レイ、本当にここなのか?」
その声には信じたくないという思いとやはりという諦念が絡み合っていた。
「ああ、ここで……間違いない。ここに居る」
「……そうか、やはりそうなのか……ここはシヴァさんの家だ」
俺もある程度予想はしていた。
とは言え俺にとっては名前しか知らない他人だ。
その他人が何を成してきたのだろうとも今は妖魔でしかない。
……だが、セネルにとっては違うのだろう。
「なぁ、セネル、お前は”やはり”って言ったよな?」
「……ああ」
「何か、あったのか?」
セネルは
おそらくシヴァが妖魔と疑われるような何かを知っているのだ。
だからこそ俺にそうじゃないと否定して欲しかったのではないだろうか?
そして否定されず妖魔だと分かったからこそやはりと言ったのではないだろうか。
セネルは小さく頷くとまた話し始める。
「目撃者が、居たんだ。シヴァさんの家に入っていく怪しい影を見たそうだ。それと血痕が残っていた。目撃者が反スラム派の過激派だった。血痕はシヴァさんの家からは少し離れていた……分かってはいたんだ。でも、それでも信じたかった」
ただ淡々とセネルが語る。
初めての確かな証拠にラボナの住人側がシヴァの身柄を要求、それに対抗するスラムの住人、そんな対立が先日あったばかりだそうだ。
幸いすぐに兵士が間に入ったことで矛を交える事はなかったそうだが、この事態がきっかけとなりこれまでの不満が爆発してしまったそうだ。
この事態に上層部は
セネルはそれを避けるために形振り構わず行動していた。
そんな時だったのだ。
俺がこの町にやって来たのは、藁にも縋る気持ちだっただろう。
協力を要請し、この騒動の原因たる妖魔を取り除く事で町を元の状態に戻そうとしたのだ。
さて、事情は分かった。
問題はこれからどうするか、だ。
「セネル、これからどうする?」
「……単純にシヴァさんを殺す訳にはいかない」
シヴァの人望を考えればただ単にシヴァを妖魔だから、と言って斬ったとしたらスラム住人も市民達も黙っていないだろう。
最悪対立が火を噴いて泥沼の事態にもなりかねない。
「……じゃあ、放置するのか?」
「…………それもしない」
妖魔として殺さない、しかし放置もしない。
これではどうしようもないだろう。
「どうしたいんだ?」
俺はセネルのワガママを通してもそんなに問題はない。
所詮他人の命だ。
この町の知り合いなんてケヒト一家とセネル一家ぐらいのモノだ。
そしてこの妖魔はスラムからほとんど出ない。
出たとしてもスラム近辺まで、中心街に近い両家にはしばらくは危険性はないだろう。
だからこそ俺はセネルの意志を問う。
「妖魔は絶対に討伐する」
「そうか」
「……だが、シヴァさんを妖魔としては殺さない」
「何を?」
「スマン、レイ酷い事を頼む……妖魔になってくれ」
セネルの計画はこうだった。
まず妖魔を事前に倒しておく。
そして
そのまま兵士を誘導しながらも引き離してシヴァの家に突入。
この時にセネルも合流。
追ってきた兵士が突入してくるまでに妖魔化した俺がシヴァの格好をした死体を如何にも今殺した風に見せかける。
後はシヴァが殺された事を兵士に印象づけて逃走。
適当に振り切ってセネルと合流、本物の妖魔の死体と入れ替わる。
妖魔は俺とセネルが二人で倒したと報告。
シヴァさんは妖魔に殺され何処かに消えたという事になる。
目の粗い計画だった。
ちょっとした事であっさりと露見するだろう。
それでも俺はその計画に乗ったのだった。
書きたい描写は一杯あるのですが、全部やってたら終わらないので、どんどん飛ばします。唐突な描写が頻出するかも知れませんがご了承下さい。