妖魔?……もしかしてクレイモア!?   作:Flagile

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少し遅くなりました。
ちょっと富士山なんぞに登ってきました。
教授が世界遺産の登録を山頂で聞きたいとか仰るので行って来ました……
山小屋開いてないし、雪山フル装備だったのでめっちゃ疲れました。



予兆

side ジェシカ

 

シーレ山を漂ってくる禍々しい妖気を頼りに登っていく。

妖気の元はもう程近い。

その事を覚醒者狩りのメンバー達に伝える。

仲間達の雰囲気が厳しい物に変わる。

当然だろう。

この中で覚醒者狩りの経験があるのは私だけなのだ。

妖魔よりも遥かに強い覚醒者と初めて戦う事になるのだ。

この段階で気を引き締めないような奴とは一緒に戦いたくない。

 

「覚醒者ッスか、どれくらい強いんですかね?ジェシカ」

「ハッ、覚醒者が何だってんだ!どんなモンか知らねぇが俺があっさりと倒してやんよ!」

「……許せない、戦士なのに……戦士だった癖に……」

 

今回の覚醒者狩りのメンバーが好き勝手に喋る。

個性的な面子が揃っているようだ。

……実に不安だ。

ちなみに素直に覚醒者の強さを聞いてきたのがナンバー17エルダで、生意気に吠えたのが最近期待のナンバー12スザンナ、ブツブツと呟いている物騒なのが印を受けたばかりのセラ、ナンバーは37だ。

通常の覚醒者狩りでは一桁ナンバーが2名以上(・・・・)いる事が普通なのに相性が良いとは言え非力な私のみ……

その上エルダ以外が不安で仕方ない。

特にスザンナだ。

最近力を付けナンバーを一気に上げたらしいのだが、その所為か驕りが見える。

知らないからある程度は仕方ないとは言え、本当の意味で覚醒者の強さを理解していない……

最も覚醒者狩りの機会などそうはないから仕方のない事なのかも知れない。

それなりに長い事戦士として戦っている私ですら覚醒者と戦った事など両手の指で足りるのだ。

覚醒者の強さを理解しろ、という方が無理なのかも知れない。

それでも生き残るためには一人では勝てないと理解し、連携して戦うしかないのだ。

その事を口を事ある毎に伝えているのだがどうも伝わっている気がしない。

それどころかスザンナにいたっては私が怯えているのではないかと非難してくるざまだ。

……これ以上言い募っても逆効果だろう。

私にできるのは可能な限りサポートしてやる事だけだ。

 

 

 

直立したカブトムシに蟹のハサミを足したような異形の化物――覚醒者――と相対する。

蟹カブトムシとでも呼ぶ事にするか……カブト蟹だと何か別の物みたいだし……

 

戦闘は既に終局を迎えていた。

発見した直後にスザンナが独走し覚醒者に突っ込んで返り討ちにあった以外は順調だった。

スザンナは……こう言っては何だが、自業自得だろう。

不幸中の幸いは覚醒者の動きを見られた事とエルダとセラの二人の士気が上がった事だろう。

スザンナが殺られた直後こそ驚愕と恐怖で固まっていたが、今は復讐に燃えている。

とは言え決して冷静さをなくしている訳ではない。

若干手助け(・・・)したとは言え、最高の精神状態だと言えるだろう。

 

既に化け物(蟹カブトムシ)はボロボロだった硬い外皮も繰り返された斬撃によりそこかしこがひび割れ血を流している。

スザンナを一撃で切り裂いた二対のハサミも一方が半ばから破壊されている。

蟹カブトムシは既に攻撃手段の大半を喪失している。

それでも油断せず仲間に号令する。

 

「止めるわよ、機を逃さないでね?」

「よっしゃ!任せとけ、ジェシカ!」

「……今度は外さない……スザンナの仇!!」

「……セラも大丈夫だってさ!」

「そうじゃあ、いくわよ?」

 

配置に付いたのを確認し、内心の忸怩たる思いを押し隠し告げる。

同時に自身の妖気を開放し覚醒者の妖気に同調させる。

覚醒者が何を行おうとしているのかを見極める。

そして行動とは関係のない(・・・・・・・・・・)意識の届いていない部分を操作する事で覚醒者(蟹カブトムシ)の動きを阻害する。

妖気が圧倒的に多い覚醒者であろうとも意識していない部分であれば操作できる。

全力で殴ろうとするその動き自体はどうしようもなくとも、踏ん張っている足の力を抜く程度はできるのだ。

そして動きを止めるのであればその程度で十分だ。

一瞬でも気が逸れれば、そこから本来は干渉できないような部位にも連鎖的に干渉できる。

それを応用すれば妖力を大幅に消耗するが数秒間程度遥か格上の動きを止められる。

妖気を限界ギリギリまで開放し蟹カブトムシ(覚醒者)の動きを止め叫ぶ。

 

「今よ!!」

 

私の声に押されるようにエルダとセラが動き出す。

覚醒者が藻掻くようにのた打ち回る。

 

「クソがァァアアアアあ!!!!!コンナ所デ!!!コんナ奴等に!?コノワタシガ、破れるダト!!!!」

 

覚醒者が全妖力を用いて阻害を振り切ろうと足掻く。

無駄だ。

確かに渾身の攻撃自体は逸らすことなど不可能だ。

しかし、その土台はどうだろうか?

ほんの少し腹筋を収縮させてやる。

それだけで渾身の攻撃は明後日の方向に飛んでいく。

 

セラとエルダが硬い外皮の隙間とひび割れた部分を狙い切り刻んでいく。

セラが脚を半ばまで切断する。

エルダの一撃が態勢を崩した覚醒者の目を貫く。

セラが残った目を攻撃しようとするも弾かれてしまう。

エルダが外皮の隙間を狙い切り裂くが浅い。

どうにも火力が足りない。

……スザンナが居れば、そう思う。

 

何かできたのではないか?

スザンナの事を思い悔やむ。

できる事はなかった、そう思う。

しかし本当にそうだろうか?

覚醒者の脅威を伝えられていたのだろうか?

リーダーシップを発揮できていただろうか?

飛び出す前に止められなかっただろうか?

スザンナの行動を予測してフォローしてやる事は?

どうしても悔いが残る。

 

ただ事実としてスザンナは私の言葉を無視して覚醒者に突撃した。

そして、ハサミを見事に避け(・・)浅くとは言え外皮を切り裂いた。

一度離脱し大したことないと宣ったスザンナ

この時にもしスザンナなら大丈夫だと安心しなければ防げたかも知れない。

 

そして同じように突撃しハサミを避けようとして伸びてきた(・・・・・)ハサミに掴まってしまったのだ。

両断されるスザンナを私達は見ている事しかできなかった。

そんな中で上半身のみになったスザンナが動く。

それは一体どんな想いだったのだろうか。

妖力を全開し手に持った大剣を覚醒者に投擲する。

大剣は見事に覚醒者の額に直撃し、傷つける。

だが、それだけだった。

罅こそ入ったものの堅牢な装甲に阻まれてしまう。

 

「ハッ、ざまぁねぇな……クソ!」

 

それがスザンナの最期の言葉だった。

スザンナは怒り狂った覚醒者に叩き潰され死んだ。

一瞬の事だった。

だが(・・)!!助ける事が絶対に不可能な程ではなかった。

私は勝利のために見殺しにしたのだ。

助けられるかも知れないという願いに間に合わないだろうという諦めが混ざった。

その一瞬の躊躇がどうしようもなかった。

私は間に合わなかったのだ。

 

スザンナは死んだ。

これは動かしようのない事実だ。

だが、犬死だっただろうか?

 

 

犬死などではあってはならない(・・・・・・・・・・・・・・)

エルダとセラに合図を出し一旦引かせる。

妖力に僅かな余力を残した状態で行動阻害を解除する。

脚を断たれ目を潰された蟹カブトムシ(覚醒者)はまだ立ち直っていない。

身体つきが変わる程妖気を開放し地を駆ける。

空中に跳び上がり重力を加算した一撃を覚醒者に叩き付ける。

狙うは額、スザンナが残した罅だ。

相手が万全であればここまでやっても私の一撃では抜けなかっただろう。

果たして大剣は覚醒者の装甲を抜き脳を破壊し尽くす。

悶えるように一度大きく痙攣し覚醒者は地に倒れ伏すのだった。

 

 

 

戦いは終わった。

スザンナを埋めてやる。

墓標代わりに大剣を突き立てる。

涙はない。

ただ、無言で黙祷し次なる任務へと立ち去る。

 

 

 

夜、鬱蒼と茂った森の中、火を焚き野宿をしていた私に近づく影があった。

黒い布で全身を口元まで覆った怪しげな男だった。

名前はエルミタ、私を担当している組織の黒服だ。

いつ見ても怪しげで不気味な格好をしている。

そんな格好で突然暗い森の中から音も立てずに近寄らないで欲しいと思う。

 

「次の指令だ」

 

エルミタはやって来て早々に告げる。

覚醒者狩りの結果も他の戦士の生死すら聞こうとしない。

昔は戦士の生死と戦闘報告程度は確認していたのだが……

これが信頼なら何の問題もない。

だが、そんな訳もないだろう。

今でも報告を要求する事がない訳ではない。

しかし、その頻度は大きく下がっている。

これが普通の妖魔狩り程度であれば気にしないのだが、滅多にない覚醒者相手なのだ。

ならば、監視されていたのだろう。

……おそらく次代の組織の眼

それが順調に成長しているのだろう。

知り過ぎている私にそろそろ死んで欲しいのだ。

そう考えると今回の覚醒者狩りの面子も怪しいものだ。

まぁ、組織がそう思っている事など数年前から知っている。

最近さらに露骨になってきたが、まだ死ぬつもりなどさらさらない。

 

「南の地ミュシャ、その最南端に居た盗賊を襲った妖魔を見つけろ」

「……盗賊を襲った妖魔ですって?」

 

おかしな指令だった。

いつもであれば何処其処の町に向かいそこにいる妖魔を斬れという形で命じられる。

それなのに今回は盗賊を襲った妖魔、そこだけでもおかしいのに斬れではなく見つけろなのだ。

一体誰が依頼を出したというのだろうか?

盗賊?

まさか、シマが空いてラッキー程度にしか思わないだろう。

多少頭が回るのでも別の所に移動するだけだ。

依頼など出す訳がない。

近隣の町村?

盗賊が減って喜んでるんじゃないかしら。

自分の町に来たら考えるでしょうけど。

 

「そうだ、ミュシャでおかしな動きをしている妖魔がいればおそらくソイツだ」

「何故かしら?」

「お前が知る必要はない」

 

唯一見えているエルミタの目をジッと見つめながら言う。

依頼が出る訳がない。

ならば組織にとって何か不利益を齎したのではないだろうか?

 

「……邪魔になったのかしら?」

「……チッ、少し警戒しているだけだ……ソイツは偶然接触した戦士から逃げ切った」

「ふ~ん偶然(・・)、ね?」

「もう一度言う知る必要はない」

「……分かっているわ」

 

これ以上はエルミタから情報は得る事はできないだろう。

エルミタに探してみるから待つように告げる。

ここまでの情報からでも幾つか分かる事はある。

その妖魔が組織にとって目障りだという事はほぼ確定。

今、ミュシャの方は比較的安定している。

それは2週間前に確認したから間違いない。

なのに最南端に戦士が偶然(・・)居た。

おそらく組織側で何か誘導したのだろう。

そこでケリを着けるつもりだったのに逃げられてしまったから見つけろ、という訳だ。

 

ここからは推測になるが、おそらくその妖魔は盗賊を殺して回っているのではないだろうか?

だからこそおかしな動きをしている妖魔、何て言ってきたのではないだろうか。

基本的に妖魔は一度住み着いたらその場所からしばらくは動かない。

その基本に外れた動きをした妖魔なのだろう。

……盗賊を襲う妖魔

その存在に違和感を覚える。

妖魔は差別をしない。

老若男女容赦せず、だ。

そう、狙う相手を選ぶ事などしないのだ。

だからこそ盗賊のみを狙っていると思われるその妖魔はおかしいのだ。

 

「……まさか、ね」

 

エルミタに聞かれないように小さく呟く。

私はそんな事をする妖魔に心当たりがあった。

そうであって欲しくはない。

そんな生き方をしていて欲しくない。

だが、もし彼だったら……

頭振って意識をエルミタに戻す。

 

「ダメね、ここからじゃ距離が遠いし妖魔の数が多すぎて分からないわ」

「そうか……本当に(・・・)見つからなかったのか?」

 

どうやら疑っている(・・・・・)らしい。

ほぼ確定(・・)だ。

エルミタはその妖魔と私の繋がっていて庇っていると思っている。

そう思われるような行動をしたのはあの時(・・・・)ぐらいだ。

とするならばエルミタはもっと別な勘違いもしているのではないだろうか?

 

「ええ、本当よ……人を襲う妖魔に知り合いなんて居ないわ」

「……そうか、私は知っているのだぞ(・・・・・・・・)

「あら、何をかしら?」

「……まぁいい、距離が遠いなら近づいて調べろ、一ヶ月以内に見つけろ、見つけ次第今回のメンバーで討伐する」

 

エルミタはそう命じると私に背を向ける。

その背中に問い掛ける。

 

「妖魔に3人も戦士を使うの?」

「……4人だ、偶然接触した戦士もメンバーに入れる」

「そう」

 

エルミタはそのまま闇に紛れて去っていく。

どうやらエルミタはただの妖魔ではないと考えているようだ。

おそらく戦士から逃げ切った事、そして私と繋がりがあると思っている事からそう判断したのだろう。

組織に復讐しようとしている元戦士(・・・)でも私が匿っているとでも思っているのだろう。

まさか本当に妖魔などとは思ってもいないのだろうな。

そう思うと少しおかしかった。

 

「さて、それはさておき任務ね……見つからない、って言うのは本当なんだけどね?」

 

彼だとしたら妖気を隠しているのだろう。

この数年間、積極的に探すことはしなかったが任務として広域の妖気探査は何度も行った。

にも関わらず一度も見つけていない。

遠距離からでは妖気を見つけられない程度には隠蔽が上手かったのだろう。

そして今回、彼を探そうと彼の妖気を探しているが見つからない。

 

「ふふ、本当に上手くなったのね」

 

弟子の成長を感じ嬉しくなる。

 

「……でも、いつまでも見つからない、何て報告はできないわね?」

 

これは師匠としてプライドだろうか?

それにこれ程成長しているなら、という思いもある。

 

「妖気の探知も上手かったし、逃げ切れるんじゃないかしら……逃がす気はないけど」

 

確かに好ましい存在だとは思っていた。

だが、自身の命を捧げる程ではない。

任務として命じられたのなら遂行するのみだ。

 

「苦しまないようにはしてあげるわね?」

 

楽しげに哂う。

そして妖魔(・・)を見つけ出すために南の地へと向かうのだった。


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